スイーツ三昧!
「ううん、チョコレートパフェは見かけはいいんだけど案外作るのに時間がかかるから、多めに作っておいて収納しておくべきだな。今の人数分だと俺の分も入れて最低八個……十個作っとくか」
小さくそう呟き横目で机に置かれたパフェグラスを見る。
そこには、大はしゃぎでほぼ空になったグラスの底に頭から突っ込んで、残ったチョコソースと溶けたアイスでぐっちゃぐちゃになったシリアルに頭を突っ込んで逆立ち状態になって爆食しているシャムエル様がいたよ。
大興奮状態の尻尾が右に左に振り回されて、パフェグラスの縁についていたチョコソースや生クリームを一掃している。
要するに自慢の尻尾の先までチョコソースとクリームまみれ。
「まあ、自分で洗浄の術が使えるんだから、別に放っておいても大丈夫だよな」
苦笑いしてそう呟くと、パフェグラスを並べてさっき作った手順でチョコパフェを量産する。
「そういえば、この前クーヘンの店の横の広場でケーキと焼き菓子を買った店で、細長いロール状に巻いたクッキーを買った覚えがある。あれをそのまま突っ込めば良い飾りになりそうだ」
って事で、サクラに頼んで買っていた焼き菓子も色々取りだして確認する。見つけた細長いクッキーは、パフェ用にまとめて分けておいた。
「それから、この栗の甘露煮、一粒飾りに乗せると豪華になるな。よし、これも乗せよう」
そう呟き、仕上げに生クリームの上に甘露煮を乗せた。
「よし、これで完成だ。さっきよりもさらに豪華になったな」
出来上がったパフェをまとめて簡易祭壇に並べて、シルヴァ達には先にお届けしておく。
大喜びの収めの手が、全部を撫で回して一つずつ持ち上げて持って行ってくれたのは言うまでもない。
「ううん、アイスクリームがこれでほぼ無くなっちゃったよ。先に追加で作っとくか」
アイスは色々使えるので、前回作ったのと同じレシピで三倍の量で作っておく。
「ええと、生クリームと卵黄、牛乳と砂糖とバニラビーンズ。よし、全部あるな」
手順は分かっているので、取り出した銅製の片手鍋に牛乳と砂糖とバニラビーンズを入れて火にかける。泡立て器で混ぜながら暖まったところで火からおろして少し冷ましてから残りの材料を入れてまた混ぜる。
バットに流し入れてそのまま自分で凍らせる。
「氷の能力って、本当に俺向きの能力だよなあ。感謝するよ、シャムエル様」
一瞬で綺麗に凍ったアイスの素をフォークを使って砕き、しっかり空気を含ませるように混ぜてからまた凍らせる。
これを繰り返していけばバニラアイスの完成だ。
「そういえばプリンの残りも少なくなってるよな。じゃあこれもついでに作っとくか。あれも混ぜて蒸すだけだもんな」
今度は気をつけて蒸しすぎないようにしよう。
レシピを確認しながら、まずはあの爆発カラメルソースを作る。スライム達は当然、全員部屋の隅に避難だ。だから怖いって。
それからプリン液を作ってカラメルソースと一緒にプリンカップがあるだけ準備する。
深めのバットにお湯を入れてプリンカップを並べる。半分も入らなかったのでもう一つオーブンを取り出してスライム達に組み立ててもらう。
「これでも全部は入らなかったか。じゃあ、またオーブンとフライパンの両方だな。誰か、30分だから砂時計三回分計ってくれるか」
「はあい、計りま〜す!」
いつものタイマー担当のゼータがそう言い、張り切って砂時計を取り出す。
先に入れたオーブンの時間を計ってもらっている間に、フライパンの方も準備をしてこちらはベータが砂時計を取り出して待ち構えている。
「じゃあよろしくな。もしも沸騰しまくってたり、何か問題がありそうならいつでも呼んでくれよな」
セッティングしたところで、タイマー組にプリンの監視は任せて、俺は椅子に座って師匠のレシピの栗と書かれた項目を順番に読み始めた。
「へえ、栗のクリームとかあるんだ。これはちょっと食べてみたいかも。なになに、栗を湯がいて中身を取り出し、なめらかになるまですり潰してから砂糖とミルクで混ぜれば良いのか。あ、生クリームを入れると濃厚になるとか書いてある。へえ、これなら俺でも作れそうだ。よし、これを作ったらマロンパフェも作ってみよう。ああそうだ。さっきのアイスに栗の甘露煮の刻んだのを入れればさらに栗盛り盛りになるじゃん。よし、絶対やろう」
自分の思いつきにガッツポーズを取り、屋台で買い漁った栗の甘露煮の瓶を手に取る。
「さっき使った黄色いの以外に、渋皮煮ってのがあるのか。アイスに入れるなら、見栄えの良い黄色い方だな」
両方を見てそう呟き、まずは両方の蓋を開けて一粒ずつ取り出す。
「やっぱりここは味見をしないと……痛いって! 分かった、出すからちょっと待って」
机の上で、チョコまみれになった体をせっせと身繕いしていたシャムエル様が、いきなり俺の左肩に移動してきて、取り出した小皿で俺の頬をぐいぐいと押し始めたのだ。
「だからそれ地味に痛いからやめてって」
そう言いながらお皿を取り、甘露煮をひとつずつ乗せてやる。
「はいどうぞ。これは味見な」
「うん、すっごく美味しそう!」
嬉しそうに尻尾をブンブンと振り回したシャムエル様が、黄色い甘露煮をまずは両手で持ち上げて端から齧り出した。
「あはは、これはまんまリスって感じだなあ」
笑いながら、俺も甘露煮を口に放り込む。
「ちょっと甘すぎだけど美味しい。これは直接食うよりもお菓子に使った方が良さそうだ」
そう言いながら、彩りのあまり良くない渋皮煮も食べてみる。
「おお、こっちの方が俺好みだな。へえ、甘露煮にも種類があるんだ。うん、これは美味しい」
そう呟いて、もう一粒取り出して口に入れる。
「よし、これもまた見かけたら買っておこう」
渋皮煮って初めて食べたけど、これは気に入った。
「じゃあこれ、こっちの黄色いのをひと瓶全部の栗を取り出して刻んでくれるか。それでアイスに混ぜるからさ」
アイスクリームに混ぜる甘露煮を刻むのはスライム達に任せて、俺はマロンクリーム作りを始める。
湯がくのは火を使うから俺がやらなきゃ仕方がないけど、多分この工程の中で一番面倒であろう栗の中身を取り出して滑らかにすり潰すところは全部スライムたちがやってくれるもんな。いやあ、ありがたやありがたや。
側にいたクロッシェをそっと撫でてやり、大鍋にまとめて栗とたっぷりの水を入れて火をつけ、茹でている間に、もう一粒渋皮煮を取り出して口に放り込んだのだった。