道具屋筋でも買い物色々
「ええと、確かこの辺りだったはず」
職人通りを抜けた先の円形交差点で、俺は教えてもらった場所を思い出しつつ角を曲がって別の通りに入っていった。
「おお、確かにこれは道具屋筋って感じだよ」
メイン通りから一本ずれた裏通りなんだけど、狭めの路地にいかにも店舗向けって感じの大量の食器や鍋、何に使うのかよくわからない道具達が、どの店にもぎっしりと隙間なく並べられていた。
「確かにここでなら土鍋も探せばありそうだ」
狭い路地でムービングログは邪魔になりそうだったので、さっさと収納して路地へ入っていった。
「ううん、これはテンション上がるなあ。よし、食器ももうちょい買い足しておこう。各二十枚くらいあれば足りなくなる事は無いよな」
にんまりと笑ってそう呟き、とりあえず近くにあった食器屋さんに入ってみた。
そこで良さげなお皿をまとめて購入。心配したけど特に何も言われず、例のゴールドカードの出番は無かったよ。
次にその隣のガラスの食器屋さんへ入ってみたところで、予定外のものを見つけた。
いわゆるパフェグラスである。
そう。あのチョコレートパフェとかを作るときに使う、大きなワイングラスみたいで縁のところがフリフリになってる、あれ。しかも大小いろんな形があり、更にはプリンアラモードのためにあるかのような、平たいタイプの足付きのまであったよ。
当然ここでも大量購入。それからパフェ用の持ち手の長いスプーンなんかも見つけたので色々と買わせてもらった。
「よし、じゃあ帰ったらまたプリンも作っておこう。あれは俺もたまには食べたいしハスフェル達も好きみたいだったもんな」
シンプルに足付きの小さなグラスにプリンを落として生クリームとフルーツを飾るだけでも充分可愛いデザートになる。
「栗の甘露煮や渋皮煮なんかをたっぷり入れたマロンパフェとか良いなあ。それなら俺も一人前食べたいぞ」
ちょっと今すぐ帰って作ってみたい!
脳内で叫びつつ、他にも無いか物色して回った
「待て待て、違うよな。俺はここに土鍋とフォンデュ鍋を探しに来たんじゃん。こんなにパフェグラスばっかり買ってどうするんだって」
と言いつつ、クリームソーダとかに使えそうな足付きのグラスも見つけて購入した。
「そう言えば炭酸ってあったっけ? ううん、見た記憶が無いなあ。この世界には無いのかも。まあいいや、アイスコーヒーにアイスクリームを乗せて、コーヒーフロートとかでも出来るな」
買ったパフェグラスやソーダグラスで何が作れるか考えつつ、順番に見て回る。
「おお、ここならありそうだ」
見つけたそこは、店頭にいかにもフォンデュ鍋に使えそうな、全体に厚手で短い持ち手の付いた、コロンと可愛らしい陶器製の鍋が並んでいたのだ。
大人数でも楽しめそうな大きなサイズは、直径が30センチ以上ある。
「あの、こんな形で両手鍋タイプってありますか? あ、もちろんこっちもいただきますけど」
フォンデュ鍋を一つ手に取って、ちょうど出てきた店員さんに聞いてみる。
「いらっしゃいませ。はい、両手鍋タイプなら奥にございますよ。大きさもありますのでよかったら入ってご覧になってください」
笑顔でそう言われて、店に入ってみる。
「これこれ、あるじゃんか」
素材は陶器だけど、俺の考えてるのがそのまま形になったのが大小山積みになってたよ。
「よし、これでまたメニューが増えるぞ」
内心でガッツポーズを取りそう叫んでから、各サイズを全部まとめて購入。それから表にあったフォンデュ鍋も同じく各サイズをまとめて購入したよ。
「ありがとうございました〜〜!」
満面の笑みの店員さんに見送られて、陶器の鍋屋さんを後にする。
「よし、これでとりあえず今日の目的は達したな。パフェグラスまで見つけたし、とりあえず帰って何か作ってみるか」
って事で俺は通りを抜けたところでムービングログを取り出し、意気揚々と宿泊所へ帰ったのだった。
俺の右肩では、シャムエル様が大興奮状態でパッフェパッフェと歌いながら、ステップを踏んでいたのだった。
「ああ、ちょっと待った!」
宿泊所への道を進んでて途中で一つ思い出した。
「鉱夫飯をもうちょい頼んでおくんだったよな。あれはあいつらも喜んでたから絶対欲しいって」
貰ったツアーの参加証明書があれば、観光案内所で鉱夫飯の注文ができるって聞いたからな。せっかくもらった証明書なんだから、使わない手はない。あれがあれば弁当作りもかなり楽できるはずだ。
って事で、急遽道を変更して観光案内所へ向かった。
ファータさんは受付にはいなくて、別のスタッフさんが対応してくれた。
それで、本日の販売分が今入荷したところらしく、さすがに全部は困ると言われて半分のとりあえず五個だけ買わせてもらった。
それで三十個ほど別注をお願いした。明日の昼以降に取りに来てくれれば良いと言われた。仕方がない、また明日も俺は留守番だな。
前金で半分の代金を支払って受注票をもらう。
「じゃあ、お願いしますね」
買った鉱夫飯は全部まとめて収納してそのまま改めて宿泊所へ戻った。
「ちょっと過ぎちゃったけど、先に昼飯だな」
今日はもう出掛けないので、剣帯も外し防具はさっさと脱いで身軽になる。
ご飯が食べたかったので、おにぎりと唐揚げとおからサラダを取り出す。ちょっと考えて味噌汁を一人前だけ小鍋にとって温めたよ。浅漬けを添えればシンプル唐揚げ定食だね。
食べている間に、今日買ってきたお皿や鍋やカトラリーをスライム達に綺麗にしてもらう。
「じゃあ、早速夕食に鍋焼きうどんを作ってみるか。まあ無理なら作り置きのおでんかシチューにしよう。だけどその前にスイーツ作りだな。何か俺でも出来そうなのってあるかな?」
そう言って取り出したのは、師匠のレシピ本だ。
「どれどれ、おお、パフェの作り方も少しだけど載ってるなあ。よし、まずは定番のチョコレートパフェかな。作ってみて上手く出来そうなら、俺用にはマロンパフェも作ろう」
にんまり笑ってレシピ本を開いておく。
「何々、あらかじめ生クリームをしっかりと泡立てておき、アイスクリーム、シリアル、フルーツは飾り切りにして用意しておく事。ふむふむ、確かセレブ買いでシリアルも買ってたから、あれを使えばいいな。チョコレートソースの作り方も載ってる。よし、じゃあまずは生クリームを泡立ててチョコソースを作るか。あ、そういえばこの前作った鬼柚子ピールも一緒に飾れるな。じゃああれも半分はチョコレートコーディングしておこう」
自分はほとんど食べないけど、お菓子も作るのは楽しい。
って事で頭の中で段取りを考えつつ、まずはチョコレートパフェの下準備に取り掛かったのだった。