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チョコレートフォンデュタワーの制作依頼!

「はい、じゃあこれでお願いしますね」

 用意された工事の契約書に俺がサインをしてアードラーさんに返す。

「いやあ、まさか全部通してくれるとはな。感謝するよ。これなら職人達にも余裕を持った仕事をしてもらえる」

「自分では絶対出来ない事をお願いするんだから、値切ったり文句を言うのは俺の住む家を直してくれる職人さん達に対して失礼ですって。それにせっかくなんだから、良いものを作って欲しいですよ」

 苦笑いしてそう言い、もらったリストを一旦収納する。

 職人達にすぐに連絡するからと言って、アードラーさんは一足先に帰って行った。



「それで、実はもう一つお願いと言うか相談と言いますか、どこに相談して良いかわからなくて困ってるんで、ちょっと聞いてもらえますか」

 俺の言葉にエーベルバッハさんが驚いたように向き直る。

「もちろん何でも言ってくれ。力になるぞ」

 ヴァイトンさんも、俺の言葉に何事かと身を乗り出している。

「実はフォンデュタワーを作って欲しいんですよね。出来ればジェムを使って動くからくりで」

「フォンデュタワーだと? 何だそれは」

 エーベルバッハさんとヴァイトンさんの声が重なる。

「ええと、チーズフォンデュって分かります?」

「空樽亭でちょっと前から大人気の、あれか。とかしたチーズに色々つけて食うやつ」

 そう言いながらチーズを絡めて食べる振りをするエーベルバッハさん。

「そうそう、それです。でも俺がやりたいのはチーズじゃあなくて溶かしたチョコレートなんですけどね」

 そう言って俺は鞄に入ったサクラから、一番大きなサイズのノートとペンセットを取り出す。

 この世界には万年筆がないんだよね。だからデッサン用のコンテみたいな真っ黒の鉛筆の芯だけみたいなのか、つけペンしか無い。仕方がないので、俺はいつもつけペンセットを常備してるよ。

「ええと、下手で申し訳ないんだけど、何となくこうすればタワーになると思うんですよね」

 専門家の前で素人が絵を描くのは大変恥ずかしいんだけど、口で言ってあれを説明出来る自信は俺には無い。なので、下手でも絵を描くしかないんだよ。



 って事で、無言で真顔のギルマス二人に見つめられる中、俺は苦労して若干歪んだチョコタワーの絵を描いて見せた。一応五段のやつと三段の小さめのと両方描いたよ。

 それから、バラしてどんなふうに組み立てるのかって事もね。

「……それで、こんな感じの組み立て式にすれば良いと思うんですよね。土台のお皿の中心部分に立てた棒に螺旋状の柱を乗せてそれを回転させれば、下のお皿部分のチョコソースが上がっていって、この傘から下に流れ落ちる仕組みです。かなり考えたんですけど、ええと、どうでしょうかね? 技術的に可能ですか? あの……もしもし?」

 最初のうち、俺が下手な絵を描きながら説明していると、ふむふむって感じで相槌を打ってくれていた二人が、途中から急に無言になって瞬きもしなくなった。視線は俺の描いた下手っぴで若干歪んだチョコレートタワーに釘付けだ。

 この二人が真顔の無言は、はっきり言ってマジで怖い。

 ペンを置いたきりどうしたら良いのかわからなくて困っていると、いきなりエーベルバッハさんが俺の手を握った。

「ケンさん! これ、この設計図、うちのギルドで買い上げさせてくれねえか。もちろんちゃんと金は払う。こりゃあ凄い。これは絶対に店でやったらウケるぞ」

「ソースもいろいろ出来そうだ。キャラメルソースや甘いミルクでやっても良かろう」

「ホワイトチョコに色をつけても良いかもな」

「ああ、それは素晴らしい!」

 何故か俺を放置してギルマス二人がめっちゃ盛り上がってるんですけど?



「まあ、とりあえず単なる思いつきだったんですけど、せっかくだから作ってください! アイデア料は現物で返してください。それで良いですよ」

 そう言って、机の上に置いたノートをそのままエーベルバッハさんに押し出す。

「ええ、良いのか?」

「もちろんですよ。俺にしてみれば、職人を誰か紹介してもらってお金を払って作ってもらうつもりだったんですから。なので、俺的には出来上がった現物さえ手に入ればそれで良いですって。ああ、そうだ。ついでにフォンデュフォークも作ってもらおう。あの、こんな感じでお願いします」

 そう言いながらエーベルバッハさんからノートを返してもらい、次のページをめくってフォンデュ用の蟹の爪みたいな二本のフォークを描いてみせる。

 よし、これはちょっと歪んでるけどなかなか上手く描けたぞ。

「こんな風に爪の部分を平たくして、突き刺した具材を落っことさないように出来ないかと思いましてですね」

「ふむふむ、確かにこの方が単なる串よりも具材が落ちる危険性は少なそうだな」

 納得したのかエーベルバッハさんはそう言って頷くと、ノートを見つめたままぶつぶつ小さな声で何やら呟きながら、真剣に考え込んでしまった。

「いやあ、ケンさん。貴方の頭の中は一体どうなっているんですか。貴方がここで企画を出す職員になってくれたら、バイゼンはまた新しい分野で大繁盛しそうだ。転職したくなったらいつでも相談してくださいね」

 満面の笑みのヴァイトンさんの言葉に、俺はもう乾いた笑いをこぼすしかなかったよ。

 まさかのデザイナーでスカウトって。いや無理無理。



「はあ、じゃあ俺は道具屋筋に鍋を探しに行きますので、後はよろしくお願いしますね」

 何故だかものすごく疲れてるんだけど、これから寒くなるんだし、出来れば鍋焼きうどん用の土鍋かそれに代わるものが欲しい。

 って事で、俺の描いた設計図とも言えない落書きノートは、そのままエーベルバッハさんに丸ごと託し、ヴァイトンさんはこのまま残ると言われたので、俺は先にドワーフギルドを後にしたのだった。



「何だかものすごい食いつきだったなあ。でもまあ、物が出来れば俺はそれで良いもんな。よし、じゃあ土鍋を探しに行くぞ!」

 ギルドを出たところで苦笑いしてそう呟き、停めてあったムービングログに飛び乗った俺は、教えてもらった道具屋筋目指してムービングログを転がして行ったのだった。

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