明日の予定の相談
「ご馳走さん、本当に良いのか?」
「もちろん。今日は奢るって言いましたから。どうぞ遠慮なく奢られてください」
店を出たところでそう尋ねると、にっこり笑ったアーケル君にそう言われてしまった。
「そっか、じゃあご馳走様でした。すっげえ美味かった。俺にはちょっと多かったけどさ」
最後の言葉に、横で聞いていたハスフェル達が笑う。
「いや、お前らの食う量がおかしいんだと思うぞ」
「そうか? 俺達はこれがいつもの量だぞ」
にんまり笑ってそう言われて、俺は諦めのため息を吐く。
「はいはい、そうだよなあ。お前らが普通で俺が少食なんだよなあ」
顔を見合わせて同時に吹き出す。
「それで、明日はどうするんだ?」
「どうするかなあ」
ハスフェルとギイがそう言って腕を組んで何やら相談を始める。
「あの、それなら俺達は地下洞窟へ行く予定なんですけど、よかったらご一緒しませんか」
目を輝かせるアーケル君の言葉に、ハスフェル達が目を輝かせる。
「そうだよな、せっかくの新しい武器を手に入れたんだから、使わないとな」
うんうんと頷くハスフェル達を見て、俺は慌てて顔の前でばつ印を作る。
「待った待った! 俺は行かないぞ! ちょっとマジでやりたい事があるから、行くなら弁当くらい渡してやるから、お前らだけで行って来てください!」
「ええ、ケンさんも一緒にいきましょうよ」
口を尖らせるアーケル君のお誘いに、俺はにんまりと笑って首を振った。
「栗のケーキをいくつか焼いてみたくてさ。それとちょっと珍しいスイーツを作ろうと思ってるから、それの準備が必要なんだよ」
「「それは是非お願いします!」」
何故か、アーケル君だけでなくランドルさんまで真顔でそう言って、揃ってうんうんと頷いてる。
「何だ、そういう事なら仕方ない。じゃあケンはまた残って料理だな」
「また従魔達は連れて行ってくれていいぞ。それにそろそろ家の工事の見積もりが上がって来るはずだからさ」
何故か全員一緒に俺の部屋に入ったところで、俺の言葉にハスフェル達の足が止まる。
「そうか、そっちを忘れていたなあ。どうだ? そっちは任せて良いか?」
「ああ、任せてくれていいと思うよ」
『一応分かったら念話で説明するから確認してくれ』
納得したハスフェル達を見て俺が安堵のため息を吐くと同時に、リナさん達が揃って首を傾げる。
「工事の見積もり、ですか?」
「武器や防具の見積もりじゃなくて?」
「ああ、そういえば言ってなかったな。実はケンがここでも家を買ったんだよ」
「ええ、バイゼンにも家を買ったんですか! そりゃあすごい!」
ドヤ顔のハスフェルの説明に目を輝かせるアーケル君にそう言われて、俺は乾いた笑いをこぼす。
「まあ、無駄に広いよ。それに庭に廃棄された古い廃鉱があるんだって。雪の間の従魔達の運動場代わりになるだろう?」
「ああ、それはいいですね。あの、良ければ俺達の従魔も遊ばせてやってください」
「あの、俺の従魔達もお願いします!」
アーケル君に続いてランドルさんも身を乗り出すようにしてそう言ってる。
「もちろん構いませんよ。でもまだそっちは全くの手付かずなんで、一度ハスフェル達が入ってみるって言ってましたよ」
「それは素晴らしい。ぜひ一緒に行かせてください!」
「いやいや、行ってもただの穴蔵だぞ」
「ええ、放棄された鉱山ならダンジョン化している可能性は高いですよね」
嬉々としてそんな事を言われて、俺の方が目を見開く。
「はああ? なんだよそれ!」
振り返って叫ぶ俺を見て、ランドルさんやアーケル君達が揃ってまた不思議そうにしている。
「ええ、ご存知でしょう? 廃棄された鉱山などはダンジョン化しやすいんですよ。ここにあるダンジョンの幾つかは、そんな風に昔に廃棄されて放置されていた鉱山跡なんですよ」
「うええ、マジ?」
「マジです」
真顔のアーケル君の言葉に、俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「うう、まさかの庭にダンジョン……お前ら! 絶対知ってて止めなかったんだろう!」
「ええ、てっきり知ってると思ってたんだけどなあ」
素知らぬ顔ですっとぼけるハスフェルの膝に、俺は思いっきり膝カックンして崩れ落ちたところで額に思いっきりデコピンしてやったよ。お前の弱点、知ってるんだからな〜〜!
部屋に戻ってとりあえずお茶を出してやった俺は、少し考えてハスフェルに念話を送った。
『なあ、例の岩食いの話って彼らにもしておいた方がいいんじゃね?』
『ああ、確かにそうだな。じゃあ俺から話しておくよ』
頷いたハスフェルが、例の岩食いの一件を彼らに詳しく話して聞かせていた。
「ええ、それはちょっと本気で焦りますねえ」
真顔のランドルさんの呟きにリナさん達も揃って顔色を無くしている。
「彼らが外へ調査に出ている時、俺はこっちで留守番していて、ちょっとした好奇心でここの観光案内所ってところを発見して鉱山見学に行ったんですよ。本当にただの気まぐれだったんですけど。で、そこでケンタウロスが発見した岩食いを駆逐する場面に遭遇しちまってさ。もう大騒ぎだったんですよ」
話しながら、あの時の騒ぎを思い出して遠い目になる俺。
「ケンさんは相変わらずですねえ」
呆れたようなランドルさんの呟きに、ハスフェル達が揃って吹き出し遅れて俺も吹き出したのだった。
「賢者の精霊殿が郷から出て来られているという事は、かなり厳しい状況なのでは?」
笑いが落ち着いた頃、軽く咳払いをしたアルデアさんが、心配そうにハスフェルを見上げてそんな事を言い出した。
「まあ、これに関しては彼らに任せておいて良いと思いますよ。最悪、もしも何かあるようなら、彼らから連絡は入るようになっていますから」
苦笑いするハスフェルの言葉に、アルデアさんが真顔で頷く。
「そうなんですね。もしも我らにお手伝い出来る事があれば遠慮なく仰ってください。協力は惜しみませんので」
「草原エルフの術なら充分に期待出来ますからね。いざとなったらお願いします」
うんうんと頷き合うハスフェルとアルデアさんの様子をオンハルトの爺さんは何か言いたげにしつつも黙って見ていたのだった。
「しかし、こっちの敷地内の地下鉱山は、まだ入り口は封鎖されたままなんだよ。だから早くても入れるのは最初の修繕が終わってからだな」
「そうなんですか。残念です。じゃあどうしますか?」
「今地下洞窟に潜って、ドカ雪でも降られたら帰りが大変だからなあ。近隣でよければ腕慣らしがてら行ってみるか? ジェムモンスターの出る場所をいくつか知ってるから案内するよ」
「是非お願いします。雪が降るまでに外でも戦って見たいですからね」
アーケル君の嬉しそうなその言葉にハスフェルも笑顔で頷く。
「じゃ明日は俺達は従魔達を連れて近隣に出るか。すまないが弁当を頼めるか?」
「了解、じゃあ全員分用意するよ」
拍手喝采になる彼らを見て、俺は苦笑いしつつも喜んで食べてくれる仲間がいる事にこっそり感謝していたのだった。
うん、まあ色々と大変だけどさ、やっぱり仲間って……良いよな。