チーズフォンデュとビーフシチュー
「うおお、このスペアリブめちゃくちゃ美味い。何だこれって言いたくなるくらいに美味いぞ」
最初は一応、用意してくれてあったナイフとフォークを使って切り分けてから食べてたんだけど、皆気がついたら骨のところを持って豪快に齧り付いてたよ。なので途中から俺も遠慮なくがっつり掴んで齧り付かせてもらった。
「スパイスが効いててめちゃくちゃ美味い。だけど肉は硬くないし骨から簡単に剥がれるんだよ。ええ、これどうやって焼いてるんだ?」
三本目を食べながら、しみじみとそう呟いて手にした食べかけのスペアリブを見る。
ついつい作り方に目が行くのはもう仕方がない。
山積みになったスペアリブが半分くらいになったところで、ノックの音がして振り返ると、店員さん達がワゴンに乗せたコンロと平たい大鍋を持って登場した。
「おお、これが言ってたチーズフォンデュだな」
大鍋に入ったチーズはこれもグツグツと音を立てている。もう見ただけで美味しいのが分かるよ。
それから、次々に運ばれてくる串の刺さった具材を見て目を輝かせる。
「こちらの具にチーズを絡めてお召し上がりください。チーズが足りなくなればご遠慮なくお呼びください」
そう言ってにっこりと笑ったスタッフさんが下がる前に、慌てたように突然登場した収めの手が、チーズの入った大鍋を撫で回してから持ち上げる振りをするのを見て、俺達は吹き出しそうになるのを必死になって堪えていたのだった。
当然、具材の乗ったお皿もものすごい勢いで撫で回して持ち上げてから消えていく収めの手に、俺は内心でこっそり手を合わせておいたのだった。
まずは、フランスパンみたいなハード系のパンを取り出し熱々のチーズを絡めて食べてみる。
「ううん、これは美味しい。ちょっと塩味の効いたパンがこのチーズに合ってるねえ」
大満足であっという間に食べると、次は焼いた肉のブロックをチーズに沈める。
「ううん、美味しい要素しか無いぞ。だめだこれ、止まらないよ」
小さく笑ってそう言うと、俺もハスフェル達に負けじと自分の具材を色々と確保したのだった。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」
もう、お皿を持ったシャムエル様は大興奮状態でさっきから高速ステップを踏みまくっている。
「はいはいちょっと待ってくれよな。はい、熱いから気をつけてな」
パン、焼いたブロック肉、ハム、茹で野菜やじゃがいもなどなど、色々とチーズをたっぷりと絡めてはシャムエル様のお皿に乗せてやる。
「ふおお〜〜〜とろけるチーズがお皿に雪崩れてきた〜〜〜! では遠慮なく、いっただっきま〜す!」
まあ当然のごとく頭からチーズに突っ込むシャムエル様。
「熱い! でも美味しい! でもあっつい!」
ハフハフ言いながら、いつもの三倍に膨れた尻尾を振り回しつつ、チーズまみれになってハムを齧っている。
「相変わらず豪快だねえ」
苦笑いした俺も、チーズフォンデュを楽しみつつ、こっそりもふもふしっぽを堪能させてもらっていたのだった。
追いチーズを三度お願いして、三度目の追加の具材とビールまで頼んだところでビーフシチューが来た。当然のように横には丸パンが大量に積み上がっている。
無言で目の前に置かれたビーフシチューの皿を見て、これは後で持ってるお皿に移し替えて持って帰ろうと決意した俺だったよ。
だって、調子に乗ってチーズフォンデュを食べすぎたおかげで、どう考えても俺のお腹はここで打ち止めだったんだからさ。
嬉々としてビーフシチューを食べ始める俺以外の全員を見て、ちょっと涙目になったけど、俺は間違ってないよな?
って事で、もう腹一杯過ぎて食べられなくなった俺は、ちびちびと黒ビールを飲みつつ最後の一本にと思って残しておいたスペアリブをこっそりと収納しておいた。それから、お皿を出してビーフシチューもそれに移し替えて収納しておく。これは一人の時にこっそり食う用だな。
もうそのあとは、俺はのんびりと黒ビールを飲んで過ごした。
その時、まだまだご機嫌でチーズフォンデュを食べているアーケル君を眺めながら、ふと思いついて収めの手が消えて行った空間を見る。
「そうだよなあ。絶対シルヴァ達はこれ好きそうだよ。きっと今頃大喜びで四人で食べてるんだろうなあ。よし、師匠のレシピにチーズフォンデュが載っていないかどうか調べてみよう。これならチーズのソースと具材を大量に用意しておけば、俺も一緒にゆっくり食べられるよな。皆が好きな肉とか揚げ物とかでも出来るもんなあ。寒い冬には、鍋と並んで皆で楽しく食べられるメニューだよな。よし、あの平たい大鍋を探してぜひやろう。それにあれって陶器の鍋っぽいから、もうちょっと小さめのなら鍋焼きうどんにも使えそうだ。じゃあ時間のある時に鍋探しもしてみるとするか」
良い事を思いついて思わず拳を握る。
「あ、そうだ。チョコレートフォンデュとかもシルヴァ達は絶対に喜びそうだなあ。甘い物好きなアーケル君やランドルさんも絶対喜びそうだから、今度作ってやろう」
チョコレートフォンデュは、実は定食屋の店長がノリで何度かバレンタイン当日にやって大盛況だったって実績があるので、チョコソースなら作れる。どんな具材がいいかもだいたい分かる。
そう考えて小さくそう呟いた瞬間、またしてもものすごい勢いで後頭部の髪を引っ張られた。そして一瞬で俺の右肩に飛んできて、こちらもものすごい勢いで俺の頬を叩くシャムエル様。
「痛い痛い。分かったからちょっと落ち着け」
とりあえずシャムエル様を確保すると、後頭部の髪を引っ張るのも落ち着いたみたいだ。
「分かったから落ち着け。まずは鍋を探してからだけど、見つけたら絶対作ってやるからちょっと待てって」
言い聞かせながら、どさくさに紛れておにぎりにしてやり、酔った勢いで頬擦りもしてもふもふな尻尾と腹の毛を堪能した俺だったよ。