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主食の確保とジェムの大量買い取り

「ああ……久々の米、めっちゃ美味い」

 机に戻った俺は、久々のご飯を口いっぱいに頬張って感動していた。

 個人的にはもうちょっと柔らかい方が好みなんだが、これはもう間違いなく俺が知ってるご飯だ。白米だ。炊き込みご飯だー!

「うう、コメが食えるなんて感激だよ」

 焼き魚も、塩がしっかり効いてておいしい。

「これは、川魚っぽいけど何だろうな?」

 串に刺さった焼き魚は、20センチぐらいで、塩を振った分厚い皮ごと丸齧り出来るようになってる。

「どうした? これ、そんなに泣くほど美味いか?」

 涙ぐみながらおにぎりを食っている俺を見て、向かいに座ったハスフェルが若干引いてる。完全に自分の世界に入っていた俺は、我に返って小さく吹き出した。

「ごめんごめん。これ、この白い米が俺が住んでいた地域の主食だったんだ。こっちの世界に来てからは、パンやクラッカーばっかりだったからさ、やっぱり食いなれた物があると嬉しいだろう?」

「ああ、そう言うことか。故郷と同じ味なら、そりゃあ嬉しくもなるな」

 納得したように笑ったハスフェルは、さっき俺が買った飯屋を見た。

「その米は、アポン川より西の、カルーシュ高原の南側地域からカデリー平野一帯で主に食べられている穀物だよ」

「え、待ってくれ。どの辺りだって?」

 俺は、急いで鞄から折りたたんだ地図を取り出して机に広げた。

「この辺りだよ」

 ハスフェルが指差したのは、今いる東アポンから西側の、丁度二つの川に挟まれた中洲みたいな形になっている、歪ながら三角形になっている地域だ。

「この国を斜めに横断する大河ダリア川から分かれて、下に向かって流れているのがゴウル川だ。カルーシュ高原地帯はこの二つの川の間の地域だ。カデリー平原は、その下側の海までの地域だ」

「おお、かなり広い地域で米が食べられているんだな。良かった。これでいつでも米が食えるよ」

 満面の笑みになった俺に、ハスフェルも笑った。

「この辺りの街の商店には、生の米を売っている店も沢山あるし、こんな風に炊いた米も普通に売っているぞ」

「そうか、ケンがいたのは米を食べている地域だったんだね」

 机の上では、俺の皿から取り分けてやったご飯をひと塊り、抱えるようにして食べているシャムエル様がいて、俺たちが話しているのを聞きながら地図を眺めていた。


「炊いたご飯が売っているんなら、この際だから大量に買っていくよ。もちろん炊いてないのもね。米があれば、チャーハンだってドリアだってパエリアだって出来るぞ」

 何を作ろうか、頭の中で必死になってメニューと作り方を確認していた。

 学生時代にバイトしていた定食屋で作った賄い飯程度しか知らないけど、まあ何とかなるだろう。

 パエリアは作った事が無いけど、確か、生の米を炒めて具を入れて炊くんだったよな? 炒飯はアレンジが多いし、混ぜご飯も色々出来そうだ。

 魚の団子の入ったスープも、何となくお吸い物っぽくて嬉しかったよ。

 今までそれほど思っていなかったけど、米ってやっぱり俺の主食だよ。何て言うか、満足感が違う。

 よし、これからは朝と昼はパンを中心のメニューで、夕食には米を使ったメニューを考えよう。

「作り置きするなら、鍋や皿なんかももう少し買うべきだな。あ、この際だから携帯コンロも買っておくか」

 食べ終わった食器を返しに行って、俺はさっきの飯屋を見た。炊きたての白米が湯気を立てているのが見える。

 うん、やっぱり買って帰ろう。

 さっきのおっさんに声を掛けて、白米を十人前と、それ以外も一通り持ち帰りで包んでもらった。

「いや、沢山買ってくれて有難うな。またよろしく」

 笑顔のおっさんに見送られて、俺達は外に出た。


 マックス達は、店の中ではじっと大人しく座っていたし、俺達が指示するまで立とうとしなかった。

 よしよし、ほら見て良い子だぞ作戦実行中だ。

「あの店、他にも美味そうな店がいっぱいあったな。マックス達を連れて入れるって分かったから、また行こうぜ」

「あそこはヌードルが美味い店もあるぞ」

「麺まであるのかよ。もう最高だなアポンの街!」

 しばらく外食する楽しみが出来たぞ。


 店の外に出てのんびりと歩いて宿泊所に戻る俺達の背後を、少し離れてついて来ている奴がいる事に、気付いていないのは俺だけだったらしい。



 何事も無く宿泊所に到着した俺は、ふと顔を上げた。

「なあ、ここでもジェムって売った方が良いと思うか?」

 一応、街にはレスタムで見たのと同じように街灯が付いているし、どの店も日が暮れても明かりを灯して商売をしている。ジェムが不足しているかどうかの判断がつかなかった。

「それなら、一度ギルドへ行って聞いてみれば良い。まあ、売ると言ったら大喜びで買い取ってくれるだろうさ」

 ハスフェルにそう言われて、俺達はそのままもう一度ギルドに向かった。


 カウンターの買い取りの窓口は誰も並んでいなかったので、そのまま座る。

 小柄な女性が慌てたように走って来てくれた。

「はい、こちらは買い取りカウンターになります。何を買い取りご希望でしょうか?」

 満面の笑みで迎えられて、鞄に入ってもらったアクアから、まずはブラウングラスホッパーのジェムを一つ取り出す。

「あの、大量に有るんですけど……」

 俺がそう言った瞬間、いきなり、受付の彼女の背後にすっ飛んできた人物がいた。


 それは、並んだらハスフェルと良い勝負するんじゃ無いかってくらいの背の高い、とってもご立派な体格の女性だった。

 こんな言葉を女性に言うのは何だが、筋骨隆々。アマゾネスって言葉がピッタリだよ。

 俺なんか、絶対勝てる気がしないレベルだ。

「おや、ハスフェルじゃ無いか。知り合いか?」

 その女性は、隣に座っているハスフェルに気付いて、驚いたようにそう言ったのだ。

「ハスフェル、この豪華な女性と知り合い?」

「ああ、彼女がここのギルドのギルドマスターだ。ディアマント、彼はケン。ご覧の通り、超一流の魔獣使いだよ。ただし、ちょいと訳ありで色々と知識が偏っている。まあ今は、俺が付いて常識を勉強中ってところだな」

「成る程。まあ、そう言う事なら深く追求はしないよ。よろしくなケン。ディアマントだよ。ここのギルドマスターをしている。何でも分からない事や困った事があれば言っておくれ。で、ジェムが大量に有るって?」

 身を乗り出す彼女に、俺は思わず吹き出したよ。

「ケンです、よろしくお願いします。ええ、沢山ありますよ」

「それなら奥へ行こう」

 ギルドマスター直々の案内で、俺達は二階にある部屋に連れていかれた。



「さあ、出しておくれ」

 大きな机を示されて、俺はちょっと考えて、まずブラウンハードロックのジェムを50個取り出した。

「こっちは死ぬほど有るんですけど、どうしましょうか?」

 ブラウングラスホッパーのジェムを見せると、ギルドマスターは驚きのあまり目を見開いて、俺をまじまじと見つめた。

「大量に、ある? これが?」

「はあ、レスタムの街では、千個買い取ってもらいました」

「お前さんか! 噂の、大量ジェムを買い取りに出した奴ってのは!」

 何だよそれ、そんな噂に成る程か?

 その言葉に、横ではハスフェルが大笑いしている。

「だから言っただろう。こいつは訳ありだって」

「それなら千個、いや、二千個買う!」

「亜種も有りますけど、どうしますか?」

 ギルドマスターは、一瞬口ごもってから大きく深呼吸をした。

「ならそれも千個もらおう」

 机の上に、一緒に数えながら取り出して行く。

 合計三千個のジェムが積み上がった光景は、なかなかに壮観な眺めだった。


 当然、すぐには精算出来ないと言われたので、ジェムの明細を書いた紙を受け取り俺達は立ち上がった。

「それじゃあ帰って休むか」

 大きくのびをする俺を見て、ハスフェルは何か言いたげにしている。

「なんだ?どうかしたか?」

 振り返ると、ハスフェルは扉の方を見て、もう一度俺を見た。

「お前、もしかして気付いててこっちへ来たんじゃ無いのか?」

「何が?」

 すると、ハスフェルはこれ見よがしの大きなため息を吐いた。

「あのな、さっきの店から帰ってくる間中、ずっと俺達をつけていた奴がいるんだ。敵意は無いみたいだったので放置していたんだが、ちょっとどうしようか考えていたんだ。お前さんがギルドへ行くと言うから、当然気付いていて警戒しているんだと思っていたよ」

「ええ、なんだよそれ! そんなの、俺に気付けって言う方が無理だって」

 俺の叫びに、ハスフェルは堪えきれずに吹き出した。

「あれだけ分かりやすい尾行に気付かないって、それはそれで心配になるな」

 あ、今なんか、ものすごく馬鹿にされた気がする。


「どうした。何か揉め事か?」

 ジェムを担当者達と一緒に数えていたギルドマスターが、俺達の会話を聞いて顔を上げた。

「実は、ユースティル商会に目をつけられていてな。ここまで来れば大丈夫かと思っていたんだが、駄目だったか?」

 振り返ったハスフェルが、レスタムでの一連の出来事を話した。

「ああ、ユースティル商会ね。あまり良い噂は聞かない割に、やたら羽振りがいいよね。だけど、この街にあった支部は、確か閉鎖するって話だったんだけどね」

 あ、それってもしかして例の神様の御神託の効果?

 思わず言いかけて口を噤んだ。

「まあ良い、向こうから手出ししてくれたら返ってやりやすいさ」

 ハスフェルの言葉に、俺は思わず首を振った。

「もう勘弁してくれって」

「まあ、お前さんの希望に沿って、出来るだけ穏便に解決するようにするから心配するな」

「うう、よろしく願いします」

 丸投げするみたいで悪いけど、俺にはどうする事も出来ないもんな。

「じゃあ、警戒しながら戻るか」

 立ち上がったハスフェルの言葉に、ギルドマスターが笑ってこっちへ来た。

「そう言う事なら協力してやるよ。おいで。ここから宿泊所には、外に出ないでも行けるように地下通路があるんだ」

「ありがとうございます!」

 目を輝かせた俺を見て、何がおかしいんだか、ギルドマスターとハスフェルの二人揃って吹き出したよ。

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