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第二十九夜・別れと出会い

書籍版・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。


絶賛発売中!

 朝になった。気持ちのいい朝だ。


 自分用のドーム型テントから出ると、早くも出発の支度をしている人たちがいる。


 昨夜はみんなで盛り上がったが、朝になればそれぞれの目的地に向けて散っていく。別れの挨拶を交わして、いつかまた会いましょうと別れていく人たちを見送り、私は精霊様たちと並んでラジオ体操をする。


「なにしているの?」


「朝の運動ですよ」


 その光景が不思議だったのだろう。昨日私のテントの隣でマントに包まって眠っていたパリエットさんが小首を傾げていた。


「ちょっと待っていてくださいね。すぐにご飯にしますから」


 ほかの人は朝ご飯にパンと干し肉をかじる程度で早々に出発してしまっていて、残っているのはアレスさんたちとキースさんにパリエットさんだ。


 朝ご飯は昨晩に用意している。おにぎりと味噌汁を作っておいたんだ。


「食べますか?」


「うん。食べる」


 キースさんはまだ寝ているみたい。アレスさんたちとパリエットさんは興味津々な様子で私を見ている。


 おにぎりというよりは味噌汁に興味があるみたい。朝は豆腐とわかめの普通の味噌汁なんだけどね。


「コータは東国の生まれなのか?」


「私は人里離れた山奥で育ちました。料理は両親に教わったので、両親は東国だったのかも。詳しくは知らないんですけどね」


 結局みなさんに味噌汁をおすそ分けして一緒にスプーンで飲んでいると、アレスさんがふと私のことを訊ねてきた。特に意識したことではなく雑談程度だろう。


 昨夜の豚汁の味噌と似た調味料が、遥か東方の国であると商人さんが口にしていたことを思い出したんだと思う。


「それにしても精霊魔法使いがふたりもいるなんて珍しいわね」


 そうそう、パリエットさんが私と共に旅をする話は、瞬く間に広まって騒ぎとなった。


 精霊魔法にもピンからキリまであるらしいが、普通の人族が使う魔法とは根本的に違うらしく数が少ないらしい。


 扱いはどちらかと言えば聖職者に近いのかもしれない。精霊の代行者という認識が一般的になる。


 エルフ自体が数としては多くないようだし、珍しいみたいだからね。


「かぁ、昨日は飲み過ぎたな」


「おはようございます。キースさんはこのあと、どうするんですか?」


「さあな、とりあえず近くのギルドにいって情報収集だな。ゴルバに気付かれないように最近はギルドに行かないようにしていたからな」


 そろそろ出発だという頃、キースさんが起きてきた。


 すでに野営地には私たちしかいない。キースさんに挨拶を兼ねてこの後のことを聞くが、あまり計画性がある人ではないらしいね。


 というかギルドの情報がゴルバに流れていたことは有名なんだね。それを知って放置していたのか対処出来なかったのか。


どちらにしても大変そうだね。


「じゃあね。コータ。またね」


「美味しいご飯ありがとう! 今度お礼するよ~」


 アレスさんたちとはここでお別れだ。私は牧場のある村に行くが、そこは街道から外れた先にあるらしく商人さんとは行き先が違う。


 別れの挨拶はいいが、抱きしめる必要はあるんだろうか? 外国人がするハグみたいなもんかな。


 まあいい。私たちも出発だ!




 スレイプ君に私とパリエットさんが乗って目的地の村まではあっという間だった。


「これはエルフ様でねえか。こんな村にご用でございますか!?」


 村はのどかな牧畜の村といった風景だった。


 ただ、村に入るとパリエットさんを見た村の人が驚いた様子で集まってきた。エルフって田舎の村だと、こんな扱いなのかぁ。


「旅の途中で寄っただけ。でもチーズとバターは買いたい」


「そうですか。もちろん喜んでお売り致します。いいモノがありますだ」


 村には特に問題もなく入れたね。スレイプ君も問題視されなくてよかった。


 だけど。さあ、買い物だと張り切っていると、村長さんと名乗る壮年の男性に聞いてほしい話があるのでと屋敷まで連れてこられた。


「その……、エルフ様。どうか村を助けてくれませんでしょうか?」


 うん? 屋敷に到着してお茶を出してくれた村長さんだが、突然土下座して床に頭を擦り付けるようにしながら、パリエットさんに村を助けてほしいと言い出した。


「具体的な話次第。無理なことはしない」


 ポーカーフェイスで淡々と語るパリエットさん、カッコイイな。


 村長さんが言うには、最近牧場の牛を狙ってウルフという魔物が来るらしい。退治したいが村だけでは戦力が足りないので助太刀してほしいということだ。


「ギルドには頼んだの?」


「はい。ですが、ウルフの上位種がいるようで……、先日来てくれた者は深手を負って失敗しました」


「ちょっと森を見てくる。それで駄目なら諦めて」


「はい、もちろんでございます!」


 精霊様たちもなにか食べ物か飲み物が欲しいと言うので、最初の森で採った果物を切ってあげながら私はパリエットさんと村長さんの話を聞いていた。


「私は森に行ってくる。コータはどうする?」


「一緒にいきますよ。お役に立てるかわかりませんが」


 パリエットさんは困っている村の人を放っておけないらしい。私には村で待っていてもいいと言うが、精霊様たちが森へ行きたいと騒いでいるんだよね。


 スレイプ君もいるし、大丈夫だろう。


「こーた。たいへん。もりに、ほわいとふぇんりるがいる!」


「とってもつよい。げんじゅうさんなの」


「こまっているみたい。たすけてあげて!」


 森は狭いのでスレイプ君から降りて歩く。


 私の許には相変わらず精霊様たちがいて、この森の精霊様たちがさらに集まってくるが、ホワイトフェンリルという幻獣? なんかとんでもない生き物がいるらしい。


「精霊がなにか騒いでいる。コータなら言いたいことわかるはず」


「はい。その……ホワイトフェンリルという幻獣が困っていると……」


「……ホワイトフェンリル。それ本当?」


「はい。たぶん」


 ああ、精霊様と意志疎通ができることが早くもバレてる。嘘つくのは苦手なんだよね。


 仕方ないから正直に話すが、ポーカーフェイスのパリエットさんの表情が大きく変わった。


「ホワイトフェンリルはこんな人里近くにいるはずがない。エルフの里では友として生きている存在。助けにいかないといけない」


 うーん。危険な討伐ではないみたいだけど、なにか訳ありなのかな。私たちは精霊様の案内で森にいるというホワイトフェンリルのところへと向かう。




「エルフと精霊に人か。何用だ?」


 そこは森の中の神聖な気配のするようなところだった。


 降り注ぐ光がまるで森を清めているような気配がする。日本で言えば神社のような雰囲気といえばいいだろうか。


 その時、声がした。まるで人のような流暢な言葉だ。


「私はアルーサの森のエルフ。パリエット。近くの村がウルフに襲われて困っていると森に来たが、精霊がアナタを助けたがっているから会いに来た」


「それはすまないことをした。森のウルフが私を恐れて逃げ出したのだ」


 大きな狼だった。日本で見た有名なアニメの狼のように大きい。


 でも、とても穏やかで澄んだ瞳をしている。


「こどもがいる!?」


「くるしそうだ!」


 ただ精霊様たちはホワイトフェンリルが抱きかかえるようにしている幼い子フェンリルを見つけたと騒いでいる。


 苦しそうなのか? なにがあったんだろう。



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