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第十八夜・ここ掘れ、ヒヒーン

 ここ掘れヒヒーンと鳴いてはいないが、スレイプニルが掘っているところを私も手伝おう。


 リュックにはスコップも入っていたんだよ。キャンプとかアウトドアに使う折り畳み式のものだ。


 出てきたのは小さな宝箱だった。


「あら、本当に宝箱ですわね。ダンジョンで出没するものですわ」


「あの宝箱やたらと頑丈だから便利なんだよねぇ」


 アナスタシアさんがダンジョンという言葉を口にした。ダンジョンというのはなにかわからないが、宝箱なら知っている。


 ベスタさんいわく、よほどの魔法や攻撃でも壊れない優れものらしい。


「スレイプくんが、こーたにあげるって」


「あけてみて!」


「きっとおいしいものが、はいっているんだよ!」


 ただお宝と聞いて金銀財宝を想像するクラン・ワルキューレの皆さんと対照的に、精霊様たちは美味しい食べ物を期待している。


 この世界の常識はまだはっきりとわからないが、食べ物は入ってない気がする。


 罠などはないようで、みんなに促されて開けてみるが……


「この小汚い袋はなんでしょう?」


 中に入っていたのは丈夫な布でできたような、ちょっと小汚い袋だ。


「それアイテム袋よ。コータの鞄とおんなじ」


 もう少しいいものを期待していた私はがっかりしてしまうが、ソフィアさんがこの小汚い袋の正体を教えてくれた。


 どうやらほかのみんなはそれに気づいていたようで、まだわくわくした表情をしている。


 ああ、たくさん入る魔法の袋か。


「あの、なかに噛みつくモノとか入っていませんよね?」


「大丈夫だと思うわ。それ生き物は入れられないから」


 袋を開けてみるが、中は暗くて見えない。手を入れるのがちょっと怖い。


 ただ、アナスタシアさんいわく生き物は入っていないらしいから仕方ない。中身を出してみるか。


 まさか怖いから女性にやってほしいとは言えない。



「おおっ!!」


「スゲー!」


「つまらないの」


「くだもののひとつもないなんて、だめだめだよ」


 アイテム袋から出てきたのは、大判小判……ではなく金貨や銀貨に財宝がザックザクと出てきた。それも本当に山のように。


 クラン・ワルキューレの皆さんは大喜びだが、対照的に精霊様たちは不満げだ。


 しかも途中で飽きたみたいで、大半はスレイプニルと一緒に森に遊びに行ってしまった。


「返せ! それは俺たちのだ!!」


「なに言ってんのよ。あんたたちは町に帰って処刑に決まってんでしょ」


 クラン・ワルキューレの皆さんも、こんな財宝は初めて見たようで目を丸くしている。


 一方騒ぎ出したのは盗賊のスパイだった男たちだ。


「ふん、俺たちには後ろ盾がいるんだ。貴様らがいかにAランクのクランでもあとで泣きを見るのはそっちだ」


「そうだ。今なら見逃してやるぞ!」


 明らかにはったりだろう。言いたいことを言い放っている。


「へぇ。面白そうな話だね」


 嘘だろうと私は思う。仮に本当なら、この場でそんな秘密を明かすはずがない。


 黙っていて調査や取り調べを受ける段階で言えばいいはずだ。


「ベスタ。やり過ぎないでね」


 ただ、ベスタさんはそんなスパイのひとりを森の中に連れていこうとする。アナスタシアさんも止めることなく、殺さなきゃいいとでも言いたげな淡白な反応だ。


「やめろ! 今なら許してやるぞ!! あとで後悔するぞ!」


 縛られたまま、ずるずると引きずられていくスパイは顔を真っ青にして叫ぶが誰も助ける様子はない。


 精霊様たちに至っては笑顔でバイバイと手を振っているほどだ。彼には見えないだろうが。


「今夜はここで野営にしましょう。仲間がまだ来るかもしれません」


 残されたスパイのひとりは、見えない森から聞こえる助けを呼ぶ声にガタガタと震えてばかりだ。


 残りの男は目隠しをすると木に縛り付けて、移動するまで放置するらしい。


 アナスタシアさんの判断で今日はここでキャンプだ!


「でもさ、これの扱い面倒そうね」


 残るみんなはアイテム袋から出した金銀財宝を袋に仕舞っていた。こんな危険がある森で長々と仕分けはできないんだろう。


「盗賊の持ち物は討伐者がいただけるのでは?」


 日本だとあり得ないが、この世界では盗賊の持ち物は討伐者に所有権が生まれるらしい。


 昨日説明されて私にも分け前がもらえるとの話だったんだ。


「金貨とかはそれでいいはず。ただ元の所有者が判明しそうなモノは、買い戻すって言い出すのよ」


 ソフィアさんはどっかの王族でも持っていそうな宝石を散りばめた王冠や剣を眺めて、厄介になると言いたげだ。


 私としては所有者がわかるものは返してもいい気がするのだが。


「一応言っておくけど、無償で返すってのはナシなのよ。仮に私たちがよくてもダメなの」


 懸賞金などでも儲かったのだし、いいのではと思った私の考えを察したのだろう。世間知らずだと知られているせいもあるのだろうが、ソフィアさんは続けて説明してくれる。


「盗賊なんていくらでもいるのよ。懸賞金が安い奴とかも多いわ。そんな奴らを倒すには、奴らの持ち物はすべて討伐者に与える仕組みが必要なのよ」


「そうね。もっと言えば元持ち主も値下げ交渉くらいはしたいけど、無償で放棄させたとなれば問題になるの。権力や地位で強制的に召し上げたと周りに見られるから。そんなことをすれば二度と優秀な冒険者は雇えないし、商人も警戒して商いを嫌がるわ」


 そのままソフィアさんは冒険者側の事情を教えてくれるが、アナスタシアさんは元持ち主側の事情を教えてくれる。


 善意で返しても問題になるのか。つまり面倒でも各個交渉が必要となると。


「貴族や王家でよくあるのは、適当な名誉と引き換えに値引きかしらね。あとは屋敷とかを与えることも多いわ。屋敷を与えるといずれそこに住む可能性がある。莫大な支払いをしてもそれが国内で使われるなら悪くはないから」


 人権とかなさそうだと、あまり馬鹿にできない文明なのかもしれない。


「まあ、ウチはお父様にお願いすることになるからまだいいほうよ。冒険者ギルドに任せると仲介手数料を取られるうえに安くなるから」


 ああ、アナスタシアさんは貴族の娘なんだっけか。


 侯爵って言っていたような。お偉いさんとの話はお偉いさんに任せるしかないか。


「こーた、くだものとにくをとってきたの!」


「みんなでたべよ~」


 金銀財宝を仕舞うと、アイテム袋はアナスタシアさんが代表で持つことになり、遊びに行っていたスレイプニルと精霊様たちが帰ってきた。


「しっ、シルバーボア……」


「滅多に見つからないAランクの魔物なんだけど……」


 精霊様たちは果物や薬草などを両手いっぱいに持っていて、スレイプニルは自分より大きくて重そうな銀色に光る毛皮をした猪を咥えて帰ってきた。


 クラン・ワルキューレの皆さんが若干引いている。


 強い魔物なんだろうか?


「よーし、よしよし」


 解体は私だけだとできないなぁ。皆さんに手伝ってもらおう。


 スレイプニルは褒めてほしいような表情に見えるので、褒めながら撫でてやろう。馬は知らないが、犬はスキンシップが大切なのは知っているんだ。


「コータ。これ……」


「捌くの手伝っていただけませんか? 精霊様とスレイプニルがみんなで食べようと獲ってきたみたいで」


 まるで生唾を飲み込むような人が何人かいる。そんなに美味しい肉なんだろうか。


「コータ。愛してる!!」


「幻の肉!!」


「結婚して!」


 ああ、興奮したみなさんに囲まれてしまった。


 でもみんな皮の鎧とか厚着をしているので、抱き付かれてもいまいち嬉しくない。


 結婚はしませんって。




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