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27 私は、王宮に招かれました(前編)

 静かに顔を出していた太陽は、室内を一気に明るい光で満たし出す。


 メイドの朝は早い。

 自室でロングエプロンドレスに着替えたヒルダはしっかりとリボンを結び、髪をいつものフィッシュボーンに編み込んだ。


 そして最後に、気を引き締めるようホワイトブリムを装着する。



「――完璧」

 鏡の前でいつになくつぶさに身なりを確認した彼女は、切れ長の目を笑顔に細めた。


「さあ、ヒルダ。今日も一日頑張るわよ!」


 鼓舞するべく言ってから、職務をこなすためにティアナの部屋へと向かう。


 それはヒルダの日常が始まるいつもの光景。ただいつも以上に強く見える足取りは、彼女の気合いを更に示していたのだった。



***



 ――新しい朝の空気は澄み渡り、街と緑を優しく包み込む。

 そんな光が増してゆく景色の変化を、私は車窓から楽しんだ。


 ラウレンツが(やしき)に来なくなって約一ヶ月ほど過ぎた三日前、私はエトガーから王宮に招待されていた。

 何でも、『近頃、王子の公務が立て込んでいてレハール邸へ訪問出来なかったので、是非会いに来てあげてください』とのこと。


 私は別に会わなくてもいいんだけど、たまたま暇だったのと、ヒルダにしつこくせっつかれて招待日の本日、王宮へと向かっている。

 そして今回、なぜかロマンはお留守番でヒルダだけが同行していた。


 せっかく久し振りに会うのだから、みんなで遊んだほうが楽しいのになあと考えつつ向かう道中で、私はふと思い出す。



「そういえば……私、ラウレンツに王宮へは顔を出さないようにって言われてるけど」

「いつですか?」

「こないだ服を届けに行った時だよ」


 実は前回ラウレンツを訪ねた際、当分の間は来ないようにと釘を刺されている。

 訪問を依頼してきたのはエトガーだけど、私は「来るなって言ってた癖に」とぶちぶち文句を垂れ始めた。



「ラウレンツ王子はきっとお嬢様を危険に晒さないために、そうおっしゃったのですよ」

「……どういう意味?」


 いきなり理由(わけ)のわからない発言をするヒルダに勿論聞き返す。そのまま見つめていればしぶしぶといった様子で全容を教えてくれた。


 ――まず前提として、王宮内にはアベル派とラウレンツ派の二つの派閥があるという話から始まる。

 それは本人たちが意図するものではなく、一部の官僚や貴族たちが勝手に分かれて作ってるものらしいけど。そしてつい最近、その互いの派閥同士が軋轢を強めていたという。


 原因は、現時点で結界を単独ではれるだろう唯一の存在になっている私を、ラウレンツが第一婚約者候補にしたこと。


 元々はアベルの候補だったことが、話を余計にややこしくしていたそうだ。……私はどちらの候補も望んでないのだけどね。


 そんな話を聞いて、前世でも政治などに興味があったわけではないけど、この貴族の世界というのも同じくらいめんどくさそうだと感じる。

 ともあれ、そのせいでラウレンツは内部を制しきるまでは、私を王宮に寄せつけないようにしてたのだとヒルダは言った。



「……内容はわかったけど、ヒルダはよく実情を知ってるね」

「先日お嬢様をお待ちしていた際、私はエトガー様とお話しをさせていただいてたからですよ」


 いかにも私は服を届けに行った時、広間でヒルダを待たせていた。

 それからラウレンツとティータイムを過ごす間はエトガーも側にいなかったと思い出す。


 なるほど、あの時に二人で話をして知り得た情報なのだ。


「でも私、最初の頃はよく王宮に呼ばれてなかったっけ?」

「それは周りの方々が、お嬢様の真意を問うためにあの手この手で誘いをかけてらしたようなんです」

「へえー」

「その事に気づくからこそ、ラウレンツ王子は自らレハール邸へ出向かれていたと聞きました」


 ヒルダの話から、いつも何しに来てるんだろう? と思っていた来訪も私が王宮に行かない代わりだったのだとわかった、……けれど。



「わざわざラウレンツが来なくても、私は王宮へ行こうと思わなかったのに。早く言ってあげれば良かったねー」

「お嬢様……。おそらくですが、王子の訪問は常に目を光らせていることをしらしめて、お嬢様に被害が及ぶことを制御する意味合いもあったのではないでしょうか? まあ、それだけではないと私は思っていますけれども」

「ふうん」


 何だか色んな事情があるみたいだけど、宰相を務める父がいるのだから私は大丈夫だった気もする。

 それでも王子様ともなれば、そこまで配慮しなくてはならないのだろうか。


 ラウレンツは大変だなあというのと、やっぱりハゲちゃうよと思った。

 そして今日はエトガー(いわ)く、「ようやく諸々をおさめることが出来た」上での招待と知ってひらめく。

 そもそも私をどちらの婚約者候補にもしなければ良いのではないかと――。


 だから私は、『――よし。ラウレンツに会ったら、もう一度外すように言ってみよう!』なんて、彼のせっかくの苦労を無駄にするようなことを描いていた。



 ……それにしても、乙女ゲームの中での話だった世界は、設定として知る内容すべてがほんの上辺にしか過ぎなかった。

 物語は主人公(ヒロイン)のためにあると思っていたけれど、実際にここで生きている彼らの日々や思いはとても深い。

 うん。主人公(ヒロイン)だけじゃなく、みんなそれぞれに物語があるんだ。



 私はふとこれから会う予定の、魔王的に笑う彼を浮かべた。

 あの笑顔も、同じ世界で生きて初めて出会えたものだ。きっとまだ知らないことのほうが多いと思う。


 ラウレンツにもあるんだろうか? 彼だけの物語が――。


 次々に流れてゆく景色を見ながら、そんなことを考えたりした。



***



 しばらくして王宮に着くと、ラウレンツは公務が少し長引いているとかで、エトガーだけが出迎えてくれた。


 それよりも、どういうわけか着いた瞬間から纏う空気をピリッと変えたヒルダの様子が気になってるけど。

 なのにエトガーは気づいているのかいないのか、変わらない優しい目を笑顔に細める。



「ありがとうございます、ティアナ様。久し振りの会瀬を王子も喜ばれることと思います」

「――ラウレンツ王子にとっては、あまり心の休まるものにならないでしょうけれど」

 私が返事をするより早く、歓迎の言葉にぴしっと応えるヒルダはいつにもましてキリリと弧を描かせていた。

 対してエトガーは苦笑しながら続ける。


「やはり……ご存じでしたか」

「ええ。だからこそ、こうして同行させていただいております」

「想定外の運びになったとはいえ、私としては本心から、王子にひとときのやすらぎを得ていただきたいと思っているのですよ?」

「そうですね。その他の思惑がなかったと信じて、お言葉通りに受け入れられるよう努力致します」


 ……何だか、一見険悪そうな雰囲気を感じた会話に入ることは勿論出来なかったけど。

 ともかく、そういうやり取りもするくらい仲が良くなってるのだなと思うことにした。



「では。さっそくですが、お茶会(ティーパーティ)の会場にご案内致します」

「……お茶会(ティーパーティ)?」



***



 そうして私は、てっきり広間でラウレンツを待つつもりでいたのだけど……ただ今来賓室を目指す途中にいる。

 何でも、今回お茶会(ティーパーティ)を開く場所がそこだからということ。


「ねえ、エトガー。お茶会(ティーパーティ)……なの?」

「はい。さようでございます、ティアナ様。さあ、着きましたよ」



 歩きながら問えば、さらりと流すように返される。そんな様子にわずかな引っ掛かりを覚えつつも、辿り着いた部屋へ踏み入れると……――一斉に注目を浴びた。


 それは、部屋の奥にあるテーブルでティーセットが用意される中、手前に置かれたソファでくつろぐ知らない人たちから向けられたもの。

 思いがけず私が瞬かせる間にも入室を促され、そして自己紹介が始まった。



「――お初にお目にかかります。ノルドハイム公爵の次女、クラーラ・ノルドハイムと申します。どうぞお見知り置きくださいませ」


 まずはじめに、日溜まりのような優しいクリーミーブロンドをした人が、長い髪をはらりと落としながらお辞儀をした。

 サラ……と揺らす髪は、私と違って毛先だけがゆるやかにカールしており、斜めに流す前髪の下ではみずみずしい若菜を思わせるペリドットの瞳がきらめいている。

 全体的にやわらかな印象を持つ清楚系美人だ。



「はじめまして。私はミア・シュナイトと申しますの。お目にかかれて光栄ですわ、ティアナ様」


 続いて挨拶してくれたのは、ゆるふわなキャラメルブロンドの髪をツインテールにした人物。

 いやあ、ツインテールはあなたのためにある髪型だよといえるほど似合ってる。

 やや青みがかるヘーゼルの目をした子リスみたいな愛らしさは、思わず悶えたくなるくらいにあざと可愛い。……のだけど。


 直感的に『あ、何かとってもめんどくさそう』というのが(よぎ)った私は即座に回れ右しようとした。


「――お嬢様もご挨拶なさってください……っ」


 残念ながら、ボソッと告げるヒルダに背中をとられて阻止されたため、逃げることは叶わなかったけど。くそう。



「……はじめまして。レハール侯爵の長女、ティアナ・レハールです……」

 仕方なく返す私を、目前の二人とその従者と思われるメイドたちはにこやかに見つめていた。


「最初に挨拶をしてくださったのはラウレンツ王子の元第一婚約者候補で、現第二候補のクラーラ様。もう一方(ひとかた)のミア様は第五候補でいらっしゃいます」


 起こっていることがいまだ理解できずにいた私に、ヒルダは背後からこっそり情報を与えてくれたけど。

 それを聞いて尚更、間違いなく面倒そうだよね、と帰りたくなったのは言うまでもない。


 いずれにしても、何はともあれ現状を把握したいと思う。だからとりあえず挨拶を済ませた私は、トイレに行く振りをすると同時、エトガーとヒルダも廊下へ押し出すように連れ出した。



「エトガー……、知らない人たちがいるんだけど。今日はお茶会(ティーパーティ)だったの?」

「はい。実はここ一月(ひとつき)ほどラウレンツ王子は本当にお忙しく、他の候補者の方々ともあまり面会はされていなかったのです。それがティアナ様をお招きした後に、聞きつけたお二方から同日ならば問題はないだろうとお茶会(ティーパーティ)を提案されたため、お断りすることが出来ず……突然このような事態になってしまい申し訳ありません」


 はめられた気分でわずかにむっとしながら尋ねたけど、エトガーの言葉にそれはやむを得ないかと納得もした。

 ――それはさておき、まったく動じる様子がないヒルダに目を向ける。


「もしかして、ヒルダは知ってたの?」

「はい。王宮に招かれた時の通達ではなく、メイド同士の情報網から知り得たものではありますけれど」

「そんなのがあるんだ」

「ええ、だからこその同席なのですよ。婚約者候補が集まる場に、専属のお世話係がつくのは暗黙の了解ですから」


 またしてもびっくり。事前に知っていたことやメイドの情報網の存在だけでなく、そんなルールがあるとは知らなかった。

 どの世界にも色々な決まりがあるもんだ、と思ったのに合わせて、先ほどヒルダが緊張感を高めた理由がわかったかも。


「えへへー」

「お嬢様? 笑っている場合ではありませんよ」


 もしかしたら……私のことを心配してくれてたりするのかなあと感じて、心は自然にほころんだ。


「候補の方々にもラウレンツ王子は話を通されていたのですが、まだ少々行き違うところがあったようで……。第二候補になられた方はまだしも、第五候補に関しては何の変動もなかったのでまさかの思いです」

「私は……何となくですが、こうなることの予測は立っていましたから問題ありません」

「そうなのですか」

「はい。それよりも本日お茶会(ティーパーティ)を開くことになった成りゆきが気になります」


 そう言ってにっこり笑うヒルダを不思議に思う。だってそれはさっきエトガーが説明してたから。

 聞き漏らすはずがなく、捉え違いもしないヒルダなのにと首をひねるが、それより腑に落ちないことを口にする。


「ねえねえ、第五候補の人も変わったんじゃないの?」

 そう。私が第一婚約者候補になることで必然的に全員が繰り下がれば、第五候補も位置は移動するのだ。


「いいえ。この度、第三候補の方が婚約者候補から外れられましたので、動きがあったのは第一候補と第二候補の方々のみです。元第二候補の方に関しては、大した差異はないとのことで簡単に話は済んだと存じております」


「へー……って、え? 第三候補の人はなんで外れたの?」

「その方は将来的に婚姻自体をするつもりがなく、魔力についての研究職に従事したいという意向で、これを機にと辞退されました」

「そうなんだ……」


「はい。現時点でも、すでに学習を始められているそうです」

「今からもう……将来の夢に向けて頑張ってるんだ。すごいね」


 こうして、全員が変動しなかったいきさつから、辞退した人の現状もわかった。


 前世の私は、頑張ることをしようともしなかったのに。本当に偉いなあと感心する。

 私はその前向きな令嬢を素直に応援したいと思った。うん……いや、ちょっと待て。



「辞退って何!? そんなのが許されるのっ?」

 平然と話されたので思わず流してしまうところだった。

 けれど気づいた私は、当たり前に湧く疑問を投げかける。そんな話は聞いてない。


「当然ですよ。ラウレンツ王子は常に相手の気持ちを尊重して、誰かを縛りつけるようなことをなさる方ではありませんから」

 こちらも当たり前に返されて、だったら私も、と口を開こうとしたのだけど。


「勿論、ティアナ様は例外です」

「あ……」


 矢先に候補からは外れられないのだと念を押されてしまいました。


 さすが悪役令嬢、デッドエンドへのフラグはそう簡単には外せないらしい。悪あがきだとわかっても、ずるい、ずっこいとぷんぷんはする。

 どうせならラウレンツを好きな人とくっつけばいいのに、そう思いつつ来賓室の中をちらっとうかがった。


 ――本当に全然知らない人たちばかりだ。設定にも書かれていなかった人物たちだけど、他にも候補がいるのだから存在するのは当然と頷く。


 それにしてもまあ、乙女な世界はやっぱり顔面偏差値が高い。見れば見るほど二人とも綺麗だし、可愛いかった。

 例えるならばクラーラは可憐な百合で、ミアはあどけない野バラ。悲しいかな、どう考えても悪役令嬢の私が一番残念フェイスで性格も悪そうに見えるよ!



「ティアナ様っ。戻られたのですね」


 そんなことを考えて覗いてたら、気づいたミアが人懐(ひとなつ)っこい笑顔で近づいてきた。

 そうだ、事情もわかったことだし、そろそろ戻らなければ。


「早くお入りになって」

「は、はい……」


 無邪気に誘ってくれる姿は可愛くて、ついでに性格までいいんだなあと少しなごむ。


 他の貴族もいるため、言葉遣いに気をつけなきゃならないのは邪魔くさい。

 だけど、クラーラも終始笑顔で迎えてくれるのを見て、私は気持ちを切り替えて今日のお茶会(ティーパーティ)を楽しむことにしようと決めた。



***



 ――そんなこんなで周りに合わせてソファに腰かけるも、辺りをぐるっと見渡した私は、またすぐに立ち上がった。


「お嬢様?」

 ヒルダに声かけられたけど、あるものに魅せられた私はそのまま歩き出す。

 そして、入り口の横付近で見つけたそれへと近づいていった。


「わあ……綺麗……」


 そこで小さなテーブルの上に飾られていたのは、高さ三十センチメートルほどの少し大きな置物。

 前世でいうところのシンデレラ城みたいなものが、すべてガラスで作られていた。近くで見ればよりきらきらと輝きが目に映り、とても繊細なガラス細工に思わずほうっとため息が洩れる。


 思わず吸い寄せられるように私が手を伸ばす……途端にさっと影が落ちて振り向けば、満面の笑みで眉をキリッと引き締めたヒルダが立っていた。


「本っ当におやめくださいね、お嬢様」

「……あは」


 ちょんって触りたくなった心境を見抜くこれは、本気でピリピリしていらっしゃる。


「わ、私が壊したりするわけないでしょー」

 私は即座に指を引っ込めながらもついと顔を反らしながら言った。

「故意にはなさらないでしょうね。でも、そのお言葉をまるごとそのまま信じられると思いますか?」


 うん、ごもっとも。以前、(やしき)のガラス細工を壊してる私の言うことは信憑性が薄い。


 それはそうとして、本当につい触れてしまいたくなるほど素敵なガラス細工だ。

 細やかな作りのすごく綺麗な飾りつけは、見てるだけで笑顔にもなる。きらめきが心まで届くようで、どんどん好きになっていた。


 ――そうやっていつまでも眺めていると、「このガラス細工はラウレンツ王子が、前任者の執事と作ったものなんです」とエトガーが教えてくれた。


 私は勝手に、職人さんが制作したものとばかり思い込んでいたから正直いって瞬いた、けれど感動もしてる。

 これを作ったのがラウレンツだったなんて……、あとは『前任者の執事』という言葉が頭に残った。



「十分堪能なさったでしょう? いい加減に離れてください……っ」

「もうっ。形あるものはいつか壊れるんだから。諸行無常だよ、諸行無常」

 こそこそとではあるけど、やや怒り気味の強めな語調で言われて、まだ何にもしてないのにと少しばかり反発心が顔を出してしまった。


「お嬢様……ご冗談でも口にして良いことではないとわかりませんか?」

「ごめんなさい」


 あ、ヤバい――と感じたのと、これは本当に言ってはいけないことだと思ったから即行で素直に謝っていれば、くすくすという笑い声が聞こえた。


「――ティアナ、気に入っていただけたなら光栄ですよ」

「ラウレンツっ」


 顔を上げれば、すぐ横に立つラウレンツがいつも通りに笑っている。

 何だか久し振りだけど、変わらない綺麗な笑顔は不思議と私の心を落ち着かせた。


 そんな私のなごみもつかの間に、王子の登場で一気に場は沸く。令嬢たちが口々に声をかけ始め、華やいだ室内にふと初めてラウレンツに会ったパーティでの登場シーンを思い出した。


 あの時の女子と同じく、心を弾ませて見える二人の様子にわくわくが芽生える。

 最近は小説を読んでいなくて恋愛的なものからすっかり遠ざかっていたけれど、乙女ゲームといえばこれだよね。

 にわかにときめいた雰囲気に、今日はリアルに萌えやきゅんを満喫できそうだと小躍りした。



「お待たせしてすみませんでした。では、お茶会(ティーパーティ)を始めましょう」


 内心ではしゃいでいれば、みんなに向かって取りまとめるようラウレンツが言い放つ。

 その言葉で全員がテーブルに移動しだす中、私が一人にやけて出遅れていれば。振り返る彼はすっと手を差し伸べながら、ふわりと頬笑んだ。


「ね、行きましょう。ティアナ」

「うんっ」


 顔立ちは端正で、すんなりと気遣ってくれる優しさも兼ね備える王子様はまさしくイケメンだ。

 候補の令嬢が本当に好きになったとしてもおかしくはない。


 私は存分に萌えを提供してもらおうと目の前に出された手を取り、頑張れラウレンツ! とぎゅっと握り返す。


 そうして緩む顔を必死に抑えて、笑顔で席に向かうのだった。

27 私は、王宮に招かれました(後編)に続きます。

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