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16 私は、たくらみました《閑話》clover

16 私は、たくらみました の続きです。

 私が入念に準備したはずのたくらみは、思わぬ強敵(プロフィトロール)に出会い、信じた騎士(ナイト)の裏切りを受けたために……。


 この晴れ晴れと続く蒼天のように、爽快なほど綺麗さっぱり消え去っていった――。



 そして今日は、遊ぶより先にティータイムを興じている。

 すでにプロフィトロールの虜となるコタが早々に、もふりまくるからそうした。


 それによって、私とロマンも負けじと例の罪深いプロフィトロールに舌鼓をうってる現在。

 うん。ほんとに美味しい。



「ティアナにも気に入っていただけたようですね。――ちなみに、王宮へ入れば毎日でもご用意しますよ?」

「それはいいよ」


 来ればじゃなくて入ればという言葉に引っかかったけど、すっぱり断った理由はそれじゃない。


「どんなに美味しいものでも毎日食べたら飽きるって言うでしょ? こんな美味しいものに飽きるなんてもったいないもん。だから時々にするー」

 言いながらぱくついて、満足した私はまた今日もロマンと生け垣のところへ遊びに行った。



 そうして、いつも通りに花冠を作ろうとしていたんだけど――。


「――あっ!」

 あるものを見つけた私は、すぐにラウレンツのところへ戻った。


「どうしました?」

「はい、ラウレンツ。これあげる!」

 満面の笑みで手渡したのは四つ葉のクローバー。目にした瞬間、嬉しくなって美味しいお菓子のお礼も込めてプレゼントした。


 けれど、ラウレンツはクローバーをじっと見つめたまま動かない。

 あれ……? この世界では四つ葉のクローバーに意味はないのかな?



「四つ葉のクローバーは幸せを運んでくれるんだよね?」

 違ったらどうしようと問いかけてみれば。

「……ティアナは、本当に子猫みたいですね」


 ふっと笑顔をつくるラウレンツに頭をぽんぽんされながら言われた。



「猫?」

 どういうことだろう。猫目だからかな? と不思議に見つめる。


 それよりクローバーの話が知りたい。そう思っていれば、ラウレンツは急にはっとして手をどけた。


「すみません! 女性の頭に無断で触れるなど……あ、ティアナは人間ですから……っ」

「うん。別にいいし、人間なのもわかってるつもりだよ」


 よほど焦ったのか慌てるラウレンツの言葉はおかしい。


 それよりまたしても新事実。ここアンテウォルタでは女子の頭を触るのにも許可がいるらしい。

 でも父は普通に撫でてたよね? ――と考えた。



「それは、私もすでに家族同然と捉えてよろしいですか?」

「頭を撫でられるのが嫌じゃなかっただけだから」


 今度は、飛躍しまくる言葉そのものをばっさ斬りさせてもらった。ラウレンツの発言でどうやら家族はOKなんだと理解したよ。



「――それよりクローバー。幸せにならないの?」


 私は再度、気になっていたことを尋ねる。


「勿論、なりますよ。ありがとうございます」

「どういたしまして!」

 思ってた通りのラッキーアイテムだったことに安心する私は、満足げに返事した。



「この四つ葉のクローバーは、もう私に幸せを運んでくれましたから。……とても、ティアナらしいです」


 そう言ってラウレンツがすごく綺麗に笑うから。

 よくわからないけど、ひとまず幸せを感じてくれて良かったと思った。


 王子様に何でもない草をプレゼントしたとなったら、さすがに悪いもんね。



 ――なんて思ってた私が、アンテウォルタで四つ葉のクローバーを贈ることに他の意味もあるとは、知るよしもないのだった。



***



 日射しが緩やかになる時分。レハール邸をあとにする馬車の中で、ラウレンツは手にするハンカチに目を落としていた。


 同乗する執事のエトガーは、彼が幸せそうに頬笑む様子を垣間見て話しかける。



「――それはティアナ様からいただいた、四つ葉のクローバーですね」


 真っ白なハンカチの間には、先ほどティアナがプレゼントした四つ葉のクローバーが大切そうに挟まれていた。

「ええ。はじめ、渡された時には驚きました」


 笑いながら答えるラウレンツに、エトガーもつられてふっと笑みをこぼす。

 それはクローバーを手にした瞬間、凝視していたラウレンツの姿を思い出したように見える。


「彼女は幸せを運ぶアイテムとして届けてくれたというのに……。つい、自分に都合が良い方の意味を浮かべてしまいました」


 苦笑しながら放つラウレンツに、「私も、てっきりそちらだと思っていましたよ」とエトガーが当然に返答すれば、もう一つの意も知っていたのかというように目を瞬かせる。


 それから、再び見つめるクローバーの葉を優しく撫でながら口を開いた。



「そちらは葉の一枚ずつに意味があり、四枚があわさって一つのジンクスを作り出すのですが」

「はい。確か……――」


 応えるエトガーは記憶する内容を話し始める。四つ葉のクローバー、その葉が持つそれぞれの意味とは――。


 男女の『恋愛』

 友人との『友愛』

 家族への『親愛』

 国や自然に対する『敬愛』


 そして四枚の葉が集まり表すのは――無償の愛である、『真の愛情』だった。



「そのクローバーを愛する相手に真心を込めて贈ると、二人の恋は永遠に実るのでしたね?」


 そう問い掛ければ、顔を上げたラウレンツは「ティアナはまったく知らないようですけど」と面白そうに言った。


「ですが……とてもティアナらしいです」

「それは恋のジンクスを知らないということが、ですか?」

 贈られた意味が思惑と違ったことを憂うでなく、むしろ嬉しそうなラウレンツを不思議に思うのか、エトガーはその旨を尋ねた。



「まあ、それも彼女らしくはありますけど。ただ、ティアナは媚びたり、押しつけるのではなく、真っ直ぐに私の幸せを願ってくれたとわかります。私はその気持ちがとても嬉しいのです」


 いつもより更に綺麗な笑顔を見せるラウレンツの表情と言葉に、なるほど、と納得を示すエトガーもどこか嬉しそうだった。


 そうしてティアナの贈る四つ葉のクローバーは、本当に幸せを運ぶアイテムとなってゆく――。



「ジンクスも中々侮れないものですね。すでに私を幸せな気持ちにさせてるのですから」

「そのようですね。ならば……その四つ葉のクローバーは、もう一つのジンクスも叶えてくれると私は思います」


 続けて告げられる台詞に、ラウレンツはめずらしく目を見開いた。


 それから、対面に座る優しい目をした執事に向けて、ふわりとまぶたを緩めて言った。

「……そうですね。そうなることを、私も願っています」



 そうして、いつもと同じ馬車は、いつもと違う幸せを車内に乗せて王宮へと向かうのだった。



 ――アンテウォルタで『幸せを運ぶ』意味を持つ四つ葉のクローバー。

 その葉が表すもう一つの意は……『真の愛情』。

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