キセキの一夜
Ⅰ
ひさしぶりに瞳をのぞきこむと
もう 廃人みたいになっていた
どうしたのなにがあったのだれにまけたの
旅はどうだった たった2年だよ
なんでそんな風に変わったの
かわいいくらいシンプルで
ひとつのりゆうもなくスペシャルで
狂おしい熱情を秀麗な微笑で押さえ込んでいた
あなたはなにを切り取られたの
ねえ、彼女どうしちゃったの
あなたいっしょに旅立ったっていうじゃない
あなたのせいなの
あなたが彼女をこんなにしちゃったの
もしそうなら あたし あなたを許さないから
昔生きてた彼女をどこへやったの
忘れられない
あの泣きたいくらいしあわせな夜を私にかえしてよ
一体 何をしたのよ
もうッ
なによッ
ホンット腹が立つッ あなたのせいにちがいないんだわッ
彼女ようやくちょっと微笑んで
人差し指を私の鼻先に持って来て
3回左右に振って おどけたふりのセリフ いってくれた
やめなさいこのおかたを責めるのは
このかたのおかげでここに帰って来れたといってかごんではないから
それより あなたもお変わり 姫?
もう一度 明るい笑顔をみせて頂戴
そうしたらきっと新生できる
それをみるためにここへ帰って来たんだから
な、なにをいってるのよ
お願いほんとうに
そのためだけに 彼女 帰って来たの
お願い‥‥‥‥‥
そ、そんなみつめないでよ ちょっと
もう いいわよ
コウ かしら
ひとすじのかげりもない 笑顔をみせてあげられて?
ああ ああ ああ
ありがとうございます
やつがれめはこれで死んでも
もう悔いはないのでございます
そして彼女こそこの世のものとは思えない
透き通った素敵な笑顔で
花咲くように笑ってくれた
多分この要らない女がいなければ
私 彼女に抱きついて思いっ切り泣いていたと思う
ありがとうほんとうにありがとう
このひとが笑うのみたの1年ぶりよって
私の手を取って 先に泣かれたもんだから
別に彼女、あなたのものじゃないですからって
怒ってる私みて 彼女また 今度は心にしみる
うれいをひめたドラキュラ伯爵みたいな笑顔をみせて
ね いったとおりでしょ この人は本当に太陽のお姫様なんだよ
それからもこの女は痛いくらい私の手を握り締めていたっけ
そしてそれにも飽きたらとつぜん立ち上がって
今日は朝まで飲むよ、姫もつきあいなよって叫ぶようにいうんだけど
私だってもともとそのつもりですよ
でもあの日以来そんな飲み方したことなかったもんだから
不覚にもひとりだけ先に酔いつぶれて眠ってしまったよう
鳥達さえずる朝 遠ざかる意識の中で あのバカ女の低いけどよく通る声が
キセキ って言葉をなんども繰り返しているのをきいた気がする