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文化祭と新たな火種 9

「良く知ってるわね、でも私は貴方と違って、ハッキリ断れる女だから」


「いや、でもぶっちゃけ、毎日毎日しんどいだろ? そこでどうだ! 仮に俺とカップルってことにしておけば、そんな面倒事からも解放される! 俺も幸せ、太刀川さんも幸せ! みんな幸せだろ?」


 沙月は何かを考えるように、顎に手を当てる。

 ぶつぶつと独り言をつぶやき、沙月はどうしたものかと考えていた。

 慎の言う事も最もだった。

 沙月は最近、告白の回数が多すぎて、どうしたものかと悩んでいたところだった。


「……いい案だけど、ひとつ問題があるわ」


「問題?」


「相手が貴方だという事よ、気持ち悪い」


「……ぶれないな~、女の子にそんな事言われたの生まれて初めてなんだが……」


「ならよかったわね、初体験よ」


「……まぁいいや、んで? どうするの?」


 半ば半分あきらめモードの慎が、沙月に尋ねる。

 すると沙月は、ため息を一つ吐き、慎が思いもしなかった事を言った。


「やるからには、優勝よ。そうしないと、貴方困るんでしょ?」


「え? 良いの!!」


「……今回だけ……それに貴方とカップルってことになれば、今村君の情報も聞き出せて、優子に流せるから、丁度いいのよ」


 理由はともあれ、慎は彼女役がなんとかなり、一安心する。

 自画自賛するようで、慎はあまり言わないが、慎は自分の容姿に自信を持っていた。

 そうでなければ、毎日のように告白され訳もなく。

 このコンテストも沙月がペアなら余裕だと思って疑わなかった。

 しかし、慎はコンテスト当日に知ることになる。

 最強の敵が、自分の近くに居ることに……。





 学校中がお祭り騒ぎの中、職員室でも明日の文化祭の準備で先生たちは校内を駆け回っていた。

 雄介たちのクラスの担任である、石崎は当日の文化祭に来る来賓のリストを現国担当の若手教師の大友(おおとも)と共にまとめていた。


「生徒たちは楽しそうですね、見ていると学生時代を思い出しますよ」


「そうですね、時代なのか、はたまたこの学校の校風が特殊なのか、案外自由な出し物が多いですからね。見ていてこちらも楽しい気分になりますよ」


 名簿に目を通しながら、2人はパソコンに名前を打ち込んでいく。

 そんな単純作業だからか、段々飽きてきてしまい、つい話に夢中になり始めてしまっていた。


「この学校は、楽しい生徒ばかりですからね、考えることもユニークで面白い。将来が楽しみな生徒ばかりです」


「一部、馬鹿もいますけどね……うちのクラスの男どもとか」


「アハハ、そんな事ありませんよ。みんな元気な良い子じゃないですか? 石崎先生のクラスの授業、僕は結構好きなんですよ」


「そうですか? まぁ、そこまで素行の悪いのは居ませんが……いかんせん考えが馬鹿で……」


 ため息を吐きながら、隣の大友にそういう石崎。

 大友は相変わらず笑顔で、石崎に楽し気に話す。


「ところで、先生のクラスの出し物は何を? ちなみに僕のクラスはお化け屋敷です」


「普通で良いじゃないですか、うちなんてメイド喫茶ですよ? 良く学校が許可を出したと思いますよ。それに、男は色々なコスプレで接客することになって、もうメイド喫茶なんだか、コスプレ喫茶なんだか……」


「アハハハ、良いじゃないですか、僕も言って見ることにしますよ」


 生徒も先生も、学園祭を前にして浮かれる気持ちは変わらない、お祭りの前は誰だって興奮する。

 しかし、石崎は今現在、そんな余裕はなかった。


「そういえば、石崎先生に聞きたいことがあるんですが?」


「どうかしましたか?」


「いえ、この前石崎先生がこれを忘れて行ったもので…」


「あー、それですか……すいません、ありがとうございます」


 大友は鞄から一枚のチラシを取り出し、石崎に渡す。

 チラシは婚活パーティーのチラシであり、石崎はそれを見てため息を吐く。


「どうしたんですか? 結婚でもお考えなんですか?」


「えぇ……実家の方から、そろそろ嫁を連れて来いと……まぁ、私ももうすぐ33ですから、そろそろ考えなくてはと……」


「あぁ、それで婚活ですか……」


「はい、正直気が重くて……見ず知らずの女性と話すのも、結婚も……でも年齢的にはそろそろ焦る時期なのかなって……」


「なに言ってるんですか、石崎先生が良い人なのは僕が保証しますよ。それに結婚相手だって……」


「結婚がどうかしたんですか??」


 大友が言いかけたところに、突然入って来たのは、音楽教師の葉山だった。

 葉山も大友と同じく、若手の教師であり、年齢は25歳とこの学校の教師人の中で一番若い。

 結婚という単語をなぜか強調させながら、葉山は大友と石崎に尋ねる。


「あぁ、葉山先生でしたか……どうかなさいましたか?」


「用事が無いと話しかけちゃいけないんですか?」


「い、いえ…そういうわけでは……」


 石崎と葉山の会話を聞きながら、大友は隣でニコニコしながらその様子を見守る。


「さっき結婚って来たので、とうとう大友先生が結婚するのかと思って」


 笑顔で話す葉山に、大友も笑顔で「そんな訳にじゃないですか」と答える。

 若者2人のそんな爽やかな会話を聞きながら、自分も年を取ったと考える石崎。

 そんなことを考えていると、葉山が再び石崎に尋ねる。


「じゃ…じゃぁ……まさか……石崎せん…せいが……」


「そんなこの世の終わりみたいな顔しながら言わないでください。違いますよ、コレです」


 石崎は、なぜか悲し気な表情で驚く葉山に、先ほどの婚活パーティーのチラシを見せる。

 そんなに自分は結婚とは無縁だと思われているのだろうか? 葉山の反応からそんなことを考え、若干落ち込む石崎。

 葉山は石崎から受け取ったチラシを見て、若干頬を膨らます。


「先生、出会いを求めに行くんですか」


「いえ、婚活です。もう私も33になりますし、実家がうるさいので……あ、よければアドバイスを頂けませんか? どうすれば、女性に好感を持たれるか、女性の意見の方が参考になるので」


 石崎は、今後のためにも、若くて綺麗な葉山に、どんな男性なら女性に好感を得やすいかを尋ねる。

 しかし、葉山はどこか機嫌を悪くし、冷たく石崎に言う。


「ホテル街にでも連れ込めばいいんじゃないですか?」


「直球過ぎません?!」


 葉山の言葉に、石崎は思わずツッコミを入れ、脇に居た大友はそんな2人を見て大笑いをする。


「あ、あの……葉山先生。何か怒ってますか?」


「知りません! 石崎先生なんて……」


 葉山の急な態度の変化に、石崎は自分が何かしてしまったのかと考える。

 しかし、心当たりが一切なく、石崎は大友に助け舟を求めた。


「お、大友先生…俺、何かやってしまいましたか?」


「大丈夫です、僕の言う通りに葉山先生に謝罪すれば、葉山先生は上機嫌になります」


「本当ですか! で、なんと言えば??」


「それはですね……」


 大友は、石崎にこっそりと耳打ちをする。

 大友の言葉を聞いた石崎は、本当にこんなことで、葉山の機嫌が戻るのか、半信半疑だった。

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