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文化祭と新たな火種 7

「ゆ、雄介!!」


「ん? どうした優子?」


「今すぐ市役所に行こう!」


「は?」


 雄介は、優子の言っている意味がさっぱりわからず、間の抜けた声で聴き返す。


「なんで市役所なんだ?」


「それはもちろん婚姻……」


「良し分かった、お前の言いたいことは良く分かった」


 雄介は途中まで聞いたところで、優子の声に重ねて言った。

 優子は目を輝かせながら「わかってくれたの!」と言い、雄介はそれに対して口を開いた。


「あぁ、よくわかった。誰か救急車を頼む、優子の頭がとうとうダメになった」


「どういう意味よ! 私はただ、市役所に婚姻届けを提出しようって、言おうとしただけなのに!」


「十分おかしいわ! 色々突っ込みどころはあるが、一番は……俺はお前とそういう関係じゃない!」


 ガーンという効果音が聞こえそうなくらい、優子は衝撃を受けそのまま固まった。

 周りのクラスメイト達は、そんな二人を気まずそうに見守る。


「た、確かにそうだけど……だけど……このままじゃ……」


「なんだよ……」


 地面に膝を付き、涙目で何かを言おうとしている優子に、雄介は呆れた表情で尋ねる。


「雄介が他の子に取られちゃいそうなんだもん!!」


「はぁ?」


 雄介は優子の発言に「本当にこいつはどうしたんだ?」などと思いながら、呆れた表情で、優子に話しかける。


「あのな、俺みたいなのがモテるはずないだろ? それに、俺は最近までお前以外の女子の友達は居なかったんだ、そんな俺がモテるわけ……」


「う……だって……」


 優子はそう言いながら、先ほどまで雄介の話をしていた女性陣の方を向く。

 すると、視線を向けられた女性陣は、優子の視線に反応するかのように、雄介に話しだす。


「あはは、ごめん優子。不安にさせた?」


「大丈夫だよ、さっきの優子の行動見て、私らじゃ勝てないってわかったから」


「でもなぁ……頑張って見るのもありかもね……」


 優子に向けて言葉をかける、クラスの女性陣。

 雄介は何のことかさっぱりわからず、ただボーっと話を聞いていた。

 しかし、優子はそうではない、もう既に優子が知る限りでも、雄介に好意を抱いている人間は、優子を含めて三人。

 これ以上、ライバルが増えるのは、優子としては絶対に避けたかった。


「ねぇ、今村君」


「ん? なんだ?」


 そんな中、雄介に声をかけてくるクラスの女子が一人いた。

 雄介はその子に尋ねられ、不思議そうな顔で、その子の言葉を待つ。

 優子は、まだクラスの女性陣達と何やら話し込んでいる。


「今村君って、なんか変わったよね? やっぱり、優子の影響なの?」


「え? そうか? 俺は今までどうりだと思うが……ってか、なんでそこで優子が出てくるんだ?」


「いや、なんか最近、接しやすいって言うか……前は何考えてるか、わからなかったけど、最近は分かって来たって言うか……う~んなんて言えば良いんだろ??」


「学際の準備で、クラスの話したことない奴とかと、会話することが増えたからな……そのせいだろ?」


「う~ん、それだけじゃないんだよね……なんて言うか……今まで根暗だったのに、いつの間にかクラスの人気者になってました! みたいな?」


「余計に分かんねーよ。何が言いたいんだよ……」


 頭を悩ませる女生徒に、雄介は少し困ったような表情で尋ねる。

 雄介は、自分が変わったなんて思ってはいなかった。

 確かに、学園祭の準備やらなんやらで、クラスメイトとの会話は増えていたが、それはあくまで業務的なもので、これと言って何か意識をしたつもりは無かった。


「要するに! 接しやすくなったって事! 前は今村君って、女子とは一切話さないし、学校行事にもあんまり積極的に参加しなかったじゃん?」


「あぁ、まぁな……」


 雄介は女性に触れられると拒絶反応を起こし、気分を悪くしたり、最悪気絶することがあるため、自然と女子を避け、さらには面倒事にならないように、最善の注意を払う意味で、あまり男子とも仲良くはしていなかった。

 そんな雄介が学校行事に積極的に参加するはずもなく、言われてみれば、確かに今回は理由はどうあれ、積極的に学校行事に参加し、クラスのみんなと会話することが多くなっていた。


「なんか、言っちゃ悪いけど、女子の間では色々良くない噂ばっかり流れてたんだよ?」


「まぁ、だろうな……」


 優子に告白された日から、女子生徒の目線が、どこか冷ややかだったのを雄介は知っていた。


「でも、最近は違うんだよね、なんていうか……女子と男子から受けが良いって言うか……今村君の人気が急上昇なんだよ!」


「じゃあ、そろそろ下降するな、文化祭の雰囲気で、みんな勘違いしてるんだろ?」


「そんな事ないよ! 女子からは、意外と優しいとか、何気ない気配りができる! とか、色々と高評価なんだよ! うれしいでしょ?」


「いや……別に」


 雄介にとって、女子生徒の好感度など知ったこっちゃなかった。

 女子に好かれると、色々と面倒なのを雄介は良く知っているからだ。


「男子からだって、マジで加山さんを返せ! とか、このラブコメ主人公! とか、死にさらせこの急上昇男子! とか、色んな意味で話題なんだよ!」


「それただの悪口だろ! 最後死ねって言ってるぞ!!」


 そんなツッコミをしながらも、雄介は内心考えていた。

 そんなに、自分は変わったのだろうか? 前の自分はどうだったのだろうか? などと考えているうちに、視線の方がなぜか自然と優子の方を向いた。


「やっぱり優子の影響?」


 言われて雄介は考える。

 そういえば、良くも悪くも、優子と出会ってから、人と話すことが増えた気がする。雄介はそう思いながら、笑みを浮かべて女生徒に答える。


「かもな……迷惑なこともあるけど……」


「雄介~」


 そんなやり取りをしていると、雄介の元に優子が満面の笑みでやって来た。


「おぉ、どうした? 良い医者でも見つかったか?」


「違うよ! みんなが私たちの事御似合いだって~、えへへ~、これはもの結婚するしか……」


「よーし、早く明日の準備終わらせようぜ、早くしないと終わんなくなっちまう」


「雄介!!」


 優子の言葉を華麗に流す雄介に、優子は頬を膨らませて怒る。

 雄介はそんな優子を見ながら、確かに優子のおかげで、今楽しいのかもしれないと思った。

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