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そこのクズ野郎、ちょっと人助けしませんか?  作者: 佐藤 りか
第1章 出会いと魔法
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うどんをすすり、冷静になる

 とりあえず食材は冷蔵庫に入れて、アイスは溶けたけども冷凍庫に入れた。


 まぁアイスくらいどうってこともない。問題は契約についてだ。


 契約のことを誰かに相談したいが、相談したらシルクが押しかけに来るんだろう。そしてそのあと消される⋯⋯それは避けたい。


 誰にも相談せず自分で考えて答えを出すだなんて、まるで周りの人は電卓を使って解いている問題を自力で解けと言われた気分だ。


「とりあえず飯でも作るか」


 腹が減っては戦はできぬと言うだろう? そういうことだ。きっと。


 手抜きとしてカップラーメンでもいいんだが、本当になにもしたくないときのために取っておきたい。


 ⋯⋯自分で言ってはなんだが、料理はできるほうだと思う。


 両親は帰りが遅く、よく祖母が夜ご飯を作ってくれていた。それを見て学び、手伝うことでスキルが身についた。

 祖母が死んでから夜ご飯の担当は俺になり、そのおかげで料理に関しては、一人暮らしでもやっていける。


「蒸し暑いな⋯⋯」


 今日はまだジメジメしていて、こんな時に熱いものを食べるとイライラする。


 冷たいものは⋯⋯素麺(そうめん)か。だが生憎俺は素麺や冷麦(ひやむぎ)があまり好きではない。そのため買っていないのだ。


 こうやってひとりでブツブツ考えていると、どんどん時間が過ぎて結局やる気がなくなり、カップラーメンに至ってしまう⋯⋯いや、今日はちゃんと作ろう。


 考えに考え抜いた結果、さっぱり冷やし卵うどんという結果に至る。


 素麺や冷麦が嫌いな俺だが、うどんは大好きなのだ。


 母に「なんでうどんはよくて、素麺はダメなの?」と、聞かれたことがあるが、答えられなかった思い出がある。未だにわからない難題だ。


 とりあえずうどんをさっと茹でで、冷水で冷やしておく。


 うどんを器に入れて、卵を割入れる。あとはネギを刻んで、めんつゆを適量!


「簡単冷やし卵うどん完成ー!」


 一人暮らしだと独り言が多くなるとどこかで聞いたことがある。

「そんな訳ないだろ」と、一人暮らしをした当初は思っていたが、今考えると「あるあるだなぁ」と思ってしまう。


 そのくせ人と喋るとなるとうまく言葉が出てこない。これは俺だけのことかもしれないが!


 冷やしうどん食べながら、頭も冷やして冷静になれ、俺!


 ――――――――――――――――――


「今頃一人でブツブツ言いながら、夜ご飯でも食べてるのかしら」


 翔太の行動パターンを、勘で当ててしまうシルク。


 ここは翔太のマンションから少し離れたビルの屋上。


 シルクは今、決まった家を持っていないため、いろんな場所を転々としている。と言ってもだいたい屋上を選ぶのが、シルクのこだわりだ。


 シルク(いわ)く、「人を見下ろすのが好きなだけよ」だそう。


 翔太を見つけるきっかけとなったのは、デパートの本屋だった。


 そこで強い『魔法適性』を感じ、すぐさま誰なのか探したところ、ラノベコーナーに居た翔太を見つけることになる。


 すぐに話しかけて契約を結んで欲しかったが人が多い。ここで喋りかけると後々面倒になると思ったため、一人になったタイミングで話すことにした。


 翔太はお目当ての本を買ったあと、アパートへ帰った。そしてシルクが喋りかけるチャンスの一人になった。


 でもシルクは喋りかけられなかった。


 話す理由は契約をしてほしいから。話しかけられない理由は、この人を契約者に選んでいいのかまだわからないから。



 ――シルクの契約は、死ぬまで切れない。



 つまり、契約した人と五十年以上は一緒に生活するのだ。きちんと見定めなければいけない。


 別に結婚する訳ではないし、する気もないが、相手の人生を狂わせるのは確実だ。相手も同意してくれなければ契約もできない。


 契約者と適度な距離感を保ち、魔法を使ってミッションをクリアしていけばいい。だがその期間がざっと五十年以上。不老不死のシルクだが、実質まだ三十年弱しか生きていない。


 今まで生きてきた時間より長い時間というと、想像がつかないのだ。


 そしてシルクは今まで一人しか契約を結んだことがない。


 その一人は契約をしたとき、まだ中学一年生の少女だった。

 少女とは二十四歳まで契約を結んでいたが、とある理由で契約が破棄された。


 それから二年経った今。やっとの思いで見つけた新しい契約者。

 男性とは契約を結んだこともないし、どう接していいのかいまいちわからないのが現状。


 それに契約者を見つけて契約するのは、絶対ではないのだ。


 シルクはこの世界に来てから、十年以上普通の生活を満喫していた。バイトもしたことがあるし、日本以外の国にも行った。


 それにまだ一回も契約をしていないクイーンズもいる。


 クイーンズについて補足が入るとするならば、シルクのような契約を申し込む人達のことで、名前に「・クイーンズ」がついている人のことだ。


 そして絶対ではない契約を、なぜシルクが申し込んだのか。


 一番の理由は、翔太なら契約してもいいと心を許したから。


 翔太を見つけ、すぐに過去の記憶を覗いたシルクは、翔太がいじめにあっていたこと、教師をやめてニートになったことを知った。


 過去を見て、同情した。⋯⋯情が移ってしまった。


 現在は塾講師としてアルバイトをしていて、契約前の状況としては申し分ない。なにより魔法適正が高く、瞳と髪の色が同じなのは奇跡的だった。


 喋りかけるのは一人の時じゃないといけないため、留守の時に忍び込み、帰ってきたら契約の話を持ち込もうと計画する。


「心を操作して強制的に契約させる方法もあったけれど、それじゃつまらないものね。それにそんなことをしたら母様に怒られてしまいそうだし」


 シルクは独り言を呟き、ビルから落ちていく。夜ご飯を食べに行くためだ。


 クイーンズはデフォルトで人から見えないため、ビルから落ちても誰にも見られない。誰にも心配されない。


 そしてビルから落ちているが、魔法を使っているため地面に叩きつけられることもない。


 無事着地。建物の隙間に入り、周りから見える魔法をかける。そして何事も無かったかのように歩いていく。


 こうしてシルクは人混みの中、普通の人に紛れていく。


 その後お店に入り、翔太と同じうどんをすするのであった。

おまけ


「うどん屋さんはいいわね。値段も高くないし、追加トッピングで天ぷらとか付けれるし。まぁシルクはえび天一筋だけれど。それに冷たいものも温かいものもあって、季節によって食べ分けることができる。日本食はどれも美味しいものばかりだし。⋯⋯なぜ個人的な意見をつらつら言ってしまうのかしら」


 翔太と同じく、独り言が次から次へと出てくるシルクであった。

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