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そこのクズ野郎、ちょっと人助けしませんか?  作者: 佐藤 りか
第1章 出会いと魔法
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スパルタ教育中のつかの間の癒し

 美味しかった唐揚げと塩漬けのきゅうりを食べ、おなかいっぱいの二人。

 小豆は二本目のチュールを貰うにはどうしたらいいのか考え、窓ガラスを鏡のように使ってポージングの練習をしていた。


「うむぅ、これでもない」


 聞こえているし見えているが、二人は聞かないふりと見ないふりをした。

 今度ねだられるときに、新鮮な可愛さを味わいたいからだ。


 洗い終わったあと、一息ついてから。


「さて、遮断魔法やってみなさい。ずっと練習してたなら、イメージ完璧のはずよ」


 ということで遮断魔法を習得することになった。

 明日に持ち込むなど、余程のことがない限り許されないのがスパルタ教育。


 とはいえできなかったのはシルクが近くにいなかったから。


「いっぱつで成功できるはずだ、イメトレなめんなよ?」


「なめてないかしら。そんなに自信満々ならさっさとやるのよ」


「へいへい。んじゃ俺がキッチンに立って、リビングとの壁を作るイメージでやるぞ」


「分かったわ」「頑張るのだ!」


 窓とにらめっこしていた小豆が飛んで応援しに来た。

 魔法に対する興味は健在で、今でも使いたいと思っているらしい。


 翔太はリビングとキッチンの壁を作るためにキッチン側に立つ。


 遮断魔法は透明な壁を作る魔法で、音や空間が遮断される。

 遮断魔法を応用すればなにも聞こえない透明な部屋が作れたり、そこに相手を閉じ込めたり。勿論外部からの衝撃を守る壁にもなる。


 とはいえまだ一度も成功していないので、大人しく一枚壁を作る。

 散々成功するはずがない練習をしていた翔太。イメージは完璧である。


(俺とシルクとの間に壁を作るイメージ。横幅は壁から壁までで、縦幅は床から天井まで。厚みは三ミリ程度)


 壁のイメージが済めば、 あとは体内の魔力を集めるだけ。


 この作業にも慣れたもので、魔力の量が多すぎたり少なすぎたりすることはもうない。適度な魔力が瞬時に溜まる。


 そして溜めた魔力を、架空の壁に行き渡らせるイメージで――、


「遮断魔法――開始」


 魔力が減った感覚がある。

 日中練習していた時に感じることができなかった手応えを感じた。


「シルク、小豆?」


 壁は透明のためどこにあるか分からない。視界に目立った変化はなく、目の前にシルクと小豆がいるのがわかるだけ。


「――」「――」


 なにやらシルクと小豆の口がぱくぱく動いている。

 生憎翔太は読唇術(どくしんじゅつ)を習得しているわけではないので、なにを喋っているのかわらない。


 この光景が示すのは、魔法が成功したという事実だ。


「おっしゃ! やっぱイメトレは偉大だな!」


「――」「――」


「え? なに喋ってるかわかんないんだけど」


「――!」「――」


 身振り手振りで教えようとしているが、全く声が聞こえてこない。

 小豆はただ猫がじゃれているようにしか見えないし、鈴の音も聞こえない。


 ただシルクが「なに言ってるかわかんないかしら!」と、怒っていそうなことは伺えた。


 腕を真っ直ぐ伸ばし、魔法で作った透明な壁を触る。

 無機質でガラスのような冷たさはなく、もたれかかっても壊れないし、叩いてもつついても壊れない。叩く手が痛いだけだ。


 例えるとするならば、透明度の高いプラスチックが壁になっている感覚。


 魔法が成功したことで魔法書が光る。また新しい魔法が追加されたようだ。


「遮断魔法――解除」


 壁を触りながら解除してみると、壁がなくなったことがすぐにわかる。

 いつもの空間に元通りだ。


「見事いっぱつで成功だったわね。ちなみにこの部屋にも遮断魔法がかかっているのだけれど。気付いたかしら?」


「え!? 初耳なんだけど」


 光る魔法書を手に取って、シルクはいう。


「このアパート。それなりに新しいけれど、防音が完璧ってわけじゃないじゃない? 隣の人にバレないように、遮断魔法をかけてあるのよ」


「確かにそうだ、ありがてぇ。ちなみにいつかけたんだ?」


「初めて翔太の前に現れた日よ」


「罵倒された日か!」


 そんなに用意周到だったとは思わなかった翔太。

 確かになにも対策していなければ、隣の人に聞こえてもおかしくない。


「出会った日って言ってほしいわね」とシルクは言いながら、翔太に魔法書を渡す。


 魔法書を受け取った翔太は魔法書に目を落とすと、次第に光が薄くなり、脳内に声が聞こえる――、


『上級魔法、一種追加されました』


 スパルタ教育で聞きなれたこの声。この声の持ち主はワインである。

 毎日聞いているせいか、毎日ワインに会っている気分だ。


 光がなくなったページを読むと、新しい魔法が書いてある。


「追加されたのは『動物魔法』か」


「どんな魔法なのだ?」


「なりたい動物になれる魔法よ。小豆のような猫になることもできるの」


「シルクが猫に!?」


 ニャンと猫の手ポーズをするシルク。可愛い。


 いつもこんなことをしないシルクがすることによってうまれるギャップ萌え。

 そのギャップ萌えに感化されたのか、小豆も今度はギャップ萌えを狙おうと企んでいる。


 翔太の脳内には猫化したシルクが浮かんで、ニヤけて思わずいいなと思う。


 そんな翔太に、シルクはジト目で引いていた。


 人によって獣化するのがNGだとか、猫耳がつくのはいいけど体まで毛むくじゃらはダメとか。色々オタク事情があるが、翔太は地雷がない。なんでもアリだと思ってしまうのでなんでも楽しめる。


 ジト目で引かれているのに気付いた翔太は、咳払いをしてニヤけた顔を元に戻す。


「ま、動物魔法は明日だな」


「そうね」


「⋯⋯なんか声が冷たくない?」


「そんなことないわ」


「いや、今もほら。顔背けるし。え、あっ、ごめんって」


 口調はいつもの口調だが、どことなく棒読みのシルク。

 怒ってるわけではないし、引きすぎて近寄られたくないとかいうわけではない。


 ただからかっているだけだ。

 最初は翔太にからかわれていたが、最近はシルクがからかうようになっている。


「引いてるよね、ごめんって!」


「⋯⋯ふふっ。やっぱ面白いわね」


「あっくっそ、まじか。やられた! あーもう、小豆ぇ!」


「よし、よし。ぬ、届かない」


 翔太はシルクにからかわれていただけだと気付く。


 短い前脚で必死に頭を撫でてあげようとする小豆が可愛くて、アパートの一室に笑いが訪れた。


おまけ


「なりたい動物になれるってことは小豆が人間になることもできるのか?」


「そうね、なれるわよ」


「我が人間に⋯⋯!」


「てことは小豆を人間にすれば唐揚げも食べられたんじゃ⋯⋯」


「⋯⋯そうね、味覚も変わるから食べられるわ」


「「――!!」」


 今度唐揚げを作るときは小豆を人間にして一緒に食べようと誓う翔太だった。

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