第六十一話 祭りだ祭り! 【迷子の狼編】
「寒い………寒いよ」
窓からはいる風が埃で汚れた部屋を突き抜ける。風が吹く度に埃が舞い上がり、部屋中に広がり空気を汚す。
少女は潜っていた小汚い、薄い布一枚のベッドから出て窓を閉めようと試みた。
だが、窓は閉まっていた。なんのことはない、窓のあちこちにある砕けたガラスや枠にしっかりとはまりきっていない隙間から風が入り込んでいる。これでは風を止めようとしても無駄だ。
少女は仕方なくあきらめるとまた薄い布を体にくるんで固い木の板の上で丸くなった。それは、端から見たらすさんだ布袋に見えているのかもしれない。だが、少女にとってその薄い布は今まで使ってきたたった一つの布だった。
「お腹……へった」
もう何日間、口に含んでいないのだろうか。確か、二日前に孤児院でもらったカチカチに固まったパン一個かもしれない。そういえば水もまともに飲んでいない。
(我慢しなくちゃ……)
だが、少女の思いとは裏腹に体は飯をよこせと催促するように鳴る。布にくるまったままお腹を両手で押さえるがその行動がお腹の足しになるわけでもなく、ただ、お腹が鳴るのを少しだけ小さくするのみであった。
「……な、何か探しに行こう」
このままではいけない。そう思いながら少女は身にまとっていた布からはいでると、ベッドの下にあった靴とも呼べないこれまた汚い布で作った手袋ならぬ脚袋を履き、薄い布をまとったまま軋む木の扉を押し開け狭くて暗い階段を下りてさびれた街道を歩きだした。
パンを欲するのであれば、体を捧げなさい
水が飲みたいのであれば 血を捧げなさい
生きたいのであれば
あなたの運命を捧げなさい
『第五十七章 道端で会った老婆の嘆き』
ニコウレ通りより約五百メートル北西に貧困街という区域がある。そこには身よりもない子供たちや他の居住区に住むことを拒否されてしまった者達、年老いた老人老婆、行く宛のない流浪民などが細々と生活している。
特にこの貧困街は他の区域よりひどく、国の中でたったここだけが国からの援助を受けていない場所でもある。
普段から人通りは少なく、いるものと言えばやせ細って体の骨が浮き出ている小汚い犬、働くこともできずただ誰かからの恵みを受けるのを待つ人間だけ。
年代を感じる街道は、タイルがはがれ地面が見え隠れしている。だが、これを直そうとする者はいない。ここではそれが当たり前なのだ。
だが、そんな場所で場違いな男が一人、街道を歩いていた。その男はこの世界では珍しい漆黒の髪で男にしては紙が肩に掛かるほど長い。あたりを詮索するように四方八方動いている眼は獣を思わせる鋭い目つきをしている。また、男の着ている服装もこの国独特の服ではない。体に合わせたようにぴったりとフィットする灰色の服、腕には幾重にも包帯が巻かれ腰には膝までかかるほどの腰布が巻かれている。また、身長の半分ほどある剣を腰にぶら下げている。
男は一時の間、複雑になっている街道を歩き、先ほどと同じ場所にでると何もいない空間に向かって怒鳴り始めた。
「どいういうことだよ!お前の言うとおりに歩いたら同じ道に出たぞ!」
「知らんわ!他人の力など借りるからこうなるのだ!」
「それ以前の問題だろうが!何で同じ道に出るんだよ。お前の目……じゃなくて、鼻は節穴……じゃなくて、役に立たねえな!」
「うるさい!我の鼻を侮辱するな。我の鼻は精霊界でちょうどいい感じに湿っている鼻コンテストで準優勝を飾るほどの鼻なのだぞ!」
「意味わかんないから!」
「ええい、そんなに言うのであれば今度はお前が先に歩いたらどうだ」
「俺か?いいですとも!」
〜十分後〜
レイオスは顔をひきつらせた。それは、嫌な臭いをかいだとかそういうわけで顔をひきつらせたわけではない。
「ここはどこだ」
先ほどのニコウレ通りとはうってかわってみすぼらしい露店が建ち並んでいる街道を見て、レイオスはそう呟いた。
今回は、極端に文字数が少なくて申し訳ございませんでした。
ちなみに、レイオスは迷子スキルB(レムエムと一緒のときだけAにランクアップ)を持っていますww(なんだそれ