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第六十話 貴族と平民、直せない傷痕

更新遅れて申し訳ございません!


後半からちょいとシリアスになっています。

 人という生き物は、必ずどこかで道を間違えてしまうことのある愚かな生き物である。だがしかし、その道を間違えたことを頭の中で理解し元の道に戻ろうとする人間もいる。そう言う人間は必ず自分のした事を悔い、次に生かすことが出来る。だが、元の道に戻ろうとせずそのまま間違った道を行く人間もいる。何故、そんなことを今更になって言いたいのかというと、つまり…










 「ここはどこだ」


 


 迷子になる人間レイオスはいるのである。









 








 事の発端は、レイオスがアシル達に連れられて城下町の入り口に着いたときのことだった。


 「す、すごいな………これがこの国一番の城下町か!」


 祭事などがあるわけでもないのに道全体を埋め尽くすほどの多種多様な人種の数々。街道野分には所狭しと露店が建ち並んでいる。そして空には風の魔法を利用した、軽量の荷物を自動で運ぶ風の便ウイング・エラードが休むことなく荷物を運んでいる、というより飛ばしている。一方、大通りに面している方では彩色鮮やかなレンガや高級感を醸し出している傷一つない木で作られた店やホテルなどが建ち並んでいる。街道は土系統の魔術などで作られたのだろう隙間一つ無い、なめらかな作りだ。また、大通りの両脇に流れる運河も町の美しさを際だてている。運河の観光目的用に作られた、水の魔法を推進力として動く船などで観光客を集めているのもこの運河のおかげなのだろう。


 思いつく限り全ての要素を用いて商売を行っているのが視界に入りきらないほどあった。


 「ここは数ある商店街の中でも一、二位を争う所だからね。その分、少々値が張っているところが多いけど品数は他とは比べものにならないほど多いよ」


 商店街の大きさに圧倒されているレイオスを横目にアシルは説明をする。

 この辺り一帯はニコウレようきな通りと呼ばれているらしく、その名の通り比較的穏和な地帯らしい。食材も暖かい地域でしか育たないものを売っている。レンガの色も陽気な色を洗わすオレンジ色でほぼ統一されているところからその名がきたのかもしれない。また、この通りの他にもヴァシリア王国にはニコウレ通りを含め、九つの通りがある。

 中央にあるレイディアント学園と王族が住む城を基点として北にノエイン通り、北東にアイント通り、東にラウリア通り、南東にディアイラ通り、南にアペ通り、南西にルイーラ通り、西にマイ通り、北西にマスカッパ通り、そして城とレイディアント学園を囲むようにディステリア通りがそれぞれ存在している。どの通りにもちゃんとした意味が存在するのだがそれを説明するにはかなりの時間を要するらしい。詰まるところ、めんどくさいというわけだ。


 


 「あ、あと、この辺り一帯は結構有名なデートスポットでもあるんですよ!」


 アシルがレイオスに説明していると何故か、レイラが顔を赤くし目を輝かせながらレイオスにそんなことを言ってきた。

 もちろん、その魂胆はレイオスといつかこの通りでデートをしようという魂胆である。本当にいつになるかはわからないが。


 「ふ〜ん……………まあ、まずは見てみようぜ。何か掘り出し物があるかもしれないしな」


 そういうと、レイオスは意気揚々と人混みの中に入っていった。もちろん、アシルとレイラもレイオスを見失わないようにしっかりと後ろについている。

 二人がいることを確認しつつ、レイオスは周りの店を物色し始めた。

  

 まず始めに装飾用の布の調達。レイオスが頭の中で想像している物ではなるべく明るい色で厚さが薄い布がいい。となると、ピンクやオレンジ、黄色などの色がいいのだが………


 「おい、おっちゃん。この店、ピンクやオレンジ色の布はないのか?」


 「ああ?」


 多種多様な布が長方形の箱にぴっちりと敷き詰められた箱をみながらレイオスはこの店の店長に聞いた。店内には高級そうな布が掛け軸のようにかけられ、天井に取り付けられている明かりも火属性の魔法が込められた良質な魔灯が使われている。一見しなくてもわかる、この店はそうとう良質な布を取り扱っている店だ。

 ちなみに、魔灯とはただの空洞のあるガラス玉に魔法を注入して明かりを出す少々値が張るアイテムである。風属性の魔法を入れたら緑色の明かりになるなど、魔法の属性によって明かりの色が変わるアンティーク物だ。奥行きも広く、店内には二階もありそこにも多種多様な布がおかれていた。また、数名の従業員だろうか。綺麗な女性達が店の中で働いていた。


 「す、すいません!あ、あの、こちらでピンク色とオレンジ色の布は取り扱っていませんか?」


 レイオスの言い方が悪かったのだろう。外見は五十はいっていそうでもまだ若さを残すその黒い髭をいじる店長は、客にも関わらず不敵な態度をとっていた。それはレイオス達の身なりがこの場所にふさわしくないのもあるのだろう、またレイオスの発言がこの店長の気に障ったのも確かだ。


 「ねえよ。うちはあんたちみたいなどこぞとしれぬ馬の骨に商品を売るほどばかじゃないんだよ」


 「えっ!?」


 店長が発した想定外の発言にレイラが驚く。無理もないだろう、お客である自分がまさか「どこぞとしれぬ馬の骨」と言われるとは思っていなかったからだ。


 「金はあるんだがな」


 そういって、懐から催し物用の金が入った金袋を取り出す。だが、


 「ふん!俺の店は貴族のために作られた由緒正しい店なんだ。貴族でない物には売れないね」


 「っ、……この野郎」


 と、その時だった。今まで黙っていたアシルが握り拳を作っていたレイオスを押さえ手前に進みでた。


 「ふうん、なら、貴族であれば売ってくれるんだね?」


 そういって、腰のホルダーから銃を引き抜く。そして銃の側面を店長に見せつけた。


 「ふん、いきなりなんだ。これがどうし…た……」


 銃の側面に彫られていたのはどこまでも繁栄の道を駆けるという意味合いを込めて生まれたとある貴族の紋章。炎を操り、心の奥に熱き情熱を持つ貴族の証。


 「僕の名前はアシル・ホーネンス。第37代目当主の息子、由緒正しい十柱貴族だ」


 





 「ふぇっ!?」


 「なっ!?」





 その言葉に、レイオス以外の二人が驚愕した。






 この国、いやどの大陸にいっても貴族という位を持つ者が必ずと言っていいほど存在する。その中でヴァリシア王国には、国民のうち約三分の一ほどの人達が貴族という位を持っている。後の三分のには平民、そして流浪民だ。ヴァシリア王国の位の格差は激しく、平民はまだしも流浪民などは貴族からみたら足下を歩く蟻程度でしかならない。そのため、平民の中でも貴族と流浪民との態度を変える輩もいる。この店長がいい例だ。

 だが、貴族の中でも格差はある。その格差はピンからキリまで、数えようと思うのならば時間がいくらかかっても足りないくらいだ。

 しかし、例外はある。どの世でも貴族の中で頂点に位置する者はわかるのだ。

 それが十柱貴族。正式名称をトンパールという。遙か昔の古代言語で作られた言葉らしいのだが詳しいことはまだよくわかっていないそうだ。

 唯一、わかっているのはトンという単語が十を表すと言うことらしい。

 その名の通り、頂点に立つ貴族は十つほどいてその中の一つが火を司るホーネンス家だ。ただ唯一の例外として光を司る貴族だけは王族の中にいる。また、闇を司る貴族は名前上のものだけのようで、実際には誰も継げる貴族がいないため今は空白となっている。

 


 紋章が刻まれた銃を腰のホルダーにしまうと、アシルは驚きのあまり固まってしまったレイラと店長を無視し店内を物色した。十柱貴族の意味を知らないレイオスもレイラと店長を不思議に思いながら見た後、アシルと一緒に店内を物色し始めた。

 アシルは店頭に飾ってある布を。


 レイオスは店内の奥にある布を手分けして探す。だが、










 「う〜ん、いい布が無いね」



 「まったくだ。見た目だけかよ、この店」



 二十分ほど経っただろうか。一通りめぼしい物を探してみたものの、レイオスが考えている理想通りの布は見つからなかった。ほとんどの布がきらびやかな装飾が埋め込まれ、見た目重視の実用性がない布だ。これでは役に立たない。


 「アシル、他の所にいこう。もっとしっかりとした布を見つけないと使えないぞ」


 棚から取り出した布を思い切りぶん投げて棚に戻し(店長が悲鳴を上げたが)、寝間着用のシャツがほしかったのでそれ用の布を二、三枚ほど失敬しながら(またもや店長が悲鳴を上げたが)そう言った。

 すると、アシルも同じことを思っていたのか手に持っていたレイオスの考えにあてまはまる布をそこらへんの地面に放り投げ(店長が泣きながらそれを拾い集めていたが)、未だに呆然としているレイラの腕を掴むと無理矢理外へ出ていった。

 そして、相手が貴族のため何も言うことができない店長にレイオスが最後の一言。。


 「………………ざまぁだな。ふっ…」















 




 「ちっくしょおおおおお!!」


 嵐が過ぎ去った後のように静かになった店内でひときわ大きい悲痛な叫び声が聞こえたとか。

























 真上から降り注ぐ暖かい太陽の光がテラスに当たる。色とりどりの花で色飾られたテラスは周りから見たら一つの大きな花が咲いているように見える。水魔法によって、人体にとってちょうどいい温度に暖められたテラス内は仕事が始まる前のひとときの休みを最大限に味わおうと、大勢の人で賑わっていた。

 世界の癒し所ーライレーンの園。ヴァシリア王国内でも一、二位を争う貴族専用のカフェ。世界のどこかに存在するという美しき歌声を持つ鳥女ライレーンが住む、見渡す限り花で覆い尽くされた土地をイメージしたこのカフェはその名にふさわしく魔法で四季の花を枯らさないようにして飾っている。また、中で出される食事も花を用いた料理で美容に大変効果があるらしく他の国からわざわざ来るほど人気の店だ。

 その中に、礼装もしていない場違いな人間が三人ほどテラス内でも上位に位置する貴族にしか入れることができない場所で、これまた場違いな質素な箱を床においたまま休んでいた。







 「それにしても驚きました……アシルさんって、あの有名な十柱貴族だったんですね」


 「まあ、名ばかりだけどね。僕には兄弟がいるんだけど一番下の方だからね。家を継ぐのは長男だから、僕はそこまで偉くはないよ」


 「ふ〜ん、十柱貴族ってそんな意味があるのか。アシル、今度何かおごってくれ」


 「え〜、だが断る!」


 「………コントみたいですね」


 サリーヌという風味をよくする花の花片が入ったこれまた高級な茶葉で抽出されたエキスがたっぷりと含まれた紅茶を飲みながらレイラはあきれながらもつぶやいた。

 レイオス達の目の前には真っ白な木で作られた支柱が一本のテーブルがおいてある。また、その平面な甲板には咲き乱れる花の大地で優雅に舞うライレーンの姿が彫られている。テーブルを支える脚の基部にも装飾が施され、職人の技が隅々まで施されていた。

 その上には花に含まれる蜜のみで作られた色鮮やかなクッキー、季節の果物をふんだんといれたケーキなどが置かれている。

 

 「しっかし………すごいな。十柱貴族ってのは。こんな豪勢なのに、これ全部タダかよ」


 そう、この菓子類、そしてこの席も全てこの店がタダで提供してくれたものだ。それもこれも全部アシルが手配してくれたものによるもの。

 アシルがこの店を訪れて先ほどの店長と同じように紋章が彫られた銃を店員に見せた途端、突然タキシードを着た人達が現れアシルとその連れ、レイオスとレイラはこの席へと案内されたのだ。

 そうして今現在、この状況になっているのだった。


 「まあ、それが貴族なんだろうけどね。自分は嫌いだよ、貴族っていう肩書きが」


 「え、何でですか?ふつうの人達なら誰もがうらやむ肩書きですよ?」


 レイラが不思議そうに訪ねる。すると、アシルは紅茶を飲んだ後、一息おいて話始めた。


 「レイオス、レイラ。この世界の貴族って、どういうものかわかる?」


 「知らぬ、媚びぬ、興味な……!」


 「レイオス、ここの代金払っといてね」


 「……確か、王族と何らかの関係を持ち、なおかつ格式と伝統を持つ者を貴族とする。だったと思いますけど……」


 授業の時に学んだ事を思い出す。その他にも、例外として商人の中からでも貴族となる者達はいる。そう言う者達は王族や貴族に物資や資金を提供し、また他国にも名が轟くぐらいの名声を持っていないと貴族にはなれないが。


 「まあ、それでだいたいあってるよ。だけど、貴族にはある決まり事があるんだ。それは……」


 「そ、それは………?」


 「アシル、すまん!さっきのは冗談だから、お金を払ってくれ!」


 「…………空気呼んでよね。……まあ、決まり事って言うのは……」






 我らが貴族は たとえ何が起ころうとも



   平民たちを従え 平民を屈服させ


  


  何者にも哀れみを与えぬ強者であれ









 「これが、自分が子供の頃から言われてきた言葉さ。……ひどいもんだろう?」


 冗談めいたようにアシルが笑う。だが、レイラは笑えなかった。それは、貴族をひどい者達だと思ったのではない。その思想が今まで習ってきた知識と矛盾しているからレイラは笑えなかった。

 そんなレイラの様子を察したのか、レイオスも意味は分からないものの口を挟むことができず、黙々とお菓子を食べるほか無かった。


 「そ、それは………………本当なんですか?」


 その答えに対してアシルはただ黙るばかり。だが、それだけでアシルが言った言葉が嘘偽りでないことがわかる。


 「そ、そんな……!わ、私が授業で習った貴族というのは民を守るためにあり、民あってこその貴族と習いました!それが、なぜ!?」


 「それが、貴族の本当の姿さ。見ればわかるだろう?さっきの店といい、今の貴族の生活といい、全てが今の言葉の意味を表しているよ」


 「………そ、それは確かにそうですが!」


 「人身売買、奴隷、税の徴収、娯楽、全てが平民達を礎として成り立っている。それでも、否定するというのかい?これが本当の貴族さ」


 それでも、レイラはあきらめない。あきらめると言うことは自分の家族を否定すること。レイラの家族は代々、貴族に新鮮で安全な水を提供している。家族はその仕事に誇りを持っているが、今の話が本当だとすれば家族がやっている仕事は貴族から見たらさも当然のように見えるのかもしれない。


 「で、でも!」


 「レイラ…」


 レイオスがそっと肩に手をおいた。レイオスにもレイラの心はわからない。それは、とても重大なことなのかもしれない。だが、だからといってアシルを責めていいわけにはならない。アシルはアシルだ。貴族だったとしても、今までを見ていればアシルがそんなことをする人間ではないのはわかるはず。


 「……でも、でも!」


 「…………俺にはよくわからない。なぜ、おまえがそこまで躍起になるのかは。だけど、アシルを責めたからって何か変わるわけでもないだろう?それぐらい、レイラだったわかってるはずだ」


 「っ…!」


 唇をかみしめる。それぐらい、レイラには今の言葉を否定したいわけがある。だだ、レイオスの言葉もよくわかる。


 「………アシル」


 「…なんだい?」


 レイオスが箱の上に置いてあった剣を取る。そして、菓子をどこから取り出したのか、布の袋にありったけ放り込んだ。


 「ちょいと散歩してくる。………後は頼んだ」


 「…………了解。早めに帰ってきなよ」


 「善処する……」


 「………………いって、らっしゃいです」


 「ああ」


 今の自分にできることは何もない。そう思ってレイオスはこの場から立ち去ることにした。

 今まで世界の理など知らぬレイオスにとって、レイラに何かを言う権利は何もない。それに、今回の件はレイラとアシルの二人で解決しなければ何も終わりはしないのだ。貴族と平民、アシルとレイラ、大した変わりはなさそうに見えれども実際にはしっかりとした深い傷が二人を分け隔てている。その傷に立ち入れられるほど、今のレイオスには知識もなければ立ち入ろうとする勇気もない。


 (………ま、たぶんなんとかなるだろ。なあ、レムエム?)


 店を出た瞬間、誰もいないはずの空間に向かって念話する。すると、


 (…ふん。我には興味がないな)


 レムエムが不可視状態になって現れた。この状態であれば、人前に堂々と出ようとも高度な魔術師にならなければ見ることはできない。


 (そういうなって)


 (ふん。だから下らぬのだ。貴族や平民などよくわかりもしない位などをつけおって、後々どうなるかわからんわけでもあるまいに)


 (…………精霊界にも位ってなかったっけ?)


 (ある。が、位など全く持って意味がないからな。あれは人間たちのためにつけているようなものだ。実際は精霊王であろうとも生まれたての精霊にバカにされるときもある。私もあったぞ、犬顔のお前に食べるもんねぇから!なんて言われたな)


 (威厳ないな、お前………)


 (誉め言葉として受け取っておこう。それより、これからどうするのだ?暇を潰すといってもここでただ黙ってるわけではあるまい)


 (う〜ん、それはまあ、そこらへんぶらぶらしてればいいんじゃないか?ってことで、いくぞ)


 (やれやれ、狼使いが荒いことで……)


 そう言うと、レイオスとレムエムは店を離れ歩き始めた。その場から逃げるように………………

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