第五十八話 お金のご利用は計画的に
「ここが、あなたの部屋ですか………………ふむ。悪くないですね」
「そりゃどうも。………………って、ソファーに飛び込むな!ソファーに」
もふもふです!と言って、ソファーに飛び込むエルハイマ。やめろおおお!と言って、エルハイマを引き剥がすレイオス。そして引き剥がしたエルハイマに風呂にはいるように言って使われていない部屋にあった女性用の服などを一式取り出しているうちに、エルハイマが勝手に食材を倉庫から取り出し台所を使って食事を作る。なんとも息のあった行動、この光景を見てレムエムは一言こう言った。
「こやつら、まるで夫婦だな」
瞬間、開いた窓からシルフィード・ランスが飛んできてレムエムは吹っ飛ばされた。
ようやく落ち着いたのか、エルハイマはソファーではなくレムエム専用のベッドに座り、レムエムを抱きしめていた。レムエムが苦しさのあまり、何か叫んでいるが気のせいだろう、うん。気のせいだ。そして頭部にたんこぶができているが気のせいだろう。うん、気のせいじゃないな、あれは。
「でだ。文句を言いたいことはたくさんあるが、しょうがないから一週間の間だけここにすむことを許す。ただし、条件がある」
「条件、ですか………?」
レイオスもソファーに座り、この部屋に元々あった紅茶セットを使って紅茶を作りながらエルハイマに喋りかける。テーブルの上には紅茶セットの他に、エルハイマが作った手作りの菓子が並べられている。クッキーにアポールパイにリュイカムーレに……………この野郎、大事な食材を使いやがって。まあ、味見しておいしかったからまあいいけど。
「俺たちの生活は自給自足。働かざるもの食うべからず、弱肉強食。この三つで成り立っている。つまり、たとえ女であろうともここに生活する以上は自分で食い扶持を稼いでいただきたい」
カップに紅茶を注ぎ、エルハイマに手渡す。礼を言って渡された紅茶を息を吹きかけさましながら足だけでレムエムを掴んでいる姿はなかなかシュールな絵だ。と、いうかなぜレムエムを掴んでいるのだろう。体を左、右とビチビチ動かせながら抜け出す様はもはや犬としか言いようがないほど動きが似ている。………こいつ、本当に狼なのだろうか?
「わかりました。それでは一週間の家賃等などはどうすればいいのでしょうか?」
「家賃?そんなものいらない。ただ、自分の食事代だけ稼げばいいよ」
するとエルハイマは突然、胸の谷間に腕をつっこむとなにやら布製の小さな袋を取り出した。ていうか、なんで胸の中に入れているんだ?………………ああ、なるほど。ポケットがないから仕方なくそこに入れておいたのか、それなら納得だ。
常識を持った男性ならば、今の光景はうらやましすぎるはずなのだがいかんせん、レイオスはそちらに対しての常識がない。だから、見ても気にせずに入られるのだ。
(む、おかしいですね。主はこの行動をすれば、レイオスといえど動揺を隠せないはずだとおっしゃっていたはずなのに……………さすが、光の王と言ったところでしょうか)
本当は、そんな大層なものでもないのだがエルハイマは勘違いしてレイオスの力に少々おそれを抱いた。というか、何に対しておそれを抱いたのかは謎だが。
「んで、それは何?」
「これは主よりいただいた物です。あなたに渡すように言われました」
「俺に?なんだろう………」
なんだか嫌な予感がしてたまらないが、せっかくの頂き物だ。もらわないのは失礼だろう。
エルハイマがこちらに投げて渡す。レイオスはそれを受け取ると、口を閉じていた紐をほどいて中身をみた。そして………
「いいいいいいいやあああっほおおううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!」
歓喜の声が部屋一帯に響きわたった。
「み、耳がああああああ!!精霊界のツンと尖った耳コンテストで一位になった我の耳がああああああぁぁぁぁ!!」
「………………………ふみゅぅ」
その声の大きさ、レムエムはあまりの大声に鼓膜がいかれ、叫び声とも悲鳴ともつかない奇声をあげている。エルハイマも、突然のことに対処しきれずレムエムのベッドに倒れるとそのまま動かなくなってしまった。
「キタ、俺の時代がキタ!これで勝つる!」
そう言って、エルハイマ達のことなどお構いなしに袋の中身をテーブルに出す。すると、中から数枚の金貨がテーブルの上に落ちた。レイオスはそれを慎重に一カ所に集めると、どこから持ち出したのかそろばんを取り出して計算を始めた。
「リュ、リュミオーネ金貨が十枚!?………や、やべえ。一週間どころか半年は持つぞ!」
またもやどこからか家計簿をとりだし、金額のチェックをし始めるレイオス。もちろん、その金額というのはにっくきくそ親父から強制的に渡された借金の事だ。前々から少しずつ、返してはいたのだがいかんせん借金の額が多すぎるためまだ大量に残っている。だが、この金があれば借金を十分の二ほど返済することができる。月に払う額を考えると約一年分ほどこれから自分の金を使わなくてすむのだ。
「ふ、ふふふふふ、ふふふふふふ、はははははは!!キタ、俺の時代が本当にキタ!」
まだエルハイマは渡すとは言っていないのに、もはや自分の物と信じて疑わないレイオス。だが、世の中うまくいかないものです。
「はははははは!…………ん、なんだこれ。…袋の中に手紙?」
まだ袋の中に残りの金貨が入っていないか確認していたとき、袋の底にはりついていた手紙がテーブルの上に落ちた。
不思議に思いつつも、その手紙を開いて読む。そして、
「んなああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!?」
手紙の内容
拝啓 一匹狼へ
やあ、元気にしているかい?恐らく、私の娘が世話になっていることだろうねえ。ということでよろしく頼むよ。ついでに娘に人間としての知識を教えてくれないかい?まだ世間知らずだからね、頼んだよ光の王。
ああ、そうそう。この手紙と一緒にある金貨のことなんだけどこのお金、レイオス名義で銀行から借りているからねえ。返済、よろしく頼んだよ。
「あ…………ア…………………ア……………あ?」
呆然とするレイオスをよそに、またもは袋の中から別の紙が現れた。その手紙には、レイオス名義でかかれた領収書がある。
「なんでだああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その日、レイオスの借金はまたもは増えることになったとか。
次から、ようやく学園にもどります。学際などたくさんあるんで書くのに困らないね。