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第五十六話 赤い悪魔

 「…………ここは」


 白い女性の像がある場所にレイオスはいた。そう、エディスト・ハウレグスと対峙したときに現れた謎の空間だ。


 「………………そういえば俺、ここで倒れて……ん?」


 ふと、上半身に違和感を覚えてレイオスは顔を下に傾けて自分の体をみた。


 「な、なんだこれ!?」


 自身の体にあるものをみてレイオスは驚愕した。紋章、黒い紋章が胸を覆っていた。左右対称の紋章、まがまがしいほどに鋭利な形をした紋章の中心、自分の胸の中央には赤い模様なようなものが彫られている。

 

 「うわっ、気色悪!なんだよこれ、とれねえ!」


 手でこすってみるが紋章はとれる様子はなかった。皮膚にしっかりと彫られているのかもしれない。


 少しの間、ごしごしと紋章がとれないかこすっていたがとれないことがわかると、あきらめて目の前にある女性像

を見上げた。あのときは、黒く変わっていたはずだが今は元通り白い女性像へと戻っている。恐る恐る、もう一度女性像をさわってみる。だが、今度は何の変化もなく触ることができた。予想していたものとは違い、ざらざらしているのではなくすべすべとした触り心地をしている。


 「……なんで、俺はここにいるんだ?」


 頭の中で疑問に思ったと同時に、声に出していた。心臓を刺され、頭の中に響いた声に答えた瞬間ここにいて、そして謎の女性と出会い、気を失ったと思ったら気がついてここにいる。


 それに、なぜ気を失った?そしてあの女性はどこにいる?なぜ自分が最後にみたときは黒かったはずの女性像が元の白い女性像に戻っている?なぜ自分はここにいる?




     なぜ?



 頭が痛い。考えすぎだ、そう言ってレイオスはその場に腰を下ろした。腰に付けている剣を取りすぐ右横に地面に置き、そして座る。そして、女性像をなにを思い立ったのかレイオスは女性像を見上げるとつぶやいた。


 「…………フェヴェリオス?」


 とてもにていた。うり二つ、とまではいかないが顔立ちといい着ているものといいふぇべりおすととても酷似している。といっても、自分がまだ退治したのは一度しかないのであっているかどうかはわからないが。


 「そんなわけないか。こんな場所にいたら驚きだ」


 そう、自分が口に出した言葉を自分で否定した瞬間だった。





 「……ィ………ォ……!」




 「ん?」


 声が聞こえた。何かの聞き間違えかと思ったが、すぐに聞こえたかすかな声で誰かが自分を呼んでいるのがわかった。


 「レ…………ォ……!」


 誰かが入るのかと思い、剣を拾って腰に差し立ち上がって周りを見渡すがあるのは祭壇と絵が彫られた支柱、そして女性像だけ。


 「レ……イオ…………!」


 「だ、だれだ!?」


 剣を抜く。無駄だとわかりながらも支柱の陰に隠れる。だが


 「…………イオス!」


 その時、レイオスは徐々に大きくなりつつある声が誰かに似ているのに気がついた。その声の主は、嵐のように乱暴で横暴で人とは思えない、いや悪魔のような奴。


 「レイ…………オス!」


 「ま、まさか…………!?」


 体に防御壁をかける。そして、頭の片隅に浮かびだした自分の考えを否定しながらその場から逃げようとした。と、その瞬間



 




 「起きろっていってんでしょうが!こんの、バカレイオス!!」


 

 



 「あ、赤い悪魔っ!?……はびゅっ!」



 腹部にとてつもない衝撃を感じて、レイオスは飛び起きた。






 「……………やっと起きたわね」


 「……へ?あれ、ら、ピス?」


 目の前にラピスがいた。いや、正確にはベットの端の方にいると言うべきか。


 「ってベット?」


 「はい?あんた、なに変なこと言ってんのよ。頭でも打ったの?あ、あんたは心臓か」


 ラピスの言葉を軽く(心臓という単語が出たときは驚いたが)聞き流しながら、レイオスは辺りを見回した。怪しげな薬品類がずらりと収納されている黒い棚、明らかに人間ではない骨格の標本、これレプリカですよね? と言いたくなるぐらいまがまがしい謎のメスみたいなものが飾られている壁。その壁も黒く染まっていてなぜか所々に点々と赤い、血の様な跡がある。そして、自分が今寝ていたのであろう真っ赤なベッド。血ではないよな、と思いつつベッドをかいでみると脳に魔可不思議!な、衝撃が走ってレイオスはまたベッドに仰向けになった。


 「あんた、なにしてんのよ」


 「きゅ〜〜…………………」


 「……………………シルフィード〜〜」


 「わーわーわー!!起きてるって!」


 「ならよろしい」


 ああ…………………なんだか懐かしいような、悲しいような恐ろしいような。なんであの地下からここにいるのかはわからないが、この様子からすると戦いは終わったらしい。ということは、また恐怖の学園生活が始まってしまうのか。


 これから始まるであろう恐怖の学園生活を思い浮かべながらレイオスはベッドを降りようと腰を起こし、地面に降り立とうとした。瞬間、


 「へぎゅっ!」


 とても、とてももふもふとした物体を踏みつけた。恐る恐る下を向くと、なにやら白くて丸い物体を踏みつけていた。


 「あっ…………」


 「………………………レイオス、貴様…!」


 レムエムが白くて丸いからだの中からぴょこんと顔を出した。どうやらとてもお怒りのご様子、とても鼻息が荒いです。


 「す、すまんすまん!悪気はないんだ!」


 「ええい、黙れ黙れ!我をおいてどこかにいったばかりか、我を踏みつけおって!お前が置いていったせいでつい先ほどまで校長にずっと追われていたのだぞ!」

 

 それを示すかのように、レムエムは起きあがると見ろ、といってしっぽをレイオスに見せつけた。


 「………ギザギザ?」


 普段ならとてもしなやかでふさふさなはずの尻尾が見るも無惨にギザギザに刻まれた、ではなくぼろぼろになっていた。レムエムが尻尾をなめて戻そうとするが、どうやら無駄らしい。


 「貴様の、貴様のせいで…………!」


 そう言って、レムエムは少しずつレイオスに近づいていった。だが、


 「あ、校長だ」


 「dkじゃldgかじぇ」dlがふぇぶっ!?」


 瞬間、レムエムが窓ガラスを割って外へ飛び出した。校長という単語を言っただけでこの威力。よほど、校長が苦手なんだろう。


 と、そのときだった。


 「あら〜〜、よくわかりましたね〜〜。私が扉を開ける前に気付くなんて〜〜」


 「げっ、校長」


 「あ、校長先生」


 校長が部屋の扉をあけて入ってきた。今日は、いつもの服でちゃんとした校長服だ。といっても、首にピンクのふわふわした謎の物体を巻き付けているが。


 「げっ、てなんですか〜〜。げっ、て!」


 「い、いや、なんでもないです」


 「ほんとですか〜〜?」


 校長が入ってきた瞬間にげっといって顔をしかめたラピスに対し、校長はまるで子供のように(といっても外見は子供のようだが)両手を大きく振りながらラピスに迫っていった。


 「よってこないでください、校長!」


 「むふふ〜〜、嘘をつく子にはお仕置きだべ〜〜」


 「口調が変わってんじゃないの!あ〜もう、来るなあ!」


 ………………あのラピスがこうまで逃げ腰になるなんてな〜〜。校長のどこが怖いんだろうか、まあ、確かに逆らえないオーラは出しているが。


 そんなことを思っていると、校長がラピスの右腕をがっちりと掴んだ。よほどの力で拘束されているのか、ラピスが一生懸命逃げようともがくがびくともしない。すると、校長は空いている手の方でラピスの横腹を触り始めた。


 「ちょっ、きゃっは!きゃはははははははっはははは!!!」


 「えいえいえいえいえ〜い!悪い子にはお仕置きよ〜〜」


 「ひっ、や、やめきゃははは!れ、レイオス助け、ひゃああ!」


 「無理」


 わき腹をくすぐられ、息も絶え絶えになりながらもラピスはレイオスに向かって助けを求める。が、レイオスは言われた瞬間に即答した。


 (俺がそんなことしたら、学費とかどうなっちゃうんだよ………ただでさえ、あの泥棒に金を盗まれてるんだし)


 消えていった金を思い浮かべ、心の中で泣き叫びながらもこらえる。そろそろバイトとかしないとだめだな……と言っているあたり、レイオスの懐がそろそろ限界なのは言うまでもない。


 「あ、校長。そういえばなにしにここに来たんですか?っというか、ここはどこなんですか?」


 ラピスの悲鳴に負けないように、大声を出して校長に聞く。すると、校長はラピスをくすぐるのをやめた。

 そしてどこから持ち出したのか、果物類がたくさんはいったバスケットを取り出すとベッドの横にあった棚の上に置いた。


 (どっから取り出したんだ、このバスケット!?質量的にも無理がありすぎるだろ………)


 そう思いながらも、顔には出さないようにする。


 「えっとですね〜〜……………」


 そう言って隣にあったベッドを片手でレイオスのベッドに寄せ(ベッドの重量は軽く見積もって100キロはありそうなんだが)、ベッドに腰を下ろすと果物の中に入ってあった果物を一つ取り出すと右のポケットから果物ナイフを取り出し剥きだした。


 「私がここに来た理由は、今回のガリルレギオンの塔についてとあなたが眠っていた間に起こった出来事をはなそうと思ってきたんですけど、そんなどうでもいいものは今度はなすとして〜〜……まずここはね〜〜。レイディアント学園にある生徒会専用の施設よ〜〜。ここでは主に緊急を要するものの治療などを行う場所なの〜〜まあ、保健室みたいなものね〜」


 「保健室……ですか」


 一番最初のことを聞きたかったのだが、どうでもいいと校長が言った瞬間、めんどくさいので聞くのはだめです〜〜、と目で訴えられた気がした……ではなく明らかにしたのでよすことにした。


 ついでに言うとここはあきらかに保健室ではなく、拷問部屋のような場所だよな……、と思いつつ、校長から渡された果物を受け取り口の中に放り込む。瞬間、口の中に軽い酸味が広がりそしてすぐに濃厚な甘みと……苦みが広がった。


 「すっ……甘っ!そして苦っ!?」


 「ふっふっふ〜〜、これぞ三つの味が楽しめるゲボズレです〜〜!」


 「なんだかとてもまがまがしい名前の果物ですね」


 「かわいいじゃないですか〜〜。ゲボちゃんの名前」


 「ゲボ………………」


 もはや何も言うまい……、校長が言ったゲボズレの略称を聞いた瞬間そう思ったレイオスであった。


 「それで、校長は何しに来たんですか?まさか、俺にこのゲボズレを食べさせようとしただけじゃないですよね?」


 「あら、よくわかったわね〜〜」


 「………………もう何も言いません」


 そう言って、レイオスはベッドから降りた。近くにおいてあった革製のスリッパを履いてまたベッドに座り込む。校長もすべての果物を剥き終わり(誰に食べさせるのかは謎だが)、ナイフをなぜか壁に突き立てた。ラピスもようやく落ち着いたのか、その場であぐらをかいて空中に浮かんでいた。おそらく、風の魔法で空中に風の固まりを作ってその場に座っているのだろう。ただ、一応女性として元々見えるか見えないかの境目ぐらい短いスカートなのにそのスカートのままであぐらをかかないでほしい。目のやり場に困ってしまうのだが………


 「ん?なにこっちをいやらしい目で見てんのよ。見せないわよ」


 レイオスの視線に気づいたのか、ラピスがこちらをにらみながら威嚇する。…………別に、見せるほどの価値もな……


 スコン、と何かがレイオスのすぐ後ろの壁に突き刺さった。恐る恐る後ろを振り向くと、先ほど校長が壁に突き立てたナイフが後ろの壁に突き刺さっていた。どうやら、いや。間違いなく、ラピスがまたもや風の魔法でナイフをとって自分自身に向かってとばしてきたのだろう。その証拠にラピスの右手が自分の方を向いている。風の魔法を操っていた証拠だ。

 何か文句があるの?というような顔をしてこちらを見ている。どうせ、反論しても無駄なんだろうな………と思いつつ壁に突き刺さったナイフを抜き自分の手元近くに置く。こうすれば何があっても大丈夫………のはずだ。


 「それで、校長。本当に何しにきたんですか?」


 別に自分のために果物を剥きにきたわけじゃあるまいし。自分とラピスのやりとりをみてにこやかに笑っていた校長に尋ねる。おそらく、例のガリルレギオンの塔の一件だと思うが。だが、自分が覚えているのはエディスト・ハウレグスに心臓を貫かれた時までの記憶でそれ以上のことは全くと言っていいほど覚えていない。


 「えっとですね〜〜、レイオスちゃんに会いたいっていう女の子がいるのですよ!むふふふ〜〜〜、レイオスちゃんも隅に置けない子ですね〜〜」


 ………………どうやら違うみたいだな。しかし、……会いたい子?そんな女性が自分にいるのだろうか。まあ、賞金首目当てに毎日襲ってくる変な女とかはいたが。


 そんなことを思っていると、校長は立ち上がって入り口までスキップしながら歩いていった。そして、一度ドアを開けて外にでると誰かを引っ張るようにしながらまた戻ってきた。


 「この子ですよ〜〜〜。ラピスちゃんより胸が大きいからなかなかの狙い目ですよ、レイオスちゃん」


 誰がペッチャンコの豆粒PADだごるぁ!!と叫んでいるラピスをよそにレイオスは校長の後からでてきた女性をよく見ようと立ち上がって入り口近くまで近づこうとした瞬間だった。







 「お久しぶりです、光の王。いえ、今はレイオス・ウォーリアでしたか」




 刹那、レイオスは足に魔力をためベッドの上に置いてあったナイフを抜き取ると入り口から現れた女性を押し倒して首筋にナイフを当てた。

 

 自分と同じ漆黒の長い髪に感情のない濁った目。


 「………………エルハイマ、だったか。何故、お前がここにいる」


 一瞬の出来事だった。レイオスのことをよく知っているラピスでさえ、今の速さについて行けずにその場で硬直している。校長はというと、あらあら若いわね〜〜などと言ってのんきにもまたベッドに腰掛けている。


 「主からの伝言です。一週間後の午前十時に学園の入り口で待つ、と。そして、それまでにあなたが確実に来るようにあなたのそばで世話をせよと仰せ使わされました」


 「………………はい?」


 レイオスは耳を疑った。エルハイマが言った言葉に。


 「ですからこれから一週間の間、あなたの世話をさせていただきます。異論は認めません、口答えも許しません。ただいまをもって、あなたの生活は私が管理します」


 「いや、待って……」


 「認めません」


 「いや………」


 「認めません」


 「突然すぎ………」


 「認めません」


 「だから…………」


 「もっきゅもっきゅしますよ」


 「何それ!?」



 

















 「なんで俺ばっかり………………」


 しんと静まり返った一室に、その言葉だけがむなしく中りに響いた。

 

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