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第五十五話 動き出す者達

 彼女はある一室にいた。装飾家具類は一切なく、窓もなければ人の気配もない。ただ、壁一面が黒い色で塗られているだけだ。だが、その部屋には異質なものがあった。


 「……ん、繋がってるのかい?……………あー、聞こえるかい」


 突然、部屋の中央に一人の女性が現れた。黒いローブを身にまとい、顔をすっぽりと多い隠して右手には黒くまがまがしいいびつな右手が生えている。現れた女性は、少しの間、声を出して誰もいないはずの空間見向かって声を出し続けた。すると、


 「聞こえている」


 一瞬、女性の周りが揺れたかと思うと突如これまた黒いローブを来たものたちが複数現れた。フードを顔まで羽織っているため性別の判断が難しく、また声も魔法か何かによって変えているのであろう感情のない機械的な声を出していた。


 「ああ、聞こえてたのかい。まったく、これはどうもやりにくいねえ。私の世代じゃこんなものはなかったよ」


 いびつな右手をした女性が自分の足下に設置してある銀色の六角形の鉄の塊のようなものを指さして愚痴をこぼす。


 「ふっ、そういうな。時代が進歩している証ではないか」


 「そうとも。この道具のおかげでわざわざ遠いところにいかずとも話し合いができるのではないか」


 ミルテリスの目の前にいた者と後ろにいた者がなだめるように言う。だが、いびつな右手をした女性はそれでも溜息をはいて話し続けた。


 「時代が進歩している………ねえ。そのわりには魔術や魔法などは退化しているようにも見えるけどねえ。くっくっくっく、さあどうなんだい?」


 「…………」


 「……ぐ、そ、それは」


  ミルテリスの問いにあれこれと頭をフル回転さて考える二人。それを見てミルテリスは左手を口元に寄せて笑った。だが、




 「そのような無駄話をしているために我々を呼んだのではあるまい。早々に用件を伝えろ」


 目の前にいた者の右隣、女性から見て左側の者がいらだったように命令した。すると、それまで考えていた二人は息を呑んでその命令された者に怯えるように後ろに下がった。だが、いびつな右手をした女性だけが臆することなくひょうひょうとした態度で命令した者に話しかけた。


 「やあ、ヲン。体の調子はどうだい?その体、まだ完全にはなじめていないんだろう?」


 命令した者ーーヲンはその答えに鼻を鳴らして答えた。


 「ふん、そのようなこと、もう時間の問題だ。あと少しでこの体は完全に我の者となる。それより、何用で我々を呼んだ。さみしいから無駄話をするために呼んだわけではあるまい?」


 その言葉に周りの者達がくすくすと笑う。だが、いびつな右手をした女性はそのようなことはお構いなしに答えた。


 「ああ、無駄話もいいかもしれないねえ。ただ、今回あんた達を呼んだのは守護者の件についてだよ」


 「守護者の……!?」


 「ああ、大地の守護者が目覚めた。といっても、まだ半覚醒状態だけどねえ。あと、予定外のことが一つ。レイオスも覚醒してしまったよ、闇の王のね」 


 「なん、だと………!?」


 「そ、それは真か!」


 「そんなバカな、まだその時期ではないはず……!」


 いびつな右手をした女性が口にした言葉にヲンを含め、周りの者達が一斉に否定し始める。


 (くくくく、慌ててるねえ。ま、そうなると思ったから喋ったんだけどねえ)


 周りの騒ぎをよそにいびつな右手をした女性は含み笑いをした。それを見ていたのは、ヲンだけ。他の者達は予定外の出来事に今後どうすればいいかなどを話し合っている。


 「それで、お前はどうするのだ?まさかそのまま見過ごすわけではあるまい」


 ヲンがすぐに動揺を隠し、いびつな右手をした女性に問いかけた。


 (この女のことだ、どうせ、もうなにか対策でもうっていそうだがな)


 目の前にいる女狐を見て、ヲンは内心そう思った。ここに集まっている一つの目的にしか興味のない頭でっかちのロートルとは違い、この女にはいくつもの野望があるのがわかる。証拠はない、ただ自分と同じ雰囲気がするのだ。他の者を使えるだけ使い、自分の野望のために動いているという王者の雰囲気が。


 「ああ、もう手は打っているよ。私のかわいい娘をレイオスのところに向かわせているさ。ついでに、後でレイオスと会おうと思ってる」


 「………………なぜにレイオスと会う必要がある?」


 「なに、ちょいと世間話でもしようと思ってねえ。ついでにせっかく覚醒してしまったんだから闇の王の力についても少しぐらいは教えておかないとねえ。じゃないと、力が暴走して周りの守護者に迷惑を与えるかもしれないよ?」


 「………いいだろう。会うことを許可する。ただし、お前はまだ信用できん。見張りの使い魔を忍ばせておく」


 「ってことは、私とレイオスの会話は筒抜けってわけかい。趣味が悪いねえ」


 「お前よりはましなつもりだ」


 「よく言うよ、狸が」


 「お前に言われたくないな、狐が」


 「かわいいじゃないか、狐」


 両手を持ち上げてコンコンといびつな右手をした女性が狐のまねをする。すると、周りの者達の中でかわいい………や、萌える………などの声がした。


 「………………………もういい、行け」


 「了解だねえ。ああ、後ね。私の娘は一週間ほどレイオスとともに過ごさせるよ。あの娘にも少しは心というものを教えておかないとねえ」


 「ふん、魔界から引きずり出してきた者を娘だと?それに心。軟弱者の考えだな」


 「言ってときな。きっと後悔することになるんだからねえ、心によって。そいじゃあ、私はここで失礼するよ」

 

 ヲンが諦めたように右手を前に出し追い払うように手前後に振る。すると、いびつな右手をした女性は笑いながらその場から消え去った。

 その場に残ったのは周りの者達とヲンだけ。静寂があたりを包む。


 「ヲン殿………いいのですか?あいつを行かせてしまって」


 ヲンの右隣にいた人物が話しかけてきた。


 「ふん、気にすることはない。あいつの好きにやらせろ。でなければ、あいつはすぐにでも私たちを裏切る」


 「そんなまさか……この組織はあやつにとって必要不可欠なはずでは」


 周りの者達もその意見に賛同するように頷く。だが、ヲンはあきれたように首を振った。


 「わかっていないなあの女のことを。あいつは魔女だ、それも一級品の。あいつが本気になればこの組織など使わずとも守護者を集め、そして光の王までをもその手中に収めることだろう。だから、今はまだあいつの好きにさせるしかない。……そう、今はな」


 そう言って、ヲンは高らかに笑った。意志のない機械的な声が高らかに部屋一帯に響き、他の者達は肩をすくめるのであった。

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