第五十四話 出口?いいえ、ラピスです
「や、やったぜ!やっと出口にたどり着いたぜ……!」
そう言ってテイルは背中に背負っていたレイオスを地べたに下ろした。軽く背伸びをし、強ばった体を動かす。
(もうやだ………ラピスと一緒にいるの。命が幾つあっても足りねえよ)
あれから二時間ほど、ようやくテイルとラピスは地下の迷宮から抜け出し演習場へとたどり着いた。よほど地下が嫌だったのだろうか、空がないにも関わらず天井に両手を突き出しソロモ………空よ、私は帰ってきた!などと、よくわからない言葉を発している。
「はぁ〜〜、やっと着いたわね!まったく、テイル。あんたが道に迷わなければこんなに遅くならなかったのよ!」
ぽっかりと穴の空いた地下迷宮の入り口からラピスがようやく現れそう言った。ついでに、シルフィード・ランスを飛ばしながらだが。
「おいおい、俺のせいにするなよ!」
大剣ガリオンを抜いて自分に襲いかかってくるシルフィード・ランスを切り裂いてテイルは愚痴をこぼした。なにを隠そう、本当であれば30分ほどでつけるぐらいの位置に出口はあったのだ。
(なのに、ラピスの野郎が………)
俺が右じゃねえかと言ったら左といって左に行ってしまうし、行き止まりにぶつかってきれてシルフィード・ランスをぶっ放すし。そんで壁の奥からモンスターが現れるし。それを自分、まだ魔術が完全に使えるようになったわけじゃないからとかなんとかいって俺にモンスターを押しつけるし。そんでせっかくモンスターを倒してあげたのに今度はモンスターの血が服に付いたとかいってシルフィード・ランスをぶっ放してくるし。魔術が完全に使える訳じゃないとか言ってたくせに。他にもいろいろあるぜ……シルフィード・ランスをぶっ放してきたり、シルフィード・ランスをぶっ放してきたり、シルフィード・ランスをぶっ放してきたり………………
俺ね、涙がでちゃう。だってラピスがあれなんだもん………………
もう少し女らしくしてくれればかわいげがあるんだけどな〜〜と顔には出さずに思いつつ、シルフィード・ランスを跳ね返す。すると、ラピスもようやくあきらめたのかシルフィード・ランスを打つのをあきらめた。っていうか、魔術は使えないんじゃなかったのかよ………
そう思いながらも、レイオスをもう一度担ぐ。まずはレイオスを保健室に連れていくことが先決だ。ざっと見でしかわからないが、レイオスもツヴァイト・レグレーベン同様かなりの魔力を消耗している。早めに治療を受けさせた方がいい。そして……
「ラピス、この事、校長に話したか?」
ようやく怒りが収まりかけたラピスに問いかける。
「え?もう話したわよ。一応、保健室の準備と午後から使われる予定だった演習場をすぐに閉鎖。表向きは内部の改装という事にしてあるけどね。後、ギルドに依頼して十数名の剣士と魔術師たちを地下に潜む魔物用に要請してあるわ。ったく、いつもは役に立たないのにこう言うときだけは準備がいいわよね。あの人」
何という手際の良さ……さすがたった一人でこの学園を仕切るだけはある。
「それじゃあ、俺は校長に報告しに行かなくてもいいのか?」
「いや、言った方がいいと思うわよ」
「………そいじゃあ、今から行くか。っと、その前にラピス。一つ頼みたいことがある」
「ん、なによ?レイオスを担げとか言うんなら願い下げよ」
そう言って、両腕を胸の前で交差する。
「んにゃ、違う違う。頼みたい事って言うのは………………お」
だが、言葉の途中でテイルは倒れた。慌ててラピスがテイルのところに向かうがその途中で聞こえてきた声でラピスはため息をついた。
「ンガーングーヌゴーマグ〜〜、にゃんにゃ…………もう食えねえ」
寝ていた。
「こ、こいつ………」
シルフィード・ランスをぶつけようか、とも考えるが近くで見るとテイルの体にも無数の傷跡があるのに気付いた。ほとんどの傷がふさがっているがそれは外面だけのようで、体を動かしたせいかまた傷口があいて中から血が染み出していた。
(なっ!……かなりの激痛のはずなのに…こいつったら。無茶して……)
相変わらずね、と過去の出来事を思い出しながらラピスは仕方なくレイオスとテイルの首根っこを掴んだ。そして、ずるずると二人を引きずったまま演習場を後にし校長室へと急ぐラピスであった。余談ではあるが、ラピスたちが校長室にたどり着く前にレイオスとテイルがゴミ袋のようになっていたことは言うまでもない。