第四十五話 太古の獣
頭の中で、何かがはじけるような感覚を感じた瞬間、ツヴァイト・レグレーベンは涙を流した。
「散っていったか、エディスト・ハウレグスよ」
元々、エディスト・ハウレグスはツヴァイト・レグレーベンが作り出した精霊、人工精霊というものの類。だから、エディスト・ハウレグスの動向や意思、命の反応などがツヴァイト・レグレーベンの頭の中でわかる。
「…………お前の死、無駄にはせん」
そういうと、ツヴァイト・レグレーベンは何を思ったのかおもむろに立ち上がった。あたりの骨が砕け散り、粉塵となってあたりを覆う。
ツヴァイト・レグレーベンは床下に横たわる人物を見た。細身でありながら筋肉質な肉体、その蒼き髪を後ろで束ねた姿は竜に近いものを感じさせる。服装は軽装、だが人体の構造を把握したものだけが知り得るところに魔法で強化された鎖かたびらを縫えつけている。さすが、戦士といったところか。
「テイル・ロスウェー、そなたも目覚めぬ一人なのか…………………」
動かぬ屍のように指一つ動かさなくなったテイルを見て、ツヴァイト・レグレーベンは嘆いた。
だが、
ツヴァイト・レグレーベンが顔を上げた瞬間、テイルの指が微かにながら動いたことは誰も知る由もなかった。
輪廻より伝わりし過去の記憶 覗くは創世誕生の日
さあ めくるめく時を堪能するがいい そのとき貴様は力を得る
「………………うっ」
頭が痛い。めちゃくちゃ痛い、というほどではないが動く度にズキンと響く。
くそ、ツヴァイト・レグレーベンの野郎。大丈夫とかいっておいて、ぜんぜん大丈夫じゃねえじゃねえか。
今はいないツヴァイト・レグレーベンに向かって悪態をつくと、テイルは立ち上がった。大剣ガリオンを杖のようにして身体を支え体を起こす。
「……………………意識がぼんやりとするな。くそっ、ってかここどこだよ」
息を整える。すると、今まで頭の奥で響いていた痛みが軽くなり意識がはっきりとし始めた。
「ふう、二日酔いになった気分だぜ」
二日酔いがどういうものか知っているのか知っていないのかわからない口振りで、テイルはため息をつく。そして、辺りを見回した。
白一色、ただそれだけ。自分が今たっている場所も白く、本当にたっているのかどうかもわからないほど平衡感覚が麻痺する。もしかしたら、浮いているのかもしれない。
「現実じゃねえのかな?」
そういうと、テイルは歩きだした。このまま、この場所に立っていてもいいがどうせ立ったままでは何かが起きる可能性も低い。それに、
「腹、へった……」
ぐきゅるる〜〜という盛大な音がテイルの腹から鳴る。普通の人であれば、自分がどういう状況に陥っているのかわからない状態で腹は鳴らない、つまりおなかは空かないのだがテイルだけは違ったようだ。神経が図太いと言ってもいいかもしれない。
「…………なんか、今誰かにすっげえ失礼なこと言われたような気がする」
誰もいない空間できょろきょろと辺りを見回す。が、自分の悪口を言ったやつが居るわけでもなくテイルは大きくため息をついた。
「ああ、なんかめんどくさくなってきたな。腹も減ったし、何もないし。ったく、なんなんだよここは」
「ここは、地の守護者に認められたものだけが来れる場所だよ」
背後から声が聞こえた。誰もいないこの空間で。テイルしか居ないはずの白い無機質な空間に誰かの声が。
斬ーーーー!
瞬間、テイルは大剣ガリオンを右手で掴むとそのまま体を右斜め下に急速回転させ抜刀切りをした。抜いてから切りつけるより抜くと同時に切りつける、奇襲・変則・不意打ちの特性を兼ね備えた技術。そのため、通常の切りより
威力は落ちるが出は早い。
「おっと、喧嘩っ早いね君は」
だが、剣はむなしく空を切った。いや、空を切ったのではない。切ったはずのだ。目の前にいる何者かを。だが、そこに存在しないかのように剣はすり抜けてしまった。
「初めまして、認められたものよ。私は君だ」
「は?」
テイルはその目の前にいる男をまじまじと見た。髪は自分と同じ青色、髪型もこれまた同じく後ろでくくってポニーテールのようにしている。目も全く同じ色の青色だ。だが、顔だけはアシルのように丸く、優しい感じを醸し出している。・・・・・・なんか気に食わねえ。
「だから、言っているだろう。私は君だ、そして君は私だ」
「は?ってか、誰だてめえ」
意味不明。その一言につきる。いきなり初対面の自分にあって「私は君だ」と言われたら、そうも思いたくなる。
「……………だから、言っているだろう。私は君で、君は私だ。それ以上でもそれ以下でもない。必然的にそういう方法になっているんだ」
「意味分かんねえよ!………待てよ、まさか……………お、お前、もしかしてあれか!?だ、だから私は君だなんて変態発言を!?」
「いや、違うのだが」
「く、来るな!くんじゃねえ、俺は女にしか興味ねえんだよ!男は論外だ!」
大剣ガリオンをめちゃくちゃに振り回して、謎の男から離れようとする。だが、謎の男もテイルが後ろへ下がる度に前へ近づいていた。
「だああああ、なんで近づいてくんだよ!」
「君が逃げるからだ!ツヴァイト・レグレーベンに言われなかったのかい?この学園の成り立ちを見よと」
「な!?なんでてめえがそれを………!?」
テイルは逃げるのをやめた。それと同時に謎の男も追うのをやめる。
「ふう、ようやく話を聞く気になったか」
「一応、な。ツヴァイト・レグレーベンを知っているようだし。だけど、信じたわけではねえからな」
まだ安心はできない。
テイルは頭の中でそう意識しながら、大剣ガリオンの握り手に右手を乗せる。すると、謎の男は苦笑いするとまいったな〜、と言いながら頭を掻いた。
「信じてもらわないと困るんだ。なにせ、あまり時間がないものでね」
「時間?」
「ああ、君がここにいられる時間のことだ」
謎の男が空中で手を滑らせる。すると、人差し指から金色の光が現れ空中に文字を作っていった。レ・ズラ・ダン・カウ・マチ…………古代文字だろうか。かろうじて読めるものの意味が何かまでは分からない。
「今から、君にある映像を見せることになる。そして、その映像を見て君がどういう行動を起こすか、それが試練となる」
「はい?え、意味がわからんのだが」
「わからなくてもいいのだよ。これを見た、ということに意味があるんだ」
どんどん空中に文字が描かれていく。それと同時に、最初の文字が意志を持ったように動き出し、テイルを覆うようにあたりを回り始めた。
「な、なんだこれ!?………くそっ、消えねえ!」
テイルがその文字を消そうと、躍起になって両手を振る。だが、文字は一瞬消えたかと思うと、すぐに元通りになってテイルの周りを何事もなかったかのように回り始めた。
謎の男が口を開いた。そして、呪文か何かはわからないが何かを唱え始める。
「輪廻より伝わりし過去の記憶 覗くは創世誕生の日 さあ めくるめく時を堪能するがいい そのとき貴様は力を得る 我が名前テイル・ロスウェーの名の下に」
テイルの目が大きく開かれる。自分と同じ容姿、そして自分と同じ名前。なにがどうなっている。
「覗きし未来に何がある 生まれゆく日に意味がある 心を無にし聞くがいい 微かに漂う音の意味を 眠りについた力の具現を ゆけ 汝が名テイル・ロスウェー」
「おい、待て!なにしてる、そして誰だお前は!なんで俺の名前と同じなんだ!?」
すると、謎の男ーーいや、テイル・ロスウェーは微笑むと、テイルに向かって手を伸ばした。
「君にならわかるはずだ、私よ。心の奥底に眠る封じられし忌まわしき力。その具現、その理、その心髄、すべてを理解している君なら」
「お前…………まさか?」
「行ってくるがいい、テイル。君の友達を救うんだ。もう二度と、過ちを犯さぬように」
涙
謎の男ーーテイル・ロスウェーの顔を一筋の悲しみが流れ落ちていた。なぜ泣いているのだろう、それはテイルにはわからない。だが、テイル・ロスウェーの感情が理解できる、そんな気がした。
「ぐあっ!?」
テイルの周りを浮いていた文字が突然、腕に張り付いた。焼けるような痛みが走る。が、腕を見てみるが焼けたようなとはない。
「いけ、テイル!地の、いやイスキューオーの力をおそれるな!」
テイル・ロスウェーがそう言った瞬間、すべての文字がテイルを覆った。
「ぐああああああああああああ!!」
焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける!
体が熱い、燃えてしまったかのように。
「ぐっ、ぐうううううう、が、がぐ、があああ!!」
そのとき、テイルは見た。もう一人の自分、テイル・ロスウェーの姿を。
獣。太古に伝わりし、古の獣。
意識が途切れゆく…………………。
読者の皆様、こんにちは〜〜。この頃、自室謹慎をくらって鬱状態に入ってしまったイソです"( ´ ▽ ` )ノ"ちわぁ
いや〜〜、ひどい目にあいました。学校で問題を起こしたらだめですね、こりゃ。
とまあ、そんなことはともかく。ローン・ウルフ、間もなくテイル編が終わります!ヽ( ´ ∇ ` )ノ ワーイ?(喜んでいいのか?
あと三・四話ぐらいでしょうか。それが終わったらまたコメディーモードへと突入します。いや〜、早く掻きたいです。
あ、そうそう。これは本編とは全く関係ないんですが(最初の奴も関係ないけど)自分、ただいまほかの作者様とコラボ小説をしているんです。
「たまごのこ」
っていう小説なんですが、まあ、なんていうか作者自身がキャラクターとなって登場するみたいな感じです。もし、時間があるのであればそちらのほうも見てくださいまし。自分より、とても上手な作者の方もいらっしゃいますので。
それでは、またごきげんよう〜