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第四十話 目覚めの時

暗闇の中で彼女は踊る 漆黒の長髪をなびかせ


 黒いドレスの裾を持って 誰もいない閉ざされた森で


 彼女は踊る


 一人寂しくその場所で かすかに漏れる光も多い隠して


 周りを闇で覆い尽くして 彼女は踊り続ける 


 だが


 ふと彼女は踊るのをやめた 見えない空を見上げて言う


 時は来た、と


 光が周りを覆い始めた 彼女の体が少しずつ消えていく


 私が表の舞台に出るときが来たようね


 そう言い残し、彼女は光の中へ消えていった 


 後に残るは 二つの宝玉


 黒く輝き闇の宝玉 白く輝き光の宝玉


 二つの宝玉がおかれる森 闇と光が守る森


 


 だが





 白く輝き光の宝玉に 亀裂が入ったことなど


 彼女以外誰も知る由などない 







 



 








「がっ!?」


 レイオスが痛みで苦痛のうめきを漏らす。とっさに後ろによけたおかげか、致命傷とはならなかったが息をするのが苦しくなっていた。


 (肋骨がやられたか……!くそっ、右腕も切られてるし…………こいつ、強いっ!)


 レイオスの体が崩れ落ちる。だが、倒れる寸前に受け身をとりすぐに体勢を立て直した。


 「ぐっ、うっ……はっ、はあっ……はっ、つうぅっ!」


 無理に動いたせいか、先ほどより血があふれ痛みが強くなる。切られた右腕もようやく痛みが出始めた。


 「まだ、まだだ!」


 壮絶な痛みがレイオスを襲うが、そのおかげか失神する事はなかった。魔力を右腕の切断部分と胸の切り傷に集中させ血管をふさぎ、一時的にだが血が体外へ流出することを強制的に中止させる。


 「シャイニング・スタウロス!」


 無詠唱を行い、魔術を放つ。通常より威力の弱い、小さくなった光の十字架が琥珀色の髪の男を貫いた。



 はずだった。





 「甘いですね。そのような下級魔術で私に傷を負わせられると思っていたのですか?」


 「なっ!?」


 貫いたと思っていた光の十字架が、黒い半月状の剣を持っていないもう一つの手で、貫かれる前に遮られていた。


 「魔術がだめなら、これでどうだ!」


 そう言うと、レイオスは魔法で剣を自分の手元に呼び寄せ、足に魔力をため跳躍した。


 「ぐっ!」


 切られたところが痛む。だが、この場で自分が琥珀色の髪の男を倒さなければ次の標的になるのはレイラとラピスだ。それだけは避けたい。


 「食らえっ!」


 体を縦回転させる。そして、剣に魔力を流し込む。


 「スラッシュ・ファング!」


 回転したまま、剣を琥珀色の髪をした男に投げつけた。レイオスの手から放れた剣が、魔力によって狼の顔を形作り襲いかかる。だが、琥珀色の髪をした男は体を少し横にずらし、スラッシュ・ファングを回避した。


 「これがあなたの策ですか?それならば、くだらな――」


 「どうかな?かみ砕け!」


 瞬間、琥珀色の髪をした男の地面周辺が陥没した。陥没したと言うよりは、えぐりとられたといった方が正しいのかもしれない。


 「……ふむ」


 琥珀色の髪の男の体が宙に浮き、体制が崩れる。その瞬間を見逃さずに、レイオスは崩れ落ちる岩を足場にして一瞬にして琥珀色の髪の男の背後にたどり着いた。まだ、レイオスの存在は琥珀色の髪の男には気づかれてはいない。 

 (気づかれていないうちに……切る!)


 先ほどまで暴れ馬のように動いていた心臓が、急激に一定のリズムを取るようになる。背後に移動する際に、拾っておいた剣を正面に構え、切っ先を琥珀色の髪の男の背中、心臓がある位置にねらいを定める。


 (これでどうだ…………!?)





     閃っーーー!


 


 一瞬だった。レイオスが突き出した剣の切っ先が琥珀色の髪の男の背中に突き刺さる。


 (勝った……!)


 そうレイオスは確信した。いかにどのような相手でも、心臓が停止してしまえば行動不能に陥る。


 




 「なかなか。これは危なかったですよ」


 はずなのに、殺った、とレイオスは思ったはずなのに



 「これ以外に策は……ないようですね。しかし、よくやりましたよ。精霊相手に人間がここまでやるとは、称賛に値します」


 琥珀色の髪の男がレイオスの真後ろにいた。体が、宙に浮いている岩から上半身だけ出ている。


 「なっ…………?」


 レイオスは自分が指したはずの琥珀色の髪の男がいた場所を見た。レイオスは驚愕する。刺したはずの場所には、琥珀色の髪の男の形をした土人形があっただけでレイオスはそれの心臓を刺していた。


 



 変わり身。


 その名の通り攻撃を受ける瞬間、身近にあるものやあらかじめ用意していたものを使い、自分と場所を入れ替え攻撃を回避する技だ。だが、この技は相手の位置や攻撃がどこにくるか、そして敵にも気づかれない早さが必要となる。そのはずなのだが、この男は常識を無視して変わり身を行った。


 「ふっ、不思議な顔をしていますね。いいでしょう、教えてあげます。私はある特殊な力がありましてね、ツヴァイト・レグレーベン様からより頂いた地の精霊が含まれているものすべての物体を自由に行き来できる力と重力を自由に操る力を持っているのですよ」


 琥珀色の髪の男が黒い半月状の剣を構える。


 「私の名前はエディスト・ハウレグス。ツヴァイト・レグレーベン様に仕えるもの。何人たりとも、近づけさせるわけにはいきません。ですので…………」


 急いで剣を抜き防御しようとするが、土人形が突然硬化し剣が抜けなくなった。


 




     






 「死んでください」


















 何が起きたか理解できなかった。背中に感じた一瞬の違和感。そして、自分の胸から現れた黒い半月状の剣。刀身は赤い液体がまとわりつき、切っ先から地面に向かって一滴一滴落ちている。


 「あ、…………」


 口から何か赤いものが流れ出た。それは止まることなくあふれ、そして落ちてゆく。目がかすみ、あたりがぼやける。


 「…………れ、レイ、オスさん?」


 レイオスの正面にレイラがたっていた。恐怖で動かない足を、無理矢理動かしてここまで来たのがレイオスの目からも見てわかる。だが、そのレイラの姿さえもぼやけて見えなくなり始めた。


 「あ、ああ……あああ、…………い、いや。い、や。……いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 





 レイラが何か叫んでいる。だけど、それももう俺には聞こえない。眠い。眠い、とても眠い。


 (死ぬ、のか……)


 腕に力を入れることができず剣の握りから離れ、力なく垂れ下がる。エディスト・ハウレグスが、黒い半月状の剣をレイオスの体から引き抜く。引き抜いた傷口からおびただしい量の血があふれた。


 (お、れ、は……)


 レイオスの体がゆっくりと落ちていく。そのとき、宙に浮いていた岩が体にあたり体の向きが変わった。そのとき、薄れゆく意識の中で草原の向こうから何かが来るのがかすかにだが見えた。


 「ら、ピス?」


 草原の向こうから、ラピスがこちらに向かって走っているのが見えた。なぜかはわからない、もう目がかすんでなにも見えないはずなのに、ラピスが来るのがわかった。


 「……ス!!」


 ラピスが何か言っている。だが、レイオスはそれさえも聞こえなくなっていた。


 (守らないと……俺が守らないと…………他に、いないんだ)


 レイオスの頭の中で、その考えだけが頭をよぎる。ラピスとレイラを守る。それだけが。


 (力がほしい、あいつを倒せるだけの力が……!)

























 「力が欲しいのね?」



















 (えっ?)








 声が聞こえた。もうなにも聞こえないはずなのに。





 「私の声が聞こえているんでしょう?力が欲しいの?」





 その声は頭の中から聞こえていた。聞いたこともない女性の声。深く、透明で聞くものすべてを眠りに誘うような声。レイオスはこの声を知らない。だが、レイオスはこの声をどこかで聞いたことがあった。





 「願いなさい。そうすれば、力を与えてあげるわ」





 (……願う?)





 「そう、願うのよ。あなたの願いを、あなたの心の奥底に眠る原始の本能を!」





 (俺は…………)





 「ためらうものなどに力は得られないわ。本当の自分を知っている者だけに、本当の力が宿るのよ」





 (俺は……俺は)





 「あなたの力を呼び覚ますのよ!光の王と対なる力を持つ力、闇の王の力を!」




 

 (俺は……俺は、俺は力がほしい!)




 

 「なら、唱えなさい。私の名を、闇を操る精霊の名を」





 頭の中である一つの言葉が浮かび上がる。レイオスはその言葉に見覚えがあった。いつかはわからないが、まだ自分が小さい頃にこの言葉を聞いたことがある気がする。













    「私の名はーーーーー」






    「我が名はーーーーー」
































      「闇の王、ミルテリス!」













 

 闇の王ミルテリス。レイオスのもう一つの力。光の王とは異なる破滅の力を持った王。





 すべてが闇に覆われた。

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