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第三十七話 大地の守護者

 イスキューオー、その名を聞けば大抵の者がこう答えるに違いない。



 呪われし一族


 なぜ、こう呼ばれるようになったのかは分からない。噂では、魔族と契約した、国を一夜で落とした、異形の姿をしている、人を食うなど、いろいろあるが真意は定かではない。だが、真実を言うものならばこういうだろう。


 


 「悲しき宿命を持つ一族、イスキューオー。それが、お前たちの本当のもう一つの名だ。そうであろう、イスキューオーの生き残りよ」


 「・・・・・・ああ」


 黒ずんだ石で作られた、半円形状のドームにテイルはいた。地面はきれいに整備されていたのだろうが、今は数え切れない無数の人骨で埋められている。誰の人骨かは分からない。だが、殺されて死んでいったのは確かだろう。その証拠に、頭や肋骨に穴が開いている。


 「ここにいる者たちが気になるか?」


 「・・・・・・・・・・・・いいや、別にいい」


 正直なところを言えば、気になる。が、聞かない方がいい気がするのも確かだ。おそらく、こいつと戦った者なのだろう。その証拠に、こいつの身体には無数の傷跡が付いている。


 「で、お前は何者なんだ?さっきから、俺のことばっかり聞きやがって」


 すると、それは狂ったように笑いだした。


 「ハッハッハッハ!ハ、フッ、クックックック・・・・・・クククク、ハハハハハハハハ!!」


 「な、何がおかしいんだよ、てめえ!」


 「す、すまぬ。我にそんな口を利く輩は初めてだったのでな。ふつう、我の姿を見た者は例外なく腰を抜かすはずでな、おびえたように我の名を聞くのだ。だが、お前はどうだ?おそれるどころか、我に対して怒りという感情を持つとは。これが笑わずにおられるか」


 「くそっ、訳が分かんねえ」


 テイルは今一度、それの姿を見た。


 岩石で覆われた前足。犬のような足の三本の指の間には、黒光りした切れ味の鋭そうな爪が三つある。後ろの方にある足は鳥のような三本足になっているが、その足も太くて強靱だ。これが、後ろ足なのだろう。胴体の外側は前足と同じように岩石でできており、前足と後ろ足の間、つまり腹のところだけは多種多様な鉱石に覆われている。そのせいか、腹の部分から妖しげな光が漏れているのがテイルからみても分かる。顔は人間と同じ顔、だが、その顔さえも岩石でできたように至るところがひび割れている。だが、目だけは人間と変わらず、潤いを持っている。口には犬歯しかなく、笑う度に不気味な咥内が見える。化け物の二文字でしか、表現できないほどまがまがしい容姿だ。


 「それで、お前の名前はなんて言うんだよ。俺の名前はさっき言っただろ?」


 すると、それは笑うのをやめた。だが、口元をかすかにゆるめているのが分かる。


 「・・・・・・よかろう。我をおそれなかった褒美だ。我の名前を教えてやろう。我の名は・・・・・・」


 すると、それは前足を持ち上げると器用に空中に文字を描き始めた。三本の爪からでる魔力の線らしき物が、空中にとどまりどんどん文字を作っていく。


 「これが、我の名だ」


 文字を描き終わり、それは前足をおろした。おろした前足の地面の周辺に転がっていた無数のドクロが、衝撃で粉々に砕かれる。


 「ツ・・・ヴァ・・・・・・ベーレン・・・・・・・・・ツヴァイト・レグベーレン?地を統べる命の王って意味か?」


 「さよう、それが我の名だ。この世界を統括し、すべての大地に恵みをもたらすもの。しかし、今はこの塔の地下に力を抑えられているがな」


 そのとき、テイルは今の言葉に矛盾を感じた。


 「おいおい、待てよ。この世界にはガリルレギオンっていう、由緒正しい精霊王がいるんだぜ。なんでお前が、この世界の大地に恵みをもたらすんだよ」


 「名などは偽りにすぎぬ。その名も、お前たち人が勝手に決めたもの。だが・・・・・・確かに、我は精霊王ではない。だが、この大陸なら全て統括できる力を持っておる」


 「嘘だろ・・・・・・」


 ツヴァイト・レグレーベンが言ったことにテイルは驚愕した。ツヴァイト・レグレーベンがそれほどの力を持っていることにもそうだが、精霊王がそれ以上の力を持っていることにも。ツヴァイト・レグレーベンがこの光と闇の大陸レビリテリスを統括することができるのならば、精霊王はいったいどれくらいになるのだろうか。


 「・・・・・・お前のすごさは分かった。ただ、どうしても分からねえことが一つある」


 すると、ツヴァイト・レグレーベンはテイルの言葉を遮るように前足をあげた。


 「なぜ、それほどの力を持っているのにそなたを呼んだのか、だろう?」


 「・・・・・・わかってんなら、早く言ってくれよ」


 テイルはいらだちを抑えられずに、自分の足下にあるドクロを無意識に砕き始めた。踏まれたドクロは何年もたっているせいか、簡単に粉々に砕かれてしまっている。


 「ふっ、そんなに苛立つでない。まず、そのことを教えるためにはこの学園の成り立ちを貴様に教えなけねばならぬ」


 「この学園の?なんで、そんなことを知らなきゃならねえんだ?」


 「それを今から話すのだ。少しは、大人しく聞く気にならんか」


 この学園の成り立ちがどうだろうが、テイルにとっては知ったことではない。テイルは、ややこしいことが一番嫌いだ。たとえ、それがどんなに重要だろうと結論だけを知っておけば、どう対処すればいいか分かるからだ。


 「いや、聞く気にはならねえな。俺は、ごちゃごちゃしたことは嫌いなんだ。手っとり早くすませようぜ」


 すると、ツヴァイト・レグレーベンはあきれたように大げさにため息をはいた。口の周りの岩石がそれにあわせて小刻みに振動する。


 「まったく・・・・・・今回の適合者はずいぶんと短気な性格の持ち主のようだな」


 「短気って言うな!!先を読む男っていえ、先を読む男!」


 「はて、その割にはまぬけそうな顔だが――」


 「う、うるせえ!わざとそういう顔を作ってるんだよ!」


 先ほどまで殺伐とした雰囲気が、徐々にだが薄れていた。その証拠に、先ほどまでテイルの左手はすぐに大剣ガリオンを抜けるように剣の握りを握っていた。だが今は、握りを離してツヴァイト・レグレーベンに拳を振りあげ抗議している。


 「ふっ、まあそういうことにしておいてやろう」


 「なんだよ、そういうことにしておいてやるって! それじゃあ、俺がガキみたいじゃねえか」


 「ガキだろう?我の年と比べたら、お前の年など若い若い」


 「・・・・・・ちなみに、何歳だ?」


 「二千より上は覚えておらぬ。三千は越えていそうな気がするが」


 「・・・・・・ジジイ?」


 「死ぬか?」


 「いいえ、めっそうもない!」


 テイルがジジイと言った瞬間、ツヴァイト・レグレーベンの前足がテイルの頭上に移動した。テイルがすごい勢いで手をぶんぶんと横に振る。その光景をみたツヴァイト・レグレーベンは大きくため息をはくと前足を元の位置に戻した。そして、軽く空中に息を吹きかけると光輝く文字が描かれ始めた。


 「そなたの望み通り、手っとり早く話を進めよう。でなければ、いつまでもこういうやりとりが続くのでな。今から行うのは我の脳に刻まれた古の記憶。この記憶をみて、我が話そうとしたことを眼で感じるがいい。その方が頭の悪いお主にはちょうどいいだろう」


 そのときだった。


 「あ・・・・・・・・・・・・れ?」


 景色がゆがむ。ツヴァイト・レグレーベンの顔がゆがむ。自分の手がゆがむ。全てがゆがむ。


 身体に力が入らなくなる。背に背負っている大剣ガリオンがとても重く感じられる。


 「な、なに・・・・・・をした?」


 ひざが地面に付く。だが、倒れまいと力を振り絞って大剣ガリオンを手に取り地面に突き刺して身体を支えた。だが、すぐに身体の力が抜ける。


 「なに、案ずるな。古代魔法を行使すると、一時的にだが身体の平衡感覚が狂うのだ。一度気を失うが、すぐに我が記憶をみれることになる。安心するがいい」


 「あ、安心するが・・・・・・いいって、いわれ・・・・・・ても、これは・・・・・・き、きついぜ」


 もう身体が動くことができなかった。大剣ガリオンをつかむ手が離れ、身体が前のりに倒れ込む。倒れた瞬間、ドクロが砕けるのがぼんやりとする意識の中で感じることができた。


 「では、また会おう。イスキューオーの生き残りよ。お主が子の記憶を見て、どういう答えを出すのか楽しみだ」


 ツヴァイト・レグレーベンの最後の言葉を聞いて、テイルの意識は完全に闇へと消えた。

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