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第三十六話 不穏な空気

 「来る・・・・・・ここに、もうすぐ・・・・・・・・・・・・守る、者・・・・・・力を求め・・・・・・・・・・・・我、会いに」


 声が天井にこだました。低く、聞いた者すべての心を凍てつかせるような冷たい声。


 「早く・・・・・・こい。地の・・・者」


 それはまちわびていた。自分を従えるにふさわしい者を。そして、この場所から連れ出してくれる者を。


 それはもうすぐこの場所に来る者を出迎えるために、場所を空けるため体を動かした。


 そのとき、


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・! ・・・・・・なぜ?開かぬはず。・・・・・・風、水、光、闇!?なぜここにおるのだ!」


 扉が突然なくなったかと思うと、四つの属性がそれが統括する領域に入り込んできた。その四つの属性は、消えることなくその場にとどまっていると少ししてから動き出した。


 「・・・・・・打つ手、ありか。我が力の片鱗を向かわせよう」


 何も見えない暗闇の中で、それはある言葉を唱えるとまた、その場でうずくまるように目を閉じた。








 『なあ、レイオス。光の王の条件としてもう一つ、お前に教えることがある』


 『なんなの、それ?』


 『・・・・・・・・・・・・なあ、もう少しかわいげがあってもいいと思うんだけどよ。普通、子供は親にべったりなはずだろう? パパー、教えて! とか、パパー早く教えてよー、とか』


 『親と自覚してるんなら、森の仕事もしっかりこなしてよ。4歳の息子に任せないでくれるかな』


 『・・・・・・・・・・・・まあいい。俺の息子は、ツンデレっていうことがわかった。で、光の王の条件として前に一つは言ったよな?』


 『ツンデレではないけど、父さんがかわいそうだからそういうことにしてあげる、うん』


 





 『・・・・・・・・・・・・一回しか言わないからな!よく覚えておけよ。光の王の条件の一つはーーーを知ることだ』







 「父さん!? 待っ・・・・・・・・・・・・て?」


 暗闇の中で、レイオスは目が覚めた。なにやらなにかが、レイオスお顔と背中を圧迫しているようだ。だが、レイオスはその圧力が何なのかよりも今見た夢のことで頭がいっぱいになった。



 嫌な夢を見た。



 遠い遠い、昔の記憶。まだ、レイオスが子供の頃。父親と母親がまだレイオスと一緒に生活していた頃の記憶。そして、その次の日に目の前から姿を消してしまった記憶。そして・・・・・・


 (レムエムと初めてであった時の記憶)


 「はぁ〜・・・・・・」


 ため息がでる。


 嫌な記憶を夢で見たからではない。ただ、その記憶の鎖に縛られている自分のふがいなさにため息がでたのだ。


 「過去に捕らわれていては、何も始まらない。おやじが言ったことをまねるのは癪だけど、これは見習わなきゃいけないことだな」


 そういって、レイオスは今しがた見た過去の記憶の夢を頭から追い払った。そして、この場所からでようともがく。


 「・・・・・・んっ」


 「はい?」


 気のせいか、と一瞬は思った。が、その予想はすぐに裏切られる。レイオスはかろうじてでている右手と両手で自分の前方を圧迫しているものを触ってみた。


 「・・・・・・ん」


 気のせいではない。それどころか、よく調べてみると手、足、髪らしきものがあるのが分かった。


 「て、ことは・・・・・・」


 レイオスが今確認できたのは、手が自分の頭のところにあること。と、いうことはよく考えるとこの顔を圧迫しているとても柔らかいような代物は・・・・・・


 「・・・・・・こ、これはやばいぞ。洒落にならない!」


 自分が今置かれている状況を把握したレイオスは、急いでその場から逃げようともがく。だが、もがいた瞬間、背中の方から手が回ってきてレイオスをがっしりと捕まえる者がいた。


 「なっ!?」


 レイオスはつかんできた手に持っていた者に驚愕する。


 「か、鍵?ってことはまさか・・・・・・!?」


 レイオスの頭の中で、一瞬のうちに何百通りもの考えが頭をよぎる。


 

(えっ、てことはなに?挟まれてる?二人に、しかもちょうどあれを俺の体に当てるように!?)


 さすがに、レイオスといえども男。この状態は、気にしてしまう。だが、その考えを中断するようにラピスが両手に力を込め、強く抱きしめる。それに追い打ちをかけるようにレイラも身体を少しだが動かし、レイオスの顔をさらに圧迫させた。

 

 (く、くそっ!普通なら喜ぶところだけど、もし起きてしまったら、後が怖いっ!早く、逃げっ・・・・・・グッ!ちょっ、ラピス!?締め付けるな、い、息ができなっ、グフ!)


 柔らかい感触を感じつつも、息ができずいろんな意味で瀕死の状態に陥っている。テイルがこのことを聞けば、喜んで代わってくれたかもしれないがあいにくそのテイルはいない。ついでに、アシルならそばにたって笑っているのだろう。


 少しずつ意識が遠のいていく。こんなみっともない格好で死んでしまったら一世一代の恥となってしまう。


 そんなことを思っているときだった。


 「う・・・・・・う〜ん、・・・・・・あれ?ここど・・・・・・・・・・・・こ」


 ラピスが目を覚ました。そして今、自分がどんな状況に陥っているのか把握したのだろう。レイオスの背中越しに、ラピスの心拍音が上昇しているのが嫌でも分かる。


 「レイオス・・・・・・・・・・・・あんた、なにしてんのかしら?」


 「いやっ、ちょっと待て! 俺が起きたらもうこうなってたんだ! だから不可抗力だ!」


 レイオスが早くこの場所から抜け出そうともがく。が、もがけばもがくほどレイラの胸がレイオスの顔をふさいだ。


 「・・・・・・わかったわ。あんたがどうしようもない男ってことが」


 ラピスがそういった瞬間、レイオスは自分の背中辺りに魔力が集まるのを感じた。よく見ると、いつの間にかレイオスを締め付けていたラピスの両手がなくなっている。


 (と、いうことは・・・・・・!)


 「一度、十分の五十殺しぐらいやられなきゃわからないようね!」


 「ま、待て!早まるな、俺の前にはレイラがいるんだぞ!?」


 「大丈夫、レイオスだけを打ち抜けるよう調節してるから」


 「そ、それでもだめだ!俺が死ぬ、ってか、十分の五十殺しって、それだと俺は五回死んでしまうんだが!?」


 「大丈夫よ、痛くしないから。一万分の一の確率で」


 「めちゃくちゃ、痛くする気まんまんだろ!!」


 「問答無用よ!女性の胸を触るなんて言語道断よ!」


 「レイラはともかく、お前に触れる胸なんてないだろ!」


 「ぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺す部分ぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺おおおおおおおおおおおおおす!!」


 「ぎゃあああああああ!!」


 完全に修羅となったラピスが、両手をレイオスの背中に当てる。そして、放った。


 「シルフィーーード、ラァァァァアアンスッ!!」


 「ま・・・・・・!」


 レイオスは目をつむった。自分の背中にシルフィード・ランスが直撃したら下手しら死んでしまう。








 が、いつまでたってもラピスのシルフィード・ランスは来なかった。


 「・・・・・・あれ?」


 「・・・・・・あれ?」


 レイオスとラピス、二人そろって間抜けな声がでた。レイオスはシルフィード・ランスが来なかったことに。ラピスはシルフィード・ランスを放てなかったことに。


 気まずい沈黙が流れる。そして・・・・・・


 「えいっ!」


 「ぷぎゅっ!?」


 ラピスの右足がレイオスの股を直撃した。











 


 「あ、あのレイオスさん大丈夫ですか?なんだか、とても痛そうですけど」


 「あ、え?ああ、大丈夫。落ちたときに太股を怪我しただけだから」


 「それに、ラピスさんも頭がぼさぼさですよ?どうしたんですか」


 「いや、なんでもないわ」


 「だろうな。さすがのおまえも、自業自得を人のせいにはできないだろ」


 「他人のことを考えないあんたには言われたくないけどね」


 やけに太股をさするレイオスと、髪が爆発したようになっているラピスを見て、レイラは二人を不思議そうに見た。が、二人の不穏な空気を感じ取ったのかすぐに黙り込んだ。


 (どうしたんでしょうか、お二人とも。やっぱり、ラピスさんが魔術を放ったことが原因なのでしょうか・・・・・・)


 演習場で起こったことを思い出す。あのとき、レイオスが止める暇もなくラピスは何メートルもある地面を破壊するためのシルフィード・ランスを放った。そして、本来ならば魔力を吸収し魔力を倍増して術者に送り返す地面がシルフィード・ランスが直撃した瞬間、嘘のように破壊されたのだ。だが、シルフィード・ランスの強さが予想以上に大きかったのか、地面をえぐるだけではなく自分たちの足下まで破壊してしまい、今現在、この状況に陥っているのだ。


 そこでレイラは考えるのをやめた。あたまを横にぶんぶんと振って、頭の中にあるもやもやした物を吹き飛ばす。


 (私が悩んでちゃ、二人をまとめられない)


 なぜ、レイオスとラピスの関係が不安定になっているのかは分からないが、こういう時こそ自分の出番なのだ。いつも、守ってもらってばかりじゃ割に合わない。


 「は、、早くいきましょう!テイルさんを見つけて、こんな暗いところからでましょうよ」


 先頭に進み出て、レイオスとラピスを交互に見ながら言う。


 「そうだな、早くこんなところからでないと何回死ぬか分かったもんじゃないからな」


 「あ〜ら、誰に殺させるのかしら!?私の方を見て言わないでほしいわね!」


 「自意識過剰も程々にしろよな。はっ!そんなんだから、恐怖の生徒会長って呼ばれるんだよ」


 「その二つ名は関係ないじゃない!」


 「どうだか。案外、おまえがたちどころに魔術を放つせいじゃないのか?」


 「・・・・・・やる気?受けてたつわよ!」


 「魔術も使えない奴が、喧嘩腰になるなよな。負け犬の遠吠えに聞こえるぞ」


 「こっ、こんの!」


 (ふえぇ〜〜ん!逆効果になっちゃったです〜〜!!)


 場の雰囲気を和ませるつもりが、逆に険悪なムードになってしまったことにレイラはどうすることもできずに、ただその場でうろうろしてしまうだけだった。


今回は少々長めでしたね。次回ですが、4月7日までにはもう一話更新したいと思っています。もし、四月七日に更新していなかったら、その次の週までには更新するつもりです。

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