第三十三話 交差する二人の思い
「おっとと・・・・・・やっぱり、これだけの量となるときついな」
「そ、そうですね・・・・・・。それより、テイルさん、大丈夫でしょうか?」
「なんで?おっと」
「あわわわ・・・・・・ふう。あの、結構寂しがり屋みたいな感じがするんで」
「ふ〜ん、そうなのか?俺はぜんぜん気づかなかったけどな」
大量の本を両手に持ちながら、レイオスとレイラは演習場へ続く階段を下りていた。デルフィナが貸してくれた暗号に関する書物と、その他にも暗号の解読に役立ちそうなものが何冊もレイオスとレイラの手に持たされている。あまりの本の量と重さに、レイオスとレイラは足下がおぼつき、今にもこけそうになっていた。
「まあ、大丈夫じゃないか?俺がみた限り、ラピスたちの中ではあいつが一番強いと思うからな」
すると、レイラは驚いたようにレイオスをみた。
「えっ!? て、テイルさんてラピスさんより強いんですか!?」
「ああ、魔力の量ではラピスたちの方が圧倒的に上だけど、体術や筋力、氣の量ではテイルの方が圧倒的に上だな。その上、テイルは初級程度だけだが魔術が使える。攻守好きのない魔法戦士のようだからな」
「へぇ〜〜」
半信半疑、といって感じでレイラが相づちを打つ。
「あ、信じてないな。その目は」
レイオスの話を信じていないレイラに向かって、顔を近づける。
「ふえっ!?あっ、きゃ、きゃああああ!!」
その瞬間、レイラの動きが急に止まった。そして、それと同時に手に持っていた本の山が崩れ落ち、レイラは下敷きになってしまった。
「あ〜あ、自業自得だな」
「きゅ〜〜〜〜」
なんとも、かわいらしい声を出して気絶している。というか、レイラの気絶する回数が普通の人より多いのはレイオスの気のせいだろうか。
「ったく、しゃあない。一回、演習場に本を置いてきてから助けるか」
そう言って、レイオスはレイラをその場に置いておくと駆け足でテイルがいる演習場へと向かっていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う」
顔にかかる冷たい何かに起こされ、テイルは目を覚ました。
上半身を起こす。
「・・・・・・・・・・・・そうか。俺、確か穴から落ちて・・・・・・穴?そうだ、穴だ!出てこい、誰かいるんだろ!?」
記憶がよみがえり、自分が誰かによって作られた穴から落ちたことを思い出す。すぐに、近くに無造作に置かれていたガリオンを手に取ると、起きあがって謎の声に警戒しながら大剣を構えた。
「冷たっ!」
また顔に何かがかかる。一度、大剣を床におくと右手で顔を拭った。水だろうか、あたりが暗いのでよくはわからない。
もう一度、床において置いた大剣を手に取り構える。そして目を閉じ、精神を集中させた。
(・・・・・・ここは井戸のようなものか。人が三人程度、入ったらギュウギュウ詰めになるな。道は・・・・・・俺からみて右に一つと前に一つか。その奥は進まないとわからないな)
テイルが今行っているのは、精神を集中させ、自分の氣を周りに放出することで暗闇でもどんな場所か昼間と同じように確認することができる技だ。
氣練針。
自分の氣を体の至る所から放出し、針のように研ぎすませて飛ばす技だ。その針から半径十センチの範囲だけだが、目を閉じていてもその場所がどのようなところか瞬時に判断することができる。いわば、第三の目と言ったところだ。だが、この技を会得するには氣の扱いが十分に長けているものでないとできない。ちなみに、テイルはこの技を十五歳の時に拾得している。これは、驚くべきことだ。
「ふぅ〜・・・・・・はぁ」
肺にたまっていた息を吐き、そして吸う。
このとき、テイルがまとう雰囲気はいつもの陽気なものではなく、深く静かな戦闘だけを考えている雰囲気に変わっていた。
(まずは進むしかないか。さてと、右と前どっちに行く?)
テイルが氣練針を扱える範囲は、半径約五十メートルほどだ。だが、右と前、両方の道は氣練針の範囲から先が見えないことから五十メートルより長いようだ。
「しゃあない。右に行ってみるか」
悩んでいても埒があかないため、テイルは右の道を進むことにした。大剣ガリオンを背にしまい、歩き始める。もちろん、敵がいつ現れてもおかしくないように右手は大剣の柄をつかんでいた。
「吉とでるか、凶とでるか」
そういうテイルの顔は、自分自身でも気づかぬ内に笑顔になりつつあった。
「いない・・・・・・。あいつ、どこにいったんだ?」
レイラを助けるために、一度演習場に本を置きにきたレイオスだったがそこにはいるはずのテイルがどこにも見あたらなかった。確認のため一通り、演習場の至る所を探す。が、テイルの姿はどこにもなく、その場に置いてあってもいいテイルが背負っていた大剣さえもなかった。
「変だな・・・・・・。あいつが誰にも行き先を告げずに、どこかにいくような奴じゃないと思ってたんだけどな」
考えれば考えるほど、わけがわからなくる。レイオスは仕方なく、先にレイラを助けることにした。
「ま、腹が減ってきたら帰ってくるだろ」
テイルが今現在、どういう状況に陥っているのかも知らず、レイオスは気の抜けることをいってレイラの所へ向かおうとした。その時だった。
「・・・・・・?」
階段を上ろうとした瞬間、下から魔力の放出を感じた。とても微量な魔力の量だったので、確信を持っていえないが、なにか魔力を使った奴が地面の下にいることになる。
「なんだ、今の。・・・・・・・・・・・・まさかな」
そう思いつつも、今しがた感じた魔力が気になり、いやいやながらもレイオスは地面に手をつけると、地面に向かって魔力を放出した。
「ぐうぅっ!!」
すぐに、増大された魔力がレイオスの体に戻ってきた。あまりの激痛に、苦痛の声が漏れる。が、先ほど感じた魔力が感じられないため、続けて魔力を放出し続けた。
「があっ!」
先ほどより多く、魔力を放出したため、多量の魔力がレイオスの体に入り込む。激痛に耐えられなくなったレイオスはすぐに手を離すが、少しの間、体を動かすことができなかった。
「・・・・・・いつつつ、やっぱりあんな大量に魔力を流すんじゃなかったな。普通の人なら死んでるよ」
自分が改めて普通の人間ではないと、悲しくも実感しながらレイオスは下の方ーー地下に、ある魔力の固まりを発見した。その魔力は、ある人物から流れる少量の魔力の質とにている。
「何でそんなところにいるか知らないが、魔力を使っているところをみると何かやってそうだな」
そういうとレイオスは、階段をかけあがりレイラを本の山から助け出した。
「ふぇっ?れ、レイオスさん。あ、ありがとうございま――」
「話は後だ。早く暗号を解くぞ!」
「ふえっ?ちょ、ちょっと待ってくだ――」
「ゴー!」
「きゃああああああああああ!?」
有無をいわさずに、レイオスは右手に本を、左手にレイラをつかむと猛スピードで階段を下りていった。なぜか、本の山は崩れずにレイオスの手にのっかったままだ。レイラの方はというと、靴の先が階段の段差に当たり、悲鳴を上げていた。
「テイル、待ってろよ・・・・・・!」
レイラの悲鳴が聞こえないふりをし、レイオスはそう呟いた。
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