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第三十二話 テイルの心

今回は、シリアス風味となっております。

テイル・ロスウェーは悩んでいた。別に、腹が減ったとかお金がないとか寂しいとか彼女がほしいとかそういう、くだらない理由ではない。


 テイルには常日頃から思っていることがある。


 笑顔を絶やすな


 それが、いつも心に留めていることだ。だから、わざわざ嘘ばかり並べてみんなの気を引き笑いをとろうとしている。だが、現実はどうだ?確かに気は引けたかもしれない。笑いをとれたかもしれない。だが、


 自分の心は晴れない。


 さっきもそうだ、空回りしすぎて逆にうっとうしいと思われていたかもしれない。


 「はぁ〜」


 頭の中でざわめく雑念を追い払う。気にしても仕方がない。今まで、この方法で生きていたのだ。これからも、そうするしかない。そしたら、いつか報われる日が来るかもしれない。


 テイルは立ち上がると、体をほぐし始めた。暗号も持っていない上、頭脳派ではないためレイオスたちの帰りを待つしかないのだが、暇な為、体を動かすことしかやることがないのだ。


 「・・・・・・つうか、こんなバカみたいに広いところで一人で運動するとか・・・・・・なんかむなしいな、俺」

 

 そう、愚痴をこぼす。そして、背中に背負っていた大剣を両手でもって中段あたりに構えた。


 刀身だけで、テイルの背丈ほどもある大剣。刀身には、特殊な模様が施された所に地属性の魔力を増幅させるための魔力石が埋め込まれている。刃は、大剣の性質切るより叩くを改造した、叩くより切る性質に変えさせている。ただし、すぐに刃こぼれしてしまうため、小剣のように何度も切ることはできない。つまり、一撃必殺用にテイルは改造しているのだ。柄頭にも特徴がある。茶色をした丸い石が柄頭に組み込まれている。これは魔力石と違い、どの大陸でも剣士が愛用する体内の氣を増幅させるものだ。握りには、滑り落ちないよう革製の滑り布が巻かれている。


 「いくぜ、ガリオン」


 ガリオン――これが、この武器の名だ。ガリルレギオンの名が省略されたこの名は、その名の通り地属性の大剣だ。地属性の力を極限までとはいかないものの、ある程度、力の限界量を上げる効果を持つ大剣で、テイルが扱う武器の中でも、一位二位を争うお気に入り武器の一つだ。


 「ふぅぅぅぅっ!」


 剣を上段まで上げ、そして降りおろす。そして、また上段に剣を戻し、降りおろす。その行動を何回も繰り返す。


 「次っ!」


 大剣を構えたまま、跳躍する。そして、振り回した。反動で体が持っていかれそうになるが、うまく力の流れを操作しすぐに元の構えに戻り、また振り回す。これで、剣士にとって致命傷である空中の戦闘も可能だ。ただ、


 「うおわっ!?」


 うまく力の流れを操れず、体勢を崩してしまう時がある。今がまさにそうだ。そして空中で体制が崩れると一つだけ、あることが決まって起きる。


 「のおおおおぉぉっ!」


 結論――落下。


 先に大剣が地面に突き刺さる。そして、その後に続くようにテイルが頭から地面に落下した。


 「ぷぎゅっ!」


 顔がもろに地面に衝突し、変な声を出した。だが、誰も声をかけてくれる人がいないため、声が辺り一面に響きわたりむなしい雰囲気を出した。


 「・・・・・・・・・・・・なにやってんだろ、俺」


 体を横にして、天井を見る。特殊な光を放つたいまつは、テイルをあざ笑うかのようにゆらゆらと揺れていた。


 テイルは一人が嫌いだ。明るく振る舞ってはいるものの、そんなものは自分が作った偽の器のようなものだ。


 「今のメンバーも、俺のことをどう思ってんのかな」


 アシルとは、この学園に入ったときからの友達だ。悪さもした。たいがいは、アシルが考えたものをテイルが実行する。怒られるのはいつもテイルだが、すぐにアシルが適当な理由を付けて逃がす。そんなくだらないことをするのが、好きだった。


 ラピスとは、アシルが紹介してくれて知り合った学園での初めての女性といってもいい。初めてあったときの印象は、目つきの悪い臆病な女。アシルが近くにいるときは、いつも強気なのにテイルが近くにくると、いつもアシルの後ろに隠れるように逃げる。だが、少しずつなれてきたのか、今ではラピスが自分より強い存在になっている。


 「ははっ、笑えるな」


 レイラ、正直の所こいつは、面識がほとんどないためよくわからない。ただ遠目からみて、あいつは自分と同じように一人が怖いんだと感じることがある。だが、レイラが持つあの慈愛に満ちた瞳は、見る人を落ち着かせるのは確かだ。テイルも、あの目を見る度に心が落ち着くことがある。


 「あとは、レイオスか・・・・・・」


 レイオス、全くの謎。それしかいえない。初めてレイオスをみたときは、なぜかはわからないが鳥肌が立った。寒さのせいなどではなく、レイオスから発せられる殺気に似たようなものからだ。おそらく、レイオス自身は気づいていないのだろう。その証拠に、あいつがほかの仲間たちといるときはそんな気は感じられない。気のせいかとは思ったが、事実、あいつが一人の時はあの殺気が感じられる。


 「俺と同じ、一人だった男・・・・・・そう、ラピスは言ってたけどな」


 レイオスの過去はすごく興味があるが、あいつが自分の過去をしゃべったことは一度もない。まあ、自分の過去など早々語りたくないのは事実だが。ラピスだけは、仲のいい奴には自分の過去をいっているらしいが。


 「ああ、それにしても寂しい・・・・・・。誰か、来てくれねえのかなぁ」


 「だい・・・・・・ちの・・・・・・剣・・・・・・・・・欲するのであれば・・・我が神殿・・・・・・来・・・・・・・・・」


 「あっ!?」


 突然、頭の中で誰の声ともわからない不思議な声が聞こえた。こだましたといってもいいかもしれない。とにかく、テイルしかいないこの空間に誰かの声がテイルにしゃべりかけてきたのだ。


 「誰だ! こそこそしないで、出て来い!」


 だが、何の反応もない。


 テイルは立ち上がると、地面に突き刺さっていた大剣ガリオンを引き抜くと謎の声を警戒しながら構えた。


 「呼応・・・・・・するもの、暗号・・・・・・いらぬ。・・・・・・来い」


 瞬間、地面にぽっかりと穴があいた。深く、暗く、そして闇が支配する穴が。


 「んなっ!?」


 回避することなどできるはずもない。体が、すぐに落下を始める。


 「くそっ! なにがなんなんだよ!」


 ガリオンを穴の壁に突き刺そうとする。だが、硬度が思いのほか高く、逆にはじかれてしまった。


 もう、なにもすることはできない。目の前で演習場の天井が徐々に遠くなっていく。


 「くっ、くそおおおおおおおおおぉぉぉぉ・・・・・・!」


 為すすべもなく、突如現れた謎の穴にテイル。この穴の中になにが潜んでいるかは、まだ知らない・・・・・・。


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