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第二十八話 もう一つの暗号

 ラピス・テイルと別れた、レイオス・アシル・レイラの三名は黒い手紙に残されていた謎の暗号を解くべく、塔の中を歩き回っていたがやたらに塔の内部が広いのと暗号の内容に、詳しい場所が書かれていないこともあり、すぐに手詰まりの状態に陥っていた。


 




 「くそっ、俺が持ってる黒い手紙に残された暗号だけじゃ、塔の中に何かがあるってことしか分からないな」


 ガリルレギオンの二階にある教室を出て、廊下を歩いていたレイオスが愚痴をこぼした。


 ポケットから取り出した黒い手紙を右手だけで器用に広げ、もう一度暗号を見る。だが、暗号が別に増えたわけでもなく、手紙はレイオスをあざ笑うかのように近くの窓から入る風に揺られ、ひらひらと揺れていた。


 (何かが足りないのか?)


 レイオスは手紙をたたむとポケットにしまった。


 「レイオス、その暗号は一つだけだったの?」


 床に敷き詰められている大理石を足で軽くたたき、怪しい場所がないか調べながらアシルはレイオスに聞いた。


 「ああ。俺が持ってきた黒い手紙にはそれしか…………あれ?ちょっと待てよ。確か、もう一枚手紙があった気が……」


 懸命に思い出そうと手を額に当てて考えるが、金!金!と頭の中、脳内でもう一人の自分が考えるのを邪魔する。


 「金、金……手紙、黒、色…………金、金色?……いや、違うか」


 「ど、どうかしたんですか?」


 深みのある青い瞳をしたレイラが、レイオスを心配そうに見つめる。レイオスが何でもないと答えると、レイラは安心したのかほっと胸をなでおろした。そして、ポケットからあるものを取り出した。


 「あ、あの、レイオスさん。これ、私が作ったんですけど、た、食べてくれますか?頭を使う時には甘いものがいいって聞いたことがあるんです」


 レイオスはレイラの手のひらに収まるぐらいの小さな袋を受け取った。緑色の布で作られた、手のひらに収まるぐらいの小さな袋にかわいらしいピンク色のリボンで飾り付けをしある。


 「………………クッキーか。これ、レイラが作ったのか?」

 

 そのうちの一個を手に取り、まじまじと見てレイオスは感心した。かわいらしい猫の形をしたクッキーは、黒い生地をうまく使って黒猫を表現している。鈴もしっかり付いており、おそらく黄色の生地を使ってあらわしているのだろう。


 「は、はい。私、お菓子を作るのが好きなんです。だから、レイオスさんに食べてもらって味がどうか聞いてみたいんです」


 レイオスの顔をあまり見ないようにしながら、両手をからめ、少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。


 (この光景を自称美青年が見たら気をおかしくしそうだな〜)


 レイオスとレイラのやり取りを見ていたアシルがふとそんなことを思った。頭の中で、自称美青年が石のように固まり涙を流しているのが想像できる。アシルは、それを手に持っていたハンマーでたたき壊した。


 (手紙か〜。そういえば……)


 二人のやり取りを邪魔するのも悪いと思い、腰につけてあるポーチからある(・・)物を取り出す。


 「これもそうなのかな。ラピスに『あんたが読んどいて』って言われて仕方なく持ってたけど」


 アシルが取り出したのは、黒い手紙と一緒に置かれていたもう一つの手紙――緑色の手紙だった。角のほうにラピス・レティオール嬢へ、と書かれているがラピスに嬢をつけても似合わないなとアシルはこの手紙を見て思った。


 「うん、うまい。ほのかな甘みの中にかすかにだが塩味を感じる。甘すぎず、か。これなら子供にも大人にも喜んで食べてもらえそうだな」


 「あ、ありがとうございます。そ、それで、レイオスさんはどう思いますか?」


 「どうって?」


 「レイオスさんは、この味が好きかどうかです」


 「俺か。俺は――――」


 「れ、レイオス!これ、これを見て!」


 「ん?」


 ポーチから取り出した緑色の手紙を読んだアシルが、レイオスに手紙を渡す。一番欲していた答えを前にアシルにさえぎられたレイラは頬をプクーッと膨らませた。


 「これ……そうだ!これだよこれ。俺が持ってた黒い手紙と一緒に置いてあった手紙。アシルが持ってたのかこれ」


 アシルから受け取った緑色の手紙を読む。



 「え〜と、なになに……



  『拝啓  ラピス・レティオール嬢へ 突然のことで申し訳ないが君が持っていた楽譜をあるところに隠させてもらった。返してほしくば、今から書き記す暗号を解きたまえ。ま、レイオス・ウォーリアより頭の悪い君じゃ絶対、いや、千パーセント無理だろう。馬鹿だな君は。



 これが暗号だ。せいぜい解いてみたまえ→


 


  

  全ての謎を解きしとき 一つの力を手に入れん


  知識を用いて探すがいい 力を用いて探すがよい




  火の精霊は塔を支える窯に住む 窯の中へと進むがいい 優しきものしか入れない場所


  その中で一つの鉄を探すのだ それが力の道しるべとなる


   


  風の精霊は空に住む 翼を用いて進むがいい 荒れ狂う嵐を止めるのだ


  一つの石を見つけしとき それは そなたを導く流れとなろう




  水深き所にそれはあり 流れを止めてゆくがいい 轟く者は恐れず進め


  三つの短剣を一つにする時 新たな力を手に入れる

 


  

  極限なる寒さにそれはあり 力を操り進むがいい 一人でなければ進めぬ道を


  重なりし柄を持ちしとき 仲間を守る勇気を得ん


  


  五十の壁にそれはあり 人を頼りに進むがいい ナイスガイを先頭にせよ


  一つの大剣をつかみしとき 大地はそのものに応えよう

 

  


  雷の精霊はすべてを覆う 動きを遮断するがいい 鉄を近くに寄せるでない


  一つの玉を取りしとき あらぶる力は自分の力へと変わるだろう


  

  光の扉と闇の扉 光開いて過去を見ん 闇開いて未来を見ん


  最深に住む者を打倒せ それは 自分の姿を写し取るだろう


  越えよ 力を合わせて栄光を勝ち取るがいい 




                                      』





 一瞬の沈黙が続く。窓から入る風の音がとてもむなしく聞こえ、下の階から聞こえる生徒たちの声がとてもうらやましく感じられた。


 「レイオス、封をしときなよ」


 「ああ、わかってる。これは見せたらだめだ。悪魔を通り越して魔族になってしまう」


 間の悪い時とは、こういう時に限ってやってくるものである。階段から足音と何かを引きずる音(何かはわからないが、水分を含んでいる)がしたかと思うと、とてつもない笑顔でラピスが肉塊が砂にまみれたものを運んできた。


 「あ、レイオス、こっちは終わったわよ。そっちはどう?」

 

 ラピスあての手紙が来ているとはつゆも知らず、肉塊を窓側の壁に投げつけるとレイオスのほうへ向かって歩いてきた。


 「い、いや?こっちはまだ終わってないぞ。も、もう少し時間がかかるかもしれないからお前は下で食事でもしたらどうだ?」


 「さっき食べたからいい」


 レイオスの精一杯の嘘をいとも簡単に受け流す。


 「ら、ラピスさん。もう少し時間がかかりそうなので、私と一緒にお菓子作りしませんか?」


 「あ、ごめん。私、お菓子作れないの。ってか、料理全般は無理。食うのは大丈夫だけど」


 二番手のレイラの嘘をいとも簡単に受け流す。というより、お菓子作りでごまかすのは無理がありすぎる。


 「あんたら、なんか変よ。…………もしかして、私に隠し事とかしてるんじゃないの?」


 さすがラピスというべきか。こういうことに関しては勘が鋭い。図星を突かれたレイオスとレイラの目がぐるぐると回っている。


 「ラピス、さっき校長にあったんだけど。なんか知らないけどラピスの事呼んでたよ。あ、校長だ。こうちょ――――」


 「さいなら!!」


 さすがというべきか。幼いころから一緒にいたアシルは、ラピスの弱点が校長だということを分かっていたのだろう。誰もいない方向に向かって校長の名前を呼んだ瞬間、ラピスはひと言いい残すと、その場から消えてしまった。


 「……さすがだ、アシル」


 「さすがですね、アシルさん」


 「いやいや、それほどでも。それより、その暗号の中にガリルレギオンのことは載ってないの?」


 レイオスがもう一度手紙を開き、読む。


 「え〜と、……これだな。『五十の壁にそれはあり』が宝のありかを示す暗号だ。そのあとの人を頼りにということは……テイル!起きろ」


 肉塊に魔法をかけ傷をいやす。すると、肉塊だったものは徐々にだがテイルへと変わっていった。


 「俺、もうお嫁に行けない」


 「そんなのはどうでもいいから。それより、ガリルレギオンの生徒数って全部で何人だ?」


 「一つのクラスで約四百人。それが十一クラスあるから……四万四千かな」


 「四千四百だな。ありがとう」


 レイオスはそういうと、何やら計算をし始めた。そして、計算が終わるとテイルに五十近くの石が敷き詰められている場所がないか聞いてきた。


 「あるぞ。地下一階にある練習場。体術を習うところだが、そこが一番大きいからあるんじゃねえか」


 「ありがとう。よし、行くぞ」


 そういうと、レイオスは地下一階へと向かっていった。それにならって、アシルとレイラも地下へと向かっていく。ひとり残されたテイルは、一瞬の沈黙の後こうつぶやいた。


 



 「俺…………扱いひどくねえ?」



 そんな彼の言葉をかき消すかのようにレイオスから早く来いとの命令が下った。


  

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