第二十七話 ナイスガイの末路
「あんた、何、勝手に私の足をもっていってんのよおおお!!」
それが、ラピスの第一声だった。ああやっぱり、と思いながら自分の体に防御壁をかける。そして、ラピスの膝がレイオスの顔面にめり込んだ。
「げぼらぁっ!」
あまりの衝撃に体が浮き、十メートル近くまで吹っ飛ばされる。一回、二回と廊下の上で転がりようやく、止まった。
(しょ、衝撃が強すぎる。防御壁をかけてもこの威力……防御壁をかけていなかったら死んでたな)
遅れてやってきたアシルとレイラに助け貰いながら、レイオスはゆっくりと立ち上がった。
「ラピス、いきなり人の顔面に向かって飛び膝蹴りはないだろう。それに、テイルはお前の足代わりじゃないんだぞ」
「うっさいわね。私が決めたことはその時点で決定事項なのよ」
「どういう理屈だよ、それ」
あまりにも理不尽なラピスの言葉に、あきれながら言い返した。
「レイオス、あきらめなよ。ラピスに意見しても馬耳東風だから無駄だって」
「そうだな、馬耳東風だもんな」
「ラピスさんて、馬耳東風なんですか?」
「ちょっ、ちょっと、馬耳東風ってどういう意味よ!」
ただひとり、馬耳東風の意味がわからないラピスを放っておいてレイオスたちは話を続けた。
「いまどき、馬耳東風な奴ってもてないよな」
「確かにね。だけど、一部の人たちにはそれがいいらしいよ。自称美青年もそう言ってた」
「ちょっと……」
「わ、私の友達にもいますよ。そういう人」
「それより、レイオスの口からもてないなんて言葉がよく出たね。鈍感なくせに」
「俺は水の中でも泳げるぞ」
「ねえ……」
「そっちのほうに行ったか……」
「……………………レイオスさんのバカ」
「ん、なんかいったか?」
「い、いいえ、な、なにもいってませんよ」
「ねえってば!」
「レイラ、ファイト!」
「なっ、あ、アシルさん!や、やめてください」
「なあなあ、ファイトって何をがんばるんだ?」
「……………………いいかげんに、しなさあああああああああああい!!シルフィード・ランス!」
無視され、余ほど頭に来たのかラピスはレイオス・アシル・レイラ、三人共にシルフィードランスを放った。
「甘いっ!我の体に流れる光の王の血よ 悪しき力から我を守れ 光の王 レイオス・ウォーリアが命ずる アディキアー・テレイティム」
ラピスが魔術を放つことを予想していたのか、レイオスは自分の周りとアシル達の周りに光の防御壁を作る。衝突したシルフィード・ランスが跳ね返され、なぜかテイルがいる方向へと飛んで行った。
「いててて…………。レイオスの野郎、魔術なんか使いやがって。男ならこぶしで来いよな、まったく。……ん?なんだか嫌な予感が…………」
自分の身の危険を感じ取ったのか、周りを見るテイル。そして、自分のほうへと向かってきているシルフィード・ランスを見つけた。
「んなっ!?あれはラピスの怒り!何でおれのほうに来てるんだ!?……ま、まさか、俺があいつの三時のおやつ用に用意していたプリンを食べてしまったからか!?」
実際はそんなくだらない理由ではないが、この学校に来て間もない頃からあの魔術を食らい続けていたテイルにとってあのシルフィード・ランスはトラウマにも近い代物。ラピスの怒りと言っているのも、ラピスを怒らせた時に放たれる魔術だからそう呼んでいる。
「いや、それとも秘蔵写真を売ったのがばれたか。くそっ!こんなことになるんならもっと、きわどい奴も売っとくんだったぜ」
「ほお〜、今の話、もう少し詳しく聞かせてくれないかしら」
後ろから何者かが殺気がこもった声を出して、テイルの首根っこを捕まえた。一瞬の出来事に反応が遅れたテイルが抜け出そうともがくが予想以上に力が強く、抜け出すことはできなかった。
「テイル、あんたさ〜、本当にばかよね〜。わかんないのかしら、そういうことをしていたらいつかはばれるって」
殺気を放ちながら、テイルをシルフィード・ランスが来る方向へ体を向けさせる。
「あ、あの、ラピスさん?」
テイルの頭の中で、いやな予感がどんどん大きくなっていく。嫌、もうその予感は当たっているがそれを認めてしまったらやりきれない気持ちになるからそう思っているだけだ。
「ねえ、知ってる?あのシルフィード・ランスってね、回転しながら相手を攻撃するの。つまり、一番威力を発揮するのは相手の体が障害物やもしくは、誰かに体を押さえられている時なのよね」
「ってことは……ら、ラピスさん!?そ、それはだめだ。人として、それはやってはいけないことだぞ!」
「レイオスー、私、もう少し時間がかかるから先に言っててくれない?ちゃんと、テイルも連れてくるからさ。五体満足かどうかは分からないけど」
最後の言葉『五体満足かどうかは分からないけど』だけを、テイルだけが聞こえるようにしゃべる。その瞬間、テイルの頭の中で死という単語が浮かび出た。
「ああ、わかった。あんまりいじめるなよ」
「ちょ、ちょっと待って!お願いだ、誰か一人でもいいからここにいてくれ!」
悲痛な声を洩らし、仲間に助けを求めるが
「テイル、早く来いよ」
と、レイオス。
「テイル、五体満足かどうかは分からないけどがんばってね」
と、アシル。おそらく、耳がいいのか先ほどラピスが言った言葉を聞いていたのだろう。満面の笑みを浮かべ、その場を後にする。
「えと、テイルさん。私、スケベな人は嫌いです」
と、レイラ。レイラだけではなく、女性全員がこの言葉に賛成の手を挙げるだろう。
仲間に見捨てられ、絶望の淵に立ったテイルに追い打ちをかけるように三本のシルフィード・ランスが目の前まで迫っていた。
「テイル、何か言い残すことは?」
ラピスが、胸の前で十字を切る。
「…………おれ――――」
「はい、終了〜〜。ってことで」
自分が言い出したことにも関わらず、テイルの言葉を強制的に中断させた。そして、絶望の淵に立ったテイルを落とすように三本のシルフィード・ランスがテイルに襲いかかった。
次回から、ちゃんとした推理物に入ります。