第二十五話 お金泥棒が残した暗号
光と闇の塔、その最上部付近にある部屋にその者はいた。髪は灰色。所々、白いものが見えるがおそらく白髪だろう。顔は無精ひげでおおわれ、清潔感が全くない。服は、ねずみ色のカースクという全身の服が一つになったものを着ている。
男はあたりを見回した。部屋には人が住んでいる痕跡が見られるが最低限の生活用品しかなく、興味深い物と言えば一定時間ごとに色が変わる窓しかなかった。
「こりゃひでぇぜ、めぼしいものが全くないとは。あの方もなんでこんなところから盗めなんて言うんだよ」
文句を言いながらも、何かめぼしいものがないか探し始める。タンスの中、風呂、トイレ、カーペットの下……………………
「くそっ、ほんとうにあんのか?」
必ずあるから盗りに行けと言われたが、この様子だとめぼしいものはなさそうだ。本当はだまされたんじゃないかと思いながらも、自分は狙った獲物は逃さない盗賊だ。そう奮い立たせ、根気よく探し続けることにした。
「あの方に逆らうと恐ろしいからな…………。やべっ、今鳥肌が立ったぜ」
腕をさすりながら物置のような場所を出て、次の部屋へと向かう。その時、見ただけで興味をそそられる扉を見つけた。かすかにだが、魔力が放たれているのが見える。
「ほう……封印魔法か。光のレイト文字二つと、水・風・火のレイト文字が各4文字ずつ使われている。なかなかの術式だ。ということは、開けたら魔術が発動するってことだな」
そう言いながら、男はポケットから銀色をした棒を取り出した。そして、その棒に何かを唱え扉の取っ手にあるカギ穴に差し込んだ。
「むっ!?」
泥棒を探し始めてから、一時間が経過していた。シャイレストの塔から探し始め、サンダウロスの塔まで来ていたが塔の一つ一つが大きすぎるため、探し出すのに時間がかかっていた。最初は元気のあったラピスも、一時間走りっぱなしでいると疲れるらしい。今は、テイルにおんぶしてもらいながら泥棒探しを続けていた。
「どうしたんだい、レイオス。険しい顔をして」
「いや、自分の部屋に仕掛けてあった泥棒対策用の魔法に誰かが触れた感じがするんだよな」
「ど、泥棒対策用ですか?」
「ああ。俺以外の誰かが、勝手に部屋に入り込もうとすると発動するトラップ式の魔法なんだ」
まさかな、と思いつつもこのことをラピスに報告する。すると、ラピスは『それだ!』とばかりにレイオスの部屋へ向かうことにした。
「ほら、早く行くわよ!走れ、テイル」
「わ、わかったから後ろ髪を引っ張んな!って、いでででででで!!」
テイルの後ろ髪を引っ張りながら、ラピスはテイルと一緒に階段を下りて行った。
「レイオス、こっからだとちょっと時間がかかるんじゃない?」
「そうだな……、よし!ちょっと待ってろよ。レムエムに頼んでみる」
「ああ、あの犬っころだね」
「……………………」
アシルが何か言った気がするが聞こえないふりをし目を閉じ、精神を集中させる。すると、一筋の光の線がレイオスの前に現れる。レイオスはその光の線に向かって意識を集中させた。
(レムエム…………聞こえるか)
(レ、レイオスか。今、少々取込み中でな。またあとにしてくれ)
(そういうわけにはいかないんだよ。部屋の魔法に誰かが触れたようなんだ)
(それは本当か?そうだとすると少々……わふっ!また来よった)
(…………レムエム、もしかして追われてるのか?)
恐らく、校長に追われているんだろう。レムエムも、厄介な人に目をつけられたものだ。
(言うな……。それより、我は今忙しい。お前に手は貸せぬぞ)
(んなっ、バカ野郎!もし部屋の魔法を解かれて部屋にある金を取られてみろ。今日から、野菜オンリーになるぞ!)
(むっ、そ、それは困るぞ!我は肉しか食わんのだ)
(なら、早く来い。雷の塔の最上階にあるテラスにいるから)
(わかった。……ええい、しつこいぞ貴様!あっ、尻尾は触るな!)
レムエムからの通信が途切れた。最後の言葉が少々気になるが、レムエムなら大丈夫だろう。
「レイオス、終わった?」
「ああ、もうすぐ来るよ」
すると、レイラが首をかしげた。
「何が来るんですか?」
「今すぐわか――――」
『レイオス!今すぐ飛び乗れ』
「ほらな」
レムエムが階段を駆けのぼり、レイオスたちの前に止まった。後ろからは、どこかで聞いたような声が少しずつ近づいている。
「あ、あ、あわわわわ、お、お、おおおおおおおか、かっかかかみ!?」
レイラが驚くのも無理はない。今のレムエムは、早くレイオスたちの所へ着くため体を元の大きさに戻していたのだ。高さは、レイオスの二倍はあり牙も口からはみ出している。体を白く輝く毛でおおわれたレムエムを見れば、一度見たことがあるものでも驚きは隠せない。アシルも、レムエムの姿を見て腰を抜かしていた。
「アシル、レイラ、早くレムエムの背中に乗れ」
「い、いや、む、無理だよこんなの。突然変異にも限度ってもんがあるよ」
「わ、わ、わわ、私も無理です。で、でかくて、ここ、こ、怖すぎです」
『心配するな。オオカミである我に任せれば、目的の場所などすぐにつける』
レイラにオオカミと言われたのがよほどうれしかったのだろうか。尻尾を振りながら、鼻を高くした。
「仕方ない、問答無用だ」
レイラを両手で担ぎ、レムエムの背中に乗る。そして、レムエムがアシルの服を口にくわえた。
「ちょっ、待って!え、何、いじめ?これいじめだよね!」
「アシル、すごいな。レムエムが口で運んでくれるなんて、相当恨まれていないとしてくれないんだぞ」
「ってことは、僕がここにいたら危ないってことでしょ!レイオス、助けてよ」
「よ〜し、出発〜」
『行くぞ!しっかりつかまっていろ』
「は、話を聞――――――」
レムエムが足に力を込める。そして、助走をつけテラスから飛び降りた。
「ぎゃあああああああああああ!!」
「きゃああああああああぁぁぁぁ!!」
「レムエム、俺が窓を開けるからそこから入ってくれ!」
『わかった』
一度、地面に着地しそのまま光と闇の塔に向かって疾走する。そして塔にたどり着くと、前足の爪を魔力で大きくし、登り始めた。
「きゃああああぁぁ……………………」
レイラの叫び声が途絶える。おそらく気絶したのだろう。
「いたっ、痛い痛い!か、体が壁に当たってるって、レイオス!」
前のほうから何か聞こえる気がするが、自業自得というものだろう。レイオスは聞き流すことにした。
『レイオス、見えてきたぞ!』
前方に窓が見える。色が変わっているから、おそらく自分の部屋の窓だ。事前に施してあった封印魔法を解き、鍵をあける。そして、レムエムが窓の中に入った。
「よいしょっと」
レムエムの背中からレイラを担いだまま降り、レイラを近くの椅子に座らせる。アシルはというと、着地したレイムエムの下敷きになっていた。
「れ、レイオス、助け……」
アシルがなにやらつぶやいたかと思ったが、レムエムが歩き出した瞬間、足に踏み潰されそのまま意識をなくしてしまった。
「レムエム、早く行くぞ!」
『うむ!』
元の大きさにもどったレムエムと一緒に、自分の寝室の場所まで行く。その時、レイオスの頭の中で何かがはじける感覚が起こった。
「くそっ、術式が破壊された!」
焦りが出始め、走るスピードが速くなる。そして、ついにレイオスの寝室の前まで来た。扉は無残に破壊され、周りが焼け焦げている。おそらく、術式の中に魔術を放ち暴走させたのだろう。
「中は…………無事のようだな」
『レイオス、机に何やら手紙みたいなものがあるぞ』
レムエムに言われて、机のほうを見ると確かに、黒色の手紙と緑色の手紙が二枚置かれていた。不思議と、黒色の手紙に手が伸びそれを広げ読む。
『拝啓 レイオス・ウォーリアへ。突然のことで申し訳ないが、ある方のご命令により君の一番大事なものを隠させていただく。もし、大事なものを返してほしくば今から読み上げる暗号を解読してくれたまえ。君の頭では無理かもしれないがね。ハッハッハッハ!
追伸:ついでに、お金が見つかったので貧しい貧しい人たちに分けてあげます。
これが暗号だ!
光と闇、反するようで反しないそこから始まる物語
すべての力を集めし時 栄光の扉が開かれん
火の精霊は怒りんぼ 近づく者には容赦はしない ただし 優しき者が入る時
一つの言葉を残すだろう
風の精霊は気まぐれ屋 風のままに 自由のままに あなたと次へと導こう
風吹く集いの場所に それはある
水の精霊は表裏一体 水あるところにそれはあるだろう
怒れる者には束縛を 轟く者には宝物を渡される
氷の精霊はさみしがり屋 仲間とともに来る時 嫉妬で氷漬けにされるだろう
逃れたければ さみしがり屋を連れて来い その時扉は開かれん
地の精霊はナイスガイ!! 数ある罠を打ち消そうと 体を張ってくれるだろう
すべての罠を越えしとき 剣の力手に入れん
雷の精霊は臨機応変 一つで二つを使い分ける 呼応する力と打ち消す力
その二つが揃う時 次なる扉が開かれん
光と闇は白と黒 光消えるとき闇生まれん 闇消えるとき光生まれん
二つの力今一つに 一つの力今二つに 混じり合わせし その力
だが為に使う だが為に振るう
闇を恐れて光をつかむ 光を恐れて闇をつかむ その者を裁く力を得て
新たなる力へと変えるがいい さすれば最後の扉が開かれん
すべての力を集めしとき 栄光の扉が開かれよう 輪の中に入り唱えるがいい
この世界の名は
ウェーズ・ユニテリア
』
『ふむ、暗号か。なかなか難しそうだ。…………それより、レイオスどうしたのだ?口をあけて』
前足を器用に使い手紙を読んでいたレムエムだが口を大きくあけたまま石のように硬直しているレイオスをみて、不思議そうに聞いた。
「貧しい人に、貧しい人に、貧しい人に?わ、わ、わ、わ、わ、わ、わ、ワケテアゲル?……………………ふ、ふざけやがって。お、おれの金だぞ!おれの、おれの、おれの、おれのおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
レイオスの体から多量の魔力が放出される。放出された魔力は、レイオスに呼応するかのようにまがまがしい魔力に変わっていた。
『れ、レイオス?お、落ち着け。冷静にならなければ泥棒は捕まえられんぞ』
「俺の金ええええええええええええ!!」
そう叫ぶと、レイオスはすごいスピードで部屋から出て行った。犯人を捕まえ、自分のお金を取り返すために。あわよくば、泥棒の金も自分のものにするために!