第二十二話 お食事タイム
「へぇ〜、ここが食堂か」
四時限目の授業も終わり、昼食をとることになったレイオスはアシルやレイラと一緒にシャイレストの生徒専用の一階にある食堂まで来ていた。
壁や天井には赤い色をした花蓮石という、装飾品に欠かせない石が一ミリの隙間もなく積まれている。奥のほうにはテラスがあり、そこから流れ込む太陽の光が食堂を照らしていた。
「ここはね持参してきたお弁当を食べたり、皆が並んでいる場所、あそこだけど、あそこで料理人に注文して料理を作ってもらったりするところなんだ」
そういうと、アシルは入口から右側のほうにある厨房を指差した。確かに、生徒たちが並んで注文しているのが見える。主に男だけだが。
「と、ところで、レイオスさんはどうするんですか?」
「どうするって?」
「ここで注文して食べるのか、それとも自分の作ってきた弁当を食べるのかってことだよ」
「ああ、それなら今朝弁当を作ってあるからそれを食べるよ」
「そ、それじゃあ、レイオスさんもアシルさんも一緒にお弁当を食べませんか?私、いつも一人でさみしかったんです」
カバンから取り出したピンク色の布で包んであるかわいらしい弁当を持って笑顔でレイオス達を見た。
「俺はいいぞ」
「僕もいいけど、大丈夫かな……」
「何が?」
アシルが、眉間にしわを寄せる。それをレイオスは不思議そうに見た。
「どうした何かあるのか?」
「…………ちょっとこっちに来て」
「あ、ああ」
きょとんと、首をかしげるレイラから少々はなれた所まで行くとアシルはしゃがみ込んでそっと話し始めた。レイオスもつられてしゃがみ込む。
「レイラが男子生徒の中でかなり人気があるのは、男子たちの反応を見ていてもわかるよね」
「えっ、そうなのか!?」
「…………話を進めるよ。男子生徒に人気のあるレイラだけど、あの性格だし男子が苦手だから誰も近寄れなかったんだけど……」
「ど?」
すると、アシルはレイオスのほうを指差した。
「君が現れた」
「俺?俺がどうしたんだ」
「レイラがあそこまで男子に積極的に話しかけたりするのはレイオスが初めてなんだ」
「なるほど、つまりレイラは――」
「そう!」
「俺と友達になってほしかったんだな。そうなら、自分の口から言えばいいのに……って、アシル、なんでこけてるんだ?」
「もういいよ……。レイオスがそこまで鈍感とは思ってなかった」
「鈍感?俺は感は鋭いほうだけどな」
「そんなお約束みたいなセリフはいいから。…………ふう、話を戻すよ。つまり、このままレイラと仲良くしていると男子達から何かされるかもしれないよ」
「何かって、なんだ?」
「それは――」
「レイオスさ〜ん、アシルさ〜ん、早くお弁当食べないと時間が無くなっちゃいますよ〜」
レイラが痺れを切らしたのか、少々大きな声でレイオス達を呼んだ。
「あ、はい。今行くよ」
アシルが話を中断して立ち上がる。レイオスも立ち上がろうとしたとき、
(ん?)
どこからか視線を感じた。視線の感じたほうに目を向けるが、そこには誰もいない。
「…………気のせいか?」
「レイオス、どうしたの?」
「ん、いや、なんでもない」
先ほど感じた視線が気になったが、気にしすぎも良くないなと感じレイラと合流しテラスへと向かった。
〜テラス内部〜
太陽の光が降り注ぐ。その光は、食欲を促すような陽気な光だった。
「す、すごいですね!レイオスさんのお弁当」
「そうか?レイラの弁当もかわいいけどな」
「僕のお弁当はどう?」
「う〜ん、美味いが量が足らねえな量が」
「量か〜…………って、なんでテイルがここにいるの?」
いつの間にか、テイルがアシルの弁当を食べていた。味見のはずなのに、アシルの弁当の中身がほとんどなくなっているのは気のせい…………ではない。
「いや〜、自分の弁当がなくてさ。いろんな塔の食堂を訪ねてみんなから少しずつ分けてもらってたんだ」
そう言って、今度はレイオスの弁当を食べ始めた。
「なんで弁当を持ってきてないんだよ。金がないのか?」
「金ならある。仕送りがあるからな。だけど、弁当を我慢できなかったんだよ」
そこで、レイオスは今の言葉に矛盾があるのを感じた。
「ガマンデキナカッタ?」
「ああ」
レイオスの弁当を食べ終え、今度はレイラの弁当を食べようとした。だが、レイラはいつの間にか弁当を片付け食べられないようにしていた。
「ちっ!やるな。っと、一時限目に腹が減って食べちゃったんだよ弁当。だから、こうやってみんなの弁当を味見してるんだ」
「…………アシル、レイラ、目を閉じとけ」
「何で?」
「いいから」
レイオスに言われて、二人が目を閉じた。その瞬間、レイオスはお金が少ない中で工夫して作ったお弁当をすべて食べたテイルに向かって怒りの呪文を唱えた。
「コルテウス・ブレイバー」
人差し指をテイルの方に向け唱えた。瞬間、人差し指から光があふれだしあたりを白く染める。
「のぎゃあああぁぁぁ!!」
まともに光を浴びたテイル。眼がぁ!眼がああああ!と叫んでいる様な気がするがレイオスは気にしない。
「わ、私のお弁当、まだ余ってますので一緒に食べますか?」
「え、いいのか?」
「はい」
「それじゃ、遠慮なく」
「アシルさんもいいですよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
レイラのお弁当箱に入っていたサンドウィッチを一つ手に取って食べる。
「うん、おいしいなこれ」
「本当だ」
「えへへ……」
有意義に時間を過ごす三人。そして、その近くで眼を押さえていて絶叫している男がいるのを周りの生徒たちは、不思議そうに見ていたのであった。