第二十一話 初めての授業〜後編〜
「一時限目って何だ?」
レイオスがカバンに入れてある勉強道具を見ながら、レイラに聞いた。中には筆記用具や教科書、レイオスお手製のお弁当などが入っている。
「え?は、はい。一時間目は確か……魔術学、だったと思いますけど」
「魔術学か。どういうことをするんだ?」
カバンから魔術学の教科書を出す。
「魔術学は、主に自分に合った系統の魔術を学びます。といっても、ここにいるほとんどの生徒達は火系の魔術が得意なんですけどね」
「へ〜……ということはレイラも?」
「私の場合は、火系の魔術も扱えるんですが水系の魔術も多少ですけど扱えます」
「魔術は見た目でわかる……って、レムエムが言ってたけど本当なんだな」
「はい?」
「いや、なんでもない」
「レイオス、そろそろ授業が始まるよ」
アシル言葉に反応するかのように、授業開始のベルが鳴った。
一時限目〜魔術学〜
扉が開き、魔術学の先生が入ってきた。
年は30から40ぐらいの間だろうか。女性で、茶色のローブを着て、耳や首にとても高そうな宝石を付けている。遠くからでもわかるほど厚化粧をして年をごまかしているようにみえるが、髪にいくつか白髪が生えている。顔は両方の頬が垂れていて、ラブックという頬が垂れた犬にそっくりだ。
「それでは、魔術学の授業を始めますわよ。皆様、教科書の53ページを開いてください」
外見とは想像つかないぐらい、透き通るような声で生徒たちに指示を出す。生徒たちは、先生の指示に従って教科書を開いた。
「なあ、あのラブックみたいな先生の名前、なんていうんだ?」
ラブックといった瞬間、アシルが口を手でふさいでいるのが見えた。
「ご、ごめん。やっぱりレイオスもそう思うんだ。あの先生の名前はね、ファブーラ・ラックというんだ。かなりやり手の魔術師でね。上級呪文を20個近く覚えているらしいんだ。ただ容姿が……あれだからさ、生徒達からはレイオスが言ったようにラブック先生って言われているんだ」
「ふ〜ん」
大抵の魔術師が覚えられる上級呪文は、5個が限度だ。ということは、ファブーラは魔術師の中でも上位に位置する魔術師ということがわかる。
「それでは、陣を使わないで行う魔術、アスネース(魔力変換式強制無効魔術)を誰かにやってもらいましょう。誰にしようかしら…………それでは、アシル・ホーネンス君」
どうやらおしゃべりをしている間に、授業が進んでいたらしい。アシルがあわてて、中央にある円形状の空間に行く。
「それでは、始めて」
だが、アシルは何をするのかを聞いていなかったため何をすればいいのかわからなかった。
「すいません、ラブ……ファブーラ先生。何をすればいいのでしょうか」
アシルが謝る。すると、ファブーラ先生は大げさにため息をついた。
「私の話を聞いていないなんて……どうやらお喋りでもしていたようね。仕方ありません、代わりにほかの人にやってもらいましょうか…………それでは、レイオス・ウォーリア君。あなた、アシル君と同じ場所よね。丁度いいわ、あなたにやってもらいましょう」
ファブーラ先生が顔をゆがめて、気味の悪い笑みを作った。
(あれ、絶対にわざとだよな)
(ああ、アシルがレイオスとお喋りしていたことを知っていてやってるんだろう)
(私、あいつ嫌い!)
(ラブックだもんな〜)
ほかの生徒達が、ファブーラ先生に聞こえないよう小声でしゃべる。生徒たちは、ファブーラならぬラブック先生が嫌いなのだ。
「わかりました」
レイオスはそういうと、中央にある空間へ向かった。
(で、レムエム。ラブックは何て言ってたんだ?)
(我を無視しておいて、ごめんなさいの一言もないのか?それがなければ教えんぞ)
授業が始まる直前に入ってきたレムエムに向かって念話をする。今まですぐそばにいたのは知っていたが、レムエムと念話をしながら他の人としゃべるのはとても大変なので、無視していたのだ。
(別にいいだろ。他の人に話しかけながらお前と念話したら、頭がパンクしてしまうからな)
悪びれた様子を見せずに、レイオスは言った。
(ふん、そういうことにしておいてやる。だが、今度そんなことしたら許さんからな)
(わかったよ)
中央の空間にたどり着く。するとレムエムは一言、『アスネース』言い残すとどこかへ行ってしまった。
「それでは、はじめてくれるかしら」
嫌みたっぷりにファブーラが言う。ファブーラはまだ、レイオスがレムエムに何をするのか聞いていることを知らない。
「わかりました」
そういうと、レイオスは胸の前に手をかざしアスネースを行った。
アスネース――通称、魔力変換式強制無効魔術。魔術は、魔力を使うときに精神エネルギーを変換させて魔力へと変える。その時、変換する際に必要なのが陣で、精神エネルギーが陣を通り魔力に変換することで魔術が使える。だが、この術式は変換するときに使う陣を使わずに体の中で魔力に変え魔術を行うというものだ。
陣を使わず、体内で魔力を作るのでいちいち詠唱を唱えずに魔術を使えるというメリットがある。
ただし、この術式を行うとき、精神エネルギーを必要な分だけ使う量と魔力に変換するときの術式を同時に体内の中だけで行うので、体に多大な不安がかかるのだ。そして、体にかかる負担が大きすぎる中級魔術から上級魔術は一切使えないというデメリットもある。
息を吐き、そして吸う。レイオスの中で精神エネルギーが魔力へと変換されてゆく。そして、今度は頭の中で術式を組み上げ始めた。
「行きます、…………シャイニング・スタウロス」
突如、光の十字架がレイオスの目の前に現れた。光の十字架は、一定時間空中に漂っていると、現れた時と同じように突然消えていった。
「な…………!」
ファブーラが驚きの余り、声が出なくなる。
(な、なぜ!?この子は何をするか知らなかったはず……。それに、光系の魔術を使うなんて)
「で、先生、これでいいんですか?」
レイオスが笑みを浮かべて、ファブーラに聞く。ファブーラは何か言いたげな顔をしていたが、それをごまかすように咳をした。
「え、ええ、とってもよくできました。アシル君、レイオス君下がっていいですよ」
レイオスとアシルが言われたとおり、席に戻る。すると、レイラが落ち着かない様子で待っていた。
「レ、レイオスさん、アシルさん、大丈夫ですか?」
「なにが?」
「大丈夫だよ」
レイラの問いに、アシルは答えたがレイオスは、レイラが言った意味が分からず逆に問いかけた。
「ファブーラ先生にいじめられませんでしたか?わ、私、二人の名前が呼ばれた瞬間、気が気でなくて」
今にも泣き出しそうなレイラを見て、レイオスは軽くため息をついた。そして、右手をレイラの頭にのせ、優しくなでた。
「泣きそうな顔するな。レイラは、笑顔のほうが可愛いぞ」
「ふぇっ!?」
レイラが奇妙な声を出して顔を赤くした。
「うわっ!?どうした、レイラ」
「な、なんでもないです」
「そうか、それならいいが」
『レイオス、恐るべし……』
先ほどのやり取りを見た生徒達が声をそろえて言った。男子は歯軋りをしながら、女子は嫉妬の目をレイラに向けながらだが。
やっと執筆再開しました。正月気分が抜けず、更新しなかったこと、お詫びいたします。これから、どんどん更新していきます。