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第十七話 精霊の歌

 


 『私の中にある心の中の 閉じ込められた思い』




 「ん…………ここは?」


 レイオスは真っ白な部屋にいた。壁も天井もドアもベッドも机までもがすべて真っ白でそれが窓から入る朝日で反射して目が痛くなってくる。


 「助かったのか……」


 どういう経緯でここにいるのかはわからないが、恐らくだれかがここまで運んでくれたのだろう。


 『全てをつなぐ人の思い あなたにささげ今歌おう』


 「さっきも何か聞こえたと思ったけど、これは…………歌?」


 レイオスはベッドを降りると、歌がするほうに向かって歩いて行った。真っ白な扉をあけ、通路にでる。どうやら通路は白くないようだ。大理石でできた壁が一ミリの隙間もなく組まれている。


 体が重いな……。


 レイオスは歩きながらそう感じた。おそらく、フェヴェリオスとたたかった時に魔力をかなり吸い取られたらしい。


 フェヴェリオス……闇の王か。


 レイオスはあの時の戦いを思い出し身震いした。今まで幾度となく戦ってきたがあそこまで圧倒的な力を持つ者は初めてだった。


 そして、エルハイマ……。あいつ、恐らくだが魔族に近い存在だろうな。


 エルハイマの背中に生えていた黒い翼を思い出す。精霊ではあのように黒い翼は生えない。


 しかし、まさか人間になるなんてな。おへそ丸出しで寒くないのかな、あれ。


 『風は自由で 全てを覆うやさしき風は私に力をくれる』


 窓が開いていた。その窓はベランダへと続く場所になっており、声はその場所から聞こえていたようだ。


 「いったいだれだろ、歌を歌ってるのは」


 窓を飛び越え、ベランダに出る。そして声のするほうに向って歩き出した。


 『あなたが自分の思いを 打ち明けてくれるそれまでは』


 声の音が大きくなってくる。どうやら、近くにいるらしい。レイオスは上を見上げた。


 「ん?」


 屋根のところに誰かがいた。背中に何かの羽が生え、空を浮遊しながら歌を歌っている。レイオスは目を凝らしてみた。


 「…………あれは、………………ラピス!?」


 歌っているのはラピスだった。空中を踊るようにしながら、歌を歌っている。


 『一つの思い 全ての思い 私の心あなたの心』


 なんだ、これ……。


 心臓の鼓動が速くなっていた。体を動かしたわけでも、息を止めていたわけでもない。ただ、ラピスが朝日に照らされて歌っている姿を見るとなぜか鼓動が速くなってきたのだ。


 『私があなたと出会うとき あなたは私を助けてくれる 』


 歌が終わる。それと同時に、ラピスが上空から降りてきた。


 やばっ……!


 急いで窓のところに行く。だが、時すでに遅し。ラピスが目の前に降りてきた。足を窓の淵にかけたままレイオスの体が硬直する。


 「あんた……、何やってんの?」


 ラピスは、一瞬驚いたような顔をしたがすぐに真顔に戻った後、手に魔力を集中させ始めた。


 「い、いや、起きたら歌が聞こえたからさ、なんだろうな〜と思って声のするほうに来たらここに……」


 「ふ〜ん、それじゃあ、人の歌を聴くだけ聞いといて逃げようとしたわけね」


 ズズズズと、魔力が一転に集中され始める。これはやばい、そう思ったレイオスは自分自身に防御壁をかけようとした。が、


 「あれ?かからない………………はっ!」


 レイオスは自分の魔力がフェヴェリオスに吸われていることを思い出した。


 「ちょっ、ちょっと待て!今、おれ魔力がな――――」


 「私が恥ずかしがりやってこと知ってるでしょ!シルフィード・ランス!」


 「そんなん知らな――ぎゃああああああああ!!」


 










 「まったくもう!魔力がないんならはじめからそう言いなさいよね!」


 「いや、さっき言ったはずなんだが」


 「う、うるさいわね。聞こえなかったんだからしょうがないじゃない」


 「………………」


 レイオスとラピスは窓のふちに腰かけていた。ラピスの魔術を食らったあと、軽く失神しかけたが当たり所が良かったのか意識を失うまでには至らなかった。失神しかけるだけでも十分ひどいが……


 「で、あんたなにしにきたのよ」


 「何って、さっきも言ったとおり歌が聞こえたからその声のする方向に来ただけだ。まさか、ラピス歌ってるとは思ってなかったけどな」


 「言わないでよ」


 「へ?」


 ラピスがくるりとレイオスのほうを向いた。なぜか、少々悲しげな瞳だ。


 「あの歌ね、私のお母さんが作ってくれた歌なの」


 「あの歌を?」


 「ええ、そうよ。私のお母さんはね、風の番人っていう肩書を持っていたのよ。あ、風の番人ていうのはね、風の精霊王が住む大陸ワユヴァーユの精霊王が住む場所を守る役割を持っているの。私のお母さんは風の番人だったんだけどその時に、精霊王と契約するための歌を作ったのよ」

 

 「歌って、あの契約の歌か!?」


 レイオスは驚いた。もともと契約の歌というのは精霊王との相性が抜群にいいものしか作れない歌なのだ。そして、その歌を作る時は精霊王と一緒に作らなければ効果を発揮しない歌でもある。ラピスの母親がそれを作ったということは、実質上精霊王を従えているのと同じことになる。

 

「そう、それが今の歌、だけど精霊王と契約するための歌は今じゃ存在しないの。だから、その歌の存在を知った時は、色んな人たちが歌を手に入れようとお母さんのところに来たわ。だけど、歌を教えるわけにはいかないでしょ。だから、お母さんはいつも追い払っていたの。実力行使できた人もいたけど、お母さんは強かったからいつも勝っていたわ。だけど、それにも限界があったの。私が5歳の時、お母さんは倒れてしまったわ。そのときお母さんは私にその歌を教えてくれた。その意味とその歌に乗せる思いを。私は、お母さんに言われて友達の現在の校長のところに厄介になることになったわ。だから今、歌を知っているのはお母さんと私だけ。だから、あんたも言わないでよ。いった瞬間、後ろから一発かますからね」


 「わ、わかった」


 ラピスはレイオスにそういうと、よいしょっと言って窓のふちから降りた。


 「さてと、それじゃあ、行きましょうか」


 レイオスが首をかしげる。


 「?行くってどこに」


 「あんたは知らないかもしれないけど、あの後結局選別式は終わらなかったの」


 「終わらなかったのって……あれ、俺が最後じゃなかったっけ?」


 「なにいってんのよ、まだ終わってないじゃない。一番のイベントが」


 「一番のイベントって何――」


 「ほら、さっさと行くわよ」


 そういうと、ラピスはある魔法を唱え始めた。


 「ちょっと待て、だからどこに行くんだよ。ってか、その呪文、あれだろう!なにする気だよ」


 「それじゃあ、逝っきま〜す」


 「行きますの発音がちが――ぎゃあああああああああああ!!」


 がしっと、ラピスはレイオスの襟をつかむと前回使った高速移動魔法を使った。やめてえぇー!というレイオスの言葉もむなしく、レイオスは引きずられるようにして連れて行かれた。



今回はローン・ウルフ講座はお休みとさせていただきます。誠に申し訳ございません。

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