第十四話 漆黒の美女
「はあああ!」
レイオスはフェヴェリオスに向かって走り出した。しかし、フェヴェリオスはそれを阻むかのように右手を振るい、いくつもの衝撃波を放った。
「レムエム!」
『わかっておる』
レイオスの後方いたレムエムが前足の爪を光らせ、跳躍した。
『行け、シャルファードクロウ!』
レムエムが空中で回転する。すると、回転によって生み出された無数の光の刃がフェヴェリオスが放った衝撃波を打ち消した。二つの力がぶつかり合い、生み出された衝撃波がレイオス達とフェヴェリオスを襲う。
フェヴェリオスは衝撃波を防ぐために右手を前に構えた。
「くっ、やるねえ!」
「まだだ、 我の体に流れる光の王の血よ 悪しき力から我を守れ 光の王 レイオス・ウォーリアが命ずる アディキアー・テレイティム!」
レイオスは呪文を唱え防御壁を発動させると、フェヴェリオスに向かってそのまま突進した。
「うおおおおお!」
魔力を通わせた切れ味の鋭い剣をフェヴェリオスの右手を狙って振り下ろす。
ガギンと、まるで鋼に剣を振り下ろしたような音がする。
だが、剣はフェヴェリオスの右手を切り落とせなかった。いや、それどころか余りの硬度に剣がはじかれ、レイオスはバランスを崩した。
「くくくく、甘いねえ。今度はこちらの番だよ、サナトス・ランス!」
フェヴェリオスは体勢を崩したレイオスの内側に潜り込むと腹に手を当て、闇をまとった槍を放った。
「ぐっ…ごあっ!」
ドズンと、腹に衝撃を感じた瞬間、レイオスは後ろ側の壁まで吹っ飛ばされた。バキ、ビキと骨が折れた音がする。
「ぐ、う……が」
「どうしたんだい、光の王。そんなもんじゃ私には勝てないよ」
「うぐっ…へ、残念だけど…俺はオトリさ」
「なに?……まさか!」
フェヴェリオスはあたりを見回した。
いない?そんなばかな…
『上ばかりを見ていると、足元をすくわれるぞ』
「な!」
フェヴェリオスが後ろにいた自分に気付くと同時に、レムエムは尻尾を光で覆った。そして、フェヴェリオスの右腕めがけて尻尾を振り落とした。
「く、…がっ!」
ひゅんひゅんとフェヴェリオスから切り離された腕が舞う。ボトッと、嫌な音をたて腕は地面に落ちた。
『くそ、外したか』
フェヴェリオスが左の切り離された部分を抑える。レムエムが右腕を切り落とそうとした瞬間、フェヴェリオスは左手で自分の体に爆発系魔術を放ち体をずらし、右腕ではなく左腕を切らせたのだ。
「ふ、うぐっ…や、やるねえ。まさか、自分自身をおとりにしてレムエムに攻撃させるとは………く、くく、くくくくく、ははははははははは!!」
切られた部分から大量の血が流れ出す。普通ならば絶叫してもおかしくないほどの傷だ。だが、フェヴェリオスは痛がるどころか、逆に笑っていた。まるで、喜んでいるようだ。
『こやつ…』
じり、じりとレムエムは後ずさった。レムエムはフェヴェリオスから何かを感じた。恐怖ではない。もともと、そういうものははるか昔に捨ててある。なら、なんだ?この異様な不快感は…
「レムエム、一度体制を立て直すぞ!」
『う、うむ。わかった』
レムエムが戦っていた間にレイオスは回復魔法で全快とまではいかないものの戦える程度には回復していた。
フェヴェリオスのほうを見る。さっきまで笑っていたが、今は静かになっている。
いやな予感がする…。そう感じた瞬間、フェヴェリオスが右手を上げた。ブウンと、フェヴェリオスの前に陣が現れる。
「イエインノルヨミ セニンナラウガク サナフテネスムセネクワクエセガクチャウヤ ヲリタナキエヨクネセゴトエ サナスゴトワオロヲシ カフィロスの翼!」
陣から禍々しいほどのやみの魔力があふれ出す。その魔力は陣の中心に集まると一つの形を作り出した。
「なんだ、あれ…」
『くっ、この魔力…』
形は徐々に鳥の形へと変わっていった。ぶよぶよとした肉でおおわれた体、しっぽには蛇が鎌首をもたげている。口には嘴ではなく、人のような口があり、中には肉食動物を思わせる鋭い歯がずらりと並んでいた。
「紹介しようじゃないか。私の使い魔、闇の深淵に棲む獄鳥―エスハイマさ」
それは、学園の地下にいたときにフェヴェリオスの肩に止まっていた鳥だった。だが、その時とは違い、体が所々うごめいている。まるで中から何かが出ようとしているようだ。
「この子は、食いしん坊でねえ。私以外のものが目に入ると何でも食べてしまうのさ。だから、私はこの子に鳥の姿になるよう魔術をかけた。本当は、もっとかわいいんだよ」
バサッと、エスハイマが翼を広げた。とてつもなく大きい。両翼の長さを合わせると10メートルは超えそうだ。
「レイオス、私を楽しませてくれている礼だ。この子の本当の姿を見せてあげるよ。この姿を見たら、あんたは救いを使わざるをえなくなるかもしれない」
フェヴェリオスは右手を地面につけるとこう唱えた。
「ヲトセナエタセケモノムスミヤ ヲトセナモイネサナスゴトワオロヲセチアクリ」
ボゴンと、エスハイマの体が突然へこんだ。バキ、ボキ、グチャと、骨が変わる音がする。レイオスはその光景に動けずにいた。レムエムも。
「ふふふふ、この姿を見られるなんてめったにないんだよ、レイオス」
エスハイマはもういなかった。いや、エスハイマの鳥の姿がいなかったのだ。
「初めまして、光の王よ」
陣の中には、一人の女性がいた。黒い服を着ており、へそが丸出しになっている。レイオスと同じ漆黒の髪が腰あたりまで伸びていて、眼は見たら吸い込まれそうな深くてローズグレイ色の眼だ。顔は、きりっとした顔立ちでレイオスたちがいる大陸では見たことがない顔立ちだ。唯一違うのは、その背中に黒い羽根が生えていることだった。
「わが主よ、何なりとご命令を」
驚きのあまり言葉を発せないレイオス達をよそにその女性―エスハイマはフェヴェリオスの前で膝を折り服従の姿勢を作った。
「そうだねえ、あんたはレムエムの相手をしてくれないかい。私は、光の王と少々お話がしたいんでねえ」
そういうと、エスハイマは立ち上がるとどこから取り出したのか10メートルはある長剣をレイオス達に向けた。
「わが主の命令により、あなたたちを排除します」
今回のローン・ウルフ講座はお休みとさせていただきます。誠に申し訳ございません。
次回の十五話から、一話ずつ直しに入っていきたいと思います。話に多少の代わり具合はございますが、だからと言って全く違うものに変わりは致しませんのでご安心ください。