第十話 選別式
闇の中に彼女はいた。
ボウッ! 彼女が歩く度、大理石の柱につけられた松明がともる。
「もうすぐだねえ、選別式は」
黒き怪鳥を従える魔女はそういうと、マントの中から黒いものが入った小瓶を取り出した。
「さてさて、『光の王』よ。あんたが本当に救いを行うにふさわしいか見せてもらおうかねえ」
そういうと、魔女は黒い小瓶を空高く放り投げた。
同時刻―レイディアント学園 光と闇の塔 大広間―
「・・・・それではこれより、選別式を行います!」
ワアアア、と大広間で歓声が響き渡る。その声を、レイオスは正面門の前で聞いていた。
(なんだか緊張するな)
(最初はそのようなものだろう)
レムエムと心の中で会話をする。今、周りにはレイオスと同じ留学生が何人かいるのでレムエムは姿を消していた。レムエムは人と接触するのを極端に嫌うのだ。
(しっかし、・・・・・周りのやつらの精霊って結構普通なんだな)
レイオスは隣にいる生徒を見た。薄い金髪の髪に青い瞳、おそらく女性だろう。そしてその肩には、火精霊のサラマンダ―がちろちろと空気の味を確かめるように舌を出して寝そべっていた。
(ふん、それはそうだろう。我のように上位の精霊などなかなかいないものだ)
(自分で言うなよ)
そんな会話のやり取りしていると、大広間のほうが静かになった。どうやらもうすぐ始まるらしい。
ガコン
扉が開き、中から25ぐらいの人の良さそうな人が現れた。どうやらこの人も先生らしい。少々頼りなさそうだが。
「じゃ、君たち、僕の後についてきて。二人一組で並ぶように。・・・・そうそう。では、これから選別式を行うんだが、やり方について教えるよ」
そういうと、人の良さそうな先生は一呼吸置き転入生たちをぐるりと見渡してから話し出した。
「君たちが今から行ってもらうのは、レイディアント学園に入るにあたって必ず行われる属性の選別なんだ。やり方はいたって簡単だから安心して。まず、この扉を通ってまっすぐ行くと祭壇があるからそこで待っていてくれ。そして、一人ずつ名前を呼んだらその祭壇の中央に立つんだ。そのあと、先生や校長たちの言葉を聞き、その後近くにいる先生が『始め』というからそこで、なんでもいい、魔術を使ってくれ。そうすると下に描いている魔方陣がその人の魔力を読み取り、どの属性かを教えてくれるようになっている。属性がわかったら、その属性の代表生が来るからその人についていってくれ。選別式の内容は以上だが・・・・・何か質問はあるかい?」
すると、前のほうにいた男が手を挙げた。
「なんでもいいって言いましたけど、本当に何でもいいんですか?」
「うん、なんでもいいんだよ。そのかわり、なるべく上位の魔術を使えたほうが結構自分の存在をアピールできるけどね」
上位の魔法を使えれば使えるほど、ほかの生徒より待遇が良くなる。つまり、この儀式は自分の存在を誇示できる場所でもあるのだ。
「それじゃ、そろそろ時間だからみんな服を整えて。始まるよ」
先生が言い終わると同時に、大広間から音楽が流れ始めた。
「新入生たちが入場いたしま〜す。拍手でお迎えしてね〜」
大広間のほうから気の抜けた声がした。
(レムエム、あの声・・・・)
(言うな・・・)
先頭が歩き始めるとともに、レイオスの列も歩き始めた。一歩一歩歩くたびに少し心臓の鼓動が早くなるのを感じる。
(やばい、緊張してきた)
視界が開けてくる。どうやら大広間に出たらしい。ワアアアアという歓声と、拍手が大広間いっぱいに鳴り響いていた。
ぐるりと周りを見渡す。
(すごい・・・・)
何百、いや何千という精霊たちがいた。水の精霊、風の精霊、火の精霊・・・・ほかにもたくさんの精霊たちが楽しそうに宙を舞ったり主のかたにとまっていた。
「おい」
立ち止っていたのかこつん、と後ろの男に背中を押された。
「あ、すまん」
四方八方に目を動かしながらもレイオスは歩き始めた。
(・・・・・・・ん?)
(どうした、レイオス?)
何か違和感を感じた。あたりに飛んでいる精霊の気配でもなければ魔力を出している人間たちの気配でもない。もっと、純粋な感じがするような・・・・
(レイオス、ぶつかるぞ)
「へ?」
ピタッ レムエムに言われた瞬間、レイオスは体を止めた。
危機一髪。すぐ目の前に女の後姿が見えた。あと少し遅ければ前の女にぶつかっていたかもしれない。
(どうかしたのか?)
(う〜ん、なんか変な感じがしたんだよな。レムエム、何か気づいたか?)
(いいや、なにも)
(そっか、ならいいや)
先ほど感じた気配が気になるが、自分より気配を察知しやすいレムエムが何も感じないなら気のせいだろう、そう思ったレイオスは気を取り直して前を見た。
「それでは、これより選別式を行います。名前を呼ぶのでいわれた者は、魔法陣の中央に立つように。では、アの順から・・・・アベル・シルフォード!」
「は、はい!」
一人の少年が魔法陣の中央に立つ。緊張しているのか体が降るえているのがレイオスからも見えた。
「い、いきます!」
そういうと、両手を天にかかげ呪文を唱え始めた。唱え始めた瞬間回りが熱気に覆われる。どうやら火系の魔術らしい。周りから火の粉があらわれ少年の手に集まっていく。そしてそれを地面に向かって叩きつけた。一瞬周りが見えなくなる。が、すぐに視界が開けた。そして魔法陣の紋章が光り輝き始める。すると、一本の線が強く輝きだした。青く透き通ったやさしい色だ。
「水の反応あり。よって、アベル・シルフォード、汝をアクレリアの者とする」
ワアアアアァァァとアクレリアの机のほうから歓声がわいた。アクレリアの代表生がきてアベルを連れていく。
「それでは次・・・・・・・・」
それからレイオスの番が来るまで何人もの組み分けが行われた。一人また一人と選別されていき、とうとうレイオスの番になった。
「次、・・・・レイオス・ウォーリア!」
「はい」
コツコツと階段を上がり魔法陣の中央に歩いていく。周りにいるすべての学生がレイオスを見て驚く。それもそのはず、漆黒の髪はこの世界ではとても珍しい色とされているしレイオスの目は普通の目とは違い、モンスター独特の鋭い眼をしている。
「それではレイオス・ウォーリア。始めてください」
「はい」
レイオスは、すぅ〜っと息を大きく吸い込んだ。そして大きくはく。
(レムエム、何を使う?)
(ふむ、そうだな・・・・・『光の剣』なんかはどうだ?)
(そうだな、それにするか)
レムエムと会話をし、使う魔術を決める。そして、両手を胸の前にもっていき手で円を描いた。
そして、唱え始めた。
『すべてを導く神の光』
(悪をさばく栄光の光)
『闇を消し去る光の力 我が手に集いて剣とならん』
(すべてを守る光の力 その手に集いて剣となれ)
詠唱が始まった瞬間、すべての精霊たちが一斉に静まった。その光景を見て生徒たちも不安げな表情になる。その中で、校長とラピスだけが動じることなくその光景を見ていた。
(なにかしら、この感じ。すごく優しい感じがする)
(ふむぅ、さすがあの人の子供ですねえ。『光の王』の資質をしっかり受け継いでいますぅ)
『形が剣になりしとき 光はすべてを導く道しるべとなる』
(剣に光宿すとき 光はすべてを守る力となる)
『我が問いに答え その姿を現せ』
(出でよ 光の王の聖なる刃)
『ホーリーエクセキューション・バシレウスソード!!』
レイオスの右手が光に包まれてゆく。その光はレイオスの右手を覆うとすさまじい光を放ち始めた。
「きゃあ!」 「うお!」 「んな!?」
いたるところで悲鳴が上がる。それほどまでに光は強烈だった。精霊たちも光から発せられる波動に目を覆うものや体を消す者もいる。そしてその光は大広間の地下にも届いていた。
『・・・・・・・この波動、まさか・・・・・・』
上からきた波動にふと立ち止まる。
『ふふ、まさかここまでとはね。なかなかよく育ってるじゃないか』
『ホヨク!』
肩に止まっている黒鳥がしゃべる。魔女は黒鳥の頭をなでると一言こう呟いた。
『始めるかね』
ズズウウゥゥゥン・・・・・
「?」
突然レイオスの足元で何か音がした。
ズズウウゥゥン・・
それは少しずつながら大きくなってゆく。まるで地面を這い上がってくるような音だった。
ズズウウン
(この気配・・・・・まさか)
レムエムが唸りだす。レムエムが感じた気配はあるモンスターの気配と似ていた。しかし、あるモンスターより鋭く危険な気配がする。
ビキ!
祭壇に亀裂が入る。周りにいた学生たちや先生たちもようやく異変に気づいたらしい。戸惑いの声や悲鳴が聞こえ始める。
「レイオス!」
ラピスは、いち早くレイオスのところに向かった。
「ラピス、来るな!!」
ラピスが祭壇にたどり着いた瞬間、レイオスは叫んだ。が、しかし、
ドゴオオオォォン!!!
その瞬間、大きな音ともに祭壇が崩れ落ちた。
〜レイオスとレムエムのローン・ウルフ講座〜
レイ「はい、始まりました。第五回目のこの講座、今日から魔術講座からローン・ウルフ講座と名前をかえさせていただきます」
レム「内容的にはさほど変わらないのでご安心いただきたい」
レイ「ってことで、今日は種族についてお話したいと思います」
レム「しっかり聞くのだぞ!」
レイ「うっさい。では、お話します。俺達、ローン・ウルフの世界ではヒューマン(人間)、エルフ、ドワーフ、エレメンタラー(精霊と人間のハーフ)、ハーフエルフ(人間とエルフのハーフ)、精霊、魔族、神族、この種族がいるとされています」
レム「しかし、魔族、神族は伝説の中の存在とされており、実際に見た者はおらん。エレメンタラーも今はいないとされている」
レイ「特徴はヒューマンは耳が丸く、種族の中でいちばん脆弱な種族。そのかわり、魔術や体術などの技術はすごく高い。エルフは、耳がとがっており、ほかの種族との接触を嫌っている。魔術が種族の中で一番高いが、体術などの技術は高くない」
レム「ドワーフは、背が低く女性が見たら抱きしめてしまうような容姿だが、見かけによらず力がすごいらしいぞ。ただし、いつもは土の中にもぐっているので見かけたものはほんのわずからしい」
レイ「俺達の世界で確認されているものはこれだけです」
レム「・・・待て。精霊はどうした」
レイ「あ、忘れてた。『なぬ!?』精霊は体がなく魔力の塊だとされています。まれに上位の精霊になると体をもっている者もいるそうですが」
レム「我のことだな」
レイ「精霊はどの場所にも存在しており、魔術や魔法において欠かせない存在です。なので、いたるところで精霊をあがめる石碑などがあります」
レム「うむ、なかなか良い心がけだな」
レイ「今回はこれまでです。次回は体術について教えたいと思います」
レム「次回もまた見るのだぞ!」