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第一話 始まりは突然に

 ヴァシリア王国――そこは錬金術・魔術・魔法が発達したこの世界で最も力のある王国である。周りをぐるりと六角形の外壁で囲まれ、六つの頂点には他国からの侵入を防ぐための防御壁が幾重にもかけられており、他国から恐れることなくヴァシリア王国は平和な時を過ごしていた。ここには、魔法魔術学校レイディアントという学校があり魔力をもつものならどのようなものでも歓迎するという方針のおかげで大陸一の規模を誇っていた。















 赤髪の少女が、長い回廊を黙々と歩いていた。


 少女が歩く度に、足音が周りでこだまする。


 「ふう……」


 ため息を漏らす。そのため息は、長い回廊を歩いて疲れてはいたため息ではなかった。


 「まったく、やってらんないわ…」


 そういうと、赤髪の少女は上着の右ポケットから一枚の紙を取り出した。上質な紙で、封には金粉で模様が描かれている。


 何度読んだか分からない手紙を再度開いて文面に目をやる。


 

『 拝啓 ラピスちゃんへ


 この手紙を見たらすぐに私のところに来てください。あるお仕事を頼みたいんですう、引き受けてくれますよねえ? 来てくれないと私、泣いちゃいますよう。しくしく……

                         

                         あなたの尊敬する校長より』


 


 「……いろいろ突っ込みたいところ満載なんだけど、これ」

 

 そういうと赤髪の少女――ラピスは突っ込みたい気持ちを抑え、手紙をポケットにしまった。 


 手紙の差出人――校長の部屋の前まできたからだ。いつもながら、痛々しい雰囲気の扉だ。取っ手には、ウサギの顔を模した取っ手がつけられており周りには色々なもふもふとしたかわいい動物の人形が所狭しとつけられている。だが、周りが大理石でできている壁なので逆に浮いている。


 「悪趣味よね〜、これ。いつになったらこの模様変わるのかしら」


 この扉、現在の校長が模様替えして約2年がたっている。多少なりと、変るところはあるようだがラピスはどこが変わっているのか全く分からなかった。


 「失礼します、校長。ラピス・レティオール、ただいま参りました」


 二回ノックをし扉を開ける。開けた瞬間、古い扉独特の軋んだ音がした。


 「待ってましたよお〜、ラピスちゃ〜ん」


 ぞわっと背筋が寒くなる。やっぱりこの声、嫌いだな…。


 「……何か言いましたあ?」


 「い、いえ、何も言ってないです」


 校長は、ソファーに座りもふもふしたぬいぐるみを抱いていた。服装は、ピンクのネクリジェ。男性が入ってきたら、顔を赤くしてしまうような恰好だ。


 「それで校長、私に一体何の用ですか?私、レポートの原案がまだ完成していないんでめんどくさいことはいやなんですけど」


 すると校長は、むす〜っと頬を膨らませた。


 「めんどくさいこととはなんですか、めんどくさいこととは! せっかく、ラピスちゃんのために休息も兼ねた人探しを頼みたかったのに〜」


 「人探し?」


 「そう、ここから東にある村、ヨヘスに行ってそこの近くにあるラスカの森の一匹狼ちゃんを連れてきてほしいんですう〜」


 ラスカの一匹狼と聞いた時、ラピスはどこかで聞いたことがあるような気がした。


 「いきなりそんなこと言われても困ります。第一、ヨヘス村ってここからかなり遠いじゃないですか。私、やですからね」


 ふん、とラピスは両腕を組んだ。


 「む、むぅ〜、なんでそんなこと言うんですか〜」


 ぷんぷん怒りながら、ソファーの上で手足をバタバタ動かす。


 校長……子供じゃないんだから。


 「それじゃあ、わたし帰りますね」


 そう言って、校長に背中を向け歩き出そうとした。が、


 「まちなさいですぅ!」


 電光石火とは、このことを言うのだろう。ソファーに座っていた校長がいつの間にか、ラピスの足を捕まえていた。


 「な、なにするんですか! 離してください、あ〜! 離れろ〜!」


 ぶんぶんと足を振り回す。しかし、校長は離れなかった。


 「校長の言うことが聞けない子はお仕置きですよ〜!」


 校長が、ラピスの靴を脱がせ足をくすぐった。ひゃうっ!という声を出して、ラピスがその場に崩れ落ちる。


 「こ、校長何するのよ! 私がそういうの、弱いって知ってるはずでしょ!?」


 しかし、校長はラピスの言葉に耳を傾けるはずもなくラピスの上にのしかかると両手を使って色々なところをくすぐり始めた。


 「え〜い、悪い子にはお仕置きで〜す」


 「きゃはは、ちょっ、いや、ひゃっ……そ、そこはだめ! きゃはははは!! いやっ、……あっ!」


 「失礼します、校長。明日の会議について少し伺いたいところがあるのですが――」


 声がしたかと思うと、扉が開いた。ラピスがやばいと思う暇もなく、扉のほうから一人の教師が現れた。


 教師がその光景を見て石のように固まった。

 

 「――――あー、お、お邪魔しました〜」


 「お邪魔じゃないから助けてー!!」


 















 ―数時間後―


 「…まったく、校長のせいで変な誤解を生んでしまったじゃないの」


 不規則に揺れる、荷馬車に乗っているラピスはそう不満を漏らした。あの後、いろいろな誤解をされそうになったラピスはそのことを誰にも言わない代わりに人探しをしてきてと、張本人の校長に言われたのだった。


 「はぁ〜、っていうかラスカの一匹狼って誰のことなのよ……」


 校長から渡された唯一の手がかり、校長が描いた似顔絵を見た。


 「………………」


 ラピスは思った。 この似顔絵じゃ全くわかんないわ……。


 地平線まで続く街道を走る荷馬車から、すごく大きなため息が一つ、漏れた。












 ヨヘス村は人口500人ほどの人たちでなる農業を中心とした村だ。ほかの村とかなり離れているので特に変わったこともなく、人々は平和に過ごしていた。しかし、この村にもモンスターが出る森があり、村の者たちはそこへは近寄ろうとしていなかった。近づこうといる者がいるとすれば、ギルドのものか盗賊類の輩しかその森に入ることはなかった。だが、その者たちが無事村に戻れる者を見たものはあまりいない。それは、その森の中に番人がいたからだ。

番人の名は、誰も知る者はいなかったがその森の名にちなんでこう名付けられていた。


 ラスカの森の番人―――ラスカの一匹狼と。












 チュンチュン、チュン、鳥の鳴き声が開いた窓から聞こえる。


 「…………朝か」


 黒い髪をした少年は立ち上がり、カーテンを開けた。外は快晴で、目がくらむほどの神々しい光が部屋に流れ込む。


 「うん、今日もいい天気だ」


 黒髪の少年は軽く背伸びをすると、螺旋状の階段を降り台所に行って朝食を作り始めた。朝食のメニューは、レグミーという鳥の卵を使ったスクランブルエッグにサラダとトーストという、ごくごく普通の食事だ。


 「うん、なかなかうまいな」


 この少年の名は、レイオス・ウォーリア。この森のただ一人の番人である。子供のころ、父と母がいなくなって以来、ずっと盗賊やギルドからの侵入を防ぐべくこのラスカの森で番人を続けていのだ。しかし、そのせいで町から賞金をかけられ、幾度となく、命を狙われたことがあった。


 『レイオス、起きたのか?』


 しかし、レイオスのほかにも一匹だけもふもふした白い、変な生き物がいた。


 『早く、我にも飯を作ってくれ。腹が減って死にそうだ』

 

 『わかった、わかった。だから、犬みたいに尻尾を振り振りするのはやめてくれ』


 『相変わらず失礼な物言いだな。せっかくマスターのお前に面白い話を持ってきたのだがな。』


 「面白い話?」


 このオオカミの形をした動物―レムエムは、レイオスと契約を交わした精霊である。


 精霊とは、万物をつかさどる存在で普通はめったに姿を見せないが、たま〜に物好きな連中がいて人間と契約する精霊もいる。レムエムは後者のほうだ。


 『それより、まず飯だ。腹が減っては何とやらだからな』


 「自分から話を持ってきてそれはないだろう、それに腹が減っては何とやらじゃなく、腹が減っては戦はできぬだろう。俺より長く生きてるんだから、それぐらいおぼえとけよな」






 『はぐっ、もぐもぐ、がぶっ、もぐもぐ、んぐっ・・・・・・・・・、げふっ、うまかったぞ。レイオス』


 「わかったから、ゲップなんかするなよ。みっともない。そんなことより面白い話って何だ?」


 この森では、面白い話というとたいがい人が森に迷う話か、盗賊などの輩が入ってきた話ぐらいしかなかったのでレイオスは、あまり期待はしていなかった。盗賊などが侵入してきても森の入口にかけた魔法で迷子になること間違いないからだ。


 『魔術を使える人間がこの森に入り込んだのだ。それも相当の使い手がな』


 「それは本当なのか?」


 『ああ、実際に見てきたのだから間違いない。外見からして15・16歳ぐらいだろうか、赤い髪の小娘でな。いや、胸がなかったからもう少し若いかもしれんな。魔力は普通の魔術師の5・6倍ぐらいあるぞ』


魔術師・・・・おそらくギルドから派遣された奴だろうな。


 ギルドに所属する専属魔術師は普通の王国などに仕えている魔術師よりたちが悪く、評判があまり良くない。ギルドの魔術師たちは、他の者の迷惑を考えずじぶんの私欲のために働くので人々から毛嫌いされているからだ。


 そしてこのラスカの森に魔術師が来る時は、この森にしかない宝を取りに来たかギルドから依頼されてきたのかのどちからかだ。


 『それで、どうするのだ?』


 「う〜ん……」


 別にほっといてもいいんだが魔力が高い奴は何をしでかすかわからないな〜、などとレイオスがどうしようか悩んでいると、突然森のほうからと大きな音がした。

 

 「な、なんだ!?」


 『あれを見るのだ! レイオス』


 レムエムの言われた方向をみると森の至る所に火が回っていた。それも一か所だけでなく、いくつもの場所から爆発が起きていた。


 「だれがこれを・・・・まさか!?」


 『ああ、おそらく間違いないだろう。さっきの小娘だ』


 レイオスは焦った。このラスカの森は、ほかの土地より精霊が多く住んでいるため、魔力の力も普通より強くなっている。つまり、あのままいくと森が焼けてしまうこともあり得るのだ。


 「ったく、面倒なことしやがって。行くぞ! レムエム」


 その肝心のレムエムはというと、


 『我の森で好き放題しおって。許さんぞ!小娘。血祭りにあげてやらあ!!』


 怒りで我を忘れていた。


 レムエム……口調が変わってるぞ。


 そう思いながら、レイオスとレムエムは森のほうへと全速力で駆けて行った。


また書き直しました。度重なる修正、すいません。今回は原作のほうに書いていたものの、実際に書くとき没にしていた所を書いています。

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