オリマッテ・ロットロン領地開発記 その7
「これが旦那様の仰っていた列車か…」
馬を飛ばし掛ける事約半日を要しロドム達は隠される様に設置される駅(便宜上)へと到着していた。入り口を開け、中へと入ると下へと降りる階段が存在し、道なりに下るとそこに在った列車とはトロッコであった。
「これは……此のペダルを漕いで進むのか?」
「ああ、そう見たいだな。ここに四人が座って漕いで進む仕様だな」
ロドム達は説明が書かれた看板を見てそう話す。そこには言葉と絵が書き込まれてありスワンボートの様なタイプで説明がなされてある。
「俺たち六人に馬六頭分か……うん、乗る分には問題ない様だな」
とは言え牽引できる車両は元々鉱物資源を運んでいたであろう箱型の車両である。幸運なことに側面が観音開きとなる事で馬を乗り込ませるのに苦労する心配はなかった。
「くっ、これは相当疲れそうだな…」
選ばれた四人はアラン、ウォーレン、セルトとカナである。ロドムとワレンスナは馬の動揺を抑える役目を担う。横二列の造りで前はアランとウォーレン、後ろにセルトとカナが位置に着く。
「そうだな。呼吸を合わせなければ動かない造りに為っていると言う事だ。さてと、冒険者の俺らが確りと連携が取れるか見せ所だな。それじゃあ準備はいいか?」
アランは全員に声を掛けた。すると全員が声を合わせる様に『おう!』と彼の言葉を返すのであった。
「よし、それじゃあ一、二の掛け声で漕いで行くぞ。せーのっ!」
アランの音頭で自然と四人は右足に掛かるペダルに力を込めた。四人の力によって動力が車輪へと伝わると徐々に動き出す。するとペダルへの負荷は軽くなり、左、右と交互に漕いで行くリズムも軽快になる。流石に毎年整備されるだけあり錆等は皆無であったのだ。
「おお、進む、進むな。これはいい!」
「そうだな。これで日数を掛けることなく目的地へと向かえるな」
僅か一日と言う短い時間の中で四人はそう気楽そうな声色で話すまで打ち解け合っていた。加えて動かす前の予想に反して連帯感を持たせるだけの余裕が在った事も良い方向に作用していたのだ。
「まさか村の近くにこの様な場所が有るとはな」
「形からして何かを運んでいたようだけれど、それが何かわかるかしら」
ロドムとワレンスナも同様に話している。此方は移動を始めた列車から見える景色を肴に話している。とは言え彼等が見えている景色とは緑が鬱蒼とした中を進む森だけである。
その中で二人はこれからの行動をアランたちの掛け声をバックミュージックに話し始める。
「ワレンスナさん、幾つか聞かせて貰いたい。私と旦那様の危惧はどの程度の角度で正しいと考える?」
「七割…いや八割は軽く超えると私は考えるわ。昨日も話したけれど広範囲依頼自体そう簡単に出せないの。それに金銭の問題もある。仮にこれ程の規模を行うならば王家以外にはありえない。学術省でもそれを可能とする予算は割り当てられていないわ。ならば怪しむ事は容易だと考えているの」
彼女は動く列車に慣れない馬を落ち着ける様に撫でながら話す。
「そうですか…私を始め冒険者業は次いでと言った程度です。危険だと判断した場合は遠慮なく仰って下さい」
ロドムは彼女の口振りと雰囲気からそう話す。ワレンスナ達三人と自分たちでは実力に差が有る事を悟っている彼だからこそ言える言葉である。それに実力以上の場所へ向かっても足手纏いになりかねないと考えているのだ。
ロドムの言う理由はオリマッテ・ロットロンの言葉である。『彼等を頼む』と言う彼の言葉は重たい。陪臣貴族とは言え貴族は貴族だ。彼女には重たい枷を嵌められたのも同然であった。つまり彼等が負傷する若しくは死亡する等あってはならないのだ。そうすると自然とワレンスナ達は彼等を護ろうと動くだろう。お荷物に為りながら行動すると何時しか全滅する可能性も考えられる。それを考えたからこそロドムは自らその話をしたのだ。
「分かったわ。これ以上危険と判断した場合は…」
そこまで言えばロドムも理解出来る。彼は頷いて承諾の意思表示を示した。彼女は最後まで言わなかったが決定権は彼女が持ち、その判断によってこれ以上は無理となった場合ロドムは素直に受け入れると決めたのだ。
結局交代も休むことなく一行はセムレス南部の終点駅へと到着した。降車した彼等は慣れない移動で動揺している馬を曳きながら街と思しき場所へと向う。
「此処は…」
「寂れている、と言うよりか破棄された町並みだな」
アランたちを出迎えたのは嘗て人が生活していたのであろう街並みの残骸であった。列車を降りた彼等は周囲の確認から始めなければならなかった。
「一体この街の名前はなんだ?」
「ロドムが知らないのなら俺たちも知らないぜ。なっ、ウォーレン」
「ああ、アランの言う通りだ」
「まあそうだな。それとアランこの辺りで寝泊まりできそうな場所を探してくれ」
ロドムがそう言うと彼は快諾しウォーレンを連れ立って先行する。
念のため警戒しながら進むロドム達、暫く進んでいるとワレンスナが思い出したように呟く。
「若しかしたら、ドゥーイレンかもしれないわ」
「ドゥーイレン?姉御一体なんだよ、その街の名は?」
「結構いろんな場所に言ったけれど一度も耳にした事ないよね」
セルトとカナがそう言うと彼女は記憶を絞り出す様に話しだす。
「此処は王都へと鉱石を移送する鉄道だったのかもしれないわ。ピュータ村が出来る前、確か建国当時だったと思うわ。此方側の大陸から鉱石を苦労して運んでいた筈よ。その物資の集積場所がドゥーイレンだった…」
「でもワレンスナさん、鉱山なんてロットロン領を始め周辺には存在しませんよ」
「ロドム、途中で分岐が在ったのを覚えているかしら?」
列車に揺られ会話をしている中での光景をロドムは彼女に言われて思い出す。
「そう言えば…」
「ブレストロ帝国と王国とを分けるミュスファム山脈の麓には嘗て鉱山が在ったと言う話しが在るわ。恐らくあの分岐の先にはそちらへと繋がる路線が在るのでしょう」
どうして分岐を設けたのかは分からないけれどねと彼女は言った。
山脈で国境を分けていると言う認識のドットゥーセ王国では、嘗てアレイセント川を挟んで東側の大陸でも鉱石を採掘していた歴史が確かに存在していた。だが、鉱石を製錬、加工、さらに消費する場所は王都を中心とした街が主体であり輸送コストに問題が在ったのだ。それでもその場所を使用していた理由は他に無いからという弱いものだった。
そこで遂にアレイセン川西側で巨大な鉱山の発見に至る。それがピュータ村の起こりである。そこも魔物の存在や輸送方法が独特なのだが此方に比べると何倍もマシだと分かり閉山する事となったのだ。以後この場所は誰にも知られる事無く静かに幕を下ろしたと言う経緯が在った。
「おーい、こっちに寝泊まりできそうな場所が在るぜ!」
先行して寝床の確保に出ていたアランとウォーレンが手を振りロドム達に声を掛けた。
一夜を過ごすには十分な設えのある建物で、六人が寝泊りをするには十分な広さも備わっている。周囲の建物は朽ちて、崩壊している中でさえ屋根、壁も確りとしている唯一の建物であった。
そしてロドム達は扉を開けて中へと入る。
「結構丈夫な造りだな」
「そうだね。若しかして結構な人物の家だったのかもね」
セルトとカナが壁を叩いてそう話し合っている。しかし、その造りは現代(この世界軸で)の造りとはかなり趣が異なっていた。
「これは随分と歴史のある建物を選んだものね」
「ご存知で?」
ワレンスナにロドムは尋ねると彼女は澱みなく彼らに話し始める。
「ええ、これはまだエルサンド族が降る前、だから少なくとも一千年以上も昔に為るかしら。まだ、ドットゥーセ王国と言う国が興って間もない時代、ホルト王国と言う国の存在を知らない時の造りね。国交を結んだ後向こうの文化が大量に流れ込んできてもうこの造りを街中で見る事が出来ないわ。唯一ドランデストハイムの街並みがこの流れを汲んでいるわ。それでも大分薄まっているけれどね」
全てを石で造り上げた建物には異文化ともとられる見事な彫刻が風化することなく残されている。流石に外壁は朽ち始めているが内装は時間が止まっているかのように綺麗であった。
「これがその時代の特徴よ。たしか装飾自体に風化を止める術式が在った筈よ」
此処まで滑らかな口調で話していた彼女がここで記憶を絞り出す様に話し始めた。
「術式?魔法とは違うのですか?」
「そうね。似ていると言えば似ているけれど…いや、違う物と考えるのがいいわね」
そう何か判断に迷っていたが彼女の中で何か答えが出たのかきっぱりと言い放った。
「術式は永続するもの、魔法は魔力が切れると消える。この違いで明確に別れるわ。内装が全く壊れていないのもこの見事な装飾の御蔭なのよ。これが傷付かない限り術式は維持されるわ」
そう言うと彼女は四方の柱に見事に刻み込まれてある装飾を指差した。よく目を凝らして見ると象形文字の様な物が描かれているのが彼等にも分かった。
「そんな良い物ならどうして術式がなくなったんだ。姉御?」
「魔法と相容れないからよ。少なくとも一千年も昔の建造物がこうして維持されていると考えればどれほど術式が優れているかが分かるでしょ?そうなると魔法の出番が消える可能性が在る。若しくは魔法を広めたくて術式を抑え込んだ。そしてそのまま消滅させたのかもしれないけれどね」
そう話すとロドム達は内容が難しくてよく理解できない様な表情をするのだった。
「しかし、博識だな。ワレンスナさん」
「ロドムの言う通りだな。どうしてその事を知っているんだ。姉御?」
ロドムの言葉にセルトが頷いて彼女に尋ねた。
「支部長に就任してから知り合った中で歴史を研究するのが趣味の男が居たのよ。話しを聞いて行くうちに私も彼とは異なる方向だけれど興味が湧いちゃってね。気分転換に調べていたのよ。その彼は『呼ばれた者』に関して、私は建造物や彫刻などだったわね」
「なるほどだから大昔の事に詳しかったのか」
彼女が話す知り合いとはドランデストハイムに居た冒険者デン・エルサンドである。彼が『呼ばれた者』を研究している事でよく彼女に話しを聞かせていたのだ。そして、それに絡んで歴史上の建築物等に彼女の興味が向かい今に至る。
「そう言えばセムレスの街って前に賊の襲撃に遭ったんじゃなかったか?」
アランが隣に座るウォーレンに話し掛けた。
「そうだな。知らせでそんな話を旦那様から聞いた覚えが在るな」
「今はどうなっているんだろうな?」
その話しがワレンスナ達にも聞こえたのかその会話に参加して来る。
「その話しは王都でも話題に為っていたぜ。数少ない近衛騎士が多くの賊からセムレスの街を護ったってな」
「そうだね。大々的に話しが流れていたね。新聞でもその記事が一面で載っている位だからね」
とはいえ余りに話しが流れ過ぎている様に感じた彼等は幾らか誇張していると考えていた。
「ああ、そんな話しだ。最終的に五人の近衛騎士が生き残ったって話しだよな」
「全員が男爵位を受けたのだったな」
男たちはその話を回って来た情報で話していた。
「まあ、確かにその通りだけど。幾らか誇張されているわね」
彼等の話しを聞いていて負の部分は大きく隠されていたとワレンスナは心の中で溜め息を吐いたほどだ。
「なんだ、姉御は知っているのか?」
「まあね。私が支部長を辞めた後、直ぐにその事件が起こったのよ。折しも私は王都へ向かうべくセムレスへと向かって歩みを進めていたわ」
彼女は長らくギルド本部に顔を出していなかったことから向かおうと考えていたのだ。そして、鈍った勘を取り戻すべく平原で魔物や動物を狩りつつ進んでいた。しかし、もうすぐセムレスが見えると言うところで賊の襲撃の知らせを逃げて来た人間から聞き出したのだ。
彼女は馬の腹を蹴り一気に加速させてセムレスへと向かう。すると激しい襲撃によって煙が上っているのが遠目でも視認出来た。これは不味いと馬を一杯に奔らせて辿り着いてみれば予想に反して終息へと自体は向かいつつあったのだ。
当然彼女はこの街で足止めされることになるが、色々と話しを聞くと街を護ったのは数名の近衛騎士と冒険者、それに大半の住民であった事が判明したのだ。しかも本来護る筈の兵士が逃げ出した事が多くの住民の話しで聞かれたのだ。
中でも近衛騎士団は真っ先に逃げるか戦う前に賊の襲撃を受けて殺されている。無事に逃げだして船に乗り込んだところで火を着けられて川に沈んだケースもあった。彼女が聞いた話で住民の見方は兵士を信用できないと口には出さなかったがそう言っているかの様な口ぶりであった。
「……随分と内容が違うが、情報は漏れないのかな?」
「日数が経っても俺たちの所に来なかった事で理解出来るだろ」
アランの問い掛けにロドムが答える。そして彼は続きを話し始める。
「恐らく大々的な活躍を前面に出し、真相が判り始める頃には風化している。恐らくそれを狙ったってことだろう」
「そうね。私もロドムの言う事が正しいと思うわ」
そこまで言うとワレンスナが席を立つ。
「さてと、話しも此処までにしましょう。セムレスへは朝一番に入りたいわ。それに急な移動で知らずに疲れ溜まっている筈だわ。早く寝てしまいましょう」
「ああ、そうだな。それじゃあ明日に備えて寝てしまおう」
ロドムとワレンスナの言葉で皆は思い思いの場所で寝床を確保して一日を終えるのであった。
翌日、一行は予定通りにセムレスへと向かう。陽が昇る前、漸く明るくなってきたかなと言った時刻に彼等は馬に跨り移動していた。
「へーあれがあのセムレスか…」
何度か訪れた経験のあるロドム達は様変わりし始めている街を見てそう呟く。
「随分と堅牢な城壁を築くんだな」
「空堀に加えて城壁か、それに塔まで建設って物々しいな」
「恐らく昼夜兼行で行われているのね。王家の直轄地で賊の襲撃が在ったからこその事業ね」
襲撃事件の後直ちに兵士と騎士団の人員刷新と共に二度と外部から簡単に侵入されない様にと王家の私財を投入して建設が始まったのだ。建設に当たる人間と魔法使いを大量動員しての突貫工事によって僅か一月で形が見えるまでになった。
「流石王家ってところだな」
アランの一言に尽きるのであった。
一行は新たに造られた城門へと向かう。そこも以前とは様変わりしている。空堀も深く掘られ、つり橋を渡ると入り口の両側に塔が造られ上から兵士が睨みを聞かせている。
「本当に物々しいな」
「うん、威圧している感が半端無いね」
セルトとカナはそう周囲に聞こえない様に話す。
「そう言えば二人はどうやって川を渡って来たんだ?」
アランは前を進む二人にそう尋ねた。
「泳いで」
「泳いだね」
そう本来の目的はレベルアップを目的としてやって来たのだ。川幅が最短でも二キロと広大なアレンセント川は二人にとって打って付けの修業場所だったのだ。
「マジかよ…」
「流石冒険者を生業にしているだけの事は在るか」
アランとウォーレンは驚きと呆れそして少しの尊敬を内封した口調で話した。
「次ぎ!」
ロドム達は馬から降りて入城する為に並んでいると漸く順番が回ってきた。
「広範囲依頼を受けるべく参りました」
この場はワレンスナが取り仕切る。オリマッテが受けた要請書を兵士へと見せてそう言葉を発した。
「ああ、冒険者の方ですか、それではカードの提示をお願いします」
兵士は事前に話しが通っていると分かる対応を行い、口調も改めた。
そう言われ六人は素直に従ってカードを見せると兵士は一枚ずつ確認して全員分の確認を終了させる。
「はい、確認しました。唯今特別便が用意されておりますので川岸のマールシェプと言う船会社へ向かって下さい」
「承知しました。有難う御座います」
彼女達は兵士にそう言って無事に入城を果たすのであった。
「さてと、マールシェプか…聞いたことない船会社だが先ずはそこを目指そう」
入城を果たすと直ぐに脇にある馬小屋へ馬を預けた一行はロドムを先頭に先ず船会社が立ち並ぶ街の奥、即ち岸へと歩みを進め始めた。
「街の中はいたって平和だな。活気が在っていい雰囲気だ」
「だね。もっとピリピリしていると思ったよ」
セルトとカナの会話は皆が思っている事を代弁していた。周囲を見れば建物に傷が残り、打ち捨てられた建物も存在するが領民の表情は非常に明るいものであった。
「でも建物はまだ傷が癒えていないな」
「仕方ないだろう城壁へと物資も人も取られれば中は後に為ってしまう。今は外部からの襲撃を防ぐことに集中しているのだろう」
そう話しをしていると目的と為る会社の看板を発見する。
「ここだな。随分と真新しい店構えだな」
「そうね。襲撃後に出来た様な感じね」
そうリーダー格の二人が話して店の中へと入った。
「いらっしゃいませ!おや、冒険者の方ですか?」
いかにも商人と言う様な笑みを蓄えた男がロドム達を出迎える。そしてロドム達が予想した通り内装も真新しい物ばかりであった。
「ああ、王都で広範囲依頼を受ける為に此処へとやって来た。警備兵に尋ねたらこの店を紹介されたんだが…」
ロドムは要請書を彼に見せて話した。
「ああ!広範囲依頼を受ける方でしたか。それではお急ぎください。最終便が出発の時刻を迎えています。おーい、マックス!」
男がそう大きな声で奥にいる者に声を掛けると一人の男が現れる。
「どうしました旦那様?」
「ああ、まだ出ていなかったか。丁度いい此方のお客様を乗船させてほしい」
二人の会話はこれだけで全てが分かっている様な物であった。
「承知しました。それではお客様此方へと続いて下さい」
そう言って彼が背を向けたところでロドムが声を掛ける。
「っと、すまねぇ馬を連れて来ているのだが…」
個人所有の馬は馬車に繋いである物を除き街の中まで入れる事を原則禁止している。だが移動手段である馬を、川を渡ると言う理由で手放す事は決して出来る事では無い。ましてやロドム達の所有する馬はオリマッテの馬である。損なう事は許される訳が無かった。
「ああ、そうですね。ではお急ぎくださいませ。此方のサインを兵士へと提示いただければ許可されます。再度此方へと来て下されば此方のマックスが船までご案内いたします。ただ時間が在りませんのでお急ぎください」
商人はそう話すとロドムへと許可を含んだ木札を渡す。これが在ると街へと馬を入れる事が許される。
「ああ、分かった。面倒かけて済まない。道中よろしく頼んだ」
ロドム達は掛ける様に馬を繋いである場所へと急いで戻るのであった。
「それにしても俺たち以外に冒険者を見かけないな」
「もう渡っているんだろ。東側では俺たちが一番遠く為るんだ。仕方ないだろ」
ロドムは兵士に馬を中へと入れる許可を取り付けると騎乗せず手綱を牽いてマールシェプへと戻った。
「お待ちしていました。既に準備も整っております。皆さまの準備はよろしいですね?」
「ああ、問題ない。こちらこそ我儘を聞いてもらって悪いと思っている」
ロドムはマックスへそう答えた。
「いえ、私たちも仕事ですから。それではご案内いたします」
少し歩くと対岸へと渡る為の船が何隻も停泊している。
「おおすげぇ…」
「これは全てお宅の船か?」
ロドムは彼に尋ねた。
「いえ、あの船がわが社の船で御座います。それ以外は他社の船です」
愛想の良くないマックスだが尋ねられたことに関しては的確に彼等の質問に答えた。
「此方がわが社の船と為ります。馬は此方の者にお渡しください。私はここで失礼いたします」
マックスは部下に後を任せて別の場所へと向かった。
ロドム達は言われた通りに船員へと馬を預け、代わりに引き換え番号の書き込まれた札を受け取り、乗船を果たした。
「やはり俺たちが最後だったのか」
アランがそう呟く理由は一つ。船内は大型船だが多くの冒険者が既に出航を待っている状態だったからだ。彼等がこの船に乗っていると言う事は全員同じ目的で有ると言う証である。普段此処まで大規模な事が無い冒険者たちは妙な連帯感が生まれ、至る所で様気に唄を歌い合い和気藹々とした雰囲気が船内を充満させている。
「よくもまあここまで集めるわね…」
「だな。姉御も経験なしか?」
呆れながら話すワレンスナにセルトが尋ねた。
「無いわよ。前に話したでしょ。今回の事は本当にあり得ない事なのよ。広範囲依頼自体は二度有るけど、もっと人数は少なかったわ」
「ああ、そう言えばそうだったな。でもこれもほんの一握りってことは…あー駄目だ!想像できねぇ」
そう周囲を眺めていると出港の鐘が鳴らされる。それと同時に船内にいる冒険者が声を上げ出す。修学旅行の飛行機内で離陸、着離時に盛り上がる様な妙な空気に似た物だ。それを彼等は感じ取っていた。
この船を始めアレンセント川を航行する船舶は魔道具のスクリューを装備している。魔力を使用し動力としていると言う訳だ。以前は風の力と人力が頼りであった為、その分船員を乗せなければならずこの様に多くの人や物を乗せる事が出来なかった。まさに技術革新が行われた瞬間である。
それを可能にしたのがこのスクリューである。これもホルト製の物だが、一部国産化に成功し余裕のある船会社や王家所有の船には取り付けが始まっている。
どちらも仕様は同じで、水の元素を持った魔法使いが居ればいい。航続距離は魔力が切れるまで、魔力は寝れば回復する為、雇う人数は数名程度に抑える事が出来ると言う訳だ。そして推進力はやはり魔力に比例して変わるのだが、このスクリューの良い点は『少ない人数で莫大な力を』をコンセプトとして造られていると言う事だ。
この大型船、全乗員二百五十名を僅か一名の魔法使いのよって動かされている。流石に速度はそれほどでもないが費用対効果を考えれば非常に効率が良かった。しかし、効率を重視するあまりスクリューを使用できなくなると最悪の事態となる恐れがある。
「おっ動き出したな」
鐘の合図から僅かの後船が動き出したのを体で感じる事が出来た。川幅約三キロと言う距離を三十分で運ぶことになる。
「それほど時間を要す事が無いから上で景色でも眺めながらにしましょう」
ワレンスナとして冒険者だらけのこのむさ苦しい空間を好まなかった。そこで空気の旨い外で時間を過ごすのが有効だと考えた。
それから約三十分後対岸へと接岸し、冒険者が下船するのにはさらに十分を要する事となった。
「皆さんお疲れ様で御座います!広範囲依頼をお請けの冒険者の方は此方へとお集まり下さい!!」
船を降りるとその様な声が方々で聞えて来た。他にも岸には船が停泊し、似た様な冒険者の集団が大小降りて来てはその声に導かれる様に集まり大集団へと姿を変えている。さながらツアー客の如くの様相が各地で行われているのだ。
そしてロドム達が乗って来た船はその中でも一際大きな集団であった為に他の集団を吸収することなく声を掛けた人物へと集まることになる。
「それではご説明いたします。此の度は学術省大臣コレイト・ムサソーダ侯爵様より依頼をいただきまして王国全土に渡り冒険者の方が集まっております。わたくし冒険者ギルドドレンス支部のニューセフと申します」
大きな声でそう話す男はギルド職員を名乗りさらに説明を続ける。
「なお、皆さまが最後の団体です。既に先発組は王都へ向けて移動を始めております。また遠くから集まる冒険者に感謝しムサソーダ侯爵様より冒険者の皆へと酒が振舞われております。量が限られます『限定』物の品で御座いますので一人一杯とさせていただきます」
彼がそう言うと冒険者は盛り上がった。それはこの場以外でも同様であり、人数に応じて樽が運ばれ列をなした冒険者に注がれていったのだ。
「おお、随分と豪勢だな。それじゃあ俺たちも」
アランがそう言って動き出そうとしたところでワレンスナが止めに入る。
「待ってアラン、それにロドム達もこの酒は飲むのは止めましょう」
「どう言う事です?」
アランは不満気味に彼女に問い掛ける。
彼女は彼等を集めて小声で話す。
「あいつは冒険者ギルドの人間じゃないわ」
「どう言う事だよ。姉御?」
セルトの言葉にワレンスナは理由を述べる。
「決してあるべきではない広範囲依頼の規模を軽々しく王国全土などと言える筈が無いわ。普通は異例ですが等の言葉を用いるのよ。それを言わない以上疑って掛かるべきよ。それに提供される物も食べない、飲まない事を徹底すべきよ。何が在るか分からないわ」
彼女でなければ決して分からない僅かな違和感であった。特に冒険者はハイリスクハイリターンの傾向が強い職業である。身を護るのも全ては自己責任の色が強いのだ。軽々に行動すれば命の危険に瀕することもあり得るのだ。その辺りの嗅覚を確りと鍛えるのも長年冒険者を務められる要素であり、実力者への道でもある。
結局ロドム達を除いて酒を飲むに至った。
「あー美味そうに飲みやがって…」
アランはやはり彼女の言葉に多少反発が在ったのか、周囲で上がる声にそう言葉を発した。
「まあ我慢しろ。アラン」
「そうだ。帰ったら旦那様に美味い酒を飲ませて貰えればいいだろ」
ロドムとウォーレンはこの中では最年少のアランを慰めるのであった。
そうこうしていると酒を飲み終わった冒険者は再び集結しこれより出発する運びとなる。
「まだお飲みになっていない方はいませんか?」
ニューセフはそう確認するように声を掛けると「大丈夫だ!」の声が上がり、彼は言葉を続ける。
「それではこれより移動致します。本日はこれもムサソーダ侯爵様より提供頂いた転送魔道具です。これを使用いたしまして集団で移動致します!」
尚も彼の説明が続く。その中でワレンスナは隣にいるロドムに耳打ちをし始める。
「悪い事は言わないわ。ここで離脱しなさい」
「やはり相当危険な状況なのか?」
「ええ、酒もそうだけど転送魔道具なんて聞いた事が無いわ。既に渡ってしまったけれど船会社も違う会社にして戻るべきよ」
ワレンスナの指摘にロドムは頷こうとしてそれを辞めた。
「済まないワレンスナさん。流石にこの段階で引き返す事は出来ない」
ロドムとしても主人のオリマッテに報告をしなければならない。この段階ではどうしても満足出来る報告が出来るとは思えなかったのだ。
「そう…若しかすると引き返す最後の機会かもしれないけれどいいのね?」
ワレンスナは確りと彼の目を見てそう尋ねた。
「ああ、済まないワレンスナさん」
「仕方ないわね。それじゃあ気合を入れなさい。私は…俺はもう覚悟は決めた。間違いなくこの依頼は黒だ。陰謀の臭いがプンプンする」
困った表情を見せた後大きく息を吐きだし彼女は気持ちを変えた。
その態度にロドム達とセルト達の反応が別れた。
「おお勿論だぜ。昔の姉御に戻ったな」
「そうだね…あの当時の事を思うとこれから先の事も優しいと感じるかもしれないね…」
二人の感情は異なっている。セルトは嘗て憧れていた彼女の雰囲気が戻った事を喜んだが、カナはその彼女の言動と行動に過去の出来事を思い出し憂鬱な気持ちになったのだ。
「それでは皆さま移動致します!驚かないでくださいね!」
その言葉と共にニューセフは魔道具に手を翳し魔力を注いだ。次の瞬間ワレンスナ達を含んだ冒険者の集団は光に包まれ王都への入り口とも言われるドレンスの街から姿を消し、次ぎ彼等が視界を取り戻した時その場所は王都であった……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
書いては消しを繰り返す事数度、十日も掛かってしまいました…
サブタイトルとの関連が曖昧になっておりますがご容赦ください。次話以降で本編としてロドム達が組み込まれることになりますので領地開発記はここまでと為ります。
幾らか説明不足の部分が存在します。それは後に書いて参りますのでお待ち下さいませ。
ご感想等お待ちしております。
それでは次話で御会い致しましょう!
今野常春




