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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
気が付けば魔族が!編
91/107

第八十二話 動揺

 今回も主人公一同は出番が在りません…

 北側城門の警備に当たるケルは冒険者ギルドへと出向いた。理由は広域依頼の依頼者を確認する為だ。

「次の方どうぞー」

 日が没した後、ギルドは活況を見せなければならない。彼が冒険者であった当時この時間帯以降は大混雑が予想され、運が悪い時は周辺の店が閉まるまで待たされる場合が在った。しかし、今日はその限りでは無い。為らんでも目の前には僅か五名しか冒険者が居なかったのだ。これでは並んだとは言えない規模であった。

「済まない。私は北側城門を警備するケル・ホーフェンと言うものだが、何方か責任ある方と話せないだろうか?」

 服装は怪しまれない様に普段着である為に、身分を証明する物を提示して受付の女性職員に話しかけた。

「ケルさんですね。承知いたしました。少々お待ち下さい」

 そう言うと彼女は席を立ち上がり後方へと移動した。暫く待つと一人の男性職員を先頭に戻って来る。名前はソレイ・イカーナルという。元は仲間同士で冒険者五級まで進んだ人物であった。


「ケル、久しいな」

 そう職員は彼に声を掛けた。

「なんだ、責任者ってお前だったのか」

 そう言う彼の目は懐かしさを含んでいた。

「ああそうだ。何か話しが有るんだろ?こっちへ来い。ニーナは職務に戻ってくれ」

 そう言うと一階に備え付けられている応接室へと彼を誘う。


「さて、昔話に興じるのも良いが何か話しかあるんだろ?」

 飲み物をケルに差し出しながらそう話しかける。

「有難う。そうだな。実は最近冒険者の出入りが激しい様に感じるんだが、何かあったのかなと思ってな」

 ケルがそう言うとソレイの表情が曇る。それで何事かある事を察知する。

「出しかに広範囲依頼が出ている。しかも前代未聞の数でな」

「前代未聞?」

 鸚鵡返しにケルは尋ねた。

「ああ、ケルも知っているだろ。普通は一地方に固まって出す依頼なんだ。それが今回は王国内全土に渡って出されている」

 彼は務めて声を抑えてそう話しかける。しかし、それでもケルへの衝撃が計り知れなかった。

「全土って、それで他の依頼は消化できるのか?」

 そう言葉を返すとやはりという反応をソレイが示す。


「だめだな。此処最近まったくと言って良い程依頼が消化できていない。そのせいで一部では不満がくすぶり始めている。さらに採取や狩りと言った依頼がこなせていない為に不穏な気配すら出ている。冒険者にとっては目先の金を優先するかもしれないが、ギルド側に回ればその限りじゃない…」

 そう言うと大きく溜め息を吐いた。それはケルも同様である。王国中で消費される物資は何も生産されることで賄える品ばかりでは無い。中には冒険者が依頼を受けて採って来なければならない場所に存在する物が求められる品もある。それが滞れば国内経済にも影響を及ぼしかねない。

「それは何かと大変な事態となっているな…」

「まったくだ。冒険者の人口は年々減少している。加えてピュータ村への護衛にベテランたちが取られている。踏んだり蹴ったりだよ。方々から不満の声が届いている状態だ」

 そう言ってソレイは現状を彼にぶちまける。少なくともケル為ら認識を共有出来ると踏んで話しをしているのだ。


「成程な、その苦労は察するよ。で、依頼者は誰だ?」

 金払いの良い多くの人員を集めるだけの財力を考えると少なくとも侯爵位を持つ者でなければ不可能だとケルは予想している。

「なんだ、知らないのか?学術省だよ。それはもう凄まじい金額らしいぞ」

「学術省が!?一体なんだってそんな?あそこは主に貴族様御用達の分野だろ?」

 管轄で言えば冒険者が拘わる様な事案はほとんどない。それがいきなり広範囲依頼を出す程の内容だ。ケルが訝しんだのも無理はない。

「まあそうなんだがな…俺も中間管理職故に詳しい経緯は知らないんだ。だが、前金と報酬額が相当な額に上る事だけは分かっている。それに国が依頼を出す以上他の依頼は後回しにしなければいけない。今じゃ冒険者を相手にするのではなく依頼者への謝罪に追われているよ」

 ケル達はその後暫く応接室で会話を行った。終盤は結局昔話に花を咲かせるのであった。

「あーこんな時間になったか…仕方ない報告は明日にしよう…」

 そう呟くとケルは家路に着くことに決めた。


 翌朝通常通りに彼は詰所へと出向いた。手には報告書を携えて入室するとそこには既に隊長のホタが待っていた。

「おはようケル。情報は手に入ったかな?」

「おはようございます隊長!はい。昔の伝手を頼りまして、此方が報告書に為りますが口頭で話しましょうか?」

 彼が渡すとホタは頷く。

「ああ、頼むよ。まだ他の者が来るのに時間が在るからね」

「それでは、確かに広範囲依頼が出ていました。それも王国全土に渡っています。依頼主は学術省です。責任者はトップのコレイト・ムサソーダ卿です。一部では根こそぎ動員しているせいで物資不足が出ているそうです。詳しくは報告書に書いてありますが概要はこうです」

 そう言うとホタは報告書に視線をやる。

「随分と大々的な依頼である事は分かった。でもこれが何を意味するのかな…?」

そう呟くとホタは考える素振りを見せる。彼としても学術省と冒険者の関係を訝しんだのだ。


「請け負った延べ人数は未だに不明でしょうが警戒する要素はあります」

「うん。確かにな、それは隊長のみんなとも認識が一致したよ。後はアリーの報告だがより深刻そうな話しでも出てきそうだな」

 ホタはそう言って苦笑いして居ると件の人物がやって来る。

「おはようございます!って隊長、ケル?お二人とも早いですね」

 そう言って彼は詰所へと入る。

「昨夜の件ですがこれ報告書です。やはりどこもうちと同じですね。中でも東側は大変なようです。休憩が無いほどに人が押し寄せている様です。それと西側ですが多くの冒険者が出ているそうです」

 そう言うとホタは先を話す様に促す。

「目的は不明ですね。警備兵も王都を出る者に目的を聞く事は許されていませんから。あと、これ別件ですが…」

 そう言って意見書と書かれてある書類を渡した。ホタはそれを眺めているとアリーは経緯を説明し出す。


「昨夜、酒場で意見交換したんですよ。そうしたらあまりにも独立して問題を解決していた為に幾つか齟齬が生じていました。それに対処法も各地で異なっています。それに此処は安全だと気の緩みもありまして、定期的に情報共有を目的とした連絡会の設立をお願いしたいのです」

「成程、考える事は同じと言う訳か…よかろう。場所があの酒場であると言うのが問題だが、我ら程度の情報が漏れてもさほど問題には為らぬだろう。唯正式な許可を待ってから行う様にな」

「はっ!有難う御座います!!」

 子話していると続々と兵士が集まり、もうじき開門の時を迎えるのである。


 この日も例に違わず冒険者が多く訪れる。兵士等も情報を知り、隊長間でも気を付ける様な考えが広まり、入城する際は警告を行う様に為っている。これは自発的な行為であり、上級庁への許可を待っている中で先行して行われている。それほどまでに人数が多いのだ。

 冒険者を正式な職業として活動している者は五万人居ると言われている。さらに登録者だけで言えば八十万にも登る者が居るのだ。合わせて八十五万人、その内の一割でも王国軍を凌駕する。現在警備兵で手の空いている者がどれほどの冒険者が訪れたのかその合計を出そうとしている。それが出るまでは上層部への意見具申など許されないからだ。


「うへー今日も多いな…」

「ああ、やっぱり恐怖を感じるな…」

 アリーとケルはそう感想を漏らす。二人は詰所で休憩しながら逐一入城を待つ人物を眺めているのだ。

「とは言っても制限する事は出来ないしな…」

「上が動いてくれないとな…」

 隊長であるホタは二人の報告書を携え直ちに報告へ赴いた。場所はアレンゼントルが住まう王宮である。本来ホタが報告書を上げる人物は警備隊大隊長のアセン・グリュト男爵である。時間が惜しいと言うのと彼が学術大臣コレイト・ムサソーダと関係しているからであった。

 ケルはホタに対して決してアセンに報告しない様に念を押していたのだ。故に規律から逸脱してしまうがトップに報告する事になったのだ。


 奇しくもこの日、デムレストア帝国との交渉に出席する事の無かったアレンゼントルがアポなしに会うと言う偶然が生まれた。場所はとある個室である。しかしそれでもとホタは感じる。自分の家よりも遥かにでかいなと。

「済まないな。今日はこの場所しか空いていなくてな。それで私に話しが在るとか?」

 アレンゼントルは侯爵位でありながらもホタに対してフランクに接している。それに対し彼は緊張で頭が真っ白になる事を抑えるのに必死であった。

「はっ!ほ、本日はフロランス侯爵閣下に御会い出来た事誠に感謝しております!!」

 そう挨拶するとアレンゼントルは苦笑いをしながら手でそれ以降話す事を制する。

「公式の場では無いのだ。そう硬く為るな。それに緊張していれば話したい事伝えなければならない事も上手く相手に伝える事は出来ないぞ。先ずは私の爵位など気にせぬ事だ」

「は、はぁ…」

 何ともイメージと違う雰囲気に呆気に取られたホタはそう戸惑った。彼の中のアレンゼントルの人物像は軍人であり、貴族の中でも頂点に立つ傑物であった。故に普通にしていても威厳の塊である様に感じていたのだ。だがどうだろう、今目の前で話す彼はその雰囲気すらも感じさせる事は無かった。

「とは言え緊張するなと言って直ぐにそうなるとは思わん。幸い時間はたっぷりある。君が満足するまでたっぷりと話しを聞こうではないか」

 そう努めて気さくに話し掛けるアレンゼントルの甲斐あってか幾分余裕を取り戻したホタはケルとアリーの報告書と提案書を提出する。ホタが提出すると直ぐに読み始める。そして話す様に彼は促す。


「先ずは我が警備隊、北城門での物であります」

 ホタは報告書を読んでいるのに合わせて話し始める。

「異変に気が付いたのは昨日の事です。私を含め違和感を覚えた者は居りましたが、それを見抜いた者が、今閣下がお読みに為っている報告書の人物です」

 そう説明するとアレンゼントルは改めて報告書を書いた人物の名前欄を確認する。

「ケル・ホーフェンか…」

「はい、昨日の事です。彼は同僚のアリー・マクリネと休憩中異変に着いて話しをしておりました。そこで初めて冒険者の流入が増大している事に気が付きました。私たちもその違和感がそれだと気が付くのにそう時間を要しませんでした」

 そう言って話しているとアレンゼントルはアリーの報告書へと目をやり始める。

「そちらは昨日の任務終了後同じ警備隊から情報を集めたものです」

「……成程、北のみならず全方位で増加しているか…」

 そうして最後まで読んだところで一文に着目する。

「西側だけ冒険者が出ていると…」

「はい。それが何を意味するのか分かりませんが、分かっているのは冒険者の数が警備隊兵士を何れ凌駕する規模に為る勢いなのです。これは看過できません。何と言っても主力軍が演習で出払っております。これでは戦う術は在っても数で劣る我らでは持って僅かでしょう…」

 ホタはそう言うとアレンゼントルは溜め息を吐いた。


「成程な確かにこの報告書を読めば不安にもなろう。それで調査した結果が広範囲依頼であったと言う事だな。依頼主は…学術大臣コレイト・ムサソーダか……」

 そう言って報告書をテーブルへと置いた。

「はい。今回報告した経緯は…」

「大隊長が彼のシンパである。そう言いたいのだな?」

 ホタの言葉を抑える様にアレンゼントルはそう言葉を発した。

「はい。これも情けない話ですがケルの提案でありました。私は素直にアセン・グリュト男爵へ報告する処でした」

「そのケルと言う人物はどんな者なのかね?」

 話題を変える様にアレンゼントルは尋ねる。ホタは突然部下の事を尋ねられて一瞬戸惑う。


「ほ、ホタ・ホーフェンは元冒険者です。しかし、限界を感じ止めて以降王国軍兵士に為るも年齢から警備隊へと配属が決まり、私の所に来ました。彼は三年目に為ります」

「そうか、元冒険者か…だからそこに目が行ったということか…」

 彼はホタの話しを聞いて何やら合点が行った表情をする。だが、そう言われてもホタにはどう言った事か分からない。それを見たアレンゼントルは説明し出す。

「彼は冒険者歴が長かったのではないかな?」

「は、はあ…不正規の頃からを含めますと十二歳からですから…二十五年は冒険者をしております」

 それでも彼にはアレンゼントルの意図が見えない。

「冒険者の流入だけでは無い。流出でも無い。彼が訴えているのは集団と為る事だ。一人の戦力は微々たるものだが王国軍兵士と比べても遜色のない者が多く存在していると言う事だ。加えて冒険者はその職種柄臨機応変に戦闘が出来る。しかし、王国軍兵士はそうではない。指揮官が居てこそ精強な兵士として戦う事が出来るのだ。ケルと言う人物は冒険者と兵士と言う両方の視点から見抜いたのだよ…」

 そう言われて漸くホタも合点がいった。


「それに冒険者ギルドに知り合いが居た事も大きなことだ。依頼者と言う者は本来話してはいけない事だ。それを教えてくれる人物は相当彼と親交が在ると言う事だ。まあギルド側も今回の件で相当参っているからな…」

 アレンゼントルがそう言うのは冒険者ギルドの管轄が軍務省であるからだ。冒険者ギルドのトップは本部長と呼んでいる。彼の上に軍大臣が居る為に報告は直ぐに上がって来る。指揮命令系統はピラミッド構造で行われている。アレンゼントルから本部長へそして各支部長へと通達される。逆に報告も同様だ。

「五日ほど前からだよ、デムアーレ本部長がどうにかしてほしいと言って来た。地方の支部では此処に書かれてある通り支障が出始めているのだそうだ。それで品不足も把握している。君やケル、アリーは少ない情報でよくぞここまで気が付く事が出来たな。既に私でも調査を始めさせている。加えて主力部隊の帰還もな。しかし、此処にある西側に冒険者が抜けている事が気に懸かる。西方関所が抑えられると厄介なのだ…」

 これはまさしくケルが予想した事象である。奇しくも軍部のトップと認識が一致した事にホタはケルの慧眼に舌を巻いた。

「それはケルも述べておりました。冒険者が主力を関所で阻めば王都は危険だと」

「警備兵としておくのは勿体無いほどに見えているな。どうだ、君たち三人私の下へと来ないかね。警備からの見識も必要かもしれない。そう言った点で君たちの頭が必要になるかもしれないのだ」

 その言葉にホタは驚いた。そもそも三人は貴族では無い。それが大貴族に当たる侯爵が引きあげようと言ってきているのだ。他の貴族でも彼の元で働く事は狭き道である。それが今目の前に示されたのだ。


「閣下お気持ちは大変有り難く存じ上げます。しかし私はそこまでの人物では御座いません。しかし、ケルとアリーの二人ならば閣下の下でも十分に役立つことでしょう」

 そう話すとホタは部屋を辞し北側城門へと戻り始める。


(確かに、彼等の言う様に危険であるかもしれない。しかし、吊り上げる為にはそれなりのエサが必要なのだ。現場の者には済まないと感じているがこればかりは…)

 アレンゼントルはホタが部屋を出た後一人そう考えていた。何と言っても冒険者ギルドから出る広範囲依頼の許認可権は彼に在るのだ。依頼主から規模果ては目的まで全てを調査したうえで正式な許可が出ているのである。

 現在待ちの活況を見ると心が痛む。しかし、長らく王国を蝕んだ膿は大出血を伴わなければ切除する事違わず。多くの犠牲を覚悟で行うとフェーバル王を始め心ある者で決意して臨んでいる。

 その中で希望が見えた瞬間である。組織形態で言えば警備隊と言うのは最下層に位置している。言わば王国軍の主力から落ちた兵士で構成されている。軍事訓練を受けているとはいえ力で言えば主力からは見劣りする集団である。それでもこうやって報告が来る、提案が来る事は大きな収穫であったのだ。


 アレンゼントルはその事も踏まえ少しの間心地よい気分と為っていたのであった……


 最後までお読みいただき有難う御座いました。


 ご感想等お待ちしております。

 それでは次話で御会い致しましょう!

             今野常春

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