第八十一話 王都、守備の要は門番ではなかろうか?
王都グローリンバリーへと入城するには四か所の城門より入る事が決められている。東西南北に設けられた城門は日中開けられている。警備兵監視の下、通行証を提示して入るシステムと為っている。この通行証は領主の許可証や商人である事冒険者であることなどを証明する物である。此処の都市は王国最大の消費地である。常に物資の搬入が為されなければそれだけで一部の品においては不足に陥ることも在り得る。その為に商人は優先して入城できる特例が与えられている。
この日も朝早く、城門が開かれる前から多くの人が並んでいた。多さで言えば東の城門が群を抜いている。と言うのも東側は孝雄実たちが北方角であり、人口が多い場所である為だ。次いで西、南、北の順である。それに比例する様に警備兵の配置も異なる。グローリンバリーは経済と政治の中心地であり治安維持は厳重である事が求められる。特に外敵からの侵入に関して言えば高く、分厚い城壁に加え鋼鉄製の門によって堅固な造りになっている筈である。しかし、長らく戦争と言う行為が行われず、軍を動かす行為は演習が良い所であった。平和を謳歌しているドットゥーセ王国は人口増加が著しい。その為に王都は何度か改築を行い、規模を拡大させてきた経緯がある。現在は第七期の城壁構築が行われている。
多くの資材の搬入と人の出入りが殊更多くなり、警備兵は演習に人手が奪われ忙殺されていた。
「なあケル。最近冒険者が多くないか?」
「ああ、そう言われればそうだな…」
北に位置する詰所では休憩時間中にこの様な会話が為されている。二人は早朝からローテーションで警備にあたっていた。その際、三日前にやって来た冒険者の一団が王都を出た事を確認していた。それが一組であれば気に為らなかったが、その様な事が度々起これば忙しくとも気に為ってしまう。
ケルは帳簿を取り出して一週間に北側の城門を通過した人間の名前と職種を調べ始める。
「あーなんか冒険者が多いな。それも北側にある村などから満遍なくやって来ているぜ」
ページを捲りながらそう話す。
「これ、隊長に報告した方が良いかな?」
「待てよ。一応確認してからにしようぜ。若しかしたら広範囲依頼が出ているのかもしれねぇからな」
ケルは元冒険者なだけありそう言った事情に少しは詳しいのであった。
しかし、同時期に他の城門でも似た様なやり取りが在った事は知られていない。
「冒険者ですね。ギルドカードを拝見いたします」
ケルとアリーは再度順番が回って来た事で先程話していた事を確認することにした。
「はい。アレットさんですね。最近冒険者の方が多く訪れますが広範囲依頼でも出ましたか?」
「あっ、警備兵さんは元冒険者かい?そうなんだよ。結構金払いが良くてな。前払いでこれ位なんだぜ。それで終わったら同額がいただけるって話しだ」
アレットは他にも仲間が居て皆いい顔をしている。それは懐が温まっていることから来る幸福感であり、王都で散財する事にしている事の現れである。
「へーそれは羨ましい話しですね。俺もまだ冒険者やっていればよかったな」
「まあ、こんな事一生のうちにあるかないかだぜ。むしろ安定した職でいいじゃないか」
互いに長所と短所は存在する。それの良い処を話していると入城審査が終了する。
「はい。結構です。それでは問題を起こさない程度で遊んで行って下さいね」
「ああ、分かってるぜ。それじゃあな!!」
締めて六名が城門を通過する。今朝からこれで六十八組目の冒険者である。延べ人数にして百八十九名にも登る。彼等の仕事は開始したばかりである。他にも商人や周辺の領民が多く押し寄せている為に滞らせる訳にはいかず交代要員が現れるまでは職務を全うするのであった。
その後三時間経過した後に交代要員と代わり二人は詰所へと戻る。この日はこれで仕事が終わる。
「やっぱりこれは異常じゃないかな…」
ケルはやはり帳簿を見ながら相棒のアリーと話し合う。過去一週間に遡り延べ人数は千人を軽く超えているからだ。一番少ない場所でこれである。平均人数を考慮すれば東側では一週間で五千名もの冒険者が流入している事になる。流石にそれは無いとは言え現在の警備兵の人数で言えば不安を覚える数である事は間違いが無かった。
「だな。もう直ぐ隊長が最後の確認に来る。その時に話してみよう」
門を閉める時刻は決められていない。と言うのも時刻と言う概念が浸透しつつある中でも日没という前時代的な決まりで開閉が行われるからだ。
「ああ、そうだな。場合によっては残業確定だな…」
それからほどなくして別の兵士が閉門時間を知らせる鐘を鳴らす音が聞えて来た。
最後は警備兵全員で城門を閉める事に為っている。それだけの重量を誇り、安心感を王都に住む者に与えている。此の場所も何れは常時開放する場所と為り、彼等の勤務地もより中心地からは慣れる場所となるのである。
「皆、今日も一日お疲れさん。さて、何か報告する事はあるかな」
優しげな表情で部下に話しかける隊長ホタ・カレッタはそう尋ねる。すると間を置くことなくケルは挙手して発言を求める。
「隊長!」
「どうぞケル」
「此処一週間で冒険者の職種に就く者の流入が多くなっております。流出は平均より少し多いそうですが、広範囲依頼が出ている割にその数が尋常ではない気がします」
すると他のペアでも同様な思いをしながら職務を行っていたのであろう。次々にケルの言葉に賛同する様な言葉が発せられた。
「皆静まれ。確かに私もそれに関しては気に為ってな。西城門の者にも尋ねたがやはり増加しているとのことだった。だがケルの発言は重要なことだな。早速上に上げて調べて貰うことにしよう。他に何かあるかな?」
その言葉で特に発言する者は居なかった。その為に解散が言い渡され方々に散るのであった。
「ケル、君とアリーは残ってくれ」
ホタはそう言うと着いて来るように指示して歩き出す。向かう先は詰所であった。
「済まないな二人とも、時間を取らせてしまって」
「いえ、構いません。私が発した事でしょう。それならば責任が在りますから」
「俺もケルの相棒ですからね。気にしないでください!」
そう言って三人は上下関係なく席に腰かける。
「さて、先程の話しだがどれほど深刻だと考える?」
ホタはそう切り出す。彼もこの警備を初めて二十年を迎えるベテランである。長年の経験則からケルの言う様に異常な事だと思い始めているのだ。
「時期が不味いですよ。何と言っても王国軍の主力がゴッソリ演習で抜けています。仮にですよ。西方関所が封鎖されたら王国軍が速やかに王都へと戻る事が出来なくなります。そうなれば我らだけで王都を護らねばならない。まあ、最悪衛兵も借り出すことになるかもしれませんが…」
ケルの言う事はあくまでも王都内での暴動である。前払いのいい依頼者によって王都内ではプチバブルが起こっている。消費が消費を呼びこみ俄かに物価上昇が見られ始めているのだ。それ以上にグローリンバリーに落ちるお金の量が凄まじかったのである。その為に仕入れの商人たちは臨時で馬車を手配する事と為り商人ギルドでは馬車の不足が目立つ事と為っていた。
商人に関して言えばティーナの輸送依頼も起因している。商人間での馬車の貸し借りが滞っているからだ。
「うーん。しかし、その様な事が起こりうるかね。暴動がそう簡単に起こるとは考えにくいが…」
ホタはそう言ってケルの言葉に難色を示す。荒くれ者が多く在籍する冒険者でも王都の治安を乱す場合は極刑が待っている事は重々承知している話しだ。それ故に彼はケルの言葉を受け入れる事は出来なかった。
「隊長。此処は行動しましょう。何も起こらないのが一番です。ならば事前に防ぐ事、備える事も重要な仕事です。此処で悩むよりも情報を共有しましょうよ」
アリーは悩めるホタにそう進言した。これには彼も大きく心を揺れ動かされ、すかさず言葉を発する。
「そうだな。有難うアリー。確かに君の言う通りだ。先ずは城門の兵士等から話しを集めねばならんな。アリーは悪いがその役目を頼む。ケルは冒険者ギルドへと赴いて事実確認を行ってくれ。俺は各場所の隊長と意見交換へと赴く。さあ、時間が無いぞ、動いてくれ」
二人は時間外労働を快く了承すると詰め所を出て行った。この裏にはホタの人心掌握術にある。様は自腹で食事などを奢ったりすることで上司と部下の関係を円滑なものに構築していたのだ。
日が没して以降は夜のグローリンバリーへと姿を変える。飲食店、軒並み酒を出す場所が賑わいを見せる。そこでは度々喧嘩が起こる為にこの時間帯から働く警備兵も存在する。
アリーは城門に詰める警備兵が良く集まる店に出向いた。
「よう、アリーじゃないか。お疲れー」
「ああヴェタンお疲れー」
そう言ってアリーは適当な席へと腰を下ろす。酒と軽くつまめるものを注文すると早速顔見知りの警備兵に声を掛ける。
「ヴェタン。最近冒険者の数多く為っていないか?」
アリーは東城門に詰める彼にそう尋ねる。するとその場にいた彼の仲間が俄かに反応する。
「なんだ。北側も多いのか?」
「そうなんだよ。相棒のケルが訝しんでな。それで調べたら広域依頼が出てるって話しなんだよ。それでいまケルが冒険者ギルドへ確認を取っている処なんだ」
そう言うとヴェタンを始め全員が成程と言った様な表情となる。
「だから王都が賑わっているのか。それに商人がやたら多くてな」
「そうそう。俺たち休みなかったんだぜ」
「明日もこれだと思うと気が重いよ…」
アレンセント川を利用した貿易も盛んな為にその流入数は計り知れない。冒険者と物資の輸送の両面が一気にくれば北側などとは比べる余地もなかった。
「普段から東側は忙しいもんな」
アリーがそう言うと、西と南の警備兵らも会話に入り込んで来る。どうやら彼等の会話に興味が在り静かに聞いていて機会を窺っていたのだ。
「西も同じ様なもんだぜ。但し出ていく者もそれなりにいるけどな」
「南もだ。こっちは入って来る者専門って感じだな…」
気が付けばアリーたちの場所は多くの警備兵が集まっていた。そこで彼は店主に許可をもらいテーブルと椅子を集めて飲み食いが出来る様に改造して話しを進める。
「すると東西南北に置いて冒険者の流入が増加している。但し西側は出ていく者も多いと言う事だな」
そう言うと一同が頷いた。
「しかし、お前んとこの相棒以外誰も広域依頼だと勘付いた者が居ないとは、少し不抜けていたかもな俺たち」
ヴェタンはそう言うとこの言葉にも一同は頷く。彼等は王都の最初の番人である。敵を外で防ぐから堅牢なので在って、内部へと敵を入れてしまえば脆い。その匙加減も彼等の頑張り次第なのである。何時何時、敵が一般市民に紛れ込んで王都に潜伏し、機会を窺うか分からないのである。其れだけにヴェタンの言葉はより彼に重く響いた。
「だが、一体何の依頼なんだろうな?」
「西側に何か問題でもあるのか?」
そう口々に警備兵らは言葉を発する。この時点で気の利いた者が店を貸し切る旨の話しを付けている。とまれ、この店は警備兵以外それほど訪れる者が居ない御用達の酒場なのである。店主はお得意様の彼の言葉に素直に従った。勿論その日の売り上げに貢献する事を条件としてだ。
「ケルは軍隊規模になればと仮定して、西方関所を封鎖して王国軍主力を防ぐかもしれないって話していたぜ」
アリーは先程三人で話していた時の事を思い出してそう打ち明けた。
「一体何故そんな事をする必要がある?たしかに今主力が演習の為にコースト平原へと出向いているが…」
「そこがおかしいんだよ。そもそも三カ月程早まっての演習だろ?参加兵士も結構不満を漏らしてたって話しじゃないか」
アリーはヴェタンの言葉にそう返す。皆はその言葉に思い思いに考えに耽る。
「でも不可能だろうな」
そう言葉を発したのは南側に配置されているゼーマンであった。
「不可能?」
アリーはそう尋ねる。
「そうだ。そもそも依頼で関所を占領なんて通る訳が無い。それに冒険者だって馬鹿じゃないんだ。仮に関所へと向かったところで拒否するに待っているだろ?」
そう言うと全員が成程と大きく頷いた。しかし、アリーとヴェタンの二人は彼の言葉に怪しんだ。
「ゼーマン、何故封鎖では無く占領なんて言葉を使うんだ?」
ヴェタンはそう彼に問い質した。
「えっ、だってそれは似た様なものだろ。封鎖と聞いて俺は占領だと思ったんだ。違ったなら謝るよ…」
そう言って彼は木製のジョッキに入る酒を飲みほした。まるで紛らわせるかのように…
「まあそう攻めるなよ、二人とも。認識としては間違いではないのだ。先ずは少しおかしなことに為り始めていると言う認識を持とうではないか」
西側に詰めるヘルムストはそう言って場の空気を正常に戻そうと試みて見事に成功する。組織にはこうした者が必ず無くてはならない。
「ああ、そうだな。済まねえゼーマン」
ヴェタンは彼の指摘でゼーマンに頭を下げた。それには彼は慌てる。
「ああ、いいって気にしないでよ。そもそも俺の認識が少し違っていたってことが悪かったんだ」
そう言って事でその話しは終わりを迎える。その後は皆が最近少しでも異変が在った事をつらつらと話して行く場へと変化していった。
「こう言った話し合いの場が必要かもしれねぇな…」
ヴェタンは締めくくる様にそう話す。気が付けば彼をリーダーにして一勢力が構成されている。副リーダーにはアリーが参謀の様な役割にヘルムストが、中々に充実した話し合いである。気が付いた事を話して行くと二か所、三か所と同じ様な事案が発生していた。それらは独自で処理していた為に驚きの連続であったのだ。
「各方面の隊長に提案してみるか?」
アリーがそう言うと全員一致で大きな声で賛成の言葉を発した。酒が入り程良く気分が高揚したせいもあった。
「取り敢えず、現段階で対処できる事は治安維持だけだな。不審者は絶対に王都へは入れさせない様にする事が絶対だ。これは王都内の警備兵らとも擦り合わせておかねぇとならねえ話しに為りそうだぜ」
「それは俺に任せてくれよ。それなりの立場の者と懇意にしているからな」
ヘルムストはそう言って役目を負った。
「さて、大分時間も押してしまったな。何か言っておきたい事はあるか?」
ヴェタンは周囲を見渡してそう尋ねた。
「それじゃあ解散だな。定期的に集まる様にしよう。場所は此処だな。じゃあ解散!」
ヴェタンはそう言うと席を立ち上がる。すると皆も一斉に立ち上がりその場を後にし始める。会計は全て徴収してある為にお店側も取っぱぐれは無かった。
こう言った話し合いは隊長格の場でも必要と言う認識が固まっていた。城門は東西南北にあるが入り口事態は各方角で一から五まで存在する。意外と多くの隊長がこの日集待っていた。彼等は警備兵でも少しランクが上がるお店に集まる事が決まり、内容等もヴェタンが述べた内様と一致する面が多々あった。
とにかく兵士、隊長共に情報共有が不十分だったのだ。それが分かっただけでも儲けものである。彼等は統括する軍務大臣アレンゼントルに共同提案をすることも既に決めている。本来アレンゼントルに行く前に段階を踏まねばならない手順が在るが、時間が無いのではと感じ数段素っ飛ばして行うことになったのだ。勿論提出する代表者はホタである。他の隊長は連名で署名するだけである。勿論そこに責任が生じる為に任せっ切りとなる話しでは無かった。
「ふーまさか半日も経たないうちに事態が進むなんてな…」
ホタはつい先ほど北側の城門詰所で話していた事を思い出す。少なくとも多くの隊長が異変を認識したと彼は考えている。それは間違いではない。明日以降より城門では気合の入った警備兵と隊長が目を光らせ、流石王都の警備兵は違うと再評価される契機となったのであった……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
ご感想等お待ちしております。
それでは次話で御会い致しましょう!
今野常春




