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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
異世界でするべき事、その立場って…
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第三話 弓の使い方…と思ったら決戦ですか!?

 11月16日改稿

 パンパンに頬を張らせた近藤孝雄実は何とか朝食を終えた。未だに隣ではエレオノーラが不機嫌そうに座っている。皆は既に食べ終わり、残すは孝雄実だけとなっていた。


「おいどうしたんだ、エレオノーラ?不機嫌そうにしてコンドと何かあったのか?」

 ロドムは敢えてそう尋ねる。それが彼の為すべき使命だと信じているからだ。事実、オリマッテ・ロットロン男爵やアランは親指を立てて、よく言ったと彼を褒め称えていた。

「な、何かあったですって!……いや、何も無いわ。そう、何も無いわよ」

 まるで自分に言い聞かせるように言葉を発する。皆は彼女とは付き合いが長い。それ故に彼女がそう言うときは必ず何かがあったと言う事を知っている。とは言え隣に座る孝雄実を見れば分かることである。


「コンドどうだったエレオノーラは?」

 ダンはそう言って孝雄実に質問をぶつける。

「ブッ!」

「ちょっと、何を言っているの、ダン!私は孝雄実とは何にも無いわよ!」

 直球過ぎた質問に孝雄実は咽返る。エレオノーラは声をあげて何とか火消しを行う。だが此の時彼女は重大なミスをしてしまった。


「何にも無いのにコンドを孝雄実と呼ぶか…お前にしては珍しいな」

 ウォーレンはよく気が利く男である。と言う事は周囲状況をよく見ていると言うことだ。

それ故に彼女の言葉も聞き逃さなかった。

 彼の指摘に全員が納得してしまった。彼等は孝雄実の事をコンドと呼んでいる。昨夜はエレオノーラもそう呼んでいたのだ。これでは何かがあったと自分から言っている様なものである。


「まあ、この辺で良いだろう。あまり問い質してもエレオノーラは喋らんだろう。それよりもだ、今日中に我が領内へ入りたい。コンド君は馬に乗れるかね?」

 オリマッテは空気を真剣なものに変えて孝雄実にそう尋ねる。

「いいえ乗れません…」

 当然である。彼はコンクリートジャングルで育ち、乗れるものと言えば自転車にバイクそして車である。乗馬自体経験が無いのだ。

「そうか、困ったな。今の状態で馬車に乗らせるのは酷だろう。どうしたものか…」

 彼は真剣に悩む。馬車は二頭で牽いている。これは外せない。さらには全員に一頭ずつ計五頭が居るだけである。虎は馬車に乗せるとしても孝雄実は無理であろうと考えている。


「はい、はいはい、オリマッテ様。それならば僕にいい案があります!」

 そう言って手を挙げて主張したのはダンである。これに勘のいいエレオノーラは嫌な予感が駆け廻る。

「どんな案だね?」

「エレオノーラに乗せてもらえばいいと思いますよ」

 やっぱり、そう思う彼女であった。しかし、ダンは中性的とは言え男である。小柄でもあるが、孝雄実を乗せれば馬が潰れるのは必然であった。となれば絞られるのは一人しか無いのである。

「エレオノーラ、済まないが…」

 オリマッテの一言でこの問題は決定した。とても馬車に乗れとは言えないほどの環境であるのだ。その中で乗るには気を失って物に成るしかない。



「ギャ、ギャウ?」「ガ、ガウ?」

 従業員が提供していた朝食をブラックとホワイトは食べていた。孝雄実が出て来たのを感じたのか、顔を上げた。しかし、二頭は首を傾げる様に、さらには疑問符が付きそうな鳴き声を発した。

「ブラック、ホワイト昨日は食事上げられなく悪かったな…」

「ギャウ!」「ガウ!」

 声で判別せねばならぬほどに彼の顔は腫れていたのだ…


「いいかしら孝雄実。手は此処に回しなさい。脚はしっかりと閉じる様に意識する事!変な所に触ったら蹴り落とすからね」

 有言実行である事は身をもって知っている孝雄実である。彼は直ぐに頷いて答えを示す。しかし、彼には重大な欠陥があった。

「あのーどうやって乗ればいいのでしょう?」

 エレオノーラが先に馬に乗っている。早くしなさいよ、と雰囲気で示しているが彼にはそれを実行すべき方策が見当たらないのであった。

「はぁ?いいからそこに足掛けて、そう、それでそこを掴む。後は地面を蹴る…何よ、出来るじゃないの。能力的には悪くないのかもね」


 孝雄実が乗った事を確認して一行は移動を開始する。村を出れば長閑な大自然が彼等を出迎える。道は土を固めただけのものである。馬が歩くたびに地面をける音が小気味いいと感じる孝雄実である。エレオノーラが乗る馬は二人分を考慮して最後尾に回されている。子虎は馬車の中で眠り始めていた。

「ねえ、孝雄実。貴方の武器はその弓で良いのよね?」

「そうだけど、どうしたんだいきなり?」

 二人は気が付けば仲よく為っていた。口調もごく自然なものである。

「貴方は知らないかもね。貴方が賊を射抜いた時に使用したもの、あれは魔法よ」

 密着している中、彼女の匂いがダイレクトで孝雄実の鼻を刺激している。だがそれ以上に彼女の言葉が衝撃的であった。

「ま、魔法?」

「そう、そもそもおかしいでしょ。矢を装填せずに射るなんて。それにあの後体がだるくなったでしょ?」

 彼女がそう言うと孝雄実はその時の事を思い出す。ボウガンを構えて自然と引き金を引いていたのだ。矢が無ければ無用の長物である。それを何故かその時矢があると思い込んで使用していたのだ。


「確かにそうだな。あの時夢中だったから、分からなかったけど矢が無かったな…それに今まで感じたことが無い様な体のだるさだったよ」

「そう、それが魔法よ。だるくなったのは魔力切れね」

「はぁー魔法か…本当に別世界なんだな……」

 孝雄実はエレオノーラの言葉にしみじみと実感してしまったのだ。

「何、孝雄実は魔法が無い所で暮らしていたの?」

「ああ、魔法なんて物語の世界だよ。まるで、まるで……」

 孝雄実は何かの物語を言おうとしたが、どうにもそのタイトルが出てこなかった。

「どうしたのよ。物語にしかない魔法ね…変よね。私たちの物語には魔法が無い物語があるのよ」

 二人の雰囲気はまるで恋人同士であった。そう此の場に居る者は感じている。知らぬは二人だけである…


「まあそれはいいわ。孝雄実が弓を扱えるのは貴重よ。それに魔法が使えるのもね」

「そうなのか、エレオノーラは魔法を使えないのか?」

 その口ぶりでどの程度かは分からないが確実に魔法のある世界であると同時に、使用出来る者の価値が高い事に気が付かされる。

「一応出来るわよ。但し、詠唱破棄は出来ないけれどね」

 彼女はそう言うと分からないであろうと、説明を始める。

 この世界で魔法とは能力と詠唱によって扱うことが出来る。能力を才能と言い換えても良い、生まれ持った才能が個人の系統魔法を決定付けるのだ。火、水、風、土、光、闇これを六元素と呼ぶ。幾つも使用できる者もいれば一つだけと言う者いる。そう彼女は語る。とは言え二つ使用出来れば魔法使いとして大成し、三つ使用出来ればそれが約束される。四つともなれば歴史に名を残すと言われる。しかし、それが全て貴族であると言う言葉を彼女が述べた。

 孝雄実は何処かで読んだ話だなと言う感じで聞いている。


 そこで最後、詠唱破棄の話しが始まる。

「詠唱破棄、って言うのは勿論手順を簡略化したものよ。でもこれが出来る者は居ない。そう本来は居ないはずなのよ…でも孝雄実は詠唱なんて知らないでしょ?」

「そうだな。魔法自体知らないんだ。詠唱なんて分かるはずが無いよ」

「そこがおかしいのよね。詠唱破棄は不可能なはずなのに……」

 彼女はそう言うと悩みだした。

「所がな、エレオノーラ、詠唱破棄は可能なんだぜ」

 話しを聞いていたロドムがそう言ってくる。態々先頭から最後尾に移動してまで話しかけるのは興味があったからである。


「詠唱破棄が可能ってどういうことよ!?あれは不可能なものじゃないの」

 思いもよらぬ言葉に彼女は動転する。ロドムは軽い口調で話しているが、エレオノーラにしてみればとんでもないことだ。

「まあ、俺も聞いた話だ。これは『呼ばれた者』が話した言葉なんだそうだ。火、水と言った物はゲンシで出来ている。それがイメージ出来れば詠唱なんて必要ない…だそうだ。俺にはゲンシがなにか分からんがその『呼ばれた者』はそう言って自由自在に魔法を使用していたらしい」

 ゲンシとは原子である。孝雄実はそう思った。嫌いな化学であろうと、それぐらいは理解できる頭は持っている。『呼ばれた者』はつまり、同じ科学水準に近い者が来たと彼は推測した。


「そうなの…でもそれが分かれば……」

 エレオノーラは一瞬喜んだが、一瞬で影を落とす。

「どうしたんだ、エレオノーラ?」

 孝雄実は不思議そうに彼女に尋ねる。詠唱破棄によってメリットがあるはずなのにと思ったからである。

「そんなことが出来れば戦争はより過激になるわ。詠唱破棄はセロンタの箱よ…」

 セロンタが何かは分からなかったが、パンドラの箱と言っていると彼は理解する。詠唱によって時間を要する。そうすることで犠牲者が以外と少ないのがこの世界の戦争である。魔法を唱えるぞ、それ逃げろ。そうなると効果は限定される。それでも魔法を使用できる者は重宝される。


 しかし、詠唱破棄をすればどうなるか、戦争は集団で行う。その集団に魔法が降りそそげば大量に人が死んでしまうのは誰にでも分かることであった。

「成程、此処では戦争があるのか…」

「なんだ、コンドの所では戦争はしてないのか?」

「いや俺が暮らしている国ではってことだよ。それ以外では何処かで戦っているさ」


 孝雄実は二人が魔法の無い戦いとは?と尋ねてきたことで、為るべく分かり易く説明する。だが彼だって戦争とは何かなんてことは答えられない。あくまでもどんな武器を使うか程度である。しかし、それでも二人の興味は尽きなかった。

「凄いのかしらね…そのキカイで空を飛ぶなんて…それに海を潜るなんて信じられないわ」

「センシャってのもすごそうだな。しかし、俺たちよりも酷いものだな、お前の世界は…」

 武器だけでは無い授業で習った歴史を少し話していくだけでもその数に二人は驚いていたのだ。

「そうね、世界中に七十億もいるなんて信じられないわ」

「なあ孝雄実食料はどうしているんだ?」

 二人の興味は尽きることはない。しかし、そうも言えない事態が目の前に存在していた。


「おい、ロドム!ちょっと来てくれ!」

 オリマッテの声である。少し苛立ちの籠った声で彼を呼んでいる。

「分かりました!済まない、面白い話しを有難うコンド」

 そう言って彼は前に進んで言った。




「どうしましたか?」

 彼は此のまま真っすぐ行けば無事に辿り着けるのにと思っている。唯一は橋の存在である。

「いま通りすがった商人から聞いたのだがこの先、通行禁止令が出ておるそうだ」

「通行禁止令ですか…」

 彼が鸚鵡返しになるのも無理はない。此の道で出る様な命令では無いからだ。

「ああ、どうやら鬼が出るらしい…」

「鬼ですって!」

 この言葉で孝雄実以外に動揺が走る。彼らにはその存在が何かが分かり、動揺せねばならない程の者と認識しているからである。


「なあエレオノーラ鬼ってなんだ?」

 孝雄実は童話などで出るあの鬼を想像していた。あくまで御伽話の事である。一説には外国人がそう見えたからなどと言う話しもあるが眉唾であろうと彼は考えている。だが、彼の言葉に一向に答えが帰ってこない。

「どうしたんだ、エレオノーラ?」

 彼女は震えていた。そう、戦い慣れしている彼女でも震える存在が、彼等の言う鬼なのである。孝雄実は何とかしようと彼女の前に回している腕をさらに力を込める。それだけで彼女の震えをより実感してしまう。


「大丈夫かエレオノーラ?」

 力を込めたことでハッとなって彼女は気が付いた。

「え、ええ大丈夫よ。鬼だったわね…」

 しっかりと孝雄実の声は聞こえていた。ただ震えによって声が出せなかったのだ。前でも状況は同じであった。震えてはいるが、何とかどうするかを相談している。

「そうだ。鬼ってのはなんだ?」


「それはね…」

 エレオノーラが説明しようとしたときである。物凄い叫び声がこの辺り一面に響き渡る。さらには質量のある者が地面を踏み締める音もリズムよく聞こえる。

「これは足音か?」

「……お、おお、鬼よ!鬼が出たわ!!」

 エレオノーラ瞬時に叫ぶ。今居る場所は平坦な一本道である。周囲には山が存在している。よって移動は限られる。そして鬼と言うものが前方から姿を現した。

 ロドムを始め皆が動揺している。背丈で言えば三十メートルはある巨人である。手にはこれまたバカでかい棍棒を持っている。空いた手には何かを握り閉めていた時折口元へと運んでいる。歩く速度は非常に遅いものの、その大きさゆえに一歩が非常に大きい。


「まずいな、戻るにしても、この先は…」

 そう、この先は先程まで居た村があるのだ。そんなことは出来ない。

「だがロドム、君らだけで戦えるのかね。無理だろう…今は逃げるしかない!」

 オリマッテは既に逃げることを選択していた。今は前方で逃げ惑う者を漁っている。しかし、それが過ぎれば次は自分たちの番である。

「なればオリマッテ様はお逃げください。我等はこんな身なりでも貴方の騎士であります。無事逃げるだけの時間は確保したい所存です!」

 彼がそう言うと皆に勇気が宿る。どこか決意の籠った目である。

「くっ、そうやって言われれば逃げられぬではないか…」

 彼も諦めたのか御者席から降りる。他の者も馬から降り、当然孝雄実もである。その周りには既にブラックとホワイトが唸り声を上げていた。


「マジですか……」

 彼にはその絶望的な状況が理解できた。どうしてエレオノーラが震えていたかもだ。握りしめていたのは人や動物であった。鬼はそれを餌の様に食べていたのであった。そして棍棒で無造作に地面を叩きつけては此方へと向かってくるのだ。圧倒的な破壊力を見せられれば如何ともしがたい。

 だが、やらなくてはならなかった……


 最後までお読み頂き有難う御座いました。

 御感想等お待ちしております。

 誤字脱字等々御座いましたら御一報いただければ幸いです。


 それでは次話で御会い致しましょう。

               今野常春

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