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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
気が付けば魔族が!編
89/107

第八十話 危険な香りと腐臭の香り……

気が付けば午前四時…

 孝雄実たちはムーレリアが会談に臨む為一時の自由な時間が与えられた。元々おまけの様な形で一団に着いて来たために特にすることも無かったのだ。そこで冒険者ギルドへと顔を出すことに決めた。特に孝雄実は最初の依頼達成の報告確認をしなければならない。エレオノーラが報告をしていたがあくまでも仮の事でありチームのリーダーが手続きを終えなければならないからだ。


「随分と人が少ないな…」

 ギルドに入った時に感じた感想がこれである。試験の時は人がごった返していた記憶が在るだけに味気ない物と為っている。特に経験者と思しき者が数を減らしている様に感じられた。

「そうね。私が来たときはもっと居たけれど…」

 エレオノーラがそう答える。彼等の中では最後に訪れた者である。

「ティーナさんの護衛ではないのかしら?」

「どうかな。それにしても数が減っているようだけれど…」

 キャメルの問いにエレオノーラは再度答える。彼女は周囲を見渡すが、どうもそれ以上に数が少ない様に見受けられるのだ。ティーナを代表とする商隊の護衛任務は確かに多くの冒険者を募集していた。金払いも良く、王国の依頼と言うのもあり瞬く間に定員に満たされてしまう程である。だがそれでも五百名であり、王都グローリンバリーの冒険者からすると微々たる数である。

「若しかしてあれ以上の依頼が在るのかな?」

「まあそれが妥当よね。孝雄実が戻ったら確認してみましょう」

 彼女たちは孝雄実が受付へと赴いている間、併設されている食堂でお茶を飲んでいるのであった。


「あっ、戻って来たわね」

 サラが孝雄実とマリアンの姿を発見した。それほど人が居ない為に遠くでも見つけ易かった。

「ただいま」

「戻ったぜ」

 二人は三人にそう言って席に着く。

「お疲れ様二人とも。適当に注文したけれどこれで良いかしら?」

 そう言ってエレオノーラは二人に軽食のセットを渡す。持ち運びを重視してトレーなどでは無く紙に包まれ食べられるものであった。

「おっ、これって名物のドレスサンドじゃん」

 高級な熊の肉を使用し野菜もその日採れた物を使用する。パン生地も手間を掛けて作られコストが掛かることからドレスと名付けられている。

 二人は嬉しそうにかぶりついて落ちつくと受付での事を話し始める。


「えーっと、これが最初の報酬でこれが二回目の報酬だ。カードが更新されているから確認してくれ。エレオノーラこれを頼んだぜ」

 孝雄実は二つの袋をテーブルへと置いた後にそう説明する。特に前者の報酬が上乗せされて支払われている。あくまでも保証金が少ない為に十級のルーキーが依頼を受ける場所に充てられていたが報酬だけは従来の物である。

 後者はセムレス男爵が後で納めることで話しが決まっている為に従来の報酬額で決済されている。どちらも大きな袋にずっしりと入っており皆がゴクリとする程の者であった。

「分かったわ。レイスレット達の分も含めて管理するから安心してね」

 務めて冷静にお金の管理をする彼女はあくまでも表面上の事である。扱う手が震えバレはしないかとエレオノーラは冷や冷やしていたのであった。

「それと受付の人に聞いたけど、大きな依頼が広範囲で行われているそうだ」

 孝雄実とマリアンも気に為っていた人の少なさを受付の女性の尋ねたのである。


「広範囲で?」

 サラはそう呟く。

「本部だけでは無く支部でも同一の依頼を受け付けると言う事よ。でも変ね。そんなに動員するなんて戦争でも無い限り無い筈なのだけれど…」

 キャメルはそう説明して不思議そうな表情をしていた。彼女がエルサンド族自治領の中心地ドランデストハイムでワレンスナ支部長の秘書をしていた時一度だけ経験のあることであった。北東部に不穏な雰囲気が垂れ込めワレンスナ支部長が本部へと依頼を出し、王国との協議の末広範囲での依頼を決定した経緯がある。この話しを彼女は孝雄実たちへ話した。

「孝雄実、それは何時頃出されたものか分かるの?」

「あーそこまでは聞いてなかった。悪いな、サラ」 

「いや、それほど難しくは無いわよ。少なくとも二十日ほど前には無かった事ですもの」

 そうエレオノーラが言うのには根拠が在る。ティーナの第二次物資輸送の商隊が出発して以降と考えるとそれほど経過していないと彼女は皆に説明をするのだった。

「確かに、私たちがピュータ村へと到着を果たしたのが二週間後の事。そして返す刀で此方へと帰還したのが三日後だったわ」

 キャメルが思い出す様に日数を計算する。

「なあキャメル、その依頼って短期間で集められるのか?」

「いいえ、先ず伝達するのに時間が掛かるのよ。王国の基幹都市にギルド支部が存在しているわ。そこへと伝え冒険者を集めるのにも時間が掛かる。どんなに頑張っても一月以上掛かってしまうわ。まあ王都周辺に集まると言う話しであればね…」

 マリアンの問い掛けにキャメルは首を横に振って答える。


「それって階級の制限と報酬はどうなるんだ?」

「この依頼は王国限定で出される物なの。よってギルド側との交渉で幅広く集められるわ。また階級に応じた報酬と特段の功績を上げれば追加で得る事が出来るわ」

 孝雄実の質問に答えるキャメルは、そう言うと咽が乾いたのか飲み物を飲み、咽を潤した。

「にしてもこの時期にそう言ったことになるなんてね…」

「まるでムーレリアを狙ったかのようなって言いたいのかエレオノーラ?」

 呟くように発した言葉は隣に座るマリアンには聞こえていた。

 何かを考えたのかテーブル中央に顔を寄せる様にエレオノーラは指示を出す。それに素直に応じた四人に彼女は静かに小声で話し出す。

「もしもよ。暗殺未遂の様に魔法で操られる様な事になればどうかしら?」

「それって二人が体を動かせなくさせられた様な?」

 孝雄実が彼女に問い返す。すると彼女は頷いて話しを続ける。

「ええ、仮の話しだけれど相手は国交樹立を阻もうとしているのでしょ。ならば実力行使として国内を混乱させるって事も出来なくはないでしょ?」

 彼女自身確証が在る訳でもない。単に国交樹立の阻止を目的としたらとして考えた話しである。


「つまりエレオノーラは冒険者を集めて集団で操り国内を不安定化させる。そう言いたいのね?」

 サラは纏める様に彼女へと話しかける。

「ええ、可能性としては在り得るかなってね」

「でも王都には王国軍が居るんだぜ。そう簡単には…」

 マリアンはそう言って安心させようとしたが、サラがその話を遮る。

「残念だけれど今王国軍は演習に出ているわ。一週間程前に此処から二日は離なれた平原を中心に摸擬戦闘を行うそうなの。闘技場では出来ない広範囲な戦闘をね…」

 そう暗い顔でサラは言葉を発した。エレオノーラの予測とサラの話す現実を総合すると、現在最も彼女の予測が的を射る様な状況に置かれていたことを悟る。勿論王都を護る王国軍部隊と王宮を護る衛兵の定数は満たされている。但し、これが機能するのは明確な敵と対峙した場合である。

 冒険者は王国の人間であることから簡単に城門を突破出来てしまう。当然国民が簡単に入り込めない王宮との境界線を示す第一城壁は堅く閉ざされるだろうが絶対はあり得ない。


 こう話していると突然キャメルが皆の食べ終わり残った紙とコップを集めてテーブルに再配置を行う。

「良いですか、これが王宮です。これが王都の城壁群です。そして王国軍が此処…」

 キャメルは淡々と静かな声で周囲に聞こえない様に細心の注意を払い説明する。一枚の紙を敷いてその上にコップを置いた。彼女はコップを王宮に見立て、紙を王都の範囲として見せた。それ以外にも軍をもう一枚の紙を畳んで小さくしてテーブルに置いた。

「此処を物理的に遮断すれば王国軍に知らせは届きません」

 そう言って指で線を引く様にテーブルをなぞる。

「冒険者の一団は何処に居るか知りませんが、考えるならば王都と王国軍を結んだ線上に居ると仮定するのが良いのではないのでしょうか」

 そう説明すると誰も言葉を発する事は無かった。可能性を言えば五分五分の話しである。有るかも知れないし無いかも知れない。だが、マウスゥート村での事と王宮内での事を勘案すれば、間違いなくやりかねないと想像出来てしまうのが孝雄実たちである。

 だが誰が、そこが謎である。唯一判っている事は魔族が関わっている事である。それも王国に根差した者である。


「もう少しムーレリアに空間魔法の話しを聞いておくべきだったな」

 孝雄実は悔しそうにそう呟いた。それを聞いた時に何故そう言ったのか、彼女たちは有る事に思い至るのであった。そう、先程キャメルは広範囲に依頼を出せば集めるのに一月は掛かると説明した。しかし、空間魔法を使用すればそれが短時間で可能であると言う事だ。だがどれほどの距離と人員を送り込めるか、そこが判らない以上憶測の域から出る事は許されなかった。

「とりあえず帰りましょうか。あまり部屋を空けるのも悪いしね」

 エレオノーラは場の空気が張り詰め始めたのを察知してそう提案した。一部の冒険者がその空気を感じてキョロキョロと周囲を見渡すのを見たからでもある。良く考えれば外で話していい様な件でもないとも思っていた。

「そうだな。報酬も頂いたし、此処で長居することも無いよな。途中でブラックとホワイトに何か買って行ってやろう」

 孝雄実がそう言うと賛同したように皆は席を立ち冒険者ギルドを後にするのであった。






 孝雄実たちはギルドを後にすると新鮮な肉塊を購入する為にそれが販売されているエリアへと足を運んでいた。その途中に孝雄実が嘗て独自に依頼を受けた魔導書店が在る。

「あれ?何で窓を塞いでいるんだ?」

 孝雄実は前方からでも分かるほどに店長のヒュールが一人忙しく気の板で窓を塞いでいるのが見えていたのだ。これには皆が訝しんだ。周囲は活気に満ちた声で客引きなどを行う中でその場だけは異様だったからだ。皆は孝雄実を先頭にヒュールへと近付いた。

「こんにちわヒュールさん!」

 後ろから孝雄実は元気そうに声を掛ける。すると作業に集中していたのか体を大きく反応させて彼は振り向いた。

「!!お、驚いたな…君か近藤君、久しぶりじゃないか。どうしたんだい、若しかしてもう翻訳が出来たのかな?」

 作業を止めてそう話したヒュールは期待を込めた目でそう尋ねた。

「あーまだまだです。ページを捲っても次から次に現れる様で時間が掛かっています」

 あまりにヒュールの顔が期待に満ちている為に罪悪感が生まれて申し訳ない様な表情で言葉を返した。

「あーそうか…あれは魔導書でもあるからな、まあそうなってしまうこともあるのか。ではどうしたんだい?」

「いえ、窓を塞いでいるのでどうしたのかなと?」

 その周囲とのギャップが逆に孝雄実たちを引き寄せている事に漸くヒュールは理解した。

「ああ、これか。実は魔導書店を始め、魔道具を取り扱う店も詠唱に関係する店はどこもこんなもんだよ。知らなかったのかい?」

 そう彼が話すと皆は首を横に振った。何分四日目にして漸く王宮から街中へと出る事が許されたからである。加えて移動経路の中にその店は存在していなかった事も影響している。

「いいえ。私たちが来た道にはそれに関するお店は無かったのです」

「ああそうだったのか。俺も驚いているんだよ。三日前に学術省から役人が来てさ、五日以内に窓を板で塞ぎ、六日目には入り口を塞ぐようにと来たもんだ。営業も暫く出来ないから早くに店を閉めて旅行にでも行こうかと考えている所さ」

 そう迷惑そうな顔でヒュールはみんなに説明する。すると訝しんだキャメルは彼に尋ねる。


「それは理由が述べられましたか?」

「り、理由かい?いやーどうだったかな…」

 ヒュールは初めて見るキャメルに一瞬心を奪われていた。凛とした彼女の美貌が彼をそうさせる。だが、質問には誠実に答え様と、少しでもいい所を見せようと言う心持へと変化した事は幸運である。

「ああそうだ。理由は言わなかったけれど、破壊されないほどに板を厚くするようにとは言われたな」

「それを詠唱に関する店のみに?」

「ああ間違いなよ。魔導書店は王都では此処にしかないけれど詠唱に関係する店は意外と多く散在しているんだ。とは言え貴族様が多く営んでいる為に敷居が高いけれど、雇われているのは全てが平民だからね。お陰で皆愚痴を溢しているよ」

 雇われた平民は売り上げの一割を自身の収入として受け取る事が許されている。とは言え詠唱に関する客層は限られている為に客単価は高い分来店数が少ない。その為に一割と言う収入は平民の中では裕福な分類に有るが減るとその分のシワ寄せが大きな物となる。その為に今回の通達は不満の声が上がっていたのだ。不満が在れば当然それを共有している者で吐き出そうと夜中ヒュールは自身の店に店主らを集めて情報交換も含めた飲み会を催していた。そこから今の話しへと繋がるのである。

「そうですか、有難う御座いましたヒュールさん、わたくしはキャメルと申します」

「あ、ああ、えっと、わ、私はヒュールです!どうぞ宜しくっ!?」

 あまりの慌てぶりに最後は下が回らず噛んでしまった。それを見てキャメルは吹いてしまい、他の女性にも伝播してしまった。

 だが、これは逆に幸運である。今の話しを聞いてどうして聞いて来るのかと疑問を抱くのが普通である。それを彼のファインプレーによって掻き消したのである。こうして此の場での思いもよらない情報収集は収穫大であった。孝雄実たちは挨拶もほどほどに此の場を後にするのであった。


「これは、本当に現実味を帯びて来たんじゃないか?」

 通りはやはり人通りが激しく雑音出会話が掻き消されている。その為今孝雄実が発した言葉も近くにいなければ聞こえないものであった。

「そうね。まるで何かで破壊されない様にって感じだったわよね」

「誰かって冒険者ってことか?」

「まあ可能性として上げられる筆頭はそれよね」

 そう話しながら目的の店へと向かい確りと品物を購入して王宮へと帰るのであった。






「残念ですがこれより入る事叶いません」

 王宮へは一本の橋によって道が存在している。ぐるりと深い堀に囲まれた王宮は橋を落とせば難航不落の構えとなる筈である。その入り口には王宮を守る衛兵と王都を守る王国軍が混在している。しかし、王宮へと通すに在って権限は衛兵に与えられている。現在孝雄実たちはその衛兵によって通行を止められている状態であった。

「えっとどう言うことでしょうか?私はロースドン度男爵です。確りと理由を述べて下さい」

 そう脅しにも近い言葉を発したが衛兵の二人は何する者ぞと、まるで気にした素振りを見せることなく淡々と説明する。

「これは王宮衛兵隊長からの通達です。現在王宮内では活発な議論が進んでいる最中との事、近藤孝雄実以下五名は許可が出るまで王宮内への進入を禁止するとのことです」

 その言葉に一同は驚かされる。まるで王宮から排除したかったような展開であるからだ。いよいよこれは怪しい物となると孝雄実たちは覚悟を固め始める。

「それは何時頃発せられた命令ですか?」

「答えかねます」

「何時頃解除されるのですか?」

「答えかねます」

 サラは強気に内容を変えて何度も尋ねるが暖簾に腕押しであった。そうこう押し問答を行っていると背後から一団が訪れる。


「サラ?どうしたんだこんな所で。中に入らないのか?」

 そう言った声でサラを始め全員が同じ方を見ると貴族が立っていた。

「クロスレイド子爵?」

 サラは久方ぶりにあったニュアンスそのままにそう言葉を発した。

「そんな他人行儀な言い方では無くて名前で呼んでいいんだぞ。それでどうしたんだこんな場所で?」

 そう明るく話すソレスツイ・ケンスレス・クロスレイドは彼女に問い掛ける。

 サラはその事について爵位が上の彼に理由を話した。

「成程衛兵隊長からの命令ね…」

 そう言って暫く悩んでいる素振りを見せると、彼の後ろにいる者に耳を当てて何事かを呟いて王宮内へと送り込んだ。

「済まないが私の権限で彼女等を中へと入れてやってくれないか?既に今の者を隊長の処へとやったから君たちが命令違反で罰せられる事は無い。安心して欲しい」

 そう彼が二人に言い聞かせるように言葉を述べるとすんなりと通る事が許された。しかし、注文が付けられることになる。

「ああ、待ってくれサラ今この時間は基本出歩く事は禁止されている。議論が激しい為に物音一つ立てて欲しくない様なんだ。だから暫くの間私の部屋で待っていて貰うよ」

 幸いにして彼の部屋は孝雄実たちが泊る部屋と同じ階に存在している。その為孝雄実たちは安心してその言葉に従う事にした。


「分かったわ。それじゃあ暫くお世話になるわね」

 サラがそう答えると好青年は笑顔を作った。

「歓迎するよ。昔話にでも花を咲かせようじゃないか」

 そう言って戦闘に彼が立つと衛兵は道を空けて通行を許可したのであった。


 時間にして十分も歩いて漸く彼の部屋へと到着する。前年なことに孝雄実たちが寝泊りする部屋とは反対側と為り、思いのほか距離が在った事だ。特に彼女たちは予想が現実味を帯びている中武器を携帯していない事に一抹の不安が在った。

「はい。みんなこれでも飲んで落ちついてくれ」

 子爵自らが入れたお茶を全員に差し出す。彼は昔から茶葉に深い造詣が在った。その為に一部ではお茶博士と言われるほどである。その知識と実力は貴族社会で広く知られるほどであった。サラもそれを知る一人で彼のお茶が飲めることを嬉しそうにしていたのである。

 暫くお茶を味わいお茶菓子を出されて思い思いに食べているとキャメルが突然眠りだした。

「おわ!どうしたんだキャメル?」

 マリアンが隣に座って突然彼女がもたれ掛かって来た形となった。余りに突然で驚きを隠せなかった。

「……」

 しかし、その問い掛けにキャメルが答える事は無かった。熟睡に近いものであった為だ。

 と、起こそうとしたところでマリアン自身も激しい眠気に襲われ始める。今すぐにでも意識が無くなりそうになり必死に眠気を堪えるが抗う事は出来なかった。持っていたカップを力無く床に落とした瞬間に高い衝撃音と共に彼女は眠ってしまった。

 そこには孝雄実、エレオノーラとサラも同様に眠りの世界へと誘われているのであった。






「グッ…」

 マリアンはハッとなって起きるかのように目を覚ました。まるで催眠術が一瞬で解けたかのような目覚めっぷりであった。周囲を見ると孝雄実たちが眠っている。しかし、サラは既に起きていた。

「起きたのねマリアン…」

「ああ、まあな。此処はどこなんだ?」

 そうマリアンが尋ねるとサラは首を振った。

「分からないわ。でも王宮の地下である事は間違いない筈よ……」

 そう言って彼女は指を指す。その先には衛兵が立っているからだ。

「衛兵は王宮以外存在しない。よって此処が王宮である事だけは分かっているわ」

 人工的な灯りが無ければ目の前すら見る事が出来ないその場所は明らかに地下室の造りであった。

「だけど地下牢である事は分かるな…」

 マリアンはそう言って何もない部屋を扉へと向かって進むと確認してその様に言葉を発した。目の前には無善か目をそむける衛兵が立っている。先程見た兵士であった。

「ええ、それは分かっているわ…」

「ご主人様とエレオノーラとキャメルはどこなんだ?」

 マリアンは少しでも分かるようにと扉から覗ける範囲で周囲を見渡す。牢屋らしく目線の位置は鉄格子造りとなっている。しかし、明るさはそこまで無く諦める様にサラの元へと引き返す。


「私も真っ先に同じ事をしたけれどこの暗さでは分からないわ」

 サラがそう言うと壁際から物音が聞えて来た。鎖が揺れ動く様なものである。

「だ、誰!」

 サラとマリアンはまさかそこに何かが居るとは思わなかった。と言うのも近くにマリアンが寝ていて他は暗くて調べていなかったのだ。だからてっきり孝雄実たちが居ないものだと判断したのである。

「ご、ご主人様か…?」

 マリアンはそう言って先頭で近付く。ゆっくりと慎重に音のする方へと移動する。するとそこには手足が鎖で繋がれた人間と思しき者が囚われていた。

『ヒッ!!』

 二人は余りの恐ろしさに声を上げそうになった。暗闇に目が慣れた為に薄らと目の前の光景が見える様になった損目には骨と皮の状態の男性と思しき者が項垂れる様に力無く存在していた。加えて長い事こうあったのであろう尋常ではない臭いが彼女等を包み込んだ。今までは緊張でその臭気を感じる事が出来なかっただけで部屋中に蔓延していたのだ。二人は咄嗟に鼻を押さえる。


「……だ、誰…るのか…」

 聞き取れないような声で目の前に座る人物が言葉を発した。風前の灯火の如く物音を立てれば決して聞こえない音量である。

「居ます。此処は何処なのですか?貴方は?」

 そうサラが尋ねるが反応は無かった。

 暫く時を空けて漸く彼女の質問の答えが返って来る。

「こ、ここ…知らない…目が見えな……」

 二人は聞き取れる様に意を決めて彼に近づく。鼻を摘まんでも言い用の無い臭いが感じ取れる。しかし、そうでもしなければ声が聞こえないのだ。

「わ、わたし…は…コ、コレイ…ト…ムサ…ダこうしゃ…く」

 そう力を絞り切る様な声は名を述べたところで潰えてしまった。だが、その名によって衝撃の事実に直面してしまったのだ。こうなるまでに相当な時が求められる。つまり今王宮に居るコレイトは物人であると言う事だ。


「大変なことになったわ…」

「ああ、これは一刻も早くこの部屋を出無いとな」

 二人は手を合わせて冥福を祈ると扉へと移動した。臭いもそうだがそこにしか出口が無いからだ。

「でもどうする?」

「どうするって…」

 二人はそう言って室内を見渡す。決して移動はしない。臭いを一度嗅いでしまった為にもう動きたくないのだ。

 そんな時である。外から足音が聞えて来る。ゆっくりと階段を下りて来るような音であった。それを暫く聞いていると至る所で敬礼と言う言葉が聞えて来る。すると目の前の衛兵も敬礼する動作で停まっている。


「扉を開けろ」

 そう外で声がすると数秒置いて鍵穴に鍵が挿入される音が聞こえる。そうして扉が開かれる。暗さは灯の光が在る為に眩しく感じる程であった。

「これを着けろ」

 そう声がすると二組の手錠が中へと投げ入れられた。二人は渋々それを受け取ると両腕にそれを填める。しかし、その瞬間体が急激に重くなった。まるで自重が倍になった様なものである。

「しばらく我慢していろ」

 男はそう言うと隣の部屋にも同様の事を行う。二人はそれで孝雄実たちだと気が付く。


 暫く待っていると再度男の声で外に出ろと言われ二人は引き摺る様な足取りで外へと出た。

「サラ、マリアン!」

 孝雄実がそう声を上げると衛兵が殴りつけた。遠慮のないそれは彼を地面に叩き付ける勢いであった。

「黙っていろ。お前たちは体重が倍に為っているのだ。不用意に体を動かすと怪我をすることになるぞ」

 男がそう言うと前を歩く、それに着いて行けとばかりに衛兵が武器を進行横行へと向ける。五人は引き摺りながら男の後を追う。部屋は幾つもあり奥へ、さらに奥へと歩みを続ける。行けども似た様な造りで一体どれほど歩いているのかが分からないほどである。しかもあまりの重さに息が上がり始めている。

「此処で待て…」

 男はそう言うととある扉の前で止まる。既に衛兵は此処には付いて来ていない。男は扉を自分で開けると入る様に促した。


「遅かったなお前たち…」

 そこで見た人物とは嘗て冒険者試験で戦った先輩たちの姿であった……


 最後までお読みいただき有難う御座いました。


 前書きでも書きましたがアイデアが浮かび書いていたらこんな時間に!?

 ご感想等お待ちしております。

 それでは次話で御会い致しましょう!休みでよかった~

             今野常春

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