第七十九話
ムーレリア達はドットゥーセ王国に滞在し三日目の朝を迎えた。前日は国交に関しての会談は開かれず、首脳に近い彼女とフェーバル王ら数名での暗殺に関する検証と対策に費やされたのだ。そして三日目の朝、母国へと送り返したツイーテアから届いたレポートと提案書が届くと執事のホレムを始め、大臣級の人物から果ては親衛隊剣士等を集めることになる。
「姫、お言葉通り集合致しました」
ホレムが司会進行役として此の場を取り仕切る事となっている。その言葉を聞くとムーレリアは頷いて言葉を発する。
「皆おはよう」
「おはようございます。ムーレリア姫!」
一斉に挨拶が返されると場の空気はピンと張り詰める。
「早朝国へと戻したツイーテアから一次報告が届いた。残念ながら該当する様な人物が存在せずであった。さらに過去に遡り調べを進めるそうだ。それに加えて不正気での人物も調査を開始している。此方は何かと時間を要する。恐らく我らが国に帰った時に知る事となるであろう。問題はもう一つの提案書だ。ツイーテアは魔鉱石の採掘を魔族が行えばいいのではないかと言って来た。これに私は賛同する考えだ。人間では結晶体となった魔鉱石の採掘は不可能に近いであろう。さらにそれらを扱えるまでに分解しないとならんと言っている。間違い無くその通りになろう」
そうムーレリアが発表するとあちら此方で唸り声が上がる。誰しもが尤もな提案だと言う考えであった。
「確かに姫の仰る事は尤もで御座いましょう。ですが問題も御座いますぞ。第一に此方で採掘を行うと言う事は定住を前提に考えねばならぬでしょう。帝国臣民からすれば間引きに相当すると考えましょう。ましてや各族長がそれを容認しますかどうか…」
そう指摘するのは各族長を纏める部署の大臣である。故に反発が大きいであろうと予測しているのだ。
「それは判らぬでもない。これはあくまでも提案に過ぎない。そもそもこれからフェーバル王へと話すのだ。もしあちらが拒否すればこの話しは立ち消えとなる。先ずは話してみる事から始めたいのだ」
彼女がそう言うと、承知しましたと言って大臣の魔族は席に座る。
「皆に話したのはこう言う話しはどうか程度の事だ。先ずは向こうが了承する事が第一である。詳細はその御詰めればよい。私はな、互いに利益となると考えているのだ」
ムーレリアがその様に言うと席に着く者は互いの利益と言う物を考え出す。
魔族側の利益とは間違い無く生活圏の拡大である。魔族は悪いような風潮があるがその様な事は無い。少なくともこの世界の魔族はそうだ。魔族とはあくまでも魔力がエネルギーとして消費することから付けられているに過ぎないのだ。戦闘も必要でなければ行わない。力の無い魔族もありそう言った部族は渡りに船と移動するのではないかとムーレリアは考えている。
次にドットゥーセ王国はどうか。ムーレリアから知らされた事で魔鉱石の採掘は厳しいものと為り始めている。何と言っても高純度の魔鉱石であれば問題なく採っても良いが、それ以外はドラゴンの卵の安定化に支障が出ると警告を受けたからである。純度が上がれば人間の鉱夫に被害が及ぶ事が既に指摘されている。これも原因不明と言われていたがムーレリアの説明で証明されたのであった。これには王を始め王宮側の者は頭を抱えてしまう。貿易品として無くては為らないからである。それに高純度の物を手に入れれば僅かなかけらでも高威力を賄う事が出来る。
これらを考えれば少なくともフェーバル王は否とは言えないのではとムーレリアは考えている。そして目の前の彼等も同様の見解に至るのである。
「姫。皆賛同する事と為りました」
ホレムはそう言うと恭しい態度で頭を下げる。その後を追う様に全員が同じ動作を行う。
「うむ。皆の賛同私は大いに感謝するぞ。これを以ってフェーバル王へと提案し、実行出来るよう交渉しよう」
そう話すと一時の休憩となる。皆は会談までの僅かな間各部屋へと戻り準備を整えるのであった。
会談は十時を針が指し示す時に開始される。出席する者は初日と変わらず者に加えてアレイセン王太子も参加する事となった。これはムーレリアの提案である。王宮側は王太子とは言え会談には相応しい身分では無いと拒否したのである。あくまでも次期国王と言うだけであって王ではないと言うのが言い分でった。これにはフェーバル王も同様な態度であった。これに烈火の如く怒鳴り散らしたのはムーレリアであった。次期国王であるのであれば経験ンを積むのに又とない好機であると。人間同士の会談でもなければ身分も無いだろうと。結局その勢いに押されて全会一致でアレイセンの参加が認められた。
「さて、つまらぬことで時間を取ったが此方から一つ提案が在るのだが宜しいかな?」
開始直後から空気はムーレリアの者であった。既に王国側の者に否と言える程肝の据わった者が居なかったのが痛い。此処に出席しているのは外交と経済、それに鉱山開発に関係した大臣であった。
「構わぬよ。お気聞いたそう」
フェーバル王は流石国主と言う雰囲気を持っている。会談とは言え目に見えない戦闘行為である。ここで彼までやられては一方的な会談と為ってしまうからである。これだけでもアレイセンが参加した事の意義は大きなものであった。彼は始めてみる雰囲気に呑まれまいと腹に力を込めて会談に参加している。
「昨日魔鉱石の話しはしたと思うがその解決法を提案したいと思う。我がデムレストア帝国臣民が採掘を行うと言うものだ。さらに取り出した結晶は人間が使用しても問題ないまでに小さなものに変えるまで行おうと言うものだ。如何かな?」
そう言うと案の定王国側はざわめき出す。彼等の脳裏には魔族を王国内に公式に受け入れると言うことになると考えたからだ。
「ふーむ、その考えは……」
フェーバル王も答えに詰まる中一人の大臣が会話に入り込む。
「陛下意見を述べても宜しいですか?」
「構わん好きに述べよ」
そう彼が言うと礼を述べて席を立つ。
「外交的な観点から述べたいと思います。我が国と貴国とは国交をまだ正式に結んでは居りません。故に受け入れるには結んだ後に詰めるべきだと考えております」
「為らばこれを以って結べばいいのではないか大臣殿?」
ムーレリアは何とも期待はずれなと言う感情で彼に言葉を返す。それと同時に頭が固すぎるということも感想として在った。そう言われて大臣が席へと着く。それと入れ替わる様に席を立つ別の大臣が居る。
「財政からも進言致したい。これは徴税にも絡む問題です。デムレストア帝国の国民は我が国の税制と貨幣価値を理解しておりません。さらに逆の立場でも同様です。採掘する者を如何様に扱うかも外交問題と為りましょう!」
尤もらしい事を並べ立てているがそれでも期待外れであったと感じたムーレリア。しかし顔に出すことなく淡々と言葉を発する。
「両国の文化から何からまるっきり違うのは承知の上であろう。それを以って否定するとは先へと進めようと言う考えはないのか?そもそも知らないのであれば知る機会を設ければいいだけの事、始めても居ないのに否定する事は許されん。それに採掘する者をどう扱うなど、貴国は自国民以外の労働者を受け入れてはいないのか?」
そう言われて言葉に詰まってしまった大臣は力なく席へと着いた。此処に来て彼女は苛立ちよりも提案その者に反対なのだと感じる様になった。頭の回転が速い彼女は、フェーバル王が言う詠唱派に属する者と見当を付け始めた。
以後も似た様な質問をする者がいたがどれも冷静なムーレリアに言葉を返されて黙る者多々有り。中には有益な事を尋ねる者が居るがそう言ったものは副大臣の様なトップでは無かった。
「これぐらいにしようか。皆の意見を参考に余が答えを述べよう」
フェーバル王は時間にして一時間程、静かに言葉を聞いているだけであった。漸く意見が出尽くしたと判断して目を開き言葉を発したのだ。
「御意に御座います。我らの意見をお聞き下さり真に感謝致します」
アレンゼントルは司会進行的な役割を自然と任されていた。その為に代表してそう言葉を発したが彼は意見を述べてはいない。此処に出席する者でアレイセンも意見を述べる事は無かった。
「よろしいかなムーレリア?」
そう言うと彼女は頷いた。
「余は提案を受け入れ、それを前提とした交渉によって国交樹立を図る事を宣言する」
そうフェーバル王が述べると各大臣などは唖然とした表情となる。肯定的な意見等大臣らからは出なかった。出たとしても次席の若手の意見である。彼等からすれば維新の意見を取り上げないのかと言う思いであった。
「な、何故でありますか陛下!?」
「これでは我らの意見を!?」
そう非難する様な言葉をフェーバル王へと述べ始める。これを第三者的な立場で参加しているアレイセンは呆然としていた。
どうして自国に有利になりそうな提案を蹴ろうとするのか理解出来なかったからだ。
「少し良いかな王国側の大臣度の達よ。貴校等は勘違いしていないか?」
「な、何を仰るのです皇女殿下!?我らが勘違い?」
「そうです。勘違いなど、幾ら特使であろうとも無礼ではありませんか?」
そう矛先をムーレリアへと変えると幾分当たりが強くなる。それに呼応して魔族側にも緊張が起こる。
「まあそれをそう思う者はもう一人いる。王太子殿よ貴方の意見を聞かせて欲しい。加えて感想もな」
そう言うと一斉にアレイセンへと視線が集まる。
当の本人も突然の事にどうしていいのか分からずフェーバル王へと視線をやった。
「構わない存分に意見を述べよ」
そう言われては致し方なしと誰しもが彼の言葉を聞くべく口を閉ざす。
「それでは意見を述べさせていただきます。第一にムーレリア皇女の提案は我が国にとって利益にしかならないと考えております。なぜならば魔道具は魔鉱石が無ければ発動せず。それを現段階で従来通り採掘出来なくなっているのです。見通しも暗いとなれば安全策として魔族の方々に結晶を取って来て貰い、それを買い取るぐらいをしても損にはならないでしょう。ですが先程の各大臣の仰り様はその真逆にあるかと考えます。我らは国を富ませなければならない。大臣たちの話しを聞いていると全てに否定的で、逆に衰退するかのような意見に思えました」
大臣らはフェーバル王に近い年齢である。いかに応じであろうと息子の様な歳の者に言われるとイラつきが目立ち始める。それを押抑えるかのような仕草を行ったのがムーレリアであった。
「見事だ、王太子殿よ。貴方の意見は正しい。いいかな大臣殿よ。フェーバル王はそなたらの意見が採るに足らぬ物と判断して私の提案を受け入れたのだ。それを聞き入れられてなかったからと意見するとは言語道断であるな」
そう眼光は鋭いが言葉は呆れを含んでいる発言であった。
「そうだな、確かに余はムーレリアの提案を採用した。各大臣の意見を参考にしてな。だが、此処だけは聞かねばならん。魔族の者が我が国に及ぼす影響である。こればかりは余も心配でならない」
ピュータ村は村と言う名で呼ばれるが実際には人口一万人を超す都市規模の街である。そこに外国人以上に異物となる者を加えて要らぬ軋轢を生じさせぬ家と言う心配事がどうしても拭いきれなかった。
「それならば大丈夫だ。基本的に坑道内で暮らす者を選抜するよう考えている。報告書には無かったか、既にあそこに住まう以前から魔族の者が棲みかにしている事を?」
そう言われてフェーバル王はセムレス男爵の報告書を思い出す。すると確かにその様な記述が在ったのを思い出した。
「そう言えばあったな。そこで近藤たちを坑道内に派遣したと書いてあった」
「彼の魔族は蜘蛛の一族でな。基本的に争い事は好まぬ。それに暗い場所を好むのでな、損は無いと考えている」
そう言うとフェーバル王は頻りに頷いた。即ち五番坑道を切り離してしまえば安全であり騒動には為らないと考えたのである。
「そうか。判った。ではムーレリアの提案はその方針で話しを進めよう。何かあれば逐一連絡を寄越す様にしてくれ」
「し、承知いたしました…」
意見を採り上げられなかった大臣たちは消沈した表情でフェーバル王の言葉を受け取った。
かくして三日目の会談は時間と為り濃密なやり取りが行われ終了した。ほぼムーレリアの独壇場となった会談はフェーバル王が必死の防戦の末に雰囲気を五分に戻していた。それをアレイセンは第三者的な立場で見る事が叶い後の国家運営に大きく寄与する事は言うまでもない。
「ご苦労であったな。何れ褒美を取らす」
ムーレリアは部屋へと引き上げると魔族だけの会議を行い、そう言葉を発した。彼女がそう言うのは何も会談の中で彼女だけが言葉を発していた訳ではないからである。細かい部分や彼女が気が付かない部分は全て彼等が補足していたのである。中でも彼女の提案については大きな力添えが無ければ纏まる事は無かったのである。そう言った事で彼女は労いの言葉を掛けたのである。
「そのお言葉で十分で御座います。我らは姫様あってこそこうした立場に就いていられるのです。どうぞお気に為さいますな」
ホレムはそう言うが彼女の実質的な部下と言う者は此の場ではそれほど居ない。大臣クラスの者は皆皇帝、ムーレリアの父の家臣である。彼女の家臣となるのはホレムを始め親衛隊剣士と彼女の身の回りの世話をする従者、侍女だけである。つまりは活躍を奏上すると言う事である。
「我ら始めてムーレリア姫の活躍を拝見させていただきましたが想像以上の物で御座いました。この事は帝国の血肉と為りさらに発展して行くこと間違いないでしょう」
そう言うのは大臣の筆頭に上げられる魔族である。吸血鬼、ドラキュラの一族である。力も魔力も相当な物であり知能も高くデムレストア帝国内でも有力な一族を形成している。
「お前にそう言って貰えるとむず痒いな。何今回はどうしても結ばねばならなかったからな。私も全力でやったまでよ。だが、まだ締結に至っていない。これからはそなたらの手腕の発揮を節に期待する。よいな?」
ムーレリアがそう言葉を返し、さらに言葉を続けると大臣を始め、関係者の面々が席を立ち、深く頭を下げた。
「はっ、我ら一同身命を賭しムーレリア姫の期待に応えてみせましょう」
彼がそう言ってお辞儀をする態度は実に絵に為る光景である。事実部屋の隅に立つ彼女の侍女らはうっとりとした表情で彼を見ていたからである。
さらに彼は代表として言葉を続ける。
「このフルスート・マレイノコル、ムーレリア姫の婚約者として…」
そう言うと彼はさらに深く頭を下げ、他の者も習う様に下げる。
ムーレリアを始め、ホレムと剣士等は複雑な表情であった……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
ご感想等々お待ちしております。
それでは次話で御会い致しましょう!
今野常春




