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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
気が付けば魔族が!編
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第七十八話

 ツイーテアはデムレストア帝国皇女ムーレリアの親衛隊剣士として仕える女性である。紅一点と言う立場上何かとムーレリアと一緒に居る場合が多くなる。彼女は現在ムーレリアの命により数名の供と帝国へと帰還している。

「ツイーテア様、過去五百年までの資料は洗い出しが終わりました」

「ご苦労さまです。全てと一致したと言う事ですね?」

 彼女は部下から資料を受け取る。十センチ程の厚さもある物を軽く受け取る。すると高速でページを捲り確認作業を開始する。部下は静かに確認作業を待っている。室内は二人だけ、しかし只管に神がめくれる音が静かに流れているのであった。

「確認しました。ですが見つかりませんか…」

「はい。さらに五百年分の記録を調査させております。ですが…」

 部下の男はそう言いながらも憂いの表情を見せる。

「見つかる可能性が薄いと言う事ですね?」

「はい。残念ではありますが…」

 そう言うとツイーテアは考え込む。その間、男は目の前で立ちつくし彼女の反応を待っている。


「そちらも並行して、さらに別口からも調べましょう」

 そう発言すると鈴を鳴らす。

「お呼びにより参上いたしました。お嬢様」

 彼女の前に片膝を着いた男が五名姿を見せる。

「お前たちに別名を与える。正規のルートで人間の世界へと送られた者が居ないか調べてくれ」

「承知いたしました」

 そう言葉を返すと姿を消した。そしてもう一度彼女は目の前に立つ男へと視線をやる。

「記録が残る限り調べ尽くさねばならぬ。ムーレリア姫も並々ならぬ気持ちで望んでいますから、背く訳には参りません」

「確かにそうですな。それでは御命令に沿って行動致します」

 そう言うと男は部屋を辞した。


 それを見届けるとツイーテアは席を立ち窓へと移動し大きく息を吐きだす。

「ふー、これではどれほどの時間が掛かる事やら…」

 彼女の視界にはデムレストア帝国の帝都が一望出来ている。無造作に造られたものでは無く、全てに至るまで計画的に建築された都市である。その景観を彼女は好んでいる。自然物も好ましいが力を合わせて造り上げてきた物の方が好ましいのだ。疲れた時悩んだときはこの景観を見ることで気持ちを入れ替える事が出来る。


 この国では力を持つ者が上に立つ。ツイーテアは夢魔の流れを汲む一族に生まれた。本来ならば夢の中で精をいただくのが役目なのだが彼女は違った。魔力は魔族にとって必須でありそのレベルは

群を抜いている。特に彼女は戦闘能力において特化している。戦闘を主とする魔族の者も敵わぬ程であった。それ故に一族は種族間での戦闘に敗れることなく、順調に生存数を増やすことに成功していた。

それを成し遂げていたのがツイーテアであり一族の中で無くてはならない存在となっていた。

 本来夢魔において男女関係無く力が弱い存在であり、生存数を減らす存在であった。即ちツイーテアが居なくなった時元に戻る事が約束されていると言う事だ。寿命が長い魔族はその将来を考えると真っ暗な状況であった。

 そんなときである。デムレストア帝国において皇女が誕生したと言う報が全土に渡った。皇帝は直ちに娘の護衛と教育係となる人物を集め始める。各種族は挙って有能な人物を送り出す。皇女の元へと入る事が出来ればその種族は生存数が保証されると言う特権が与えられる。勿論増やす事が出来なくなるが、力の無い一族であれば望外の喜びであった。


 その時にツイーテアは一族の希望としてムーレリアの元へと送り出される事となった。今から凡そ六百年ほど前の話しであった。年齢差にして百歳ちょっとある二人は、性格が一致していたのであろう仲の良い姉妹のような関係で育って行った。私人ともなればそう言った関係は今でも存在するが、公人であれば弁えるだけの思慮分別は備わっている。

 よく二人はこの部屋よりもさらに上に存在する場所から眼下に広がる街を眺めていた事を思い出す。

 何も魔族だからと年がら年中戦闘に明け暮れる訳ではない。活気のある声が聞こえる度に、何れ戦闘の犠牲になるのかもしれないと思うと溜め息を吐きたくなる思いが彼女の中に存在していた。

「ふむ。ムーレリア姫に相談してみるか…」

 その時彼女の中で何か閃きが在り机に戻ると何やら用紙に書き始めた。これは新たに人が入室許可を求めるまで実に五時間にも及ぶ作業であった。






 此処とは別の場所ではムーレリア姫の剣士ツイーテアが帰国している事でちょっとした論争が交わされている。と言うのも、何故国交を結ぶべく赴いた筈の一団が一部なりとも戻っているのか。そして日本の国会図書館に当たる帝国の全ての蔵書と記録を集めた場所を閉鎖してまでの調査が行われている。

 明らかにおかしなことが起こっているのではないかと訝しむ者が多く存在していたからである。その中心となっているのがムーレリアの弟に当たるフェレッテンである。彼は皇位継承権二位となっている事で多くの魔族を集めている。

「殿下。一体ツイーテア殿は何を為さっているのでしょうか…?」

 一人はそう尋ねる。まるで心配していますよ、といった表情である。

「ゲムルトの仰る通りで御座います。特使と御自ら御成りに為られて出向かれた物の腹心ともいえるべきお方を帝国に戻し、あまつさえ記録院を封鎖しての調査。これは尋常ならざる事と愚考致します」

 そう言う者が居ると、尤もな話しだと一同頷いて肯定する。

「何やらあちらで襲撃が遭ったそうな。加えて魔族の魔法が使用された形跡があると言う話しである。故に姉上は過去の記録を調査させているのであろう」

 見た目は男版のムーレリアである。最たるものは彼の瞳である。彼女と同じく黄金の物であり、それこそが皇族たらしめるものであった。

 フェレッテンがそう述べると一同は納得して頷いている。彼等は不安なのである。開明的なムーレリアがどの様な行動を起こすのか、それによってどの様な展開へと移行するのか。人間の世界と積極的な交流が帝国にどの様な影響が在るのか等、言うなれば今の地位が危ぶまれるのかもしれないと言う保身から来るものであった。

「何、心配するな。姉上は皆の事も確りと考えて行動なさる。それにいざとなれば父上が行動なさるだろう」

 そう言って此の場にいる者の不安を取り除く言葉を掛ける。彼等は皇帝の姿を思い出し、その行動を見て取るとフェレッテンの言は正鵠を射ていると思った。自分たちに不利になる事は無いだろうと安心し、一同は部屋を後にするのであった。


「まったく魂胆丸見えな連中でしたな」

 彼等が姿を消し、魔力が周囲に無くなった頃を見計らい数名の男女が空間より姿を露わす。

「そう言うな。彼等も必死に今の地位へと辿り着いたのだ。そう言っては失礼であろう」

 フェレッテンがそう言うと悪びれて様子も無く言葉だけの謝罪を軽く行う。

「済みませぬ」

 此の場にいるのはムーレリアに従っている者と同等のレベルにある剣士たちである。凡そ十名が二人に配属されているのである。此の十名は其々ムーレリアとフェレッテンに忠誠を誓い、皇帝であろうとも従う事が無い者たちであり、それが法的に許される者であった。

「まあいいさ。姉上が為さっている事で不安に思う者が多々いる事は最初から分かっている事だ。知っていたかあちらの世界でも魔鉱石が採掘されると言うのを?」

 そう彼が皆に話しを振ると首を横に振る。

「それは初耳です。若しやムーレリア皇女はそれを見越して?」

 もう一人の剣士が彼に問い掛ける。

「どうであろうな。最初あちらへと赴いたのは例の大魔力を感知しての物、それがどう言った経緯でなったかは未だに報告が為されていない。しかし、明らかにそれが関係していると俺は見ている」

 すると一人の者がこう発言する。


「武力侵攻が有りますかな?」

 そう言うと一斉に非難の目が彼に向けられる。最たるものはフェレッテンであった。その眼光は凄まじく発言した者は冷や汗を掻き始める。

「アボルト。俺は貴様のそう言った言葉は好まん。以後その様な発言はしないでもらおう」

「…はっ!真に申し訳御座いませんでした!!」

 彼は片膝を地面に着けて頭を下げる。するともう一人の男も同様に謝罪を行う。

「殿下。部下の不始末、真に申し訳の次第もありません」

「構わん。これ以後気を付けてくれればな。それに俺はアボルトの活発な所が好ましいと考えている。それを潰す訳にもいかん。唯発言にもう少し気を付けてくれればそれでいいのだ」

 所謂頭で考えず、行動で示してしまう脳筋と呼ばれる種類の魔族であった。鬱屈したまた閉塞した状況下での彼の行動は場を盛り上げるのに十分活躍できる者が在る。フェレッテンはそう言った時にこそ彼が必要だと考えているのである。


「ですが殿下。ムーレリア皇女はそこら辺りの事も考えているのではないのでしょうか?」

「お前までそう言うのか?」

「いいえ、武力侵攻と言う事ではありません。わたくしも殿下に仕えるようになり早五百年が経ちました。その中で私的な研究の下考えられる事は帝国臣民の居住地域の拡大かと」

 剣士とは似ても似つかない風貌である彼はマーレンと言う。知識に長けた魔族である。言わば参謀的な立ち位置として彼に仕えている。

「居住地域の拡大か…」

 フェレッテンは頭の痛い問題だと顔を顰める。帝国が建国された当時からその話は至上命題であった。これは皇族にとって必ず成し遂げ為らない話しであるが、未だに成し遂げる切っ掛けさえ見えて来ていない。勿論唯一の大陸としてゴッゼント大陸が在るとしているが、船を仕立てて航海を行っているのである。それでも入植できる場所は皆無な状況であるのだ。


「私も齢一万を超えております。しかし、この国では新たな場所が見つかる事はありません。であれば外へと目を向けるのもムーレリア皇女らしい事かとわたくしは考えております」

 一見すればフェレッテンへの非難ともとれる発言だが実際に行動に移していないのだ。フェレッテンは何もその事については言わなかった。

「確かに姉上以上に民を思う方はいないであろう。しかし、どうなると思う?」

「さて、わたくしはそれ以上の事は判りませぬ。ですが、現在帝都にツイーテアが戻っているのであれば話しを聞いてみるのも一考かと存じますが」

 マーレンの言う事は先程この部屋へと詰めていた者とそれほど変わりが無い。違うのはその目的である。保身では無く単純にどう行動するのか、特にフェレッテンはそれにどれだけ協力出来るのかと言うことに重点を置いているのを彼は理解しているのであった。それ故ムーレリアに近しいツイーテアと話してみる事を提案したのである。

「そうだな。あの時は余り必要性を感じなかったが話しを聞いてみるのも良いのかもしれん」

 彼はそう言うと席を立ち上がる。

「それでは出向きますか帝都に?」

「うむ。久々ではあるが帝都へと行こうではないか」

 そう言うと皆は頭を下げ其々に行動を開始し始めた。






「それで、警戒はどうなっている?」

 一人が尋ねると直ぐに答えが返って来る。

「主要な人物へは魔族の警護が付いていますな…」

「昼間は狙わないと言う事が分かっているかのように、夜限定ですけれどね…」

 薄暗く窓の一つもない部屋の中で三人の声が囁かれる様に話されている。

「フロランスの者も王宮内へと入ったと言うではないか…」

「左様ですな。これでは離間を狙えませんな」

「そうですわね。あれ以来他の大臣らも警戒を強めています。とてもではありませんが暗殺などは無理かと」

 そう言うと一人が苛立ちを露わにする。

「まったくあの小僧が失敗などしなければ…」

「悔いても仕方ないでしょうな」

「そうですわ。あの場面で人間が現れるなど我らでも想像できませんでしたからね。あ奴に責任を取らそうとするのは酷ですわよ」

 そう言って二人がやんわりと怒りを鎮めようとするとすんなりとそうなった。

「判っておる。何もそれが全てではない。だが、時間が無いのは確かだぞ。恐らく小娘が調べに乗り出しておる筈だ」

「とすると記録を?」

「ですがあれは…」

「そう。見つからないよう手は打ってある。だが、それでもどうなるか分からんのが小娘の行動力だ。何かに付けて喰い破る…」

 そう言うと二人は納得する様な雰囲気となる。


「では如何致す?恐らく魔族の護衛は小娘が居る間となりましょうな」

「その間に暗殺を行うか、大人しくして機を窺うかですわね」

「若しくは明るみに出る前に行動へと移すかであるな…」

 最後の言葉で室内の雰囲気は重くなる。

「何とも追い詰められておりますな…」

「皆さん。私思いましたの。小娘もそうですが此の男も一因ではありませんの?」

 そう言って魔法で孝雄実の映像を浮かび上がる。掌では孝雄実の立体映像が克明に映されている。

「フェーバルの言うには『呼ばれた者』であったな…」

「左様です。魔力はそれなりですが…(わたくし)目には判断が着きません」

「ですが空間魔法によって姿を露わした。それだけでも単なる人間とは言えませんわ」

「一理あるな。だがどうする?こ奴らもたしか小娘の関係で警戒しておるぞ?」

「ですが一名、その枷を外れる者が居りますればそれに賭けてみましょう」

 そう言うと二人は訝しんだ。だがそれ以外に方策は無いと彼の言ったことに乗る事にする。


「わかった。先ずはそれに乗ってみる事と致そう。だが失敗は許されんぞ?」

「判っております。全ては御心のままに…」


 最後までお読みいただき有難う御座いました。


 ご感想お待ちしております。

 誤字脱字有りまりましたらご報告いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう!

               今野常春

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