第七十四話 王都到達
魔族の国デムレストア帝国の外交特使としてドットゥーセ王国へとやって来たムーレリア皇女一行は、ピュータ村を立ち一日で中間の村であるマウスゥート村へと到着する。その村では思わぬ事件に遭遇したものの、彼女等を迎え入れるべく王国側の人間ゼッセン・ホーツン・フロランス子爵と合流を果たし、王都グローリンバリーへと進発したのである。
それからゆっくりと歩みを進め、王都には三日後の昼、正午を指し示す時刻に外側の城門を潜る事になった。
「ほうこれが人間の首都か、中々に大きな造りだな」
ムーレリアは周囲を見渡しながらその感想を述べる。前方を王国側近衛騎士団の人間が歩き彼女たちはメインとして中盤を練り歩いている。その間剣士等も極力魔力の放出を抑え、その他の者も同様の行動を取る。最後はやはり孝雄実たちである。
「そうですな。ですが、何と言っても人間の多さに圧倒されますな」
その様に言うのは執事を務めるホレムである。
六本足の馬に跨る彼女たちを見て通りに溢れださんばかりの群衆はざわめき出す。なにしろ初めて見る馬なのである。この世界では四本足の馬が当たり前である為に多くの興味を惹き付けている。彼も未だに多くの人間が通りに集まる状況を感じある種の恐怖を覚えてもいた。
「まあこれが人間の武器なのであろうな。こうやって人は集まり、協力して住む場所を築く。そして知恵を出し合い新たな技術を生み出す。加えて寿命であろうな、短いからこそ彼等は必死なのであろう。我らは別の理由で必死になるが寿命が長い為に発展させると言う考えが希薄な気がする」
「確かに私も齢二千年を迎えますが、魔族全体でみれば若輩者でございますからな」
周囲の人間を見ながら二人はそう話し、通りを進む。幸いなことに群衆にはムーレリア達は同じ人間にしか見えなかった。近付けば瞳の色などで違うかも、と勘繰る者が出るかもしれないが、そこは通りを警備する王国軍兵士ががっちりと抑え込んでいる。
四つの城門を抜けると漸く王宮に辿り着く。ムーレリア達は正面入り口に通される。近衛騎士団の者等は既に別の場所へと向けて別れていた。此の場にはゼッセンと数名の従者に加え王宮で待っている者たち数名が出迎える。
「ようこそお越しくだされました。わたくし外務大臣を務めておりますポドムコ・コーアルエ・ヘンダット伯爵と申します。遠い場所からお越し下さり誠に恐縮でございます。此方は王宮内の全てを取り仕切りますフェンダー子爵です」
そう紹介するとフェンダー子爵は一礼し自身で述べる。
「わたくしはアソーブ・フェンダー子爵と申します。滞在の間、不都合の内容精一杯務めさせていただきますが、何か御座いましたならば遠慮なく仰って下さいませ」
「うむ、ご苦労。滞在中と宜しく頼むぞ。さて、ヘンダット伯爵と申されたな。早速であるが今日の予定を聞かせて頂きたい」
全てムーレリアが話している事に王国側の者は驚きを隠せないでいる。確かに事前交渉や擦り合わせをしていない中での会談であるが、仮にも皇女が全てを進めると思いもしなかった。見た目は二十歳そこそこの女性である。彼等からすればまだ経験の浅い皇族がお飾りとして此の場にやって来たと勘違いをしていたのだ。
勿論そう見ていない者も居るには居るが要職に就けていなかった。ゼッセンもその中なの一人である。
「は、はい。先ずは旅の疲れを癒して頂き、明日の夜王家主催の晩餐会を行いその場にて顔合わせを行わっていただきます」
ポドムコは汗を拭いながらその様に話す。実は全てをアソーブに任せる予定であった。しかし、トップであるムーレリアが話す以上、彼が話さなければならないと感じ今は説明を行った。
「成程、失礼を承知で尋ねるが、直ちに王と面会は叶わぬのか?」
「今でございますか!?」
これは二人揃って同じ言葉を発した。
「然り。聞いておらぬかな、我らが滞在した村……何と言ったかな?「マウスゥート村で御座います、ムーレリア姫様」おお、そうであった感謝するぞ、特使殿。あの場で人間が殺されておる。此処に居る特使殿が知らせを出している筈だ。時間を無駄にする事は出来ないと私は考えている。当然そちらもその様な考えであると思ったが?」
ムーレリアは心外な、と言う表情で話しかける。しかし、そう言われた二人は狼狽するだけであった。
「ヘンダット伯爵。何か問題が在りましたかな」
王宮へと繋がる門は開かれてある。彼等はその前で話しをしていたのだが、奥より澄んで張りのある声が響き渡る。この声は間違えようのない声質であった。
「フロランス侯爵!?」
再度二人は驚息の声を上げた。すると奥より着飾ったアレンゼントルが姿を露わした。加えて背後には数名の近衛騎士が従う様に立っている。ムーレリアの目の前に来ると深々とお辞儀を行う。そして二人に視線を向ける。
「いかにも、しかし到着為されたと聞き及んでいたが、一向に姿を現さないのでつい来てしまいましたぞ」
アレンゼントルがその様に話すと途端に二人の表情が曇る。アソーブに至っては体を振るわせ始めていた。これでは何かが在ると勘繰るしかない。
「い、いえ。問題が在った訳ではないのです。しかし…」
「は、はい。我らは職務に忠実に…」
二人は言い淀ませる。想定外の事故にどうすればよいか思考が追い付いていないのだ。
「何やら聞き間違いであったかな。確か我らと会談の場を設けるのは少なくとも二日後以降に為るので会ったな?」
「はい。姫様の申す通りあれら一同此の場に居りますもの一言一句記憶しております」
ムーレリアとホレムはそう話す。唯話し声が大きく彼等の耳に入る。当然アレンゼントルにも入る訳で、二人は顔面蒼白であった。
「成程、おかしな話であるな。申し訳御座いませんムーレリア皇女殿下。フェーバル王は貴殿との面会を強く望んでおります」
アレンゼントルはそう述べると頭を深々と下げる。
「おお、そうか。それはよかった。では早速段取りを進めて貰おうか。しかし、そこの者どもは如何致す?」
ムーレリアがそう尋ねると二人は震えあがった。だが、彼等もただでやられたりはしない。
「一体どう言うことでしょうか、フロランス侯爵。わたくしが命じられた事はその様な事ではありませんでしたぞ!」
「そうです。私も外交特使殿一行のおもてなしを行うよう命じられておりました」
ポドムコ、アソーブの二人はそう言って悪あがきを行う。しかし、アレンゼントルはそう言われても動じる事は無かった。
「それは何方が出された命令であるかな?」
「そ、それは…」
この一言が止めとなる。当然外務大臣と王宮の一手を司る者に対し同じ命令を出せる者は唯一人である。ドットゥーセ王国の為政者であるフェーバル王唯一人である。しかし、フェーバル王はその様な命令を一度は発したが、マウスゥート村での事件勃発を知り、直ぐに命令を取り下げていた。それを知らぬ筈が無いのだ。
「恐らくムサソーダ侯爵であろう。違うかね?」
彼がそう言うと二人は黙る。ムーレリアはこの光景を楽しそうに眺めている。彼女の親衛隊は徐々に彼女を守る様に展開を始める。明らかに権力闘争の様相を見せているからである。此の場合あり得るのはムーレリアの命を狙い国家の威信を傷つける。若しくは、国交を結ぼうとする国同士を仲違いさせるには最適な人選だからである。
「か、閣下からの命令は受けておりません!」
「そうか、聞いていないか。では誰に命じられたのかな?まあいい。君たち二人は先程解任された。それに伴い君たちに収賄の嫌疑が掛けられている」
この話しは以前から保留させていた案件であった。二人とも自身の権限を利用して多くの者から多額の賄賂を取っていた事は、王宮内の貴族間では誰もが知る話しであった。既に贈賄の疑いで賄賂を渡した物を捕まえて取り調べを行っていた。
「なっ!!」
「まああれだけやっておればこうなる事は予想出来た筈だな。ああ気にするな。既にムサソーダ卿に話しを通してある。心配せず自分の罪を償う事だな。連れて行け!」
項垂れる二人は近衛騎士の者に両腕を抱えられ王宮内に引き摺られていった。
それを見送ったアレンゼントルは再度ムーレリアに対し、片膝を地面に着けて礼をとる。
「見苦しき振る舞いをお見せいたしまして誠に申し訳ありません。わたくし軍務大臣を担っておりますアレンゼントル・デレッロ・ストランデス・フロランスと申します」
「うむ。特使殿の父親だな。私はデムレストア帝国皇女ムーレリアである。気にするな、随分と面白き劇であった。では早速向かおうではないか」
そう彼女は笑うが、アレンゼントル達王国側の者は苦笑いを浮かべるのである。
「はっ!それでは僭越ながらわたくしがご案内を致します。ゼッセン、お前は他の方々をご案内せよ」
「承知いたしました」
そう言うとゼッセンはムーレリアに付き従うべきものを除いて部下を通じて案内を始めたのである。
「な、な俺たちはどうすればいいんだろうな?」
「さあ、そもそも私たち此処に来る必要あったのかしら?」
「流れ出来てしまった感じよね?」
「途中で抜ければよかったんじゃないか?」
「それはそれで問題が生じるわね…」
最後尾に取り残される様に待機していた孝雄実たちはそう話しあっている。目の前では魔族には思えないムーレリアのお付きの者が忙しそうに王宮内に荷物を王国側の者に導かれて運び入れている。一週間彼女は此処に滞在する為に必要な荷物である。
「ローステッド男爵!」
その様に話していると違う場所から声が聞えて来た。サラがいち早く其方へと顔を向けるとそこには一人の青年が立っていた。
「クロスレイド子爵?」
彼女は記憶を引き出しながら顔と名前をリンクさせた。そう呼ばれて彼は笑顔で孝雄実たちの元へと近付いて来た。
「良かった。やはり君だったか。フロランス子爵家が取り潰されたと聞いた時は驚いたよ。だがその後の処置にはもっと驚いたけれどね」
「子爵家と言ってもブラスト辺境伯様の下ですけれどね」
男はそう話しながらさり気なくサラの横に立つ。その態度に最初に反応したのはマリアンであった。それを察知したのはキャメルであり、彼女は行動に移さないようにさり気なくマリアンの前に体を半身出して妨害を行う。
「それでもだよ。最初は君がどうなったのか心配になったが、新たな男爵家を立ち上げると聞いて安心した。それで今は何をしているんだ?」
「ああそうだったわね。今は冒険者をしているのよ。此処に居るのが私の仲間たちよ」
そう言ってサラは孝雄実たち一人一人の名前を呼んで彼に紹介する。
「紹介有難うサラ。諸君、私はソレスツイ・ケンスレス・クロスレイド子爵だ。よろしく頼むぞ」
彼はそう言うと笑顔を見せる。
「さて、あまり長話は出来ないな。私も彼の者たちの受け入れで忙しい。申し訳ないがこれで失礼する。サラもう暫く王都に居るのならば会おう。場所は依然と変わっていないから何時でも尋ねて来ると言い」
そう言うとソレスツイは此の場を去っていった。まさに二枚目の男がする仕草を完璧に行った。そのことで孝雄実は少し気を落としたが周囲にはばれる事は無かった。
結局孝実たちは以前押し込められていた部屋を宛がわれた。その際部屋割に関して問題が在り、孝雄実の考案によってくじ引きで決着を見ることになった。三人部屋と二人部屋と言う別れ方であり、何故か孝雄実は初めから三人部屋が決定していた。
「それじゃあ指示が在るまでは待機ね!」
「え、ええそうね…」
「じゃあ、少し休んだら許可をいただいて庭にでも出ましょうか」
二人部屋にはエレオノーラとキャメルが泊ることになった。エレオノーラは少し落ち込んだ表情で入室
して行った。
場面は変わり、ムーレリアを始めホルト剣士たち十名はフロランス軍務大臣の先導によって玉座へと移動しフェーバル王と面会を果たしていた。
「初めまして。わたくしデムレストア帝国皇女ムーレリアと申します。本日は急な申し入れをお請けいただき真に有難う御座います」
「何。その辺りの話しは互いに急務であったから仕方が無いだろう。私はドットゥーセ王国国王フェーバルである。遠路遥々よくぞ参った。他の方々も席についていただきたい」
フェーバルがそう言うと、ホルトは一度ムーレリアの方を見やる。当然彼には彼女の頭しか見えなかったが彼等には会話は可能である。
「フェーバル王の寛大な御心に感謝申し上げます」
ホルトはそう言うと用意された席へと着いた。
席は長机を挟みこむようにして用意されている。よくニュースとかで見る形である。互いのトップを中心に左右に人が座り、それを見計らい飲み物と軽食が出される。
「移動してきて直ぐだと聞いてな、もしよければ食べながら話そうではないか。私を始め魔族と言うものをまったく知らない。それにデムレストア帝国と言う国も知らないとあれば国交云々とは行かない。申し訳無いがその辺りの説明から行って貰いたいのだ」
「あの村の出来事は如何なさるおつもりか?」
「それも必要な話しだが、恐らく詠唱破棄を認めない一派の連中貴方がた魔族との国交樹立を認めない者どもの仕業であると考えている」
それは王国側の公式見解である。彼の一派のドンであるコレイト・ムサソーダ侯爵との溝は埋め戻す事が出来ないほどまでに拗れている。加えてこの様な妨害が在る事が予見出来た為に一番信頼出来るアレンゼントルの息子であるゼッセンを特使として向かわせていたのだ。だが、それはあくまでも王国内の表面的な争いを加味しただけに過ぎない。その話を聞いたムーレリアは面倒な、と感じるものの一から説明を行った。
「よろしいか。先ず彼の特使殿がどの様な報告を行ったかは存じ上げぬ。しかし、私はハッキリと断言出来る。あれは魔族の魔法によって殺された事案であるとな」
そう言うと会談を行う室内に置いて王国側の人間が騒ぎ出す。室内には席に着く者凡そ二十名ずつ、席に着くことなく壁際に立つ者十名ずつ。王国側計三十名の大半がざわめいている。
「少し待って貰いたい。今魔族の魔法と申したな?」
「如何にも。最初私もまさかと思った。しかし、あの現場を見るにその考えしか至らなかったのだ。此の場に特使殿が居ないのが残念であるが、一度彼にも説明はしたぞ。まああの時は仮説であった為に報告を受けていなかったのかも知れぬがな」
丁寧な言葉使いは既にない。一々言葉使いを気にしていられるほどに余裕が在る事態で無い事が分かりだしたからだ。王を始め各大臣達の目が真剣さを除き始める。これを見てムーレリアは漸く話し合いが出来ると感じ始める。基本的にデムレストア帝国は皇族が全ての権限を持ちその他は補佐に過ぎない。故に意見する事は出来ても決定権は此の場では全てムーレリアが有している。
「魔族とは言え。我らデムレストア帝国と言う国がどこか…やはりそこから話さねばならんな」
ムーレリアはそう言うと出された飲み物と食事を食べ始める。そうしなければ力が出無かった。
「フェーバル王よ。言葉使いと仕草は許されよ。こうしなければ、どうにも話しがしにくいのでな」
「皇女。気に為さる事は無い。此の場で貴方を咎める事が出来るのはそちらの方々だけだ。それに一々躾云々言う程の者は居らぬよ」
フェーバルは豪快に笑い彼女の仕草を気にしていなかった。ホルトは少しでも否と言う様な仕草を見せればムーレリアを咎める予定であったが、全員が受け入れた為にそれを行う事は無かった。
「うん、感謝するぞ。フェーバル王よ。私の事はムーレリアと呼び捨てにしてくれて構わない」
「ならば余の事も王などと呼ぶ必要は無い。此の場においてはその様な事を気にすることなく話しを行うことにしよう」
そうフェーバルが話すと室内の雰囲気が若干和らいだ気がしたのであった。
「それでは我が帝国から説明しよう。デムレストア帝国はゴッゼント大陸に存在する唯一の国家である。そして大陸は魔鉱石で出来ておる。そして帝国では無数の部族から構成されている。その総称を魔族と呼んでおる。これは魔力を必要とする者と言う意味合いが在る。人間が考える魔族がどの様なものであるか、それは分からない。さて、このゴッゼント大陸は少し特殊でな、生きられる者の数が決まっておる。各部族は我が皇族の下、其々に帝国内で生きられる個体数が制限されている。そこでは各部族に予め最大数が与えられておる。皇族支配の下彼等は戦いに明け暮れておる」
此処まで話すとスッと手を上げるものが居た。
「ムーレリア皇女殿下、ご説明の最中申し訳ないが少し尋ねても宜しいか?」
「構わん。特使殿の父よ」
そう彼女が許可を与えるとアレンゼントルは立ち上がり頭を下げてから話し始める。
「戦いに明け暮れるとは内戦状態と考えていいのでしょうか?」
「違う。先程も話したが皇族支配の下戦いが行われるのだ。そこでは当然死者も出る、勝敗も決まる」
そう話すがアレンゼントルを始め王国側の者の頭は混乱し始める。
「そうだな。人間では理解せよと言っても判らぬ話しである。よいか、部族が戦うのは生きる為出ると同時に部族の個体数を拡大する為だ。勝てば負けた部族から生存権を獲得出来る。そうして帝国で生き残るのだ」
「しかし、そうすれば自ずと帝国内の魔族は数を減らすのではないのですか?」
アレンゼントルが尋ねるとムーレリアは首を横に振る。
「違う。我ら魔族はな、魔力を魔鉱石から吸収して生きておる。何かをするにも必ず魔力を消費する故にあの大陸は必須」
「では今はどうなさっておるのです?」
「何、この世界でも多少魔力は溢れておる。であれば吸収出来る問題は無い」
ムーレリアはこの様に話すが万が一を考えて純度の高い魔鉱石を持ちこんでいる。あの卵が在った結晶と同じものである。
「その大陸は魔族には無くてはならぬ物であり、戦いは各部族の生き残りを掛けた戦いであると。そしてそれを見届けるものが皇族であると…」
「然り。言うなれば我らは審判の様な位置付けだな。そして負けた部族は当然ゴッゼント大陸で生きる数が減らされる。そうなればその部族の中で弱いものから排除される。これを我らは間引きと呼んでいる」
その言葉にフェーバル王を始め王国側の者は戦慄を覚える。生き残る為とは言え国の中で敢えて戦わせ、あまつさえ生きる事を奪われる。その様な事を平然と出来る彼女たちに平常な思考では考えられなかった。今や穏やかな雰囲気では無くなり唾を飲む音さえ聞こえる程に静寂が支配している。
「お、同じ国民を間引きと称し排除するなど狂っておりませんか!!」
これが始まりとなり各大臣らは糾弾するようになった。だが不思議なことにムーレリアを始め魔族側はまったく動じる事は無かった。理由は簡単だ。そうしなければ生きていけない事が分かっているからである。どう言われても生存圏が大幅に存在する此方の世界とはまるで条件が違うのである。
そうして暫く各大臣が言いたい放題に話しているとムーレリアはその美しい顔で禍々しい笑みを作り言葉を発する。
「為らば、全魔族で此方の世界へと侵攻してもよいのだぞ?幸い此方にも高純度の魔鉱石は存在する。ゴッゼント大陸から魔鉱石を切り出し、此方へと運びいれればまったく問題は無い。この国だけでは無い、我らは全ての国を攻める、等しく平等に死と恐怖を与え魔族の楽園を築くことに遠慮はしない」
その瞬間阿吽の呼吸の如く剣士等が戦闘態勢に入る。だが、近衛騎士も負けてはいない。流石王国内でも上位の者たちである。数で言えば王国側の方が多い。
「一同落ちつけ。ムーレリアよ。済まぬが冗談でも言って良いものではない。しかし、そう言わせてしまったのは此方の落ち度である。その点については申し訳ない。謝罪する」
その空気を打ち破ったのはフェーバル王である。この間言葉を発したのはフェーバル王とアレンゼントル以外の者であった。確かにアレンゼントルが質問した事に端を発したが、彼女の言い分も多少理解出来ていた。
「判ったフェーバルの謝罪を受け入れよう」
「感謝する。だが、言い方が悪い。間引きと言う言葉は我らにとって受け入れ難い話しである。それは生きる境遇が異なる故の認識である事は理解しよう。しかし、どうしても抵抗感が在る事は確かだ。そして詳しい話しを聞けなかったな。間引きを為された国民は如何するのだ?」
フェーバル王がそう尋ねると彼女は人差し指を下に指して言葉を発する。
「簡単な事だ。此方へと送られる。勿論私たちの様な姿では無いぞ。此のままでは一人でも圧倒的な力で人間の国を滅ぼしてしまう。故に力を抑えて此方へと送りこんでおる。人間が魔物と呼んでいる存在よ」
そう言われて再度彼等は表情を硬くする。
「そう硬い顔をするな。こうするしか方法は無いのだ」
そう言うとムーレリアは優しい表情へと顔を変化させる。
「仕方無いとは?」
フェーバル王は尋ねる。
「我らは生き残る為には仲間も殺す。それほどまでに手を下さなければ生きてゆけぬ。しかし、それ以外の殺生は絶対に行わない。故に間引かれる者にも機会を与えるのだ。勿論思考力は落とし、記憶も無くさせるがな」
「そうして此方に送り込むか…」
そう言うとムーレリアは頷く。
「然り」
そう話せば当然反発する者は現れる。
「随分と身勝手ではありませんか!自分たちで殺せないからと此方へ送り込むなど、我らの事はどうでもよいと?」
「違うな。ならば力を落とすことなく送り込んだ方が良かったか?そうなれば送り込まれた国はあっと言う間に崩壊するぞ?それに恩恵に与る事もあろう。調べでは魔物は良い値段で取引されるそうではないか。それは即ち人間の糧を手助けしていると言う事であろう?」
ムーレリアは冒険者の報酬の話しをその様に言い表している。そもそも論に為るが送り込まなければ良い話しだ。から始まりでは送り込まなければその者たちはどうするに為る。討伐してこそ冒険者は金銭を手に入れ生活が出来るのだ。互いに持ちつ持たれつの関係が出来ていると言ってもいいだろう。
結局大臣らを含め、この室内で話した事はこの様な事ばかりであった。実に半日近くを費やし話した事は、デムレストア帝国はどの様な国なのかに終始し、話し合わなければならない事に移る事は無かった。だが、流石と言えるのは此の場で誰ひとり脱落することなく終わりを迎えた事である。既に日付も変わる時刻であり、食事を運ばせた以外個別にトイレへと立つ以外は部屋を後にする者が出無かった。
フェーバル王は実りある会談だと考えていた。ムーレリアと彼は共により突っ込んだ話しをしたかったが、それでも魔族と言うものの考えが分かり、彼の国がどの様なものかを彼女の言葉と共に理解出来た事に充実感を以って自室へと戻るのであった。後に続いてアレンゼントルも入室する。
「義父上真に長丁場の会談お疲れ様で御座います」
「何、これ程実りある会談であれば時間など気になる程でもない。彼女はよい為政者となるな」
ムーレリアは各大臣が批判した事を全て聞き及んでいた。その都度答えるのではなく、全てを聞いた後一人一人に懇切丁寧に答えて行った。加えて魔界での行為が決して残虐なものではない事を理解して貰おうと説明した。その行動により初めは反発していた大臣ら王国側の者は彼女の言葉を受け入れ始めたのであった。
「確かにあれほど自国の民を思うものはそう居りますまい」
「そうだ。だからこそ余は決めたぞ。必ず彼の国との国交を結ぶ事を」
「おお、それはよかった。私もその事には賛成で御座います!」
アレンゼントルは疲れを見せることなくフェーバル王の言葉に喜びを露わす。
「まあ、それは明日…いやもう今日か、再度ムーレリアと話し前進させねばならん。しかし…」
そう言い淀むと何を言いたいのかがアレンゼントルには理解出来た。
「魔族の仕業と言う話しですな」
そう言うとフェーバルは頷いた。
「そうだ。彼女の言葉は恐らく真実なのだろう。であればだ、アレンゼントルこの国に間違いなく魔族が入り込んでおると言う事ではないのか?」
自身で話していてもその恐ろしさが如実に現れる。そう思った時、もう少し早く彼女からその話を聞いておけばよかったと考え始める。明らかに人間の力では魔族に敵う者が限られている。その様な者が王宮に居るとすれば危険と共に今現在居ると言う事だった……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
今回長くて申し訳ありません。9800字となりました…
ご感想お待ちしております。
誤字脱字有りましたらご報告いただけると幸いです。
それでは次話で御会い致しましょう!
今野常春




