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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
気が付けば魔族が!編
76/107

第六十七話

「姫、今何と仰られましたか?」

 ムーレリアの親衛隊に所属する女性剣士は彼女の発言に、やっぱりと思いつつも当然聞き直さなければならなかった。

「ツイーテア、私はこの国の王に直接会おうと考えているのだ。恐らく王はこの現状を把握し切れていないであろう。むしろこの場に招待して、懇切丁寧に説明しなければ為らぬのかもしれん。じゃが、王と言うものは軽々にその場を動けぬであろう。であればこそ私が直接出向いて話しを付けねばならぬ。そう考えておるのだ」

 ムーレリアはそう自信たっぷりにこの場に居る全員に宣言をするように話していた。

「しかし、会うにしても陛下は簡単に御会いしてくれるかしら?」

「そうだよな。普通会えないよな…」

 サラとマリアンは突飛な彼女の考えに消極的である。

 と言うのも、彼女が魔族のゴッゼント大陸デムレストア帝国の皇女ですと言って誰が信用できると言うのか。それにこの場の現状は既にフレテスト・ホートマンが知らせている。飽くまでもドラゴンの卵ではなく、魔鉱石を生み出す核と言うものとして認識しての行動をとり始めているのだ。計画を行動に移した状態では、恐らく変更することはなかなかに難しい物が在る。その様にサラは思っている。

 魔鉱石はホルト王国で生産されている魔道具の動力となる代物である。ドットゥーセ王国も輸入ばかりを続けるのではなく、何とか自国でも作れないものかと苦心した結果、詠唱を必要とする利権勢力によって潰されはしたものの細々と魔道具を自国生産出来る様にまでなっているのだ。それをみすみす手放す様な魔鉱石の減産を行うとは考えられない。国家事業を軽く変更は出来ない。何か代案を用意しなければ国王フェーバルも首を縦には振れないであろう。


「なあ、ムーレリア。国交はあるのか?」

 孝雄実は漠然とその様に尋ねる。本来国同士の交渉なれば、然るべき人間がたたき台を経てトップが会談すると言うのがセオリーであるが、いきなり尋ねると言うものは如何なものかと孝雄実は考えた。彼もテレビやネットで見るニュースで実務者協議為る単語を耳にしていた。だからこそトップ会談をいきなり行って出来るとは考えていなかった。

「在る筈が無いだろ。そもそも私が人間の目の前に現れる事すら初めてなのだ。だがな、現状は人間どもが魔鉱石採掘を止めるか最低限にまで採掘量を落とさなければならないのは事実であるぞ。それに代わる考えが在れば聞かせてくれ」

 ムーレリアの言葉に誰一人として反論できる者はいなかった。

「確かにそう言われると反論の余地も無いな。しかし、ムーレリアがいきなり乗り込んで会って貰えるか、そこが気がかりな所だな」

「そうね……」

 孝雄実とサラはその一点において悩みを抱えていた。しかし、ここでマリアンが思いもよらぬ答えを出す。


「なあご主人様。なら特使として国交を結べばいいんじゃないのか?その上で此処の現状と対処を議題に乗せる。さらに何か代案が用意出来ればそれを用意させる。そう言う事は出来ないのか?」

 その言葉にムーレリアの瞳が開く。まさに盲点であった解決法をマリアンが出したのである。

「それだ!!私がデムレストア帝国の特使として人間の国相手に国交を結ぶべく赴けばよいのだ。成功しようともそうでなくともそれで面会は出来よう。マリアンよくぞ申した!」

 ムーレリアは天啓を得た、その様な気分であった。褒められたマリアンも満更でもない様な表情である。そこからの動きは速かった。急いで国に戻ると言い出すと、ムーレリアは女性剣士を連れ立って国に戻ってしまった。その際、ムーレリアは孝雄実たちに明日のこの時間にこの場に再度集合せよと言い残していた。

 残されたのは孝雄実たちと巨大蜘蛛のメレーデストロである。


「ふぅー何とも慌ただしいお方ですな。しかし、それが姫様らしい…」

 メレーデストロは彼女が去った後、空気を吐きだしながらその様に話す。事実この空間は彼女たちが居なくなっただけで空気が軽くなっていたのだ。それはサラとマリアンも感じている事である。

「俺たちは一旦戻る事にします」

「そうですな、出来ればあなた方の口からも作業を止める様に話しをしてください。私が赴けば騒ぎの元になりますから」

 そう話して三人は坑道を後にするのであった。






 三人が坑道を出ると既に日は完全に落ちていた。それを大量の松明で灯りを灯し鉱山一体は昼間の様相を呈しているのであった。人も昼夜兼行、恐らく休んでいる者はいないであろうと思われるほどに身に着けている物を汚し、動き回っている光景が彼等に飛び込んでくる。一分一秒でも早く救出出来ればそれだけ人命は救われる。その一心で彼等は動いているのだ。この現場で働く物は全員がライバルであり仲間である。特に同じ坑道で働くものは家族である、そう考えている。

 彼等はその中を進み、一度本部へと報告の為に向かうことにした。恐らくだが先に戻った二人、レイスレットとフェータの事である。二人は卵へと向かう途中で戻る事を余儀なくされていた者たちだ。


「三人とも御無事でなによりです!」

 本部へと到着すると、三人の目の前にレイスレットは一目散に彼等の元へと駆け寄って来た。

「ああ、フェータは大丈夫なのか?」

 孝雄実はその様に尋ねる。二人は歳の近い兄弟の様な親しさである。サラとマリアンも親しいがそれ以上に中の良さを築いている。

「はい、此方へと戻ってからは元気になりました」

「それはよかった。それでな、報告を行いたいのだが、此処の責任者と会いたいんだ」

 孝雄実は既に彼が知っていると思い話す。

「カースレアさんですね。分かりました僕に付いて来て下さい」

 そうレイスレットが言うと三人は後を付いて行くのであった。


「お帰りなさい、レイスレット様。おや、そちらの方は?」

 本部と呼ばれる場所は大きく分けて二つ。今彼等が居る指令所がそれ、もう一つが救護所である。大きさから言うと後者が圧倒的な大きさを占めている。しかも未だにその大きさを拡大させているのだ。

「私と同じ冒険者の方々です。リーダーの近藤孝雄実さんです」

 カースレアの問い掛けにレイスレットはすんなりと答える。

「そうですか。初めまして、わたくしセムレス男爵家の家令を務めておりますカースレアと申します。現在は現場の最高指揮官も兼任しております。この様な対応で誠に申し訳ありません。失礼ながら早速報告をお願いできますか?」

 未だに次々に知らせが入る中では形式など邪魔な話しである。松明に煌々と照らされている現場は明るさには問題が無い。その為に疲労困憊な表情をしている事が三人には見受けられた。


「分かりました。先ず魔物は全て排除完了いたしました。それは彼からも報告が有ったと思います。そして次ですが、核と呼ばれていた物は違います」

 一度孝雄実はそこで話しを区切る。此処より先の話しはなるべく人が数ない方が良いと考えたからであった。先ずはカースレアに対してそう出来る様に頼のみ込む。本来ならば一冒険者が貴族の家令に対して頼みこめるような話しではない。しかし、時期が時期なだけに聡明なカースレアは只ならぬ事と考えて場所を移すことにした。フェータを加えた六人は小屋へと移動したのである。ここで、周囲を驚かせると言う事で兵士一名を付けてブラックとホワイトは宿舎へと戻るのであった。

「此処ならばよろしいでしょう。して、話しを中断した事と公までさせた理由を確りとお話しいただけるのですね」

 カースレアは目を細めると孝雄実を睨み付ける様に見やる。これは冗談や価値の無い話しは許さないと言う意思表示である。

「はい、先ず核と言う話しですが、あれは卵なのです」


「卵?どう言う事です?」

 カースレアも報告を行ったレイスレットも実物を知らない。それを知るのはこの場では孝雄実たち三人である。口で説明を受けても頭の中では想像出来るものではない。それは経験から得られた物をその言葉に近しい形にイメージして頭の中で思い浮かべるのだ。

「カースレアさんは地底竜メアレステロンと言う名をご存知でしょうか?」

「はい、存じ上げております。伝説のドラゴンの名ですね」

 ドットゥーセでは教養を得ようとすれば殆んど知る名である。

「実は核と言われた物はその卵なのです。そして、その卵から溢れだす魔力が周囲の岩肌に浸透して魔鉱石を造り出していたのです。言い換えるとあの場所は卵の棲みかと考えてもいいと思います」

「つまり我らはその住処を闇雲に破壊していたと言う事ですか?」

 カースレアは一を知れば十を知る男である。孝雄実の説明で十分に理解出来ていた。

「そうです。詳しく言えば魔力を吸収する物が十分に吸収される前に次々に外側から採掘される。その事によって、卵の魔力放出が安定的に行われなくなり暴走することになったのです」


 孝雄実がその様に説明を行うとカースレアは深く考え込む。自身が執れる裁量権を大きく逸脱しているからだ。それはこの村を任されている主人セムレス男爵にも当てはまる事である。何と言ってもピュータ村は通常の領地とは異なっている。徴税権はこの辺り一帯を治めるブロンセンタ子爵が得ている。しかし、それ以外は全て王家の直轄地となる。加えて人口一万を超す規模であるにも拘わらず、村と呼ばれるのも対外的な経緯からである。山々に囲まれ、標高二千メートルの場所に一万人もの人間が暮らす等この世界ではまずあり得ない話しだからである。一万を超せば少なくとも街と呼ばれるはずだからだ。そうなれば何か産業がそこにあるはずと勘繰る事が出来る。周囲の国とは争う事は無いが、火種を起こしたくはないと言う考えからその様に格上げを行わない事に決めているのだ。


「そうですか…分かりました。それでは一度旦那様のところへと向かいましょう。皆さまはお疲れではありませんか?」

 カースレアはその様に全員を気遣う。むしろ自分を労わった方が良いほどのやつれ様であるが、休むのは全てが終わった時と決めている為気力で彼は頑張っているのだ。

「俺は大丈夫です」

「私も大丈夫です」

「同じく」

 孝雄実たちはその様に答えたが、レイスレットとフェータは違った。

「孝雄実さん、俺とフェータはもう暫く此処で休ませていただくことにしようと思います。まだフェータが本調子ではなさそうですので…」

 彼は済まなそうに話す。隣に居るフェータも同じである。

「分かった。十分に休んでくれ」

 孝雄実は額面通りに受け取ったがレイスレットは違う事を考えている。と言うのも行き付く先は王宮との交渉である。であればこそ、なるべく自分が関わる事は避けねばならないと考えているからだ。それはフェータも同様に考えている。

「それでは早速向かいましょう。旦那様もこの状況下では起きておられるはずです。強行軍になるかも分かりませんが容赦願います」

 化―すれはその様に孝雄実たちに述べると早速小屋を後にした。

 残念なことに最重要な事をこの場で言う事を忘れている孝雄実であった。






 場所は変わり王都グローリンバリーでは馬車の手配から物資の手配、極めつけは王国軍からの護衛と冒険者の護衛を惜しげも無く付けた商隊が編成完了していた。率いるのはポーレスト商会の店長ティーナである。台数八十台を数える巨大な一団は王都でもそうお目にかかれる光景では無かった。故に国民が列を為してその一団が移動を始めるのを今かと待っているのである。

「うう、緊張する…」

 そう呟いたのはティーナであった。と言うのも失敗は無いであろうことは予想出来ている。しかし、だからこそ次期国王アレイセン直々の依頼である。彼女に掛かる期待と言うものは相当のものと理解できていた。

「気負うな、自然にだ。自然に、ティーナは物資を届けるだけでいいのだ。護衛の兵士たちが道中を必ず護ってくれる。だから安心して物資を届けてこい」

 そう励ますのはセドーフェンと言う大男の商人である。以前ティーナのポーレスト商店と関わりが有り、今も彼女を気に掛けている。


「セドーフェンさん…それでも緊張しますよ。この物資の量を考えれば」

 物資を積載する馬車以外にも兵士を乗せる馬車、彼等の消費する物資を積載した馬車と全てを合わせれば百二十台にもなる。それを護衛するのが王国軍第二兵団の兵士たちである。全員が平民で編成されているが彼等は全員アレイセンに忠誠を誓い一団である。内外にこの輸送任務はアレイセンが主導している事を示しても居るのだ。これは次期国王としての手腕を披露する一手にもなっている。

「だとしてもだ。お前さんが彼等を信頼して馬車を操ればいいのだ。其れだけで功績となる」

「そうだ。ティーナ、君は我が兵士を信頼していればよい。必ず無事に移動できるだろう」

 セドーフェンの言葉に被せる様に話しかけて来たのはアレイセンであった。


「殿下!?」

「で、殿下!!」

 商人の二人はそれに驚いて頭を下げる。それに対してアレイセンは笑いながらその様にする事を止める。

「よい、此処は公式の場ではない。そう堅苦しい事をしなくてもいいのだ」

 彼の後ろには静にアレンゼントル・デロット・ストランデス・フロランス侯爵も佇んでいる。此方にはアレイセンの言葉を聞いている手前、目礼で済ませるしかなかった。

「さて、ティーナ」

「は、はい!!」

 緊張が最高潮に達しようとしている彼女にアレイセンは両手に手を置いて諭すように言葉を掛ける。

「いいか、よく聞いて貰いたい。これは私にとっても試金石となる話しだ。緊張するなとは言うけれども、兵士を信頼して無事にピュータ村へと物資を送り届けてくれ。そこでこれを君に渡そう」

 アレイセンはそう言うと一振りの剣を彼女に渡す。両手で恭しく受け取ると、ティーナはまじまじとその見事なまでに装飾された鞘を見る。これだけで大豪邸が広大な敷地と共に手に入る程の価値を見いだせるものであった。


「こ、これは…?」

「私の代わりと考えてくれ。何か問題が在ればこの剣を見せるのだ。賊や魔物なればいざ知らず、貴族であれば必ずや説き伏せられる。当然兵士等にもだ。それにそれを身に着けているだけでも効果は十分に発揮される。だから安心して良い」

 そう言われもう一度鞘を見ると王家の紋章が宝石により形作られているのを確認出来た。それに数字も刻まれている。これはティーナに説明していないがシリアルナンバーである。王家の人間、それも王と次期王だけに許された特別な制度である。次期王に選ばれた時に二振り、王になった時にさらに二振りと刑四本の剣を所有する事が出来る。ティーナは知らないが、これを渡されると言う事がどれほどのものかを体感することになるにはもう暫く時を置かなくてはならない。


「は、はい!!ポーレスト商店代表ティーナ全力で事に当たります!!」

 緊張して声が裏返る中、元気よく言葉を返すと安心したような表情でアレイセンはこの場を後にしたのである。

「ティーナ、セドーフェン。頼むぞ、これは殿下の進退を決めると言ってもいい。先程殿下も仰ったが、困った事が在ればその剣を見せよ。必ず道は開かれる」

 アレンゼントルはその様に二人に言葉を残して彼の後を追うのであった。

「なんか、大事に為っちまったな…」

 セドーフェンのこの言葉は後により強大なものへと変貌を遂げるのである。






 かくしてティーナを代表とする商隊は王都を後にする。エレオノーラとキャメルもこの一団に冒険者護衛の一因として従事している。二人はティーナと元から護衛契約を交わしている手前常に彼女と同行することになる。全員が騎乗、若しくは馬車に乗っているとはいえピュータ村までの行程は二週間を考えている。最初に向かった時とは倍の期間を要する理由は馬車の性能である。ポーレスト商店の馬車は魔道具であり魔力を消費するがその分重さを感じさせず馬に優しい造りなのだ。その為に速度を上げた上で維持出来るのであった。

 王国軍の動きは機敏である。常に前を行く場所には偵察を放ち、道中の安全を確認している。これは全て騎兵の役割であり、休んでは飛び出しを繰り返している。

 この光景を見るだけでティーナの緊張は和らぐのであった……


 最後までお読みいただき有難う御座いました。


 ご感想お待ちしております。

 誤字脱字有りましたらご報告いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう!

              今野常春

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