第六十六話
六日ぶりです…
孝雄実はムーレリアと白と共に卵の目の前に戻って来た。そう言う表現が適切かは定かではないが、形としてはムーレリアが孝雄実を抱き抱える様にして空中に浮かび白、ホワイトが孝雄実の足に噛り付いている状況である。あの世界での出来事は時間にして一分にも満たないほどの僅かな時間であった。
「も、戻った!?」
「戻ったな」
「ガウッ!」
ホワイトに戻った白は喋る事はなかった。とまれ、孝雄実は目の前に在る核が地底竜メアレステロンの卵である事を理解している。そして彼は地底竜自らの頼みを聞き遂げるべく手を再度触れる。最初はこれに触れた事で卵の内部、そして中心へと辿り着いた。その経験を活かすべく心の中で彼から言われた言葉を思う。
『落ちつけ!』
孝雄実が手を触れ、その様に念じると卵の暴走は次第になりを潜める。大きな揺れを起こしていたものが治まり周辺は静寂を取り戻していた。大きさも膨張前の物に戻っている。
「ふぅ、治まったな」
孝雄実としても幾ら地底竜の言葉を信じようと実際にやってみなければわからない状況にある。結果が出るまで内心ドキドキしっぱなしであった。
「孝雄実、何をしたんだ?どうして卵の暴走を止められたのだ?」
ムーレリアの記憶の中にはポンとの戦闘後、彼と幾ばくかの話しをしたことしかない。孝雄実と地底竜とのやり取りを知らない為に、目の前の状況が飲み込めていなかった。
「ムーレリアだけには伝えておかなければならないな。だからまだ、浮かんだままでいてくれ。俺は地底竜メアレステロンに会った。…驚くのは分かる、そこで俺は頼まれたんだ。この卵を止めてくれってな」
孝雄実の言葉を確りと聞いているムーレリアには、彼が嘘の述べている様には感じられなかった。そう思い彼を感じようと少しではあるが魔力を彼にぶつけてみる。すると彼の述べている事が信憑性の高い事が確認できたのである。
「孝雄実、何か体に変化が有ったのか?」
彼女は以前も孝雄実に対して魔力を今の様にぶつけた事が在る。それ故に変化を感じ取れたのだ。
「地底竜の鱗と融合した。お皿の様な物だった。あいつが説明も無しに勝手に融合させたんだけどな…」
「成程。しかし、孝雄実くらいだぞ、公をその様にお呼びするのは…私でも憚られると言うものだ。だが、それで納得したぞ」
ムーレリアはその様に話すと孝雄実の体を所構わず触りだす。まるで何かを確認すかのように…
「どうしたんだよ、ムーレリア?って、どこ触っているんだよ!?」
「お、おお済まぬ。いや鱗とは言え神器に用いられる素材であるからな。ましてや地底竜の鱗は一枚手に入れるだけで望む物が全て手に入るとまで言われるものだからな。それを取り込んだ孝雄実は体に変化が現れているのかと思ったのだ。だが、何処にも変化が現れておらんな」
ムーレリアはその様に言うと地面に着地する。重要な話しはもう済んだと言う認識での事だ。
「姫様!」
「姫!御無事で!!」
親衛隊の剣士たちはムーレリアの周囲を取り囲むように駆け寄って来る。そうなると必然孝雄実も囲まれることになる。本来ならばこの時点で普通の人間は魔力に耐え切れなくなり消滅する。魔力が有り、鍛えている者も気を失う程である。サラとマリアンが良い例である。彼女等は未だに地面に伏せて気を失っている状況だ。甲斐甲斐しくブラックとホワイトが二人を看ている状況である。
「ああ問題ないぞ。心配を掛けたな」
「いえ、姫さえ御無事で有ればそれでよいのです。ですので、軽々しい行動は控えて頂きたく存じます」
彼はこの親衛隊の隊長を務めている。時に部下を叱咤しムーレリアを守護し、またあるときは今の様に厳しく言わなければならない。これも全ては彼が信頼されているからに他ならない。ムーレリアもそれが有る故に最もな言葉であると言い返せないでいる。
「うっ、わかった。これからは気を付けるとしよう。それで良いな?」
「はっ、お言葉をお聞き下さり感謝に堪えません」
そう話していると一斉に孝雄実へと視線が移動する。其れを受けて流石の彼も動揺を隠しきれなくなる。
「して、姫此方の人間は如何致すのです?」
一人の男性が孝雄実を見てムーレリアにその様に尋ねた。
「別にどうもしないが、お前はどうしたいのだ?」
「いえ、私は姫の考えに従うだけです」
「そうか、ならばどうもしないと言う事で良いな。それに此処は人間の世界だ。無闇に我らが手を出そうとすれば必ず弊害が起こる事を忘れるな」
ムーレリアがその様に言葉を発すると、剣士等は一斉に膝を着いて彼女の言葉を受ける。十名いた彼等もムーレリアに日頃から従う女性剣士を除いて彼等の国へと帰還をしてしまった。これは無理に此方に居続けると問題が起こりかねないと言うことからであった。
「さて、先ずは孝雄実の仲間を起こさねばならぬな」
そう言うとムーレリアはサラとマリアンの元へと移動する。ホワイトは彼女が来ると自らも近付いて顔を彼女に擦り付ける。するとムーレリアも嫌がる素振りを見せることなく、頭を撫でて二人へと近付いた。付き従っている剣士の女性は驚きを禁じ得なかった。先程まではあんなに嫌っていた動物を、ああも親しみを込めて頭を撫でるなどありはしないからだ。だが、それを尋ねる事は憚られる。聞きたいと言う衝動を抑えて彼女は護衛の任を務めるのである。
ムーレリアは両手をサラとマリアンに翳す。すると気を失っていた二人は何事も無かったように起き上がるのであった。
「あれ?」
「何か体が軽いな…」
サラとマリアンはそう言うと体を動かし始めた。
「二人とも大丈夫だったか?」
孝雄実も彼女に続いて二人の元へと駆け寄った。
「孝雄実、どうしたのよ。私は平気だわ。それよりも此処へと来た時よりも体が凄く軽いのよ」
「そうだぜ、ご主人様。私もサラと同じだ」
二人は少し嬉しそうに今体内で感じている事を話す。当然であろう、魔力とは言うなれば第二の血液に等しい。人はエネルギーを食事によって補い、更に血液も作る。魔力は睡眠時にのみ補充が可能なのである。起きている間は消費する一方なのだ。其れを有り余るほどの魔力を持つムーレリアから補充を受ければ相当な回復を見せるはずなのだ。
「当然だな。私の魔力をお前たちの中に流したのだ。感謝しろよ」
彼女の態度はやっぱり尊大なものであった。あれから孝雄実とは長い時間を共にして互いを理解し始めていたが、サラたちとは初対面もいい所であった。
「あんたは誰なんだ?」
マリアンはサラの前に立つとその様に述べる。瞬時にムーレリアが人間ではない事を理解したのである。それはサラも同じ考えであった。特に今身に着けているカラドヌルクから言葉に出来ない警告がひしひしと伝わって来ているのだ。
「私か?私はムーレリア、ゴッゼント大陸にある唯一の国家デムレストア帝国皇女である。簡単にいえば魔族の姫だな」
彼女はその様に言うと両手を腰に当ててポーズを決めて二人にアピールを行った。
「そんな大陸も国家の名も聞いた事が無いわね」
「私もだ。でも嘘を付いている様には見えないぞ?」
サラとマリアンは揃ってその存在を否定する。と言うのもその様な地名も国家も無いからに他ならない。
「当然だな。お前たち人間の住む世界と我ら魔族の住む世界とは場所が違うのだ。我らは此方へと時空を超えてやって来ている。だからお前たちが知らぬのも無理はない」
ムーレリアはその様に述べる。二人はそれを確認しようと孝雄実を見やる。
「ムーレリアが話している事は本当の話しだぜ。二人とも魔力を感じてみろよ」
魔族は常に魔力を吸収しながら生きている。その反面、容量が意外と小さい為に吸収してもその多くを大概へと放出している。だからこそ魔族を判別できると言うものである。
「あっ、本当だ」
「魔族も人間の姿をする者が居たのね」
サラは初めて見る自分立ちそっくりのタイプを見て感慨深そうにムーレリアを見る。世界には魔物は存在すれども人型のそれもこの様に意思の疎通が可能で暴れない者などは見た事が無いからである。
「なんだ、初めてなのか?」
「ええ、そうよ。私は…いいえ、貴方は皇女でしたね。わたくしはサラ・ロースロンド男爵と申します」
そう言ってドットゥーセ式の挨拶を彼女に対して取る。吊られてマリアンも同じ様な形を取った。
「わたくしはマリアンと申します」
「そうか、二人ともそう硬く成る必要はない。私は魔族、二人は人間である。私に敬意を払う必要はない。それに折角こうして話せるのだ。楽に致せ、孝雄実の様にな」
とは言え、彼女がそう言っても慣れと言うものがサラには在る為に馴れ馴れしい話し方は出来なかったのは言うまでも無い。その点、マリアンは孝雄実と同様にすんなりとムーレリアと会話を楽しむまでになっている。
「ほう、マリアンは孝雄実の奴隷なのか」
奴隷と言う物にムーレリアは興味を惹かれている様であった。彼女の国では基本的に奴隷は存在しない。ゴッゼント大陸では限られた数が生きる事を許される厳しい世界である。それ以外は基本間引きと呼ばれ人間の世界へと力を抑えられ送り出されるのだ。魔物が自然発生している様に思われてはいるが、この事が影響しているのである。
「まあね。でも私の知る奴隷像とご主人様の扱い方のそれはまったく違うから最初は驚いたよ」
マリアンは孝雄実との関係を話すとそれを面白そうにムーレリアは話しを聞いている。サラはその光景を見て、貴族のしがらみはそう簡単に払拭することは出来ない事を悟るのであった。
「ふーん、でも人間は凄い事をするのだな。私もそれなりに人間社会を研究しているが同種を奴隷とするなど我が魔族でも考えられないぞ」
「奴隷と言うものはいないのか?」
マリアンは興味深そうに尋ねる。
「居ないな。そもそも、そんな事をする必要はないのだ。魔族はな、基本的に魔力で以って大抵の事が出来る。故に奴隷に何かをやらせるなどと言った考え方にはならんのだ」
ムーレリアはそう言うと火の玉を手のひらに出現させる。それは詠唱破棄の魔法であった。
「わっ、詠唱破棄だ!」
「その様に驚くなマリアン。何も特別なことではないぞ。周囲に魔力を放出する空間があり、思い描けばそれで良いのだ。孝雄実もそれが可能なのではないのか?」
ムーレリアはそう言うと孝雄実を見やる。
「なんだ、気が付いていたのか?」
「いいや、なんとなくだ。だが、孝雄実はこの世界の人間ではないのだろ?であれば異なった考えを元に魔法を使用してもおかしくはないと言うものだ。この世界の人間どもは何故か詠唱破棄を行わないのでな」
彼女が研究するに当たって当然人間の魔力を調べれば魔法もと言う事が浮かんでくる。そうして調査を行った結果魔族の様に詠唱破棄を行っている者はいなかったのだ。そもそも詠唱破棄と言う考えが魔族にはない。あくまでも体を動かすと言う様な一貫の中での行動であると言う考えが在る。
「姫、メレーデストロが目を覚ましました」
孝雄実たちが話しをしている中、唯一ムーレリアに付き従っている剣士が蜘蛛男のメレーデストロを起こしていた。彼はそうそうにムーレリアに蹴られ魔力の結晶で造られた壁にめり込み今迄気を失っていたのだ。
「いやいや、まさか会って早々に蹴られるとは思いもよりませんでしたな。それで、この結果は如何なさったのですかな?」
彼は親しげな雰囲気でムーレリアに話しかける。しかし、その態度が余計に彼女を苛立たせるのであった。
「ふん、お前が弱いのが悪いのだ。騒動は全て孝雄実が収めてくれたよ」
ムーレリアがその様に言うと、彼は驚きを持って言葉を発する。
「ほう、ほうほう。君がこの騒動を収めたと!?いやーまさか人間にここまで出来るものが居るとは!私メレーデストロ侯爵は心から皆さまに感謝を申し上げますぞ!!」
「それでだ、この場をこれからどうするかであるな。私が此方へと赴いたのはこの卵の異変を感じたからである。まさか、我らの国にまで魔力を感じるとは思わなかったがな」
「卵ですと!?姫様、これは魔鉱石を生み出す魔力の核ではないのですか?」
メレーデストロはムーレリアにその様に尋ねる。卵と言う言葉もそうであるが、自分が一番知っているはずの事がまるで違っている事に困惑を隠せなかった。
「違うぞ。これは地底竜メアレステロン公の卵である。私は孝雄実と白と一緒に公の卵の中へと誘われていた。日数にして三週間と言う長期間であったな。そこでこの卵の事を聞かされた。そして孝雄実が最も関係の深い人間であったのだ。済まぬな孝雄実、此処で話すべきだと判断した」
「いや、構わないぜムーレリア。どの道この話しはしなければならないかも知れなかったんだ。必要だと思ったら話して構わない」
そう二人が話しているとサラとマリアンが話しに入り込んでくる。
「ねえ、孝雄実。卵とか一体どう言う事なのかしら」
「もう少し分かり易く話して欲しいぜ、ご主人様…」
一人間からしてみれば途方も無い展開に付いていけていなかったのだ。
「俺たちは最初これが核であって魔鉱石を生み出す元だとメレーデストロさんから説明を受けただろ。それで、俺たちはこの場所までやって来た。そこで見たのは次第に大きくなりつつあった核と呼ばれていたこの卵だ。二人はムーレリアの魔力を当てられて気絶したんだ。その後俺は彼女に連れられて核だと思っていた卵に触れた。その後、卵の中へと移動していたんだ」
「ちょっと待って、するとあの中には別の世界が在るってこと?」
サラは孝雄実の話しを遮る様に尋ねる。しかし、それに答えたのはムーレリアである。
「そうだ。孝雄実の話しを加えるならば、あの世界にはもう一つありそこにメアレステロン公が住んでいるのだそうだ。そして彼が卵の魔力暴走を止める役に選ばれたのである。そうだな孝雄実?」
「ああ、とある事で俺たちは三週間と言う期間鍛えられていた。そしてその成長を確認する様に戦いが行われたんだ。そして気を失った俺は地底竜に会う事が出来た。理由は分からないが、どうやら『呼ばれた者』と言うものが関係している様なんだ」
孝雄実はムーレリアを除く全員に少しだけぼかすように一連の流れを話した。シンキの話しをしてもサラたちには理解できないと考えたからだし、自身がこの世界でシンキをどの様に扱えているのかが理解できていないと言う事も起因している。
「皆も色々と聞きたい事が在るだろうが、質問は後にして貰おう。おい蜘蛛、お主はこれからどうするつもりだ?」
ムーレリアは孝雄実の話しを終えてから、サラとマリアンが殊更質問したそうな表情をしていたのを遮る様に話しを始める。
「根本原因はやはり人間の魔鉱石の採掘であった。恐らく蜘蛛もそれを分かっていたから道を塞ぎ犬っころを野に放っていのであろう。しかし、それでもめげる事はなく人間は採掘場所を拡大し徒に卵を刺激してしまった。此処はやはりその事を改めなければならぬと私は考えている」
彼女は卵の暴走の果てというものをイメージしている。と言うのも人間の世界と彼女等の住む世界とは一蓮托生である事を理解しているからである。だからこそ卵の安定は必須なのである。
「そうですな、わたくしは公と此処を守る事をお約束いたしました。命に代えましてもこの場所を守らねばなりません。しかし、私のペットは既になく此処までの道も解放してしました。辿り着ける事は無いにしましても此方に居ります人間も在られます。絶対が無いのでありますから戦わねばならぬでしょう。ですが私は戦う事を好みません。ゴッゼント大陸を放逐しました時も私は一切力を抑えられる事はありませんでした。ですので、人間の意思によりこの場所を閉鎖するか、最低限にまで採掘量を抑えるかこのどちらかを選択なされる事をわたくしは望んでおります」
この地へとやって来て約一万年、最後に彼が地底竜メアレステロンと交わした約束。これこそ彼が最も守らねばならない事である。
「であろうな。私も珍しくお前と考えが同じだ。此処は我らの土地ではない。故に人間のルールに従おうではないか」
ムーレリアはその様に言う。その時の彼女の目は何時になくギラ付いているのを剣士の女性は見逃さなかったのである。こういった時にはほぼ間違いなくよからぬ事を考えているに他ならないからである。
「直接この国を治める者に対して要求しようではないか!」
ムーレリアの言葉によって『ああやっぱりと』思うのであった……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
お久しぶりですと言う程でもありませんが…
六日、短い様で長かった…
話しが纏まらないときは本当に纏まらないものですね。
本日はクリスマスですね。本来はこの日に合わせて一話お話しをと考えてもおりましたが本編が思いの他にずれ込みまったく手が着けられておりません。
ご感想お待ちしております。
誤字脱字有りましたらご報告いただけれると幸いです。
それでは次話で御会い致しましょう!!
メリークリスマス! 今野常春




