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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
気が付けば魔族が!編
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第六十五話 あんたがドラゴン!

 孝雄実はポンとの戦いを勝利に近しい引き分けで終わりを迎えた。結末は互いの武器耐久力が尽きたことに起因している。僅か五分、孝雄実に変化が現れてから戦った時間である。その間に剣を合わせる事二百。それもシンキを用いた身体能力向上を行ったうえでの話しである。よくぞここまで武器が持ったと褒めてやらねばならないほどに激しい戦いであった。


『あれ、此処は何処だ?』

 目を覚ました孝雄実はガラッと変化した環境に多少困惑していた。少なくとも恐竜の如くドラゴンの派生形態の動物が存在している以上ジャングルに近しい環境であった。だが、今彼が居る場所は荒涼としている。草木一本存在せず、風が吹けば土埃が簡単に巻き起こる。さらに雲が日差しを遮り僅かに肌寒さを感じる。

『おい坊主、こっちだ、後ろを向け!』

 その声に孝雄実が振り向くと蜥蜴を巨大化した物が言葉を発していた事を悟った。


『呼んだのはお前か?』

『当然だろ。それ以外に誰が坊主に声を掛けるんだ。余り時間が無いのだ。黙ってワシに着いて来い』

 そう言葉を発すると蜥蜴は踵を返し移動し始める。孝雄実も此処がどこなのかと言うことが分からず、着いて行く以外の選択が無い事に気が付いて、急いで後を追った。目の前の蜥蜴は一歩が大きくその巨大な足の為に地面を大きな音で以って踏み締めている。


『なあ此処はどこなんだ?』

『今は知る必要はない。黙ってワシに着いて来い』

 口調は何処か老人の体ではあるが、声量は孝雄実と同年代の様なものである。歩き始めてからと言うもの孝雄実は似た様な言葉を蜥蜴に問い掛ける。だが、返って来る言葉は同じフレーズであった。そうこうしていると蜥蜴は駆け足となる。突然の行動に孝雄実も合わせて走るが、如何せん蜥蜴の速さは尋常ではなかった。


『よしよし、確り連れて来たな。よくやったぞ』

 声は蜥蜴と同じ声の老人が目の前に蜥蜴を撫でている。蜥蜴も気持ちよさそうな声を上げている。そうしていると孝雄実が息を上げながら追いついた。

『はぁ、はぁ、いきなり走るなよ…』

『漸く追いついたか。まだまだシンキを使いこなせておらんな。まあいい、ほらそこに座れ、後はこれを飲んで直ぐに息を整えろ。そのままでは話しも出来ないだろう』

 そう言ってポンたちの場所で飲んだ疲労回復ジュースを出現させる。テーブルも椅子も同様に全て突然目の前に出現させた。孝雄実は一度飲んでいる為に躊躇なく差し出された物を飲みこんだ。


『うん、それじゃあ話しを始めようか。俺は地底竜メアレステロンだ、よろしくな』

『はっ!?あんたがドラゴンなのか?』

 しかし、目の前の人物はその顔が面白かったのか笑みを浮かべながら話しを続ける。

『そうだよ、俺がそのドラゴンだ。と言う事で理解してくれ。それでだ、漸く坊主と会えた事を嬉しく思うぞ』

 そう言うと彼は笑顔になって孝雄実の手を握り締めて大きく上下に揺らす。

『あ、ああ。俺は近藤孝雄実、坊主では無くて名前で呼んでくれるとうれしい』

『分かったぜ、坊主。それにしても俺の因子を持って此処まで来たのは四百年ぶりか…』

 結局変わらない事に落胆した孝雄実であったが、目の前の人物と同じ日本人が会っている事に驚かされる。


『俺の前にもあんたに会った人が居たのか?』

『当然だ、たしかえーっと今はポンとか言ったか。あいつが説明していただろ、あの日本と言う場所は俺の縄張りみたいなものだ。過去に何百人も因子を持った人間が誕生しているんだ。その中で坊主を含めると五人目だな』

孝雄実は当然気になる自身の前四人の名を聞けば一人目は知らない名であったが、後は歴史の教科書にも必ず登場する人物である。居なくなった、遺体が見つからないとされる理由が、所謂歴史ミステリーとも言われる様な話しである。


『はぁーなんか凄い人物と並んでいる様に感じるぜ』

 孝雄実はそう言うと話しだけでお腹一杯に成りそうになる。

『そんな人間の活躍と俺の因子の器を比べられても困るぞ。あくまでもお前は歴代でも上から数えた方が早いほどだ。だから気にするな』

『うーん、そう言われてもな。その名前は誰もが一度は耳にする名前だからな…』

 そう言われても納得すると言う事が出来なかった孝雄実である。


『まあその話は坊主がきっちりと整理して貰う話しとして。時間も残されていないから手短に話すぜ。先ず坊主は俺の卵を制御して貰う。これはあの場所で無尽蔵に魔鉱石を採掘していた人間の誰かが結界を破壊した事が発端だ。今あの卵は暴走を始めている。今はあれをどうにかしないといけねえ』

『そうだよ、俺たちはあの卵に触れてから三週間以上も経過しているんだ。どうなっているんだ、あの世界の状況は?』

『安心しろ、あの世界とは時間軸がズレている。坊主たちが戻っても一分少々経過した程度だ』

 焦る孝雄実を落ちつかせると地底竜は話しを続ける。


『問題は、あの卵は魔力の放出が安定しないと大爆発を引き起こすと言う事だ。人間どもがまあ次から次に鉱床と言い張り掘り進めるものだから魔力を抑える土が無くなってしまったんだ。それであの卵が不安定になり山全体を崩壊させているのだ』

 地底竜はその様に言うとテーブルにチョークの様な物で絵を書いて説明し始める。

『いいか、あの山自体が卵を安定させる器と言ってもいい。其れを長い時間を掛けて魔力を染み込ませて魔力暴走を抑え込もうと言う考えなんだ。だが、僅かにしか染み込まない魔力は魔鉱石と言う名で採掘するだろ。結晶体であれば問題は無いが人間が触れる事が出来ないと言う事だが知った事ではないな』

『だが一応彼等も生活が掛かっているんだぞ?』

 詳しくは知らない孝雄実であるが、鉱床から掘り出す金属が現代でも貴重な物として産業全体を支えている事を考えれば欠かせない事は理解できる。


『だが、あの世界を終わらせる訳にはいかないだろ?とはいえ俺は優しさが具現化した存在だ。そこで坊主があの暴走を鎮めろ、ってことだ。ほらっ』

 地底竜はその様に言うと一つのお皿を渡す。

『なんだ、この皿は?』

 孝雄実はテーブルに無造作に置かれた物を手に取るとその様に彼に尋ねる。

『馬鹿野郎、皿じゃねえ。俺の鱗だ!人間の世界では神器にも使用される超一級品の品だぞ!!』

『えっそうなのか?どう見ても安ものの皿にしか見えなかったぜ。それでこれを使ってあの卵の暴走を止めろと?』

 孝雄実は済まなそうな表情はせず口だけで謝罪するとやる事は一つとばかりにその様に尋ねる。地底竜も当然だと言わんばかりに頷いて説明を続ける。


『先ずはこの鱗を坊主の体内に融合させるぞ…』

 そう言うと孝雄実が持つ鱗が輝きだすと粒子となり目の前から消え去った。

『なんだ、消えたぞ。これが融合なのか?』

『そうだ、これを受けて平気なのはお前以外いなかった。酷いものはこれで存在が消え去ったほどだ。よかったな!』

『は?おいおいよくねーだろ!普通は説明が有るもんだろ?』

 だが、地底竜はそんな事はお構いなしである。

『そんな事を言えば抵抗するだろ?いいじゃねーか成功したんだ。あんまり時間取らせるなよ。坊主が此処に居られる時間だって限度があるんだ。それにお前に合わせなければいけない者も居るからな』

 地底竜はその様に話すと一組の男女が現れる。


『ヘルシマシルトンさん、カミナさん!』

 三週間孝雄実たちが世話になり、シンキの扱いを含めてレベルアップに貢献して貰った師匠たちである。二人は笑みを浮かべて孝雄実の前に姿を現す。

『僅か三日程会わないだけで随分と雰囲気が変わったのぅ』

『そうですね。此方で見ていましたが白ちゃんとムーレリアさんも短期間でさらに成長していました。本当に教えがいのある方々でしたね』

 二人はその様に三人を褒め称える。


『ありがとうございます。それで、若しかしてお二人はドラゴンの関係なのでしょうか?』

 孝雄実は此処に現れると言う事は初めから二人はこの為に仕組まれていたのではないかと考える。そして、この場所に居られるならば地底竜と関係の深い者と考えるのが妥当だと当たりを付ける。しかし、ヘルシマシルトンはそれを否定する。

『それは違うぞ、孝雄実君。ワシ等は正真正銘の人間じゃ。加えてあの世界の住人である』

『そうです。ですが今回どうしても孝雄実君にお会いしたくて、無理を承知でメアレステロン公にお願いしたのです』

『それは一体どう言う事です?初めから俺の事を知っていた、そう言う事ですか?』

 孝雄実の問い掛けに二人は大きく頷く。


『そうじゃ、全てを知った上で孝雄実君と話しておった。気を悪くしないでもらいたいが幾らか考えを誘導したこともあるのぅ。此処までするには理由が在る。それがワシとカミナは孝雄実君とは大きく関係が在ることじゃ』

『アイリャと言う名はご存知ですか?』

 カミナはその様に孝雄実に尋ねる。嘗てホルト王国と姉の様な存在である相田愛理の関係でキャメルから聞かされた名である。彼にとっては忘れもしない名前である。

『勿論、若しかしてあなた方は愛理の関係者とでも?』

 その言葉が欲しかったと言わんばかりに二人の笑みは一層大きくなる。


『そうじゃ、ワシ等は夫婦ではない。正しい名はヘルシマシルトン・アイーダ』

『私はカミナ・アイーダ』

『ワシ等はアイリャの子供だ』

 その言葉に衝撃とも驚愕とも言えない判らない感情が孝雄実の中に湧きだす。

『は?いやちょっと待ってくれよ!愛理の子供?だって、えっ?』


『まあ混乱するのは無理も無いな。二人は態々俺に懇願してまでこの状況を願ったのだ。坊主が、卵が在る場所まで来たのを知ってな、まさかここまで事が運ぶとは思いもよらなかったぞ。これも必然ではないのかと思わざるを得ないな』

 地底竜はその様に感慨深い様な感情で三人のやり取りを眺めながら言葉を掛ける。彼としてもまさか二人が述べていた事が実現しようとは思いもしなかった。しかし、そう言えば相田愛理という人間には別のドラゴンの因子が在ったのを思い出す。彼はこの世界で自分に関わる事は何でも知る事が出来る存在である。嘗て日本で孝雄実が負った怪我で愛理から血を分けて貰った事を思い出した。恐らく自分ともう一体のドラゴンの因子が融合しているのだと考えたのだ。つまり二人がこの様に現れ、自分に願い出たのもその因子が起因しているのだと改めて思い知らされた。


『母が日頃孝雄実君の事を話しておってな。自分がこの世界とは別の場所から来た事を話して以降は我らに多くの話しをしてくれたものじゃ』

『そうです。特に母が話している中で出てくる話しの人物が孝雄実君です。歳の離れた弟が居る、心配だと日頃から話されておりましたよ』

 孝雄実は二人の顔を見やる。年老いた二人ではあるが瞳の色が自分と同じ色である事を確認した。それに知らぬところで自分の事を話されている事に少し恥ずかしさを感じてしまう。


『そうですか、愛理は…』

 トラウマが必ず甦る程に弄られ続けた孝雄実ではあったが、今話しを聞いていてもその事は起こりはしなかった。幼いながらに辛いこともあったが両親が仕事で家を空けるときは必ず彼女が面倒を見てくれていたのだ。必ず良い思いでもある。今はその光景が脳裡を駆け巡り自然と目頭が熱くなっているのを彼は感じる。

『母が亡くなる瞬間まで孝雄実君の事を心配していた事は、生前においては嫉妬した事が在りました』

『然り、ワシ等も同じ様に愛情を注いで貰ったが、どうしても顔すら知らない君の名を聞かされては堪ったものではないと思ったものじゃ』

『ですが、母の日記を見たときにこの異界へと単身放り出された感情を察する事が出来ました。ご存知ですか?』

 カミナが尋ねているのは日記の事である。それを察する事が出来た孝雄実は頷いて今自分が為している事を話し始める。


『はい、此処へと来る前に偶然ですが魔導書の類で入手しました。今はそれを読み解いています』

『そうですか、あれを解放したのですね…』

 孝雄実の言葉を受けてカミナは少し済まなそうに、憐れんだ表情を含んだ顔で言葉を投げ掛ける。孝雄実は隣のヘルシマシルトンを見ると同様の表情をしていた。そこでまず間違いなく愛理の何某かが仕組まれている事に気が付いた。

『若しかして…』

 孝雄実の言葉に大きく二人は頷いた。感動的な話しはあっと言う間に瓦解するのであった…


『ワシたちが見たのは別冊じゃ。孝雄実君が見た物は君専用の物じゃ。ワシ等でも鍵を解除出来なったわい』

『そうでしたね。生前から孝雄実君が此方に来る事が必ずあると仰っていて、貴方に分かる番号を入力しなければ決して解錠出来ない様に作ってありましたからね』

 未だ孝雄実は日記の全てを見てはいないが、カミナが話している内容が書かれてあるのだ。

『そう言えばそうだったな。まさか本当に解錠するとは思わなかったわい…じゃが、もう一つ残念なことが在る。実はあれには』

『そこは内緒にしなければいけませんよ』

 その様にヘルシマシルトンが話そうとしたところでカミナが遮る。孝雄実としてもその先は必ず聞いておきたいところであった。


『おお、そうであったな。済まんのぅ。母からの遺言でのぅ、孝雄実君と会ったならばこの話しは止められておったのじゃ。これも母の道楽の一つであるからの』

『縁が在りましたらホルト王国へといらしてください。私たちの子孫が未だに幅を利かせております。その際、母の日記を持参して頂ければ特使並みの待遇が約束されています。そろそろ時間が迫ってきましたね。最後にこれだけは話しておきます。その日記を一日でも早く読む事です。恐らく母は自身が呼ばれた理由を確信したのだと思います』

 そう話すと二人の姿が消え始める。

『おお時間か…孝雄実君折れた剣は気にする事はないぞ。あれは架空の物、元の世界へと戻れば魔力が戻る。それによって再現できるようになっておる。イメージじゃぞ、その言葉を忘れるでないぞ。メアレステロン公、さらばです。我ら兄弟の我儘を此処までお聞きいただいた事忘れは致しません』

『分かりました、ヘルシマシルトンさん、カミナさん』

『よい、俺も考えさせられる事が在った。よくぞ孝雄実を鍛えた、これによって相殺される。気にすることなく来世を謳歌せよ』

 地底竜はその様に言うと二人は深々と頭を下げる。そうすると目の前からその姿を完全に消したのであった。






 二人が消えてから間を置くことなく地底竜は言葉を発する。

『相田愛理と言うのはお前のなんだ?』

『俺の姉の様な存在だ。日本に居た時俺は両親が共働きでな、隣に棲んでいた愛理に面倒を見て貰っていたんだ。姉であり、母でも在ったのかもしれないな』

 孝雄実は改めて彼女の事を思い起こす。本当に様々な事が思い起こされる。愛情とは失ってから気が付かされる場合もある。今の孝雄実はその事をしみじみと感じていた。

『そうか、人間とは凄いものだな。思いと言うものが此処まで動かすことになるとはな。知っているかあの二人は数多くいる子供たちの中でも剣と武術に秀でた者だ。俺の元に辿り着いたのも僅かに残っていた因子が導いたのかもしれん』


『因子って、この世界の者にはないのではないのか?』

『確かにそうだがあの二人はどうやら別の様だな。それに母親が因子を持っていたのだ。受け継がれた可能性も考慮しなければならないだろ?その証拠に本来『呼ばれた者』と言う者が死んだ場合一緒に居る動物も死ぬのが道理であるがあの二人が生きている間は生きていたそうだぞ。そこまで考えれば因子が受け継がれたかも知れないだろ?』

 その話しは孝雄実も聞かされた話しだ。白や黒と言ったものは一蓮托生であると聞かされていたのだ。

『そうだな…』

『まあ、その話しは終わりにしよう。どうやら坊主が此処に居られる時間も終わりに近いようだ。お前は戻ったら速やかに卵に触れろ。そして願うのだ、落ちつけと』

 随分と簡単な話しである為に孝雄実は訝しむ。


『そんな事でいいのか?』

『そうだ、俺は復活するつもりはないからな。今はお前に頼む他にない。大丈夫だ、魔力とシンキを扱えるのであるから必ずそれで暴走は抑えられる。俺の鱗を融合させたんだ』

 そう地底竜が言うと先程の二人と同じ様に体が透け始める。

『限界の様だな、ポンの所に居る二人も自動的に元の世界へと戻される。そちらも心配するなよ。お前はもっと強く、世界の事を知らねぇといけないかもしれん。いいか、自分の立ち位置を確認しろよ。お前は選ばれているのだ。恐らく世界の鍵となるかもしれない。俺も地底竜と言う名を与えられ不死身ではあるが全てを知る訳ではない、むしろ知らない事の方が多い。これを忘れずに生涯を生き抜けよ!』

 これが孝雄実と地底竜メアレステロンとの最初の出会いとなるのであった。この言葉の後孝雄実は姿を消すのである。

 それを見送った地底竜は曇って陽の光が望めない空を睨み付ける。


『俺を封印出来ると思うなよ…』

 その言葉は決して孝雄実が聞ける事はなかった……


 最後までお読みいただき有難う御座いました。


 ご感想お待ちしております。

 誤字脱字有りましたらご報告いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう!

                今野常春

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