第六十三話 今彼等の居る世界とは
「らっしゃい。コーヒー飲む?紅茶にする?それとも緑茶?」
孝雄実たちの目の前には新婚さんのやり取りをパロった、小さなおっさんがフランクに話し掛けてきた。
「紅茶」
「緑茶でお願いします!」
ムーレリアと白は見事の順応している。
「お主はどないする?」
「コーヒーをいただきます」
孝雄実がその様に言うと嬉々としておっさんが奥へと戻る。
「済みません」
孝雄実は隣いる案内役の男性恐竜?に話しかける。
「どうか致しましたか?」
「いえ、今の方が族長ですか?」
余りにそれっぽくない雰囲気と見た目でつい確認してしまう。
「そうです。我らが族長ポンで御座います」
そう彼が説明していると奥からお盆に載せたおっさんが出てくる。
「お待ち、さあ座ってぇな。ほれお前さんも座り」
そう言って全員を席に座らせると本人も席に着く。そうして先ずは一服と皆が一口飲むのを確認してからポンは話し始める。
「そんでは自己紹介から始めよか。ワテはポン言います。この場所で族長をやっとります。此方はペケ、ワテの秘書の様な者です。よろしゅう頼んます。で、あんさんらは?」
そう言うと孝雄実たちに尋ねる。
「俺は近藤孝雄実と申します」
「私はデムレストア帝国皇女ムーレリア」
「白でーす」
白の言動が、だんだんと幼くなっている様な感じがしないでもない。そう感じる孝雄実であるがポンは話しを続ける。
「そうかい、それじゃあまあワテらの出会いを祝してカンパーイといきましょ」
今飲んでいるコップを掲げるとそう言った。孝雄実たちも彼に吊られてその様な動きを行う。
「それじゃあ、まあ話しを続けましょ。…どうして此方へと飛ばされたのか、ここは何なのか、その他もろもろ時間はまだ残されている。疑問と言う物を全て潰しましょう」
突然雰囲気を変え、話し方も変わる。そこで見た目も変わってくれればギャップによる面白さが起こらなかったが、孝雄実と白にとってこれから笑いを堪えて行かなければいけない地獄の始まりである。
「それでは、どうして此方へと飛ばされたか、からお話ししましょう。皆さんは核に触れたりしてから此方へと飛ばされた筈です。そうですね?」
ポンはムーレリアを見る。すると彼女は正解だと言わんばかりに頷く。
「そうだ。私と孝雄実は、いや私は孝雄実に触れさせ様としたのだ。そうしたら此方へと来ていた」
彼女はその様に説明すると孝雄実と白も頷いて彼女の話しに賛同している。
「そうですか。やはりそうなりましたか」
ポンは彼女の口からその様に聞くと湯呑を置いて大きく息を吐きだす。
「近藤孝雄実さん、恐らくですが貴方に地底竜メアレステロンの因子を受け継いでいると思われます」
それにいち早く反応するのはムーレリアであった。無理も無い彼女は薄々、ほんの僅かであるがそうではないのかという思いが在ったのだ。だからこそあの核に触らせたのである。
「やはりそうなのか!」
「ええ、ムーレリアには何処か予想されていたのですか?」
ポンは彼女に尋ねる。流石に此方の世界以外は分からない。
「うん、あれは私と孝雄実が出会った時だな。私は言ってはなんだがゴッゼント大陸に於いても最大級の魔力吸収力がある。それに比例するように魔力の放出が激しいのだ。魔力と言ってポン殿は分かるか?」
途中まで話したところでこの場所が自分たちのいる世界とは違う事を思い出した彼女は彼にその様に話す。
「大丈夫です。私はシンキも魔力も理解できています。あなたの話し易い様に話して下さい」
「感謝する。魔族は魔力を垂れ流すように常に使用するとともに体内に貯められない魔力を外へと捨てる。私はそれが頓に激しのだ。それだけでも人間には辛いはずである。でも平然としていた。孝雄実と一緒に居た人間の女どもはそれに耐えきれず気を失ったがな。其れだけならばまだしも我が親衛隊がやって来ても平然としている。これはハッキリと言って異常だと考えるのが普通だ。人間でああやって居られるのは不可能であるからな」
彼女の知る人間とは不十分な存在と言う認識でもある。魔力を持つ事は有るにしても魔族には劣る。さらには力でもそれに劣る存在である。しかし、それを補う繁殖力と技術力の向上、即ち発展速度が尋常ではないのだ。ピュータ村の例がそうだ。人間としては四百年前と言えば大分昔の話しと捉えるだろう。しかし、魔族には各種族で寿命が異なるが平均的には五百年以上はある。
その時間の違いが進化の誤差に繋がるのかもしれない。寿命が短くても発展しないが長すぎても駄目なのだ。人間の寿命と言うものが絶妙な進化を増進させると言うのだ。
ムーレリアはこれでも国力を高める事に力を注ぎ込んでいる。皇族でも異色の存在である。しかし、結局は机上の空論で終わってしまう。それは協力者、理解者の少なさであった。寿命の長さを活かし、人間の技術力を取り込めばゴンゼット大陸でも間引きをしなくても発展できるのではと考えていたからだ。
そうなると人間と言う物を研究しなければならない。そこで至った成果が先程の話しに成る。命、それを守る物どれもが不十分である。それが理由で道具を造り、それを改良し新たな発明を行う。そう言った物を生み出せる頭脳が彼等の最強の武器であると考えるに至ったのだ。
故に人間の魔力耐性と言うものも熟知している。だからこそあの激しい魔力の空気の中で気を失わない孝雄実が異常に思えたのだ。
「そうでしたか、そのお話しで確信へと変わりましたよ。近藤孝雄実さん」
ポンはその様に彼女に答えると、今度は孝雄実へと視線をやる。
「はい、なんでしょうか?」
「此方へと来る間多くの民から熱い視線を感じていませんでしたか?」
ポンにその様に言われて道中を思い出す。なだらかな下り坂を降りる頃から数多くの恐竜に遭遇していたからだ。それも道を開けて左右で待ち構える様にである。彼等はそれをエサが来たのではないかと言う思いで集まっていたと考えていた。
「はい、確かにエサが来たと言う様な物ではなかったのですね」
「その様な野蛮な行為をする者はいませんよ。彼等は間違いなく貴方の中に眠る公の因子を感じているのです。我ら太祖の魂を受け継ぐのが公で有りましたからな、貴殿にその存在を確認して集まって来たのでしょう」
ポンはその様に話すが孝雄実には今一実感できない話しである。荒唐無稽な話しと思い込もうかとしたとき彼の話しを肯定するのがいた。意外にも白がその役をになった。
「成程、分かったわ。どうして孝雄実があの世界へとやって来たのか。あなたは地球に居た頃からその因子を持っていたのよ」
「何を言っているんだよ、白。日本に居た時は普通の学生をしていたんだぜ」
「うーん、ねえ何か他の人と違う事は無かった?」
白自身どうして相棒の黒と共に孝雄実と一緒に居たのかは分からない。自分が呼んだ訳ではないからだ。しかしポンの説明などを考えれば『呼ばれた者』という存在となり、あの世界にやって来た事の説明が付く。
「そう漠然としていると思い付くはずが無いだろう?本当にどこにでもいる学生なんだぜ…」
「では怪我などはどうだった?病気は?その回復力はどうなんだ?」
ムーレリアは合いの手を入れる様に話しに割り込む。
そこでふと思い出す光景が在った。一度や二度ではないその光景は苦い思い出として封印していたからだ。
「何か思い出したのか?」
ムーレリア孝雄実の表情からその様に尋ねる。対して彼もそれに答える様に話し始める。
「確かに俺には人よりも打たれ強い事は有ったな。それに怪我しても回復は人一倍速かったな…」
とはいえそれが繋がるとは思えない。だがそこで命の危険にまで晒された事故を思い出した。
「やはり何かあるのだな?」
「ああ、俺はまったく覚えていなかったが一度死にかけたらしい」
この話しは両親から聞かされた事である。目を覚ました時病院であり、奇跡的な回復速度後医者が興奮していた事を思い出す程度であった。
「確か衝突事故、車って言っても…?いや馬が引かない馬車が猛スピードで、しかも金属製の造りなんだけどさ。それが出会い頭に衝突したそうなんだ。俺が目を覚ましたのは事故から五日後、右半身が酷い事になっていたそうなんだ。詳しくは聞かされていないけれどな。でも、その時以来妙に回復が速くなり、怪我をし難くなったんだよ」
「恐らくその時に何かが在ったのでしょう。若しくは命の危険に際して中の魂が目を覚ましたのか…」
ポンはその様に話して考え込む。
「まあ因子が本物かどうかは既に証明が為されているのです。この世界が正にその証左で有ります」
ポンは三人にその様に話すと話しを続ける。言われている三人の中ではムーレリアがその答えを予想している。
「先ずこの世界は地底竜メアレステロンの卵の中なのです」
だがムーレリアの予想を遥かに超える話しであった。
「卵の中だと!どう言う事だ、あれはあの核は公の心臓ではないのか!?」
二人の突拍子もない話しに孝雄実は混乱している。白はその話を聞いて、自分がどうしてあそこに居るのかを考えだしている。
「ええ、公は今から五万年ほど前になりましょうか。卵の姿へと戻り始めたのです。そうして長い年月を掛けて完全にあの形となりましたのは一万年ほど前です。その時に蜘蛛魔族のメレーデストロ侯爵と名乗るお方があの場所へと流されて参りまして。守護する代わりに棲みかとするようにと言う約束を交わされました。ちなみに魔鉱石や結晶は公の流れ出る魔力が元となっております」
その話は、ムーレリアは初耳であった。それ以上にメレーデストロが自分にその話を黙っていた事に腹が立っている。
「あの蜘蛛野郎!何故そんな話を黙っていたのだ!!」
自分に対して姫と呼ぶな、等と冷たい態度をとっていた事を棚に上げての態度に思わずツッコミを入れたくなる孝雄実だが、それよりも早くポンが話し始める。
「それはお許しください。公は彼の蜘蛛に対し、どの様な人物であろうとも口外する事を禁ずると言う契約を交わされております。この契約は彼の蜘蛛が亡くなるか、公が復活為されるかで破棄されます。ですので、お怒りは見当違いと言う物です」
「そうであったか、済まぬ。それでだ、孝雄実が因子を持っているとして、なぜ卵の中へと進入出来る?」
彼女も魔族として生を受け数百年を生きる身である。それなりに知識を蓄えて来たと自負するが、此処で話される事がらは知らぬ事ばかりが次々と現れる。それが少し楽しみになってくる。聞けば新たな話しを、そこからさらに深く掘り下げる事が出来る楽しさを彼女は久方ぶりに味わいだしている。
「そこですな。我らも実はこの事態を想定しておりません。基本的にドラゴンの因子は人間に融合致します。そこまでは分かっているのです。勿論全てのドラゴンがと言う訳では有りません。我らの様な存在は一度きりの人生で有ります。しかし、公の様に影響力の有り過ぎる者は転生を果たすのです」
「つまり孝雄実に確実に公の魂が宿っている。そう考えて間違いはない。ただ、そこまでは分かっても卵の中に入れたことが不明である。そう言う事だな」
「そうです。過去にも多くの人間が公の因子をお持ちで有ったと我らは記憶しております。ですがこの様に卵の内部にまで生身の人間が入り込むなど在りはしませんでした…」
そこまで話していると何時の間にか居なくなっていた男が多くの書物を抱えて戻って来た。
「族長此方を御調べになられてはいかがでしょうか?」
四人が座るテーブルへと彼はその資料を置く。その時重量感の有る音が響く。
「ん、おおきになペケ」
そう言って上に乗っている資料を取り出すと早速本を開く。
「この本は公の因子を持っていた歴代の人間一覧です。公が完全に卵となって以来の人間三百二十八名です」
ポンはそう言うと三人へと渡す。真ん中に座る孝雄実が受け取ると左右に座る白とムーレリアが寄って来て目を凝らして見やる。
「うーん、これ程までに詳細な…」
「まるで全てを見ている様ね」
ムーレリアと白はその様に話す。基本的にページをめくるのは全て孝雄実である。一様に同じペースで読み進めていると、とたんにそれが無くなる。しかも、一向に次へと次の項へと進まない事にムーレリアが苛立つ。
「どうしたのだ、孝雄実早く次へと進んでくれ!」
だがそれを聞かず彼はポンに尋ねる。
「ポンさん、此処に書かれてあるのは全員が日本人ですね。どうして世界がまるっきり違う人間が此処にこの様に書かれてあるのでしょうか?」
三人には名前と出生地、生年月日を始め生い立ちが書き込まれ、どうやって生涯を閉じたのかまでが書かれてある。中には歴史で必ず出てくる名前も有り、それが教えられた内容とは全く違う等面白さもあるが、共通しているのは日本人であると言うことだった。
「そうですね。この世界ではドラゴンの因子を受け継ぐ事は出来ないのですよ。たとえどの様な者であってもです。『呼ばれた者』と先程白さんがその様に仰っておりましたな。この世界へとやってきた者は須らく因子を持った者がやって来ているのですよ。勿論、公以外の因子をお持ちの方も来ておられます。ですので、全世界で調べ上げると多くの人間がやって来ているのです。我らは公の因子を持った人間を記録し続けているのです」
その様に言われて孝雄実は彼に尋ねる。
「ポンさん俺には姉に当たる人が居ました。その人は相田愛理と言います。ホルト王国と言う場所に『呼ばれた者』として来たようです。歳は十五歳離なれていましたが、こちらでは九百年の誤差が在ります。それはどう言ったことでしょうか?」
「何!初耳だぞ、孝雄実!!」
ムーレリアは驚きと話してくれなかった事に対する怒りが存在している。
「悪いな、ムーレリア。聞かれてもいないし、話せる機会も無かったからな」
「そうですか、若しかしたらあなたはその人と交わった事は御座いましたかな?」
その言葉に孝雄実を始めムーレリア達も場が凍りつくのであった……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
久しぶりに18時予約投稿致しました。
ご感想お待ちしております。
誤字脱字有りましたら報告いただけると幸いです。
それでは次話で御会い致しましょう!
今野常春




