第五十八話 その時、彼女たちは…だが俺の番だ!!
エレオノーラとキャメルは、商人のティーナと同じ冒険者のフレテスト・ホートマン男爵と共に王都グローリンバリーへ帰還を果たしていた。四人には残される時間が少ないがために全員別々の場所へと移動することになる。ティーナは商人ギルドへと向かい動員できる馬車を根こそぎ集め、運べるだけの物資をピュータ村へと届ける事だ。キャメルとエレオノーラは冒険者ギルドへ、キャメルは元職員として無理やりにでも王国の冒険者ギルドの纏め役、会頭ソコレナールへと面会すること。エレオノーラは冒険者として再度依頼を受けるべく追加依頼の契約を結ぶためだ。
だがこの三名の行動は次いで、でしかないのだ。
真の目的は、フェーバル王へピュータ村の現状とそこを治めるセムレス男爵の報告書等を提出する為だ。事前にセムレスは王都へと高速便にてその知らせを書いてあり、王宮に到着すると直ちに重臣らが揃う会議室へと通される。彼にとってこの部屋は因縁の在る場所である。何と言っても彼自身冒険者を目指すことになった因縁のあるところであった。その反面貴族としては大勝利である叙爵を受けた事を差し引けば零になるかもしれないと彼は思いながら入り口へと向かう。
「冒険者、フレテスト・ホートマン男爵がお越しになられました!」
門とも思える大きく豪華な装飾が施された扉の前に立つと案内役の人間がその様に叫ぶ。すると内側から扉が開かれ一言『入れ』と言う言葉が投げ掛けられる。
「失礼いたします!」
フレテストは嘗ての名残でつい近衛騎士団の雰囲気で対応してしまう。彼はその様に述べると中央へと進む。
「よく来たなホートマン男爵。叙爵を受けて、僅かな期間で顔を合わせる事になるとは思いもよらなかったぞ」
そう言葉を掛けたのはアレンゼントル・デロット・ストランデス・フロランス侯爵であった。と言うのも彼以外全員新顔で在ったからだ。彼は詳しい事は述べないが、フレテストは腐敗でアレンゼントル以外は総入れ替えをしなければならなかったのだと考えていた。
それは事実であった。ヘイレスでの大失態を重く見たアレンゼントルは直ちにフェーバル王へと調査を行う旨の上奏を行った。その範囲は、近衛騎士団はもとより王国軍、各行政機能を司る部署、特に貴族が担うポストを徹底的に調べ上げたのだ。
するとほぼ全ての場所で起こっていたのが賄賂である。しかし、これは禁止してはいなかった。この場合は国家の為にこう動いてくれないか、という口利きの挨拶として渡している場合に限られていた。当然あいつを蹴落としたい等と言う自分勝手な事で渡した賄賂は処罰対象である。これは渡した物も貰ったものである。
結局その数が問題となり各大臣は辞職する他なかったのである。加えて領地一部返上も行わなければ弁済の仕様も無い事態に陥っていた件もあるほどだ。これに激怒したフェーバル王は男爵までの全貴族を招集する旨を発した。男爵までの貴族は凡そ二百名。最も距離のある者でも二週間は掛かる。故に王家所有のドラゴンを遣わせて、半ば強制的に連れて来させたことで、一週間で招集が成る。
そこでフェーバルが述べた言葉は綱紀粛正であるが、その怒りは怒髪、天を突く勢いであった。
「はっ、運命とは分からぬものです。此方が報告書となります。そして此方が陛下へのセムレス男爵からの親書で御座います」
フレテストはその様に言うと近くに居る従者へと渡して席へと着く。すぐさま報告書はアレンゼントルへ、親書はフェーバル王へと届けられることになった。
なぜこれほどの会議が行われるか、それはピュータ村が王国にとってなくてはならない場所である事は以前にも書いた事である。多くの優良な鉱床の他に唯一魔道具製造に必要な魔鉱石が産出するからだ。特にこれが大きい。それ故に領地の区分が複雑なのだ。あの地はブロンセンタ子爵領として認められるが、徴税を認められるだけである。それ以外は王家直轄地となり領主ではなく長官と呼ばれるのはそれが所以である。
「さて、早速だが会議を始めよう。話しは高速便でセムレス男爵から受けておるが坑道内での話し、今一度君の口から詳しく述べて貰いたい。なお彼が話し終わるまで一切の質問を禁ずる。さあ話してくれ」
アレンゼントルはこの各大臣の中では強力な地位を占めている。新任の大臣はどうしても彼の家柄に後れをとり腰が引けている様な場面すら見受けられる。これは爵位を持つ全貴族を招集した際の警告に似た脅迫が効き過ぎた結果と言える。
各大臣はフェーバル王から与えられた命令は綱紀粛正、簡単なようで難しい言葉である。今迄、特に咎められる者は、甘い汁を十分に飲んで来た者達だ。これから止めろと言われて果たしてそうなるのか。恐らく成らないだろう。王から見ればアレンゼントルを含めて家臣である。家臣の家臣を陪臣と呼び、王自ら何かを下す事は出来ない仕組みとなる。
そこで王の家臣、即ち直臣となる彼等が責任を取ることになるのだ。各大臣も最低で子爵位をフェーバル王から認められている。彼等には数多くの家臣が居るためその者たちに目を光らせねばならなかったのだ。末端までとなれば、それは目の域届かない場面はあるだろうから多少の弾力条項的な部分を付随させている。最悪お家お取り潰しと言う処分が待っているだけに戦々恐慌であるのだ。
では反乱を起こそうかと考えれば、そうはいかない事情が在る。それは強力な王家には近衛騎士団と言うものが在る。その中で第十騎士団と言う部隊が在る。これは全て貴族の息子が集められている部隊なのだ。例を上げるならば江戸時代の参勤交代であろう。金を使わせる目的もあるが、妻子を江戸に置かせると言う言わば人質として、自分の領地で謀反を起こさせないようにしたものだ。
但し、それは人質を置かなくてはいけないと各領主が思うほどに強い国家でなければならない。
さらには王国軍である。彼等は基本平民で構成されている。彼等は王家の紋章の入った軍に誇りを抱いている。これに刃向かう者は容赦せずと言う考えを徹底的に教え込まれる。特に下士官が強い軍ほど強力なものは無い。トップは貴族だがその下は平民である。平民は王家に忠誠を誓うのであって貴族に忠誠を誓う訳ではない。
この二つで以ってフェーバル王は強くに出られる。そして貴族は怯えるのだ。
フレテストは坑道内の前に領主権限の強制依頼を受けた場面から話し始めた。セムレス男爵から受けた依頼は坑道内で魔物が発生した。これを倒して貰いたいと言う言葉で言えば至極簡単な話しであった。当然、フレテスト達は何が出るかは分かっていない。これは情報不足であるが、その様な事を話している余裕は無かった。
そうして全十名は行動へと移動を始め、奥へと突き進んでいく。坑道内のマッピングはある程度教えられていたが、そこで違いを発見する。だがそこからが戦いの始まりであった。現れた魔物はサンドマーリオンである。これは鉱山や砂漠地帯と言う砂地に関連した場所で形成される魔法の一種である。全ては操るものが居るためそのものを倒さなければ一生戦い続ける可能性すらある。
だが戦闘は孝雄実とサラの活躍で呆気ないほどに終わりを見せる。勿論次々に湧いて来ると言う面倒臭さはあれども危険は無かったことからだ。
そして遂に操る者の住処へと移動を果たした瞬間、フレテスト達近衛騎士団を辞めた五人組が見えない何かで壁へと叩き付けられたのである。
その理由は魔力の無さが原因であった。一応人間基準で言えば五人とも優れているまではいかないが魔力はある。元素も最低二つは存在し、魔法を使用出来る。だがそれでも、この坑道内の住人メレーデストロ侯爵と言う巨大蜘蛛の魔族が現れたのだ。
会議室内はアレンゼントルから質問禁止を通告されている為に静寂が包みこみ、聞こえるのはフレテストの声だけである。しかし、魔族と言う言葉に、誰しもが大きな溜め息を漏らさずには行かなかった。 そうして彼は話しを続ける。これは人間が魔鉱石の鉱床を掘りすぎたからだと言うのだ。魔鉱石は生産される。それの需要と供給のバランスが著しく崩れていると彼は述べた。
そして崩落につながる事象も全ては核と呼ばれる魔鉱石を作る為の装置であり、これは生命体であるとも言うのだ。一行はメレーデストロの言葉に従い、核の存在する場所へと向かうことになったがフレテスト達はここで引き返すことになった。
理由は魔鉱石の魔力濃度が強くなりフレテスト達は危険であるとメレーデストロが止めたからなのだ。
悔やんでも仕方が無い。フレテスト達は急いで本部へと戻り、この事をセムレス男爵の家令達に述べて現在に至ると言う事を話した。それを聞いていた重臣一同は、まさかの展開に驚きを隠せないでいた。これは確かにセムレスの報告から上げられていたが、アレンゼントルは敢えて彼らに話していなかった。これは彼等がどれほど大臣としての才能をこの場で発揮するかと言う考えが在ったからである。
「まさか、魔族が現れるとはな…」
「だが待て、報告では魔族の報は無かったではないか」
「だが、ホートマン男爵が嘘を述べるはずが無いであろう!」
アレンゼントルを除いた各新任大臣は喧々諤々の意見をぶつけ合う。これこそ自分たちが新たな天秤に掛けられた事に気が付かなくてはならない。これに気が付いているのはフレテストと二名の大臣である。
前回は報告兼査問会と言うスタンスであった為、軍部の人間十名とアレイセン王太子が居たのだが、今回アレンゼントルは一国務大臣として参加している。全部で二十名、これがこの国家の中枢である。
フレテストは一人離なれた場所で全員から見られる場所に座っている。逆に言えば頭を左右に振れば全員を見る事が出来ると言う事である。そこで見えたのは二名の大臣は黙して聞いている光景であり。これは当然アレンゼントルを抜いての数であった。その内の一人は見覚えのある人物である。名門カトロオレストン侯爵家を若くして継いだ女傑である。本来女性は当主の座を継ぐことは認めていないのがドットゥーセ王国である。しかし、まだ子供が幼く名門の家を廃れ指せる訳にはいかないと言う事で、彼が成人となるまでの後見人として侯爵の爵位を襲爵している。
服装は男装でありそこには輝かしい装飾も化粧も無かった。しかし、それでも彼女の美貌は損なわれることなく独特の雰囲気を醸し出している。そこでフレテストは彼女と目が在った。互いに目礼で挨拶を済ませるが、まるで凍り付いている様な瞳であったと彼は思った。
(まったく、こんな茶番は時間の無駄ね。とっとと済ませて行動計画を出せばいい物を…)
彼女、アイリス・カトロオレストン侯爵は十七人の我先に意見を!という茶番劇に呆れていた。目の前に座る男フレテスト・ホートマンの情報は事前に彼女も独自のルートで知っている事だった。故に魔族の話しも彼の話しで事前情報との擦り合わせる程度で終わっていたのだ。ここで、彼女が最も議論しなければならないと考えていたのは救援物資と人員の派遣である。その様に考えていたのだ。
現場は初動が上手く言った事で被害は最小限度に抑えられたという報告が上がっている。これはその都度セムレス男爵より高速便がやって来ての鮮度の良い報告であった。しかし、彼等はまったくその議論に発展しそうもない話しで先へと進んでいるのだ。
その最たるものは責任問題である。セムレス男爵は何をしていたのだ。これが最も多い意見である。
(まったく何を訳の分からない事を…そもそも魔族が居た、核と言うものが魔鉱石を生成していたなんて誰もが知らない話でしょう。知っていたら前任者が止めているわよ。それを、一人を糾弾する事で威勢のいい言葉を発するだけ。まったくこの国にはもっとましな人間は居ないのかしら)
そこで漸く議論の様な事をしていた一人がまったく話しに参加しない事に気が付いた。
「カトロオレストン侯爵、貴方は何か意見と言うものは無いのでしょうか?」
その様に尋ねるのはヘーリッケン伯爵である。上の爵位を持つ彼女に対する話し方ではないが、これが女性に対する見方である。爵位など在って無い様なものとなるのだ。加えて彼には議論に参加できない無能と映っているから始末が悪い。
「そうですね。こんな犯人探しは御止めになって救援物資と人員の手配などをどうするか議論するべきではないかと私は考えているのです。とても今も議論に参加出来ようはずもありません」
明らかにパンチの効いた発言である。侯爵と言うのはこの中ではアレンゼントルと残り三名が持っている。この会議では五名が侯爵となるが、うち一人はアイリスと同様に沈黙している。そして残る二人は堂々と中心と為ってセムレス男爵を糾弾していた男であった。
「な、なんですと!それは聞き捨てなりませんぞ、カトロオレストン侯爵!!我らは真に王国の事を考えてセムレス男爵の責任を議論しておるのですぞ!」
「そうです。貴方はまだ領地を経営し始めて日が浅いからかも知れませんが、責任問題と言うのは重要な話ですぞ!」
今度は一斉に彼女を糾弾し始める。中には関係ない侯爵位として相応しいのか等と言う始末である。これでは国家の中枢を司る者としては不適格であろう。
「モレスト侯爵閣下!閣下には何かご意見はおありでしょうか?」
これも同じヘーリッケン伯爵が沈黙していた侯爵へと話しを向ける。この時点でアイリスとの対応に差が出ている。
「そうじゃな、ワシも……カトロオレストン卿の意見に賛成じゃな。現場では一刻も早い再建を行わねばならぬ時である。責任問題は目処が立った時点でセムレス男爵から意見を聞けばよいだろう。如何です間アレンゼントル卿?」
彼はアレンゼントルよりも上であるが家と大臣就任歴と言う観点から持ち上げている。ゴーレンド・スレッテン・モレスト侯爵がその様に述べると、アレンゼントルへと自然議論している者の視線が集まる。
まさかの展開である。彼等十七人は侯爵から囲まれている中で振るいに掛けられている様な錯覚に陥っていた。二人の侯爵も然りである。
「ふむ、確かに責任問題は重要な議題となろう。…しかし、今はどれほど時間が貴重なものかを考えねばならん。カトロオレストン卿とモレスト卿の考えを私は指示する。以降はそちらの議論を行う様に」
実質貴族の中の頂点に立つのがアレンゼントルである。彼にそう言われれば否とは決して言えない。これで彼等のテストは終了したも同様である。ドットゥーセ王国は改革道半ばの状況であった……
最後までお読みいただき有難う御座いました。
何と滑り込んで投稿が出来ました。
ご感想お待ちしております。
誤字脱字が在りましたらご報告いただけると幸いです。
それでは次話で御会い致しましょう!
今野常春




