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目を覚ませば異世界へ…  作者: 今野常春
気が付けば魔族が!編
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第五十六話 考えるな、感じるんじゃ!!

 翌日、孝雄実とムーレリアは激しい筋肉痛と共に目が覚めた。虎の頃と同じ様に孝雄実と一緒の部屋で寝る白は彼の声によって目を覚ますほどであった。

「だ、大丈夫孝雄実?」

 流石の白も悶絶するかの如く唸り声を上げる孝雄実に驚いている。

「大丈夫な訳が無い。白は筋肉痛には成っていないのか?」

 恐らくリストバンドを身に着けたことで、より細かく頭の中で意識しながら体を動かしていたからだと推察している孝雄実は、白もそうではないかと身を案じた。しかし、少し動かそうとすると痛みが出るはずがその様子が無い事に気が付く。


「筋肉痛?何よ、それは?私はどこも傷めていないわよ」

 白は彼に対してケロッとした表情で返した。

「なんでだよ…」

 孝雄実はそう呟くしかなかった。だがもう一人の事を思い出して彼は白に頼みこむ。

「白悪いけれどムーレリアの様子を見て来てくれないか?」

「ムーレリアの?分かったわ。ついでにカミナさんたちにも知らせておくわね」

 白はその様に言葉を返すと部屋を後にした。


 白が向かったムーレリアはどうなっていたか。それは彼以上に酷い有様であった。ベッドの上で仰向けになり、布団を剥ぐ事すら出来ないでいたからだ。

「ムーレリア、大丈夫ー?」

 白は気軽に話しかけるが彼女は答える事も辛そうな顔をしている。

「大丈夫なものか…」

「孝雄実以上に深刻そうね。体動かせそうにないの?」

 こうしていてもじっとしている以上、深刻だと考えた白は少し待っていて、と告げると部屋を後にしてカミナを呼びに行く。


「あら、これは深刻ね…」

 白がカミナを連れて彼女の部屋に戻った第一声がこの言葉であった。

「こ、これは、一体どの様な事なんだ?」

 腹から声を出そうとすると腹筋が想像以上の痛みを訴える為に、声を絞って話すムーレリアは、初めてとなるこの痛みに耐えきれそうになかった。

「これは神痛症と言うものよ。このリストバンドを始めて実に着けて、体を動かしていると成る症状なの。筋肉痛と同じ症状ね」

 彼女はそう言うと部屋を後にする。この間も布団から出られずにムーレリアは寝ているだけである。


「ちょっと孝雄実を見て来るわね」

 白は思い出したように部屋を後にした。それと入れ替わる様にカミナが戻って来る。

「お待たせムーレリアさん。さあこれを呑んでください」

 そう言われて差し出された飲み物はどす黒い色をした液体であった。加えて自分の意思で飲む事が出来ず彼女が体を支え、湯呑を口元へと運ぶ。拒否したくとも出来ない事で、瞳を辛うじて左右に揺らすと言う抵抗を見せるだけである。


「おぇぇぇ…」

 結局はどす黒く、粘り気のある液体をコップ一杯分飲むまで解放される事はなかった。液体と言うよりは粘液に近い粘り気である為余計に始末が悪い。粘り気で言えば葛湯に近いものだろう。飲むよりも食べるに近いかもしれない。

「吐き出しては駄目よ。それを全て体に入れれば直ぐに元気になるわ」

 カミナの言う事を冗談半分に聞いているムーレリアは、それが真実だと判断するまでにさして時間を必要とはしなかった。


「あれ、痛くない。おおー痛くないぞ!」

 あっと言う間に体の痛みが取れたムーレリアは嬉しそうにカミナを見やる。

「そう良かったわね」

「ああ、ありがとうカミナ!」

 此処に来て初めて自然の笑みを彼女に見せるムーレリアであった。

「お礼は言わなくてもいいわよ。さて貴方がこうだと言う事は孝雄実君も同じ状況ね。それじゃあムーレリアさんは準備をしていてね」

 その様に言い残しカミナは隣の部屋へと向かう。暫くして彼女以上に大きな声で抵抗を見せる孝雄実の声が響きムーレリアは大笑いするのである。






「ふむ。やはり昨夜は面白がって体を動かしておったのじゃな」

 ヘルシマシルトンはほぼ予定通りであると言う様な顔で二人へと話す。昨日は別に鍛錬をしていたが、卿は一緒にやることとなった。それは神痛症が理由である。

「やはり分かりますか?」

「当然じゃな。あれを着けてから僅か一日…いや半日ほどかのぅ。まさか神痛症になるとは恐れ入ったわ」

 彼はそう笑うが二人は堪ったものではない。あの激しい痛みと形容できない物を飲む羽目になったのだ。

「冗談ではないぞ、老人。私はあの不味い飲み物は今後一切飲むつもりはないからな!」

 そうムーレリアが抗議の声を上げるが彼の態度は変わる事はなかった。むしろ此処までは当然通る道であると言わんばかりである。


「まあ今後、あれを飲む事はないのじゃがな。まあいい早速じゃが、そのリストバンドを外しなさい。白はそのままじゃぞ。確りと体を動かせるまでじゃからな」

 動きに大きな不自由を与えているリストバンドを一番に外したいのは白である。何とか歩く事は出来る様に成っていたがそれ以外、走ったりする事は不可能であった。彼女はいの一番にそれを外そうとしてヘルシマシルトンに止められる。


「おっ?」

「あっ!?」

 二人は両腕に着けていた物を外すと体に力が巡るのが分かったのだ。それがどの様な物かは分からなかった。但しムーレリアは違う、ゴッゼント大陸では当たり前に体全体で魔力を吸収していたのだ。その感覚に近しいものであると考えていた。

「どうじゃ、何か変わった事があったかな?」

 二人の表情を見て彼はその様に尋ねる。


「何かが体を巡っている様な感覚です」

「そうだな、まるで魔力を吸収している様な感覚だな」

 孝雄実はムーレリアの言葉に対して疑問を投げかける。

「魔力を吸収するって、ムーレリアの居た大陸での話しだろ?」

 彼がそう言う理由は魔法をこの世界では使用できない事が分かっているからだ。彼女の話しで言えば彼女の動作は全て魔力消費によって活動するのだ。だから魔力と言う言葉は当て嵌まらないと考えたのだ。


「ほい、ワシの話しを聞いてもらうぞ」

 ヘルシマシルトンは手を叩いて二人の視線を集める。

「いいかのぅ、先ず二人が感じている物はシンキと言う物じゃ。これはこの世界に溢れるエネルギーと言えば言いかのぅ。特にムーレリアの嬢ちゃんは、魔力を吸収していたと言うから殊更厳しい環境じゃな」

「老人、つまりはそのシンキという物は魔力の対極の物と考えればいいのだな?」

 居駿にして彼女は正鵠を射る回答を出す。その言葉に大きく彼は頷いて話しを続ける。


「そう考えてくれて構わんよ。それでじゃ、神痛症とはシンキを体に通す儀式の様なものなんじゃ」

「儀式ですか…」

 それであの痛みは勘弁してほしい思いで苦笑いとなって孝雄実は話す。 

「そうじゃな、リストバンドはシンキを収縮させ体に強制的に流す装置なんじゃよ。頭の中で体の動作を思い浮かべる度にシンキを通す経路が構築されるんじゃよ。故に、どれだけ体を動かしたかによって神痛症が襲う時期が異なるのじゃ。二人は立派な者じゃぞ、半日で経路構築を完成させたんじゃからな」

 ヘルシマシルトンはそう言うと笑いながら手を叩いて二人を称賛するのであった。


「そうですか、しかし何が変わったのかさっぱりですね」

「まあそうじゃな、普通に動ける様に成る以外は目立った変化は無いかも知れないからのぅ。と言う訳で今日は一日走り込みを行うぞ」

 その言葉に二人は心底嫌そうな顔をする。何が『と言う訳で』だと言う思いである。

「心配する出無いぞ。シンキが体を巡る間は無尽蔵に走れる。今日はそこまで走り込んでシンキを体に馴染ませるのが目的じゃ。此処まで出来て漸くシンキの恩恵に与れるのじゃ。さあ行くぞ!白は家に戻りカミナの手伝いをしつつ体を動かせるようにしなさい」

 そう言って三人はヘルシマシルトンを先頭にムーレリアを真ん中にした隊列で掛けて行ったのだ。白は彼の言い付け通りにカミナの元へと向かいこの日も体を動かすことに集中するのであった。






 行けども、行けども平原が続く。爽やかな風が吹く度に火照った体を冷やす。

「ほれ、まだまだこんなものじゃないぞ!もっとシンキを感じるのじゃ。それが苦しい事を軽減させてくれるぞ」

 二人はシンキの何が恩恵なのかと言いたい思いで走り続けている。息は上がり体が熱くなり、足は鉛の如く重く感じている。

 二人は別々の特徴を持っている。孝雄実は魔力の容量がムーレリア以上に在る。対して彼女は魔力と言う感覚を生まれた瞬間から感じている。それをシンキと言う物にも当て嵌める事が出来るのだ。


 ムーレリアが孝雄実以上に酷い神痛症に悩まされた理由は、そこも起因している。唯でさえリストバンドがシンキを収束させて強制的に体に流し込むのだ。吸収力の優れる彼女は必要以上に取り込んでいたのだ。

「はぁ、はぁ…」

「ふう、ふう…」

 彼のアドバイスを確りと聞く事は出来るだけの意識はある。何とかそれを感じようと試みるが、孝雄実は此処で躓いてしまう。そもそも魔力を感じる事が分からないのだ。それをいきなり『シンキを感じろ』など言われても出来はしないだろう。

 対照的なのがムーレリアだ。彼の言葉によって漸くだがシンキを感じる様になった。それだけで体が軽くなった様に感じた。


「ほうムーレリアの嬢ちゃんは感じる事が出来た様じゃな」

「まあな、しかしこれは中々に良いものだな。魔力を吸収するよりも取り込みが早く感じるぞ」

 魔力を一とすれば倍の吸収速度を彼女は感じている。魔力を吸収する量が大きければ、消費に回せる量も大きくなる。それがゴッゼント大陸に住む魔族の常識である。魔力と強さは比例する事は前述している。同じ魔力百の容量であっても、その後の吸収量を考えながら攻撃した場合大きな違いが在ると言う事だ。二発目、三発目の攻撃を考える場合、その都度吸収量を考えて攻撃を行う。それが小さければ必然消費魔力を抑えて戦わねばならない。しかし、ムーレリアの場合は百を使用しても百十、百二十と体から溢れださんばかりの吸収力で対応が出来るのだ。


 彼女の一族はこの素質が在る為に大陸における唯一の国家、デムレストア帝国の皇族と言う位置に収まっていられるのだ。この才能は他の種族と交わっても受け継がれる事は無い。当然子供は生まれるが決して子供にその能力が備わらないのだ。遺伝子レベルで制限を設けるほどに貴重な能力であった。

 そして大陸一とも言える彼女の吸収力はこの場で大いに活かされるのである。自然と走る事にも楽しさを感じるほどに一歩が力強い。ストライドも大きくなり彼女はヘルシマシルトンを抜いて先頭を走る様になる。

「老人、私は先に行っても良いか?」

 現金な物でムーレリアは今のペースがもどかしく感じていた。


「そうじゃのぅ、前方に大きな丘が見えるか?」

 彼はムーレリアの横に着くと指を指して山の様な形状の丘を指す。此処に来て漸く平原以外の景色を見た彼女は余計に楽しみな思いになる。

「ああ見えるぞ。あそこまで行けばいいのか?」

「そうじゃ、あそこまで行ったら待っとれ、いいな?」

 そうまで彼が話すとムーレリアは加速する。

「分かったー」

 言葉を発する前に行ってしまい声が残される形となった。


「まったく凄まじいものじゃな…さてお主はペースを乱す出無いぞ。あれに追いつこう等と決して考えるでないぞ」

 その様な言葉を彼らか貰っても孝雄実にはその様な力は残されていない。何とかシンキを感じようとは思うのだがそれがさっぱり理解出来ていないのだ。

「そ、それは絶対、に…無理…」

「おかしいのぅ此処まで走ればシンキのなんたるかを感じるはずなのじゃが…」

 ヘルシマシルトンは彼と並走しながら感じられない理由を考えている。神痛症を患ったのだから間違いなく体内ではシンキをエネルギーへと使用出来る経路が出来ているはずと考えているのだ。それが出来ていないのは彼にしてもさっぱりな事である。


「もう一度リストバンドを外した時の感覚を感じるのじゃ。あの瞬間、シンキが流れ込んでくる感覚を味わっているじゃろ。それを今一度思い出すのじゃ」

 彼がそう言うのはあの経験が一度きりのものだからだ。以後は強制的にシンキを感じさせる事は出来ない。だからこそ忘れないうちに彼は最も体が疲れやすくなる走り込みを敢行したのだ。






 孝雄実の疲労は最高値まで上昇している。ヘルシマシルトンの言葉も聞き取れないほどに意識が朦朧とする程である。何も考えることなく唯足と手が弛緩しながらも前進するべく足が送られてくる。自然と腕が振られ、反対側から足がやって来る。まるで体が幾つもの独立した意思によって連携した動きを為している様であった。

『漸く分ったか…』

 その言葉を孝雄実が聞き取れたかは分からない。だが確実にその声を発した後彼の動きが変わった。


「おっ、そうじゃ孝雄実君、それじゃよ!動きが変わっておる。間違いなくシンキを取り込んでおるのじゃ!!」

 悩んでいたヘルシマシルトンは嬉しそうに彼に言葉を掛けるが彼ら家は返事が無かった。

「き、気を失っておるのか…?」

 そう、彼は声が聞こえるか聞こえないかと言う瞬間、気を失っていたのだ。今は無意識下の中で走行していると言う事だ。しかし、向かう先は間違いなく大きな丘へと向かっている。彼にしても孝雄実が怪我をしない様に気をつければいいかと言う事で警戒しながらゴールを目指すのであった……


 最後までお読みいただき有難う御座いました。


 昨日は更新できなかった事が悔やまれます。理由としまして第八話を大幅に変更していたからといい訳をさせてください。

 何とか朝と昼を使い18時に新たな話しを投稿できるように頑張ります。


 ご感想お待ちしております。

 誤字脱字在りましたらご報告いただけると幸いです。

 それでは次話で御会い致しましょう!

               今野常春

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